仕事中に指を切断するという痛ましい事故が発生してしまった場合、労働災害(労災)と認定される可能性があります。
労災認定されれば労災保険からの給付が受けられますし、事故の原因が会社側にある場合には使用者に対して損害賠償請求できる可能性もあります。
指を切断してしまうと、後遺障害が残ってしまう可能性も高く、その後の仕事や日常生活に支障をきたすことが多いです。
そこで、適正な補償を受けるためにも、指切断における労災認定や損害賠償請求について本ページで理解を深めていきましょう。
目次
労災事故による指の切断とは?
仕事中に指を切断するような事故は、現場作業のなかで起こりやすい傾向にあります。
具体的にどのような場面で起こりやすいのか、労働災害としては比較的よくある仕事中の指切断事故の事例をみてみましょう。
- 製造業や建設業における【はさまれ・巻き込まれ事故】
チェーンソー、ワイヤーロープ、業務用カッター、スライサーなどの切削機器や工場機械に巻き込まれて指を切断したり、はさまれた指が壊死して切断に至ったりする事例があります。 - 製造業や建設業における【飛来・落下事故】
重量物やガラスの落下によって指を切断したり、負傷した指が壊死してしまい切断せざるを得なくなったりする事例があります。 - 飲食店における【切れ・こすれ事故】
刃物による指の切断や、割れた食器・食料品加工機械による怪我が原因で指の切断に至る事例があります。
指を切断した際の労災認定の流れ
仕事中に指切断事故が発生したら、労災保険からの給付を受け取るために労災認定を受けましょう。
労災認定の流れ
- 労働災害が発生したことを会社に伝える
- 医療機関で治療を受ける
- 労働基準監督署に請求書を提出する
- 労働基準監督署による調査が行われる
- 調査の結果、労災が認定されると保険給付が行われる
労災認定の要件
仕事中の指切断事故で労災が認められるためには、「業務災害の要件」である業務遂行性と業務起因性という2つの要件を満たさなければなりません。
業務遂行性 | 労働者が会社の支配下・管理下にある状態で起きた事故であること。 たとえば工場で作業中に起きた事故の場合、業務遂行性は認められる可能性が高いです。 |
---|---|
業務起因性 | 業務遂行性があることを前提として、業務と負傷との間に因果関係があること。 業務に関連した作業中に負傷した場合は、一般的に業務起因性は認められやすいといえます。 |
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指切断における後遺障害等級の認定基準
指を切断してしまい、手指の一部や指全体が失われたままになってしまったり、指を再建する手術が行われたものの指としての機能を喪失したままになってしまったりした場合、後遺障害と認定されれば、労災保険から障害(補償)給付が受けられます。
指の切断によって、労災でどのような後遺障害が認定される可能性があるのか、“欠損障害”と“機能障害”の2つに分けて、それぞれ詳しくみていきましょう。
労災における指の欠損障害
欠損障害とは、指を根元から失ったり、指の一部が大きく欠けたりする後遺障害です。 障害を負った指の種類や本数によって、次のような障害等級が認定されます。
障害等級 | 症状 |
---|---|
第3級の5 | 両手の手指の全部を失ったもの |
第6級の7 | 1手の5の手指又は母指を含み4の手指を失ったもの |
第7級の6 | 1手の母指を含み3の手指又は母指以外の4の手指を失ったもの |
第8級の3 | 1手の母指を含み2の手指又は母指以外の3の手指を失ったもの |
第9級の8 | 1手の母指又は母指以外の2の手指を失ったもの |
第11級の6 | 1手の示指、中指又は環指を失ったもの |
第12級の8の2 | 1手の小指を失ったもの |
第13級の5 | 1手の母指の指骨の一部を失ったもの |
第14級の7 | 1手の母指以外の手指の指骨の一部を失ったもの |
手指を失ったものとは? 母指は指節間関節、その他の手指は近位指節間関節以上を失ったものをいいます。 |
労災における指の機能障害
機能障害とは、指関節の可動域が小さくなったり、動かなくなったりする後遺障害です。
障害の程度や指の本数によって、次のような障害等級が認定されます。
障害等級 | 症状 |
---|---|
