遺産相続で裁判をするのはどんなケース?
遺産の分割方法等については、通常の裁判では争うことはできないとされています。そのため、なるべく話し合いによって解決を試みる必要があり、最終的には審判によって解決を図ることになります。
しかし、遺産分割の前提となる事項等については裁判によって争うことができます。
この記事では、相続において裁判で解決できる事項や、相続に関して裁判で争うことの注意点等について解説していきます。相続において裁判を検討されている方はぜひご覧ください。
目次
遺産分割のトラブル解決は裁判ではなく調停や審判
遺産の分割方法等について争うときには、なるべく話し合いを行うこととされています。これは、相続が一般的に親族間の争いであることから、今後の親族関係等に配慮するためです。
しかし、遺産