相続人・被相続人が認知症の場合の相続の問題点と対策

相続人に認知症の方がいる場合や、被相続人が認知症であった場合には、相続に関するトラブルが多くなります。
この記事では、認知症の相続人がいる場合の対策や成年後見人のメリット・デメリット、被相続人が認知症である場合の対策等について解説します。
目次
【動画で解説】認知症の方がいる場合の遺産分割協議について
認知症の相続人がいる場合
認知症の相続人がいると、相続において様々な不都合が生じてしまいます。
特に問題となるのが、認知症によって意思能力を失った相続人がいると、遺産分割協議ができないことです。
認知症による遺産分割協議の問題について、次項より解説します。
遺産分割協議ができない?
相続人の1人が重度の認知症である場合には、その相続人は意思能力を欠いており、有効な遺産分割協議をすることができません。
そのため、重度の認知症である相続人が参加した遺産分割協議は無効となります。
相続人が認知症であっても、軽度の認知症であれば遺産分割協議ができるケースもあります。
しかし、認知症の程度は簡単に判断できないため、遺産分割協議を行った当時の相続人に意思能力があったのかについて、争いに発展してしまうリスクが生じます。
また、認知症の相続人を除外して遺産分割協議を行っても無効となります。
遺産分割協議について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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法定相続分で遺産分割を行う
法定相続分とは、民法によって定められた各相続人の相続割合のことです。
法定相続分によって相続するときには遺産分割協議を行う必要がないため、相続人に認知症の人がいても遺産分割ができます。
ただし、相続財産に不動産が含まれている場合には注意しなければなりません。
相続人が法定相続割合に従って、不動産を共有している状態となるため、相続人の一人が認知症の場合には、不動産の売却等ができません。
また、預貯金についても、遺産分割協議がなければ、「150万円」または「当該銀行にある預貯金額×1/3×法定相続分」のどちらか少ない額までしか払い戻してもらうことができません。
加えて、相続税額を抑えるための制度には、遺産分割協議を行わないと利用できないものがあります。
法定相続分について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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成年後見制度を利用する
成年後見制度とは、認知症等によって経済活動に支障のある人を保護するための制度です。
認知症の程度によって後見や保佐、補助の制度を適用し、後見人をつけます。
後見人がいれば、本人が意思能力を失ってしまっても、後見人が代理で参加することによって遺産分割協議を成立させることが可能です。
ただし、後見人は基本的には本人に不利となるような合意をしません。
そのため、本人の取り分が法定相続分を下回るような協議は成立させにくくなります。
認知症の程度と成年後見制度の種類については、表にまとめたのでご覧ください。
認知症の程度 | 成年後見制度の種類 |
---|---|
重度の認知症 | 後見 |
中程度の認知症 | 保佐 |
軽度の認知症 | 補助 |
認知症の人は相続放棄できる?
認知症によって意思能力を失っている相続人が、自ら相続放棄することは不可能です。
そのため、有効に相続放棄をするためには後見人を選任する必要があります。
ただし、法定後見人は本人を保護することを主な任務としており、本人が損をするような相続放棄をすることはできません。
被相続人に巨額の借金がある等、明らかに相続するべきでない事情があれば、後見人が代理して相続放棄してもらうことが可能です。
認知症の相続人が亡くなるまで放置するのは危険
遺産分割には期限がないので、認知症の相続人が亡くなるまで放置する方法も考えられます。
しかし、このような方法にはリスクが伴うため、安易に放置してはいけません。
遺産分割を放置した場合のリスクとして、主に以下のようなものが挙げられます。
- 不動産の売却や解体等ができないため、修繕費用や固定資産税の負担が生じるリスク
- 認知症の相続人以外の相続人も認知症になったり、失踪したりするリスク
- 新たな相続が発生してしまい(数次相続)、さらに相続人が増え、話しあいがまとまりにくくなるリスク
- 新たな相続の発生により未成年者が相続人となり、特別代理人の選任が必要となるリスク
相続人の中に認知症の人がいる場合の事前対策
相続対策として遺言書が有効
相続人になる予定の人のなかに、認知症の疑いのある人がいる場合、遺言書を作成することが有効です。
遺言書によって全財産について相続人を指定しておけば、遺産分割協議をする必要がなくなるため、相続人の1人が認知症であっても問題が生じにくくなります。
ただし、有効な遺言書を作成することが条件となるため、形式的なミス等によって遺言書が無効になると遺産分割協議が必要となってしまいます。
遺言書を作成するときには、弁護士のサポートを受けて、有効な遺言書を作成するようにしましょう。
遺言書が無効になってしまうケース等について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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家族信託をする
家族信託とは、財産から利益を得る権利を所有者に残したままで、その財産の管理や運用、処分等を行う権利を家族に委託する制度です。
例えば、父親と認知症の母親、息子一人の家族において、父親名義の不動産がある場合、父親が先に死亡すると、父親名義の不動産は母親と息子が共同で相続することになります。
