労災(労働災害)による怪我の治療を続けても、改善せずに「後遺症」として残ってしまうことがあります。
その場合は、残ってしまった後遺症が後遺障害として認められるかどうかを判断してもらうために、後遺障害等級の審査を受けます。
後遺障害等級が認定されると、労災保険から後遺障害についての補償を受けることができます。
しかし、労災による後遺障害の認定率は明らかでないものの、交通事故による後遺障害の認定率は5%前後といわれており、簡単には認められないことがわかります。
そこで、本記事では、労災による後遺障害の申請方法や必要書類などについて、詳しく解説していきます。
目次
労災による後遺障害とは?
労災保険制度における後遺障害とは、“業務中もしくは通勤中に負った怪我や病気が治癒または症状固定したときに身体に一定の後遺症が残っている状態のこと”を指します。
労災による怪我の治療には、労災保険から療養補償給付が支給されます。
ただし、療養補償給付などの給付は、「治癒」または「症状固定」した時点で補償がストップしてしまいます。
しかし、症状固定後に仕事をする上で支障が出るような後遺障害が残ってしまい、労災による後遺障害等級の認定がなされた場合には、障害補償給付を受けることができます。
障害補償給付について
障害補償給付には、後遺症の程度によって1~14級までの障害等級が設けられています。
1級は最も障害が重く、給付金なども高額になります。
また、障害補償給付の給付内容は、認定された後遺障害等級ごとによって大きく異なります。
大きな特徴としては、次のようなことが挙げられます。
1~7級は毎年の年金方式で受け取れるが、8級以下は一時金方式となること
【障害特別支給金について】
後遺障害等級認定を受けた際に1回支給されるのみであること
では、後遺障害等級認定された場合、どの程度の障害補償給付金および障害特別支給金を受け取ることができるのでしょうか?
後遺障害等級ごとにそれぞれみていきましょう。
【後遺障害等級ごとの給付額の一覧】
給付金の種類 | 後遺障害等級 | 障害補償給付金 (1~7級は年金方式) (8級以下は一時金方式) |
障害特別支給金 (1回支給) |
---|---|---|---|
年金 | 1級 | 給付基礎日額の313日分 毎年支給 |
342万円 |
2級 | 給付基礎日額の277日分 毎年支給 |
320万円 | |
3級 | 給付基礎日額の245日分 毎年支給 |
300万円 | |
4級 | 給付基礎日額の213日分 毎年支給 |
264万円 | |
5級 | 給付基礎日額の184日分 毎年支給 |
225万円 | |
6級 | 給付基礎日額の156日分 毎年支給 |
192万円 | |
7級 | 給付基礎日額の131日分 毎年支給 |
159万円 | |
一時金 | 8級 | 給付基礎日額の503日分 1回のみ |
65万円 |
9級 | 給付基礎日額の391日分 1回のみ |
50万円 | |
10級 | 給付基礎日額の302日分 1回のみ |
39万円 | |
11級 | 給付基礎日額の223日分 1回のみ |
29万円 | |
12級 | 給付基礎日額の156日分 1回のみ |
20万円 | |
13級 | 給付基礎日額の101日分 1回のみ |
14万円 | |
14級 | 給付基礎日額の56日分 1回のみ |
8万円 |
※給付基礎日額:労災事故発生前の被災労働者の1日あたりの平均賃金を指します。
労災の後遺障害等級認定の申請方法
労災の後遺障害等級認定の申請を行うためには、所轄の労働基準監督署へ申請書類を提出する必要があります。
申請を行うタイミングは、“通院先の主治医から症状固定と診断された時点”となります。
そのため、主治医から症状固定と診断されていない状態で後遺障害等級認定の申請を行うことはできませんので注意しましょう。
具体的な申請手順については、以下のとおりです。
- 医師から症状固定の診断を受ける
- 医師に後遺障害診断書を作成してもらう
- 労働基準監督署に申請する
- 後遺障害等級の審査が行われる
- 後遺障害等級が認定される
では、それぞれの手順について、詳しく解説していきます。
①医師から症状固定の診断を受ける
後遺障害等級認定の申請を行うためには、まず治療を受けることが大切です。
労災により負った怪我の状態が落ち着かないと、後遺症が残ったかどうか医師が判断できないからです。
そのため、まずは医師による治療を受けて、完治を目指すところからはじめます。
その後、治療を継続しても改善が見込めない場合は、医師から症状固定の診断を受けます。
この症状固定の診断を受けると、後遺障害等級認定の申請を行えるようになります。
症状固定とは?
