常位胎盤早期剥離

代表執行役員 弁護士 金﨑 浩之

監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士

胎盤は、胎児が子宮の中で育つために重要な器官です。通常であれば、胎盤は出産まで子宮から剥がれず、出産から15分~30分程度で自然に剥がれます。しかし、胎盤には異常が生じてしまうことがあり、その1つが常位胎盤早期剥離です。これは珍しい疾患ですが、発生してしまった場合には、一刻も早く対処しなければ危険ですので、妊婦も医師も警戒する必要があります。

ここでは、常位胎盤早期剥離について解説します。

常位胎盤早期剥離とは

常位胎盤早期剥離とは、子宮の正常な位置に付着している胎盤が、分娩前に剥がれてしまう疾患です。胎盤は、胎児に栄養や酸素を送るための重要な器官であるため、胎児が子宮の中にいるときに一部だけでも剥がれてしまうと、胎児が危険な状態に陥ってしまうリスクがあるだけでなく、母体も危険な状態に陥るリスクが生じます。

具体的には、胎児が酸欠状態に陥って脳性麻痺の発症につながり、最悪の場合には死亡してしまうおそれがあります。また、母体にとっても、出血の影響によって貧血等になるだけでなく、血液凝固因子が急速に消費され大量出血につながってしまうおそれがあります。

常位胎盤早期剥離の症状

常位胎盤早期剥離によって妊婦に発生する症状として、強い腹痛やお腹の張り、性器出血等が挙げられます。重症の場合、血圧が低下して顔面が蒼白になる等の影響が生じることもあります。また、胎児の元気がなくなって、子宮の中での動きが減ることがあります。

常位胎盤早期剥離の予知・徴候

残念ながら、常位胎盤早期剥離の多くは突発的に生じるため、予知することは困難です。常位胎盤早期剥離の徴候としては、胎盤の剥離に伴って生じる出血や痛み等があります。そこで、特に強い痛みが長時間に渡って生じた場合には、すぐに病院等に行くことが重要です。

なお、常位胎盤早期剥離を発症しやすいのは妊娠28週~妊娠34週の期間とされており、そのあたりの時期には特に注意する必要があります。

常位胎盤早期剥離の原因

常位胎盤早期剥離の原因は完全に特定されたわけではありませんが、妊娠高血圧症候群や交通事故等によるお腹への衝撃等によって引き起こされることがあります。また、以前の妊娠で常位胎盤早期剥離になったことがある妊婦は、再び常位胎盤早期剥離になるリスクが高いです。

常位胎盤早期剥離は予防できるのか

常位胎盤早期剥離の発症を予防する方法は、まだ発見されていません。そのため、リスクを避けることと、発症してしまったときに備えることが必要です。

避けることができるリスクとしては喫煙が挙げられます。特に、妊娠中の喫煙は常位胎盤早期剥離のリスクを高めるといわれています。さらに、副流煙を吸い込むことについてもリスクがあるため、同居している親族等にも禁煙してもらうことが望ましいでしょう。発症してしまったときのための備えとしては、すぐに異変に気付くことができるように、痛みや出血等の異常に気を配っておくことが必要です。

また、妊婦検診を適切な頻度で受けることが重要です。定期的に妊婦検診を受けることによって、異常が生じた場合の早期発見につながります。

常位胎盤早期剥離の治療

常位胎盤早期剥離を発症してしまったら、元の状態に戻すことは不可能なので、胎児を出産させる以外に治す方法はありません。状況によっては、緊急帝王切開によって一刻も早く出産させる必要があります。また、分娩後は母体に対し、止血、子宮収縮を積極的に促し、合併症(出血、ショックなど)の治療を行うことが必要となります。

常位胎盤早期剥離に関する裁判例

常位胎盤早期剥離の診断が遅れ、これにより胎児が死亡するとともに原告である母も重体に陥ったとして提起された損害賠償請求訴訟で、原告の請求が一部認容されています(徳島地方裁判所 平成30年7月11日判決)。

この裁判例の事案は、次のようなものです。妊娠31週だった原告(女性)が、下腹部の張りや性器からの少量の出血があったため、被告の開設する医療機関を受診したところ、医師は切迫早産の兆候があると診断したうえ、原告を経過観察入院させました。医師は原告に対し、ノンストレステストを2回実施しましたが、いずれのノンストレステストについても胎児心拍数基線が約130bpmで正常と判断して経過観察を継続しました。その後、原告が強い動悸を感じた際には、胎児の心拍が確認できなくなっており、診察した医師は常位胎盤早期剥離であると診断し、高次医療機関へ救急搬送しましたが、胎児は死産となり、原告は産科DICとなって大量の輸血を要することとなってしまいました。

原告は、1回目・2回目のノンストレステストにおいて、胎児のCTG(胎児心拍陣痛図)に異常がみられており、医師には異常胎児心拍パターンの原因検索のための鑑別診断をする義務違反があったという過失を主張しました。これに対し、裁判所は、1回目のノンストレステストについては、CTGが厳密に胎児心拍数基線を判別しにくいグラフであったと認定し、被告医療機関の医師が一般産婦人科医師であることも考慮して、医師にCTGの判読を誤ったという問題はあるものの、過失があったとまではいえないと判断しました。2回目のノンストレステストについては、CTGに判読が困難となる事情はなく、一般産婦人科医師でも異常胎児心拍パターンが存在しているとの判読が可能であったと認定し、胎児の心拍に異常があることの原因について鑑別診断をするための措置等を行う義務が医師にあったとして、義務を怠った過失があると指摘しました。そして過失がなければ胎児が生存したまま娩出される高度の蓋然性があったとして過失と胎児の死亡との因果関係を認め、被告に対し慰謝料1200万円等、合計約1400万円の支払いを命じました。

弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 医学博士 弁護士 金﨑 浩之
監修:医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員
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