遺留分侵害額の請求調停をスムーズに進めるための基礎知識

遺言等の内容によって相続財産を十分に受け取れなくなった法定相続人(被相続人の兄弟姉妹を除く)は、遺留分を主張することによって最低限度の相続財産を取得できる可能性があります。
しかし、遺留分を相手方が支払ってくれるとは限らないため、当事者のみの話し合いでは解決できない場合には裁判所の調停を利用して解決することになります。
ただし、遺留分侵害額請求には消滅時効があるため、なるべく早く請求しなければなりません。
この記事では、遺留分を請求したい方だけでなく、遺留分を請求された方についても、調停等の流れを把握できるように解説します。
目次
遺留分侵害額の請求調停とは
遺留分侵害額の請求調停とは、侵害された遺留分を請求するための、裁判所の調停手続きによる話し合いです。
遺留分侵害額請求を行うときの一般的な流れは、最初に当事者間で協議し、まとまらない場合には調停を申し立て、それでも決裂してしまったときには訴訟手続きに移行します。
当事者間の協議がまとまらない場合、調停を申し立てずにすぐに訴訟を提起することは基本的にできません。これを調停前置主義といいます。
調停前置主義とは、訴訟を行う前に調停を経ることとする原則です。調停前置主義が採用される理由として、家庭内の問題はなるべく家庭内で解決するのが望ましいことや、プライバシーの流出をなるべく抑える必要があること等が挙げられます。
遺留分侵害額の請求調停の3つのメリット
遺留分侵害額の請求調停には、以下の3つのメリットがあります。
- 調停委員が間に入るため冷静に話し合える
- 解決案を提案してもらえる
- 自分で進められる
これらのメリットについて、次項より解説します。
①調停委員が間に入るため冷静に話し合える
遺留分侵害額の請求調停では、調停委員に仲介してもらうことによって、当事者だけよりも冷静に話し合うことができます。
親族間での対立等によって双方が感情的になっている場合には、当事者だけで協議を成立させるのは難しくなるため、調停の申立てによって解決できる可能性があります。
②解決案を提案してもらえる
調停委員は、当事者の双方から意見を聴取して解決のための助言を行います。調停はあくまでも話し合いの場であり、調停委員の提案を受け入れる義務はありませんが、双方が合意すれば訴訟よりも柔軟な解決が可能となります。
③自分で進められる
調停を申し立てることは、法律に詳しくない当事者であっても困難ではありません。遺留分侵害額の請求調停については、裁判所のサイトに書式や記載例が掲載されています。
また、調停を申し立てた後についても、調停委員からアドバイスを受けられるので、無難に解決できる可能性があります。
ただし、調停委員は法律の専門家ではない場合もあり、味方につけることができなければ不本意な解決を求められるリスクもあります。疑問に感じたときには、弁護士等の専門家に相談することをおすすめします。
遺留分侵害額の請求調停の流れ
遺留分侵害額の請求調停は、主に以下のような流れで解決します。
- 調停を申し立てる
- 調停期日に家庭裁判所を訪れ、双方が調停委員に仲介してもらって協議する
- 調停が成立すれば調停調書が作成される
- 調停が不成立になれば、改めて遺留分侵害額請求訴訟を提起する
調停を申し立てるときには、管轄の家庭裁判所に申立書やその写し、戸籍謄本等の必要書類を提出します。
調停の申立て後の流れや申立て方法等について、次項より解説します。

調停申立て後の流れ
①申立てから日程の決定
管轄の家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停の申立てが受理されると、裁判所の書記官から連絡が入り、2ヶ月程度先の日程が調整されます。
期日が決まると、相手方に申立書の写しや呼出状等が送付されます。
②第1回調停期日
第1回調停期日では、2人の調停委員だけでなく裁判官もいる状態で始まり、裁判官から調停手続きについて説明してもらうケースが多いです。
裁判官からの説明は、申立人と相手方が同時に受ける場合が多いですが、双方が激しく対立しているケース等では個別に説明してもらえることがあります。
裁判官からの説明が終わると、基本的に調停委員だけが立ち合い、双方から交互に意見を聴いて裁判官に伝えます。第1回の期日が終われば、次回期日の調整が行われます。
③2回目以降の調停期日から終了まで
第2回以降の調停期日でも、第1回と同じように、双方が交互に意見を調停委員に伝えます。期日は1ヶ月~2ヶ月程度の間隔で実施されます。
調停成立の場合
調停が成立すると、合意内容を記載した調停調書が作成されます。調停調書に記載された通りに、金銭が支払われない場合には、執行文の付与を受けることによって強制執行が可能となります。
執行文の付与を受けるときには、300円分の収入印紙が必要となります。
調停不成立の場合
相手方が当初から一切の交渉を拒否している場合や、調停の期日において合意が成立する見込みがまったくないと調停委員から判断された場合には、調停は不成立となります。
調停が不成立となった場合には、改めて地方裁判所か簡易裁判所に遺留分侵害額請求訴訟を提起することになります。
なお、調停での解決が困難である場合等では、裁判所から調停の取り下げを促されるケースもあります。
調停が不成立となった場合、そこから最短で6ヶ月経過すると遺留分侵害額請求は消滅時効が完成するおそれがあります。そのため、調停不成立となった場合にはできるだけ速やかに訴訟を提起しましょう。
遺留分侵害額請求の調停申立の方法
遺留分侵害額の請求調停の申立人や申立先等について、表にまとめたのでご覧ください。
申立人 |
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申立先 |
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必要な費用 |
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必要な書類 |
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なお、被相続人よりも先に亡くなっている相続人がいる場合には、その人の戸籍謄本が必要となります。
