予見可能性・回避可能性

代表執行役員 弁護士 金﨑 浩之

監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士

患者に対して医師が薬を投与したときに、蕁麻疹が生じる等の症状が出たときには、薬の副作用の疑いもあります。このとき、同じ薬を投与し続ければ、さらに重い副作用が発生して深刻な影響が生じることを予見し、薬の投与を中断したり、薬の種類を変更したりして、深刻な影響が生じるという結果を回避できる場合があります。このような予見可能性と結果回避可能性は、注意義務違反(過失)の前提として必要とされるものです。

ここでは、予見可能性・回避可能性について解説します。

予見可能性・回避可能性とは

予見可能性とは、注意すれば特定の出来事が発生することを予測予見できたという可能性をいい、回避可能性とは、特定の出来事が発生しないようにすることができたという可能性をいいます。

一般に過失(注意義務違反)は、予見可能性を前提とした予見義務違反及び結果回避可能性を前提とした結果回避義務違反がある場合に認められます。つまり、医師に責任を問うための過失というのは、医師がそのときに予測ができるものであり、かつ、不都合な結果を避けられることが前提となります。言い換えれば、行為時に予測もできず、仮に予測ができたとしても回避が不可能なものについては、医師に責任を問えないということです。

注意義務について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

注意義務について

転倒のリスクと予見可能性

医療事故の中には、入院中に患者が転倒してしまう事例があります。このような事故について、患者の年齢、転倒歴、認知能力、歩行状態等から患者が転倒する可能性があると判断できるのに、転倒予防策を何ら講じることなく、転倒事故が発生したのであれば、医療機関の過失であると認定されることがあります。これは、患者が転倒して負傷することは予見可能であり、転倒防止策(離床センサーマットの設置、移動の際にナースコールするよう指示するなど)を講じていれば患者の転倒及び負傷は回避可能だと考えられるからです。

しかし、患者の転倒が予見できない場合には、転倒防止策を講じていないことが医療機関の注意義務違反と認定されない可能性が高いです。例えば、若い患者で歩行に全く問題がない人が障害物のないところで転倒したのであれば、医療機関にその患者が転倒するとの予見可能性があったとはいえない場合が多く、当該患者に対して転倒防止策を講じていないことが注意義務違反と認定されることはほぼないと考えられます。

予見可能性・回避可能性に関する判例

医師が予見するべき結果発生の危険性は、具体的に特定可能な病気等であるとは限りません。判例では、自身の手に負えないような、何らかの重大で緊急性のある病気にかかっているおそれがあることを認識できたとして、予見可能性があると判断したものがあります。

小学生であった患者が、発熱や腹痛等を訴え、継続的に診療所の医師の診察を受けていたところ、初診から5日目の午前中同診療所で点滴を受けて帰宅したものの嘔吐が続き、さらに午後同診療所で点滴を受け帰宅したが嘔吐、発熱の症状が継続し、翌日の朝呼びかけても返事をしない状況になるにいたって、総合病院へ紹介された事案(その後患者は原因不明の急性脳症と診断され、身体障害1級の後遺症が残存した)で、最高裁は、初診時の診断に基づく投薬により何らの症状の改善がみられないこと、点滴により嘔吐の症状が全く治まらないこと、患者に軽度の意識障害を疑わせる言動があったこと等から、初診から5日目の午後の診療時点で、医師は「その病名は特定できないまでも、本件医院では検査及び治療の面で適切に対処することができない、急性脳症を含む何らかの重大で緊急性のある病気にかかっている可能性が高いことをも認識することができたものとみるべき」として、予見可能性を認めています(最高裁 平成15年11月11日第3小法廷判決)。

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監修:医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員
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