第4級の6 | 両手の手指の全部の用を廃したもの |
第7級の7 | 1手の5の手指又は母指を含み4の手指の用を廃したもの |
第8級の4 | 1手の母指を含み3の手指又は母指以外の4の手指の用を廃したもの |
第9級の9 | 1手の母指を含み2の手指又は母指以外の3の手指の用を廃したもの |
第10級の6 | 1手の母指又は母指以外の2の手指の用を廃したもの |
第12級の9 | 1手の示指、中指又は環指の用を廃したもの |
第13級の4 | 1手の小指の用を廃したもの |
第14級の7 | 1手の母指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの |
手指の用を廃したものとは? 手指の末節骨の半分以上を失い、又は中手指節関節若しくは近位指節間関節(母指にあっては指節間関節)に著しい運動障害を残すものをいいます。 |
労災の後遺障害については、以下ページで詳しく解説していますのでご参考になさってください。
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労働災害による指切断に対する労災保険の給付について
労働災害により指を切断してしまった場合、労災保険に対して次のような労災保険給付を請求することができます。
療養(補償)給付 | 治療費・入院費・手術費・薬剤費など、治療にかかった費用に対する補償です。 |
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休業(補償)給付 | 労災により休業した場合の、休業期間の賃金に対する補償です。 休業4日目から、休業(補償)給付と、それに上乗せして休業特別支給金が支給されます。
|
障害(補償)給付 | 症状固定後に後遺障害が残った場合の補償です。 認定された障害等級に応じて障害(給付)年金または障害(補償)一時金と、それに上乗せして特別給付金が支給されます。 |
後遺障害が残った場合の給付内容
労災で指を切断してしまい、症状固定後も一定の傷害が残ってしまった場合は、労災保険より障害(補償)給付と、それに上乗せして特別給付金が支給されます。
支給内容は次のとおり、認定された等級に応じて異なります。
- 障害等級第1級~第7級に該当する場合
①障害(補償)年金、 ③障害特別支給金、 ④障害特別年金 - 障害等級第8級~第14級に該当する場合
②障害(補償)一時金、 ③障害特別支給金、 ⑤障害特別一時金
等級 | 労災保険給付 | 特別給付金 | ||
---|---|---|---|---|
①障害(補償) 年金 |
③障害特別支給金 (一時金) |
④障害特別年金 (年金) |
⑤障害特別一時金 (一時金) |
|
第3級 | 給付基礎日額の 245日分 |
300万円 | 算定基礎日額の 245日分 |
– |
第4級 | 給付基礎日額の 213日分 |
264万円 | 算定基礎日額の 213日分 |
– |
第6級 | 給付基礎日額の 156日分 |
192万円 | 算定基礎日額の 156日分 |
– |
第7級 | 給付基礎日額の 131日分 |
159万円 | 算定基礎日額の 131日分 |
– |
等級 | 労災保険給付 | 特別給付金 | ||
②障害(補償) 一時金 |
③障害特別支給金 (一時金) |
④障害特別年金 (年金) |
⑤障害特別一時金 (一時金) |
|
第8級 | 給付基礎日額の 503日分 |
65万円 | – | 算定基礎日額の 503日分 |
第9級 | 給付基礎日額の 391日分 |
50万円 | – | 算定基礎日額の 391日分 |
第10級 | 給付基礎日額の 302日分 |
39万円 | – | 算定基礎日額の 302日分 |
第11級 | 給付基礎日額の 223日分 |
29万円 | – | 算定基礎日額の 223日分 |
第12級 | 給付基礎日額の 156日分 |
20万円 | – | 算定基礎日額の 156日分 |
第13級 | 給付基礎日額の 101日分 |
14万円 | – | 算定基礎日額の 101日分 |
第14級 | 給付基礎日額の 56日分 |
8万円 | – | 算定基礎日額の 56日分 |
①障害(補償)年金、④遺族特別年金は、毎年継続的に支給されます。
それに対して②障害(補償)一時金、③障害特別支給金、⑤障害特別一時金は、給付開始時に一度だけ支給されます。