医学上の一般的な治療を継続したとしても、その治療効果が期待できなくなった状態のことを指します。
②医師に後遺障害診断書を作成してもらう
医師から症状固定の診断を受けると、後遺障害診断書を作成してもらえます。
後遺障害診断書は、身体に残った後遺症の具体的な内容や医師の見解などが書かれたものであるため、申請に欠かせない書類です。
後遺障害等級認定の審査において、最も重要となる書類といっても過言ではありません。
そのため、医師へ後遺障害診断書の作成を依頼する際には、以下のポイント押さえておきましょう。
- 自分の症状がどの等級に該当するのかをしっかりと把握しておくこと
- 自分の症状を可能な限り詳しく正確に医師に伝えること
これらのポイントを意識することで、より適切に後遺障害診断書を作成してもらえる可能性が高まります。
後遺障害診断書の作成費用は?
病院によって異なりますが、大体5000円~1万円程度が相場です。
その他に必要な資料はあるの?
レントゲンやMRI検査の画像など、他覚的所見があるとよいでしょう。
③労働基準監督署に申請する
後遺障害診断書をふくめ全ての資料を揃えたら、所轄の労働基準監督署に障害補償給付の申請をしましょう。
このとき使用する障害補償給付の申請書(請求書)は、業務災害と通勤災害で様式が異なります。 以下の申請書は、厚生労働省のサイトにてダウンロードすることができます。
障害補償給付支給請求書(様式10号)
【通勤災害の場合】
障害給付支給請求書(様式16号の7)
なお、障害補償給付の申請書には、事業所記入欄が設けられています。
会社が労災申請に非協力の場合などは、事業所記入欄を空欄のままで労災申請しても問題ありません。
「会社が協力してくれないため、記入できません」などと書いておくとよいでしょう。
④後遺障害等級の審査が行われる
所轄の労働基準監督署へ障害補償給付の申請書と後遺障害診断書等の資料を提出すると、労働基準監督署で後遺障害等級の審査が行われます。
主に、労災事故の内容や被災労働者に残った後遺症の程度などについての調査がなされます。
また、労災の後遺障害等級認定の審査では、被災労働者本人と労働基準監督署の調査員との面談も行われます。
面談では、地方労災医員(医師)による質疑応答や会社と通院先の病院に対して照会も行われるため、医師の回答結果などについても、後遺障害として認定されるかどうかの判断に影響を及ぼすこととなります。
⑤後遺障害等級が認定される
労働基準監督署による調査が終了すると、これまでの調査で得られた結果に基づいて、労災の後遺障害等級認定基準に該当するかどうか、判断されます。
このとき、労災の後遺障害等級認定基準に該当し労災として認められる場合には、後遺障害等級が認定されます。
しかし、後遺障害等級の認定率は非常に低いため、後遺障害等級として認められないことも多くあります。
また、後遺障害等級が認定されても、認定された等級に納得がいかないこともあります。
例えば、神経症状で常に介護を要する場合はもっとも重い1級が認定されますが、常に介護までは不要であるが介護は必要である場合は2級と認定される可能性があります。
つまり、同じ神経症状の後遺症であっても、症状や立証の程度によって等級が異なる可能性があるのです。
給付金は後遺障害等級が1級に近づくほど高額となるため、後遺症が残った場合には客観的事実に沿ったできるだけ高い等級の認定を受けることが大切です。
労災による後遺障害申請の留意点
労災による後遺障害申請には、いくつか留意点があります。
次の留意点を念頭に置き、後遺障害申請の手続きを行うようにしましょう。
- 後遺障害が認定される場合もあること
- 労災による後遺障害の申請には時効があること
- 補償金が振り込まれるまでには日数がかかること
後遺障害が認定されない場合もある
労災によって後遺症が残っても、症状が労災の後遺障害等級認定基準に該当しなければ後遺障害として認定されません。
特に、痛みやしびれについては、症状の原因がレントゲンやMRI検査などの他覚的所見で確認できないと認定は難しいとされています。
ただし、後遺障害等級認定の結果に対して不満がある場合には、審査請求や訴訟を行うことが可能です。 また、審査請求の結果に不服がある場合には、再審査請求を行うこともできます。
審査請求について
都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官に対して審査請求を行うことが可能です。
審査請求を受け付けた審査官は、不服内容が正しいかどうかを判断し、不服内容に理由があると判断した場合には、労働基準監督署の決定の全部または一部取消しをしてくれます。
再審査請求について】
審査請求の結果に不服がある場合は、労災保険・雇用保険の給付処分に関する行政不服審査をおこなっている労働保険審査会に対して再審査請求を行うことが可能です。
再審査請求を受け付けた労働保険審査会でも審理が行われ、不服内容の当否を判断してくれます。
