家督相続とは?現代でも適用される?長男に全財産を相続させる方法なども解説

この記事でわかること
家督相続とは、被相続人のすべての財産を、基本的に長男が相続する、旧民法における相続制度です。現在では廃止されており、配偶者や長女、二男等も相続人になりますが、今でも「遺産は長男が相続するものだ」といった主張をする相続人がいて、トラブルになるケースがあります。
この記事では、家督相続の概要や現代の遺産相続との違い、長男に全財産を相続させる方法、長男だけの相続を主張する相続人とのトラブルへの対処法等について解説します。
目次
家督相続とは
家督相続とは、日本でかつて採用されていた、全財産を長男に相続させる制度です。家督相続では、被相続人である戸主の長男以外の子は、基本的に財産を相続できませんでした。 具体的には以下のような特徴があります。
- 被相続人に、配偶者や複数の子がいても、長男だけが単独で相続し、次の戸主になる
- 家督相続における戸主とは、家族の統率者のような存在であり、全財産を相続して家族を扶養する義務を負っていた
- 戸主が亡くなったときだけでなく、隠居を決めたときにも、家督相続は行われていた
家督相続はいつまで続いていたか?
家督相続は、明治31年7月16日から昭和22年5月2日まで行われていました。個人よりも家を大切にする考え方に基づく制度だったと言えるでしょう。
しかし、戦後の日本では、個人の尊重や法の下の平等が重視されるようになったため、相続制度も家を重視するものから、個人を大切にするものに変更されました。
昭和22年に民法が大きく改正されて、同年5月3日に家督相続は廃止されています。
家督相続が開始される事由
家督相続が開始するのは、主に以下の3つの場合です。
- 戸主の死亡
- 戸主の隠居
- 戸主の戸籍喪失等(国籍の喪失、婚姻・養子縁組の解消、女戸主の入夫婚姻、入夫の離婚)
隠居や国籍の変更、婚姻・養子縁組を解消した等の事情により、戸主が家を離れると家督相続が開始します。これは被相続人が亡くなるまで相続が発生しない現在の制度との大きな違いです。
また、女性でも戸主になることは可能でしたが、女性の戸主が結婚すると夫が戸主になる等、長男に相続させること以外にも男性を優先する制度が採用されていました。
長男がいない場合の家督相続人
家督相続で相続人となるのは基本的に長男でしたが、娘しかいなければ長女が相続人になりました。なお、子が配偶者との間に生まれたか、配偶者ではない者との間に生まれたかによって相続の優先順位が異なりました。また、配偶者ではない者との間に生まれた子は、認知されているか否かが優先順位に影響しました。
子がおらず、養子もいない場合には、戸主である被相続人により家督相続人が指定されていました。また、指定して家督相続人を決めなかったケース等では、被相続人の父または母が指定したり、親族会が選定したりしました。
家督相続と遺産相続の違い
家督相続と現在の遺産相続では、主に以下のような違いがあります。
- 相続人と相続順位
- 法定相続分
- 相続放棄
- 相続が発生するタイミング
これらの違いについて、次項より解説します。
相続人と相続順位
家督相続では、基本的に長男が家督相続人になりました。
現代の遺産相続では、配偶者は必ず相続人となり、子の全員が均等に相続すると決められています。
旧民法における家督相続の相続順位を、表にまとめたのでご覧ください。
順位 | 家督相続人 | 概要 |
---|---|---|
第1順位 | 第1種法定推定家督相続人 | 被相続人の直系卑属 ※直系卑属が複数いる場合には、被相続人と親等が近い者が優先(男子の嫡出子のうち、より年長の者が優先され、女子の嫡出子より男子の認知された非嫡出子が優先された) |
第2順位 | 指定家督相続人 | 被相続人が生前に、または遺言によって指定した者 |
第3順位 | 第1種選定家督相続人 | 被相続人の父母や親族会が、同籍の家族の中から選定した者 |
第4順位 | 第2種法定推定家督相続人 | 被相続人の直系尊属(両親等) |
第5順位 | 第2種選定家督相続人 | 親族会が、親族や分家の戸主等から選定した者 |
法定相続分
家督相続では、被相続人の長男等が次の戸主となり、全財産を相続していたため、各々の取り分は問題となりませんでした。
現代の相続では、民法で各相続人が相続できる相続財産の取り分が定められています。この取り分を法定相続分といいます。
被相続人が遺言書を作成していなければ、基本的には法定相続分に従って相続財産が分配されます。
現在の民法における、被相続人に配偶者がいるときの法定相続分を、表にまとめたのでご覧ください。
順位 | 法定相続人 | 法定相続分 |
---|---|---|
第1順位 | 子 | 配偶者が1/2、子が全員で1/2 |
第2順位 | 直系尊属(両親等) | 配偶者が2/3、両親等が1/3 |
第3順位 | 兄弟姉妹 | 配偶者が3/4、兄弟姉妹が全員で1/4 |
相続放棄
家督相続では、相続放棄は基本的に認められていませんでした。そのため、高額な借金等があっても、相続しなければならない決まりでした。
現在の相続では、相続放棄が認められています。そのため、高額な借金等があっても、相続しないことが可能です。
相続が発生するタイミング
家督相続では、戸主の死亡以外にも、戸主の隠居や戸籍喪失等によって相続が発生しました。しかし、現在の相続では、相続が発生するのは被相続人が死亡したときだけとされています。
相続税にも強い弁護士が豊富な経験と実績であなたをフルサポートいたします
相続に関するご相談
24時間予約受付・年中無休・通話無料
0120-523-019来所法律相談30分無料
※事案により無料法律相談に対応できない場合がございます。※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。
※国際案件の相談に関しましては別途こちらをご覧ください。
相続の来所法律相談30分無料
24時間予約受付・年中無休・通話無料
※注意事項はこちらをご確認ください
※事案により無料法律相談に対応できない場合がございます。※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。※国際案件の相談に関しましては別途こちらをご覧ください。
現代でも家督相続が適用されるケースはあるのか?