しかし、母親は認知症のため、不動産を売却することができません。
そこで、父親と息子との間であらかじめ不動産について家族信託の契約をすることで、父親死亡後、受託者である息子に不動産を処分してもらうことによって、財産を処分できないリスクを回避できます。
ただし、家族信託をしたら、所有権移転及び信託登記を申請して財産名義の変更が必要です。
一方、相続後、相続財産を処分できないリスクを回避するための方法として生前贈与もありますが、生前贈与すると多額の贈与税に加え、不動産取得税等がかかるため、非常にコストがかかります。
認知症の相続人に成年後見人をつけるメリット・デメリット
認知症の相続人に成年後見人をつけると、相続手続きを進めることができるようになります。
しかし、成年後見人がいることによって自由が失われる等の影響が生じるおそれがあります。
成年後見人をつけるメリットとデメリットについて、次項より解説します。
成年後見人のメリット
成年後見人をつけるメリットとして、以下のようなものが挙げられます。
- 本人に代わって遺産分割協議ができる
- 本人の代わりに財産を管理してもらえる
- 本人には事実上難しい相続税の申告等の相続手続きを任せることができる
成年後見人のデメリット
成年後見人をつけるデメリットとして、以下のようなものが挙げられます。
- 成年後見人の選任申し立ての準備に時間がかかる
- 本人が認知症になるまでの意思等は考慮されないので、遺産分割協議の自由度が下がる
- 遺産分割協議が終わっても、本人が亡くなるまで成年後見人がいるため、継続的に報酬が発生する
- 本人が亡くなって相続が発生するまでに、基本的に節税の対策を行えない
成年後見人に支払う報酬の目安を、以下の表にまとめたのでご覧ください。
相続財産の目安 | 報酬の目安 |
---|---|
相続財産が1000万円以下 | 月額2万円 |
相続財産が1000万円~5000万円以下 | 月額3万~4万円 |
相続財産が5000万円以上 | 月額5万~6万円 |
初期費用の内訳 | 金額 |
---|---|
申し立て手数料(印紙代) | 800円 |
予納郵券 | 後見申立て:3720円 保佐・補助申立て:4920円 |
登記手数料 | 2600円 |
戸籍謄本の交付手数料 | 1部あたり数百円 |
住民票の交付手数料 | 1部あたり数百円 |
「本人の成年後見などに関する登記がされていないことの証明書」の交付手数料 | 300円 |
診断書作成手数料 | 数千円程度 |
鑑定費用 | 10万~20万円程度 |
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被相続人が認知症だった場合
被相続人が重度の認知症であった場合には、基本的に判断能力が失われたとして扱われます。
そのため、すべての法律行為が無効となります。
無効となる法律行為には、遺言書の作成や生前贈与等の相続対策も含まれます。
そのため、相続対策を行う場合には、認知症になる前に行うようにしましょう。
法律行為 | 無効(例外あり) |
---|---|
遺言書 | 無効 |
相続対策を含むすべての法律行為は無効
法律行為とは、意思表示をして法的な権利義務を発生させる行為です。
主に以下のような相続対策は法律行為にあたるため、被相続人が認知症の場合には行うことができません。
- 生命保険の加入
- 生前贈与
- 家族信託
- 不動産等の処分
しかし、認知症の症状が一定ではない、いわゆる「まだら認知症」であれば、症状が軽いときに相続対策を行える可能性があります。
そのため、なるべく早く弁護士等の専門家に相談することをおすすめします。
遺言書を作成したとしても無効になる?
認知症の人が遺言書を作成した場合であっても、ただちに無効となるわけではありませんが、無効と判断されるケースもあります。
遺言書の効力が争いになった場合には、遺言無効確認調停や訴訟等において、裁判官が、作成時の遺言者の心身の状況や遺言書の内容等を考慮して判断します。
公正証書遺言の場合には、公証人や証人が関わっていることから有効となる可能性が比較的高いといえます。
しかし、同行者にとって極端に都合の良い遺言書である場合など、内容が不合理であるケース等では無効と判断されることがあります。
認知症の人の遺言書作成方法
認知症の方が作成した遺言書が有効となるための条件として、以下のようなものが挙げられます。
- 遺言能力(意思能力)があること
- 15歳以上であること
- 法律が定めた方式で作成されていること
これらのうち、認知症であるために問題となるのは遺言能力(意思能力)です。
遺言書を有効に作成するためには、作成時に遺言能力があることを確認しなければなりません。
遺言能力の有無を確認できるのは医師であり、診断書を作成してもらう必要があるため、とても手間がかかります。
可能であれば、認知症が疑われる状態になる前に遺言書を作成しましょう。
認知症の方がいる場合の相続はトラブルになりやすいためお早めに弁護士にご相談ください
認知症の相続人がいると、相続のときに困難を伴います。
また、被相続人が認知症になってしまうと、相続税を抑えるための対策をするのが難しくなります。
そこで、認知症が原因で相続トラブルになりそうな場合には弁護士にご相談ください。
認知症であっても軽度であるケース等、対策が間に合うこともあるため、諦めずに取り組みましょう。
また、認知症になる前に遺言書の作成等によって対策しておきたい場合にも、ぜひご相談ください。
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保有資格 弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:41560)