労働災害による指切断は会社側に損害賠償請求が可能
労働災害によって指を切断してしまった場合、会社側の故意または過失を理由に、会社への損害賠償請求が可能なケースがあります。
労災について会社側の使用者責任や安全配慮義務違反が認められれば、労災保険では補填されない“慰謝料”や、労災保険からの補填だけでは不十分な部分について、会社へ損害賠償請求ができます。
実際に会社に対して損害賠償請求を行う場合、交渉、労働審判、訴訟といった方法があります。
いずれも労働者側で会社の“使用者責任”や“安全配慮義務違反”の証拠を集め、立証していかなければなりません。
労働災害の指切断で弁護士に依頼するメリット
指の切断という労働災害が起きてしまったときに、弁護士へ依頼すると次のようなメリットがあります。
- 適正な後遺障害等級の認定が受けられる
指の切断は、ほかの怪我に比べても障害が残る可能性が高いです。
後遺障害等級認定について詳しい弁護士であれば、等級認定に必要な資料収集のサポートや、通院についてアドバイスが可能なので、適正な等級認定が受けられる可能性が高まります。 - 必要な手続きを弁護士に代行してもらえる
労災申請など、煩わしい手続きを弁護士に任せることができます。
会社が過失を認めなかったり、そもそも労災を認めなかったりする場合はとくに、法的根拠に基づいた主張をするためにも弁護士のサポートが欠かせません。
指切断による労働災害に関するQA
仕事中に指を切断した場合、仕事はいつから復帰できますか?休業中の収入の補償はされますか?
仕事中に指を切断してしまった場合、心理面はともかくとして手術後2~3ヶ月ほど経過すると物理的には問題なく日常生活が送れるようになり、仕事にも復帰できる可能性があります。
とはいえ、あくまでも目安の期間であるため、復職時期は主治医とよく相談して決めましょう。
早く復職したいお気持ちもわかりますが、急いで無理をすると、かえって治癒が遅くなることもあります。
労災による休業で賃金が得られなかった場合は、労災保険による補償(休業補償給付や休業特別支給金)を受けながら治療に専念しましょう。
また、指切断によって後遺障害が残りそうな場合は、適正な補償を受けるためにも自己判断で治療を中断せず、医師の指示に従って適切なリハビリ・通院を継続することも大切です。
仕事中にカッターなどで指を切った場合も労働災害になりますか?
仕事中にカッターナイフで誤って指を切った場合も、業務災害の2つの要件(業務遂行性と業務起因性)を満たせば、労働災害に認定されます。
仕事中に力加減を誤ってカッターナイフで指を切断してしまった場合はもちろん、手元が狂ってカッターナイフで軽く指を切ってしまった場合も労災となるので、病院でかかった費用は労災保険から支払われます。
ただし、軽い怪我だとしても労災では健康保険が利用できないため注意が必要です。
指切断の労働災害における損害賠償請求などは弁護士にお任せください
仕事中に骨ごと指を切断してしまったという事故は、労災事故のなかでも比較的多く発生しています。
手指はたくさんの小さな骨から構成されていて、その一部が失われたままになってしまったり、手術しても指としての機能が失われてしまったりして、障害が残ってしまうことも少なくありません。
そこで、指の切断事故を労働災害として適正な補償を受けるためにも、弁護士への依頼をぜひご検討ください。
後遺障害等級認定をはじめとした労災申請手続き等について弁護士が円滑に進めることができるので、ご依頼者様の負担を軽くすることができます。
まずはお気軽に、弁護士法人ALGへご相談ください。
監修 福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治 弁護士法人ALG&Associates
保有資格 : 弁護士 (福岡県弁護士会所属・登録番号:41560)
福岡県弁護士会所属。私たちは、弁護士106名、スタッフ220名(司法書士1名を含む)を擁し(※2023年1月4日時点)、東京、札幌、宇都宮、埼玉、千葉、横浜、名古屋、大阪、神戸、姫路、広島、福岡、タイの13拠点を構え、全国のお客様のリーガルニーズに迅速に応対することを可能としております。
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