既に家督相続制は廃止されていますが、現代でも家督相続制が利用されるケースがあります。相続財産のなかに登記が行われていない不動産がある場合は要注意です。
また、家督相続ではありませんが、それに近い形で特定の相続人に単独相続させることもあります。
何代にも渡って相続登記がされていないケース
以前は相続登記が義務でなかったため、相続財産の中に、家督相続の時代から相続登記などが行われていない不動産があることがあります。法改正により、現在では相続登記が義務化されているので(2024年4月1日施行)、家督相続の時代から放置されていた不動産についても、改正法の施行日から3年以内の2027年3月31日までに、相続などの経緯を正しく反映して登記を行わなければなりません。
昭和22年5月3日よりも前に開始された相続については家督相続が適用されるため、不動産も家督相続人が単独で相続することになります。遺産分割協議を行う必要はありませんが、登記手続きを行うには、何代も家系をさかのぼって確認し、相続開始から現在の所有者に至るまで順番に登記手続きをする必要があります。これはとても困難な作業ですので、何代にもわたり相続登記が行われずに放置されていた不動産がある場合には、弁護士のサポートを受けることがおすすめです。
家督相続に近い相続をするケース
家督相続でなくても、それに近い方法で、長男等の相続人が単独の相続をすることがあります。
事業用の資産や土地を複数の相続人に分配すると、権利が分散されてしまうので、事業や土地の利用に悪い影響を及ぼすおそれがあります。そのため、相続財産を集中させるために、以下のような方法をとるケースがあります。
- 事業の後継者である相続人に、相続財産の大半を相続させる
- 代々受け継いできた土地を守るために、長男に相続財産の大半を相続させる
長男に全財産を相続させる3つの方法
家督相続は廃止されましたが、長男等、特定の1人に相続させたい場合には、以下の方法をとることができます。
- 遺言書を作成する
- 家族信託を活用する
- 遺産分割協議を行う
これらの方法について、次項より解説します。
①遺言書を作成する
遺言書のなかで相続人を指定する方法によって、特定の者に相続財産を集中させることが可能です。有効な遺言書を作成しておけば、記載内容は法定相続分に優先します。ただし、遺言書で相続財産を集中させる場合、遺留分に注意しなければなりません。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障されている、相続財産の最低限の取り分です。相続財産を集中させた結果として、遺留分を侵害してしまうと、侵害された者が遺留分侵害額請求を行い、侵害された遺留分に相当する金銭を請求するおそれがあります。そのため、相続財産を受け取った者が十分な現金や預貯金等を保有していなければ、相続財産が流出するリスクが生じてしまいます。
遺留分に配慮した遺言書を作成したい場合には、弁護士に相談しましょう。
②家族信託を活用する
家族信託とは、財産の所有権を財産管理する権利と財産から利益を受ける権利に分けることのできる制度です。家族信託契約で財産を引き継ぐ権利を継がせる者を指定しておくと、遺言と同様に、自身が望んだ相手に財産を承継させる効果を得ることができます。
さらに、自分から財産を承継させる者だけでなく、その次に財産を承継する者を指定することも可能です。
ただし、家族信託をした結果として、相続人の間に感情的な対立を引き起こしたり、遺留分侵害額請求が行われてしまうリスク等があります。また、農地を家族信託するためには、基本的に農業委員会の許可が必要です。有価証券については、基本的に証券会社に認めてもらう必要があります。
家族信託を利用したい場合には、専門的なサポートが必要となるため、弁護士に相談しましょう。
③遺産分割協議を行う
遺産分割協議とは、相続人の全員が参加して、相続財産の分配等について決めるための話し合いです。協議での合意は法定相続分よりも優先されるので、相続人の全員が「長男がすべての相続財産を受け継ぐこと」に同意すれば、家督相続と同じように長男が単独で被相続人の財産を相続します。
ただし、1人でも反対すれば、このような合意は成立しません。そのため、反対した相続人には法定相続分の財産を分配する等の対応が必要になります。
遺産分割協議について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
合わせて読みたい関連記事
一人が全ての財産を相続するケースでのトラブルと対処法
現代の日本においても、かつての家督相続のような考え方が残っていることがあり、「長男が全財産を相続する」といった主張が行われるケースもあります。
相続人全員が、家督相続のような相続方法に納得していれば問題ありませんが、納得しない相続人がいる場合、まずは遺言書の有無を確認する必要があります。
遺言書の有無により、相続争いの解決方法は異なります。遺言書がない場合とある場合のそれぞれについて、弁護士に依頼するメリットも含めて、次項より解説します。
遺言書がない場合は話し合い
遺言書がない場合には、相続人全員で遺産分割協議を行って、相続財産の分配方法等について話し合います。協議は、相続人全員が合意しないと成立しません。
