テレワーク(在宅勤務)中の怪我は労災認定されるのか?
厚生労働省は、テレワークの定義を「インターネットなどのICT(情報通信技術)を活用して時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」としています。
日本では2020年1月上旬から新型コロナウイルス感染症が拡大したことに伴い、外出制限が実施されたことにより多くの企業でテレワークが導入されました。
新型コロナウイルス感染症がようやく落ち着いてきた昨今でも、引き続きテレワークを導入している企業が数多く見受けられます。
コロナ禍を経てテレワークが日常的になった今、テレワーク中に起きた労災は認定されるのでしょうか?
そこで、本記事ではテレワーク中の労災認定について着目し、詳しく解説していきます。
目次
テレワーク中の怪我は労働災害になる?
労災(=労働災害)とは?
労働者(従業員、社員、アルバイト)が労務に従事したことによって被った負傷、疾病、死亡などをいいます。
労災といえば、職場・通勤中に発生した労災事故のみが対象となるようなイメージがありますが、テレワーク=在宅勤務であっても労災認定の要件を満たすことにより労災として認められる可能性があります。
労災認定の要件は、下表の2つに大きくわけられます。
業務遂行性 (ぎょうむすいこうせい) |
事業主と労働者の間の労働契約に基づき、労働者が事業主の指揮命令下にある状態のことをいいます。 |
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業務起因性 (ぎょうむきいんせい) |
業務遂行と負傷等の間に相当因果関係があることをいいます。 |
テレワークで起こり得る労働災害とは?
テレワークであっても、業務遂行性と業務起因性を満たしていれば労働災害として認定される可能性があることがわかりましたが、テレワークで起こり得る労働災害とは実際どのようなケースがあるのでしょうか?
テレワークで起こり得るいくつかのケースについて、次項にてそれぞれ解説していきます。
現在テレワークをされている方でご自身に当てはまることがないか、あわせてご確認ください。
仕事中にトイレに行く際に怪我をしたケース
労災認定要件である、業務遂行性と業務起因性の両方を満たしているかどうかがポイントとなります。
仕事中にトイレに行く際に怪我をしたケースは、以下のとおりとなります。
<業務遂行性〇>
仕事中であれば使用者の支配下にある状態のため、業務遂行性の要件は満たします。
<業務起因性〇>
トイレなどの生理現象は、通常、業務に付随する行為として扱われていますので、業務起因性の要件も満たします。
したがって、このケースによる負傷は労災にあたると考えられます。
子供のおもちゃが原因で怪我をしたケース
では、子供のおもちゃが原因で怪我をしたケースはどうでしょうか?
<業務遂行性〇>
仕事中であれば使用者の支配下にある状態のため、業務遂行性の要件は満たします。
<業務起因性〇>
在宅勤務であれば、家族が自宅にいるという状況も想定できます。
子供の様子を見ながら業務をすることになれば、子どもの行為によって負傷するということも在宅勤務に内在する危険であるといえるため、業務起因性の要件も満たします。
したがって、このケースによる負傷は労災にあたると考えられます。
ただし、以下の場合は業務遂行性の要件を満たさないため、労災とは認められません。
- 休憩時間中に負傷した場合
- 業務を中断している際に負傷した場合
テレワークで腰痛が発症したケース
テレワークにより腰痛が発症した場合については、厚生労働省にて業務上腰痛の認定基準が定められています。
業務上腰痛の認定基準は、腰痛の原因を「災害性の原因による腰痛」と「災害性の原因によらない腰痛」の2つに分類し、それぞれに別々の要件を定めています。
また、これらの要件を満たし且つ医師から療養が必要と診断されたもののみ労災の認定が下ります。
結論としては、テレワークはパソコン作業が多く重量物を持ち上げるなどにより腰部に負荷がかかり腰痛を発症するようなケースは少ないと考えられることから、労災と認定される可能性は極めて低いです。
また、テレワークで以下のような行為を行っていたとしても、認定判断で考慮されることはありません。
- 無許可で時間外労働を長時間行っていた場合
- 趣味や副業など業務外のデスクワークを長時間行っていた場合
テレワーク中の怪我でも労災にならないケース
テレワーク中の怪我でも、以下のようなケースは労災と認定されません。
労災と認定されるか否かは、労災認定の要件を満たしているかどうかがポイントとなります。