労災による後遺障害の申請には時効がある
労災による後遺障害の申請には時効があるため、注意が必要です。
後遺障害に関する障害補償給付の請求ができるのは、症状固定の診断を受けた翌日から5年までとされています。
そのため、労災の後遺障害等級認定を受けたい場合は、障害補償給付の請求が可能な期間内に申請手続きを行う必要があります。
時効が過ぎてしまった場合、障害補償給付の請求はできなくなってしまいますので、症状固定後、なるべく早めに申請手続きを行うことが大切です。
なお、労災保険給付の種類ごとで時効が異なるため、障害補償給付以外の労災保険給付を受ける場合も注意しましょう。
補償金が振り込まれるまでには日数がかかる
後遺障害の申請手続きを行った後すぐに補償金は振り込まれず、ある程度日数がかかります。
労働基準監督署に必要書類を提出してから補償金が振り込まれるまでの目安の期間は、3ヶ月前後であることが多い傾向にあります。
具体的な振り込みのタイミングとしては、労働基準監督署から支給決定通知が発送される頃とみておくとよいでしょう。
ただし、後遺障害等級認定の審査にかかる期間は、後遺症の程度や労災事故の大きさなどによって大きく異なることがあるため、目安の期間よりも長くなる場合があります。
後遺障害が認められた場合の慰謝料など損害賠償請求について
慰謝料とは、「精神的苦痛に対する賠償金」を指します。
後遺障害が認められた場合は、慰謝料として後遺障害慰謝料を請求することができます。
ただし、労災保険から後遺障害慰謝料を受け取ることはできません。
後遺障害慰謝料は、加害者に対して損害賠償請求することになります。
また、後遺障害が認められると後遺障害慰謝料だけでなく、逸失利益を請求することもできます。
しかし、逸失利益については、損害賠償請求するための条件などがあります。
具体的には「後遺障害があることにより将来にわたって収入減が予想されること」が大前提であることです。
その他にも、時効や立証責任について注意する必要があるため、後遺障害慰謝料などの損害賠償請求を行う場合は、弁護士に相談されることをおすすめします。
後遺症が残ってしまったことにより被った精神的苦痛に対する補償のことをいいます。
◇逸失利益とは?
事故がなければ将来得られたであろう収入の減収分のことをいいます。
労災で後遺障害が残った場合に弁護士に依頼するメリット
労災により後遺障害が残り、後遺障害等級認定の申請を検討されている場合は、弁護士に相談されることをおすすめします。
なぜなら、弁護士に依頼することにより、以下のようなメリットを得られるからです。
後遺障害に関するアドバイスを受けることができる
適切な後遺障害等級認定を受けるためには、医療機関で適切な検査や治療を受けていることや支給決定が得られやすい後遺障害診断書を作成してもらうことなど押さえておきたいポイントが多くあるため、弁護士から有益なアドバイスを受けることは非常に重要です。
障害補償給付の申請手続きを一任できる
弁護士であれば、不備や間違いが少ない障害補償給付の請求書を作成することができます。
後遺障害の認定結果に納得いかない場合も対処できる
妥当でない障害等級になった場合には、不服申立ての手続きを行うことができます。
労災で後遺障害が残った場合や申請手続きについては弁護士法人ALGまでご相談ください
後遺障害は、被災労働者の方や大切なご家族のこれまで過ごされてきた日常を大きく変化させます。
そして、その変化や支障は一時的ではなく、これから先の未来にも大きな影響を及ぼします。
悔しさや悲しみが溢れてきてしまう方もいらっしゃるはずです。
少しでも悔しさや悲しみを軽減するためには、適切な補償を受けることが大切です。
そのためには、適切な後遺障害等級認定を獲得することがもっとも重要となります。
後遺障害が認められると、受けることができる補償や請求できる賠償金が大きく増えます。
私たち弁護士法人ALGには、労働問題を得意とする弁護士だけでなく、豊富な医学的知識をもった弁護士が多数在籍しております。
適切な後遺障害等級認定を得るためのアドバイスや書類の作成ができるため、等級認定率をあげることができます。
少しでも労災による後遺障害でお悩みの方は、ぜひ一度弁護士法人ALGまでご相談ください。
監修 福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治 弁護士法人ALG&Associates
保有資格 : 弁護士 (福岡県弁護士会所属・登録番号:41560)
福岡県弁護士会所属。私たちは、弁護士106名、スタッフ220名(司法書士1名を含む)を擁し(※2023年1月4日時点)、東京、札幌、宇都宮、埼玉、千葉、横浜、名古屋、大阪、神戸、姫路、広島、福岡、タイの13拠点を構え、全国のお客様のリーガルニーズに迅速に応対することを可能としております。
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