相続人である被相続人の長男や他の親族等から、家督相続を主張された場合には、現在の法定相続分が民法で定められた権利であることを訴える必要があります。
ただし、家を重視する考え方をしている親族等は、現在の法定相続分について主張しても意見を変えないおそれがあります。当事者だけで話し合うと、感情的な対立が深まってしまうリスクが高いでしょう。
この段階で弁護士に依頼していただくと、専門家の立場から、現在の法律で定められた権利について主張できます。家督相続が認められる可能性は極めて低いと分かれば、主張を取り下げてもらえることもあります。
話し合いでまとまらなければ遺産分割調停
相続人全員による遺産分割協議がまとまらない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。遺産分割調停では、調停委員に仲介してもらいながら話し合いを行います。
調停がまとまらず、不成立になってしまうと、自動的に遺産分割審判に移行します。遺産分割審判では、裁判官が相続財産の分配を決定します。審判が確定すると、当事者は裁判官が決めた方法で相続財産を分配しなければなりません。
調停の段階で弁護士に依頼していただくと、審判に移行する前に当事者で解決できるように、相手方へ働きかけることができます。審判に移行してしまうと、相続財産の分配方法等について、経費がかかるような解決が行われることがあります。そのような事態になる前に、より望ましい結論を提案できます。
遺産分割調停の流れを知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
合わせて読みたい関連記事
遺言書がある場合は遺留分侵害額請求
被相続人によって遺言書が作成されていた場合には、基本的にその遺言書に従って相続財産が分配されます。
遺言書において、家督相続のように、長男に全財産を相続させるといった指定が行われることがあります。しかし、この場合、被相続人の配偶者や長女、二男などは、長男に対して遺留分侵害額請求を行うことができます。
遺留分とは、被相続人の兄弟姉妹以外の法定相続人に認められている、相続財産の最低限の取り分です。遺留分を侵害された法定相続人は、侵害した者に対して遺留分に相当する金銭を請求することができます。
この段階で弁護士に依頼していただくと、請求手続きを任せていただけるだけでなく、請求できる金額の計算等も任せていただけます。
遺留分侵害額請求について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
家督相続に関するQ&A
家督相続の有無は、戸籍を調べれば確認できますか?
家督相続が行われたことは戸籍に記載されるので、調べれば確認できます。ただし、古い戸籍は文字が読みづらい場合が多いです。
また、戦争や災害によって滅失していることもあるので、戸籍の収集は専門家に依頼することをおすすめします。
家督相続がある場合、相続関係説明図にはどのように記載すればよいですか?
家督相続があったことを説明しなければならない場合、相続関係説明図には、被相続人が家督相続のあった時代に亡くなったことが分かる記載と、家督相続をしたことが分かるような記載を行いましょう。
相続関係説明図とは、被相続人と相続人の関係を図で示した、家系図のような書類です。相続関係説明図を用いるのは、主に相続手続きで戸籍謄本等の原本還付を受けたいときです。
戸籍謄本等は、相続手続きの様々な場面で用いるため、還付を受けると手間や費用を抑えることができます。

家督相続でお困りの際は、相続問題に強い弁護士にご相談ください。
家督相続はすでに廃止された制度ですが、相続登記を行わずに放置している不動産がある場合、現在でも関係のある制度になります。
また、代々家督相続を行ってきた家において、現在でも家督相続すると親族等が考えている場合、主張が対立してしまうおそれがあります。
弁護士にご相談いただければ、親族等に家督相続を主張されたトラブルについてのアドバイスや、相続登記についてのサポート等を行うことができます。
家督相続が廃止されてから80年程度が経っていますので、分かりづらいことが多いでしょうから、困ったときには弁護士法人ALGへお気軽にご相談ください。
相続税にも強い弁護士が豊富な経験と実績であなたをフルサポートいたします
相続に関するご相談
24時間予約受付・年中無休・通話無料
0120-523-019来所法律相談30分無料
※事案により無料法律相談に対応できない場合がございます。※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。
※国際案件の相談に関しましては別途こちらをご覧ください。
相続の来所法律相談30分無料
24時間予約受付・年中無休・通話無料
※注意事項はこちらをご確認ください
※事案により無料法律相談に対応できない場合がございます。※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。※国際案件の相談に関しましては別途こちらをご覧ください。

保有資格 弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:41560)