Case1:昼休憩に外出中の負傷
休憩時間中に外出し交通事故に遭った場合は、仕事場である自宅を離れていることから事業主の支配下にあるとはいえず業務遂行性の要件を満たさないため、労災とは認められません。
Case2:在宅勤務中に新型コロナウイルスに感染した
テレワーク中の感染は、感染経路が特定できないため、業務との関連性について立証することが難しく、労災とは認められにくいです。
テレワーク時の労災認定のポイント
テレワーク中の怪我について労災認定を得るためには、「業務遂行性」と「業務起因性」の両方の要件を満たす必要があります。
しかし、2つの要件を満たすことは容易ではなく、いずれも満たしていたことがわかる証拠が必要です。
より確実に労災認定を得るためにも、テレワーク時に労災認定のポイントを押さえておくことが大切です。
では、どのようなポイントを押さえるべきなのか、そのポイントについて詳しくみていきましょう。
就業状況
テレワークは、日常生活との切り離しが難しく、業務時間と私的時間の区別が困難です。
そのため、テレワーク時には業務時間と私的時間を明確にすることが重要となります。
業務内容やその進捗について適切に記録することにより、テレワーク時に生じた負傷等が業務に起因するものとして判断しやすくなります。
業務時間と私的時間を明確にするには、業務内容の記録と報告を行い、就業していたことがわかる記録を確保しておきましょう。
- 例.)
- PCのログイン記録
- メールの送受信記録
- 業務日報 など
また、昼休憩や子供の送り迎えなどで中抜けする場合にも、仕事を中断した時間と戻って仕事を再開した時間を正確に記録しておくことが重要となります。
就業場所
テレワークは、会社のオフィスに出勤して業務を行いません。
そのため、テレワーク時には就業場所を明確にすることが重要となります。
テレワーク時の就業場所を明確にすることにより、テレワーク時の負傷等が事業主の支配下にある状態に生じたものとして判断しやすくなります。
しかし、会社から指定されていない就業場所以外でテレワークを行った場合、事業主の支配下にあるとはいえず業務遂行性を満たさないと判断される可能性があります。
指定されていない就業場所にてテレワークを行う場合は、あらかじめ会社から承諾を得ておくことが重要です。
テレワーク中の怪我で労災申請するための手順
労災申請の手続きは、通常、会社の人事部や総務部などで対応してもらえます。
しかし、会社が対応してくれない場合は、被災労働者にて労災申請の手続きを行うことになります。
労災申請の流れは、大まかに以下のとおりです。
- 業務災害発生
- 労災保険指定病院を受診する(予め労災保険を使用する旨を病院へ伝える)
- 会社に労災保険を使用する旨を伝え、申請書類をもらう
- 受診した病院に申請書類を提出する
- 病院から労働基準監督署に書類が送付される
- 労働基準監督署による審査が行われる
- 給付決定
なお、会社が労災と認めてくれない場合は争いになるおそれがありますので、弁護士に相談されることをおすすめします。
テレワーク中の労災認定について不安なことがあれば弁護士にご相談ください
テレワーク時に生じた怪我であっても、労災認定の要件を満たすことで出勤時と同様に労災認定を受けることができます。
しかし、テレワーク時は出勤時と比べて労災認定の要件である業務遂行性と業務起因性を裏付けることが難しいため、判断に迷われる方もいらっしゃるはずです。
そのような場合は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
弁護士であれば、労災認定を得るためのアドバイスだけでなく、業務遂行性と業務起因性を裏付けるための証拠も収集することができます。
また、労災申請の手続きなどに時間を割かれることもないため、治療に専念することもできます。
今まさにテレワーク中に負傷し労災の手続きを進めている方やこれからテレワークを開始するにあたり労災について不安を抱かれている方は、弁護士へお気軽にご相談ください。
監修 弁護士 谷川 聖治 弁護士法人ALG&Associates
保有資格 : 弁護士 (東京弁護士会所属・登録番号:41560)
東京弁護士会所属。私たちは、弁護士106名、スタッフ220名(司法書士1名を含む)を擁し(※2023年1月4日時点)、東京、宇都宮、埼玉、千葉、横浜、名古屋、大阪、神戸、姫路、広島、福岡、バンコクの12拠点を構え、全国のお客様のリーガルニーズに迅速に応対することを可能としております。
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