申立書を作成する際の記載ポイント
遺留分侵害額の請求調停を申し立てるときには、申立ての趣旨や申立ての理由等を記載します。
これらを記載するときのポイントについて、次項より解説します。
申立ての趣旨
調停の申立書の「申立ての趣旨」欄には、申立人が調停で相手方に求める事項を記載します。
調停で要求する具体的な金額が決まっている場合もありますが、交渉によって金額を決めるのが一般的なので、「遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを求める」旨を記載すれば良いでしょう。
申立ての理由
調停の申立書の「申立ての理由」欄には、申立人の主張とその根拠等を記載します。
ここで注意するべきなのは、申立書の写しが相手方に送付されることです。そのため、感情的に相手方を非難する文言を記載すると、相手方も感情的になって、調停がまとまりにくくなってしまいます。
申立書には、なるべく事実のみを記載しましょう。記載事項として、主に以下のようなものが挙げられます。
- 被相続人の氏名と亡くなったときの住所
- 被相続人が亡くなった日付
- 申立人や他の相続人の氏名、および被相続人との関係
- 遺言書の内容と作成された日付
- 相続財産の内容
- 遺留分を侵害している贈与または遺贈の内容、および贈与または遺贈が行われた日付
- 調停を申し立てるまでの経緯
遺留分侵害額の請求調停をスムーズに進める3つのポイント
遺留分侵害額の請求調停をスムーズに進めるためには、以下のポイントが重要となります。
- 自分の主張や根拠は事前に準備する
- 戦略的に適正な妥協点を決める
- 弁護士へ相談する
これらのポイントについて、次項より解説します。
①自分の主張や根拠は事前に準備する
調停は、裁判のように主張書面や証拠等を提出する義務がありません。しかし、相手方が強く主張して譲らない場合には、自らの正当性を調停委員にわかりやすく伝える必要があります。
そのため、主張したい内容はあらかじめ書面にまとめておき、相続財産の価額等についての資料と併せて裁判所に提出しておくと、調停委員や裁判官に自分の主張をスムーズに理解してもらうことができるでしょう。
②戦略的に適正な妥協点を決める
調停は、当事者の話し合いの場であり、当事者双方が納得しなければ成立しません。
妥協すれば受け取ることのできる金銭等が減ってしまうため、なるべく譲歩したくないと考えるかもしれませんが、一切の譲歩を拒否する姿勢で臨めば、調停が長引くことや訴訟の提起に至ることが考えられます。
そうすると、かかる時間や労力が増えていくため、多少の譲歩をしてでも調停を終わらせることを考える必要があります。
そこで、事前に適正な妥協点を決めておくようにしましょう。
③弁護士へ相談する
遺留分侵害額請求の調停に臨む前に、弁護士に相談することをおすすめします。なぜなら、調停委員に選ばれるのは法律の専門家だけではないからです。
調停委員を選ぶことはできないため、自身にとって不利な結論へ誘導されるリスクがあります。
そのため、自分が必要以上の妥協をしているのではないかと不安になった場合には、弁護士に相談すると良いでしょう。
弁護士であれば、双方の主張を検討して、より適切な解決方法等について提案できる可能性があります。
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遺留分侵害額の請求調停が不成立の場合は訴訟へ
遺留分侵害額の請求調停が不成立となった場合には、改めて管轄の裁判所に訴訟を提起しなければなりません。
訴訟の提起からの流れ等について、次項より解説します。
①遺留分侵害額請求訴訟の提起
遺留分侵害額請求訴訟は、請求額が140万円を超える場合には地方裁判所に、140万円以下である場合には簡易裁判所に提起します。
訴訟の提起は、以下のいずれかの裁判所で行います。
- 相手方の住所地を管轄する裁判所
- 自身の住所地を管轄する裁判所
- 当事者の合意により定められた裁判所
②遺留分侵害額請求訴訟の流れ
遺留分侵害額請求訴訟は、主に以下のような流れで行われます。
- 管轄裁判所に訴状を提出する
- 裁判所が第1回口頭弁論期日を指定して、訴状等を相手方に送達する
- 相手方が答弁書を提出する
- 第1回口頭弁論が行われて、引き続き第2回以降の口頭弁論が行われる
- 判決が下される
遺留分侵害額を請求された場合の対処法
遺留分侵害額請求をされたら、以下の点について、すぐに確認しましょう。
- 請求した人が、被相続人の配偶者や子、両親等の遺留分を有する可能性のある人か
- 遺留分侵害額請求権について消滅時効を援用できないか
- 遺留分権利者が相続した財産が遺留分を上回っていなかったか
請求を行った人に遺留分があるときには、基本的に当事者による交渉で解決を図ります。
請求者が勘違いなどによって請求している場合や、過大な金額を請求している場合等には、その旨を交渉の場で伝えます。
しかし、請求者の主張が正しい場合には拒絶するのは困難なので、交渉により早く支払ってしまうのが望ましいでしょう。
相続財産を現金に換える時間が必要な場合等には、分割払いなど支払い方法について交渉する必要があります。
請求者が過大な要求をしている場合等で交渉がまとまらなければ、調停や訴訟によって解決することになります。
遺留分侵害額の請求調停についてのお悩みは弁護士へご相談ください
遺留分侵害額の請求調停を申し立てたい方や申し立てられた方は、弁護士にご相談ください。
弁護士であれば、調停で主張するべきことや集めるべき証拠等についてアドバイスできます。
また、調停で合意できなければ、訴訟によって争うことになるでしょう。訴訟になれば、解決までに時間がかかるため、金銭的な負担や心身への負担が重くなりがちです。
どのような点にこだわって、相手方に譲歩しても良い部分はどの点なのかは、自分だけで判断するのが難しいところです。考えを整理するためにも、まずはお気軽にご相談ください。
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保有資格 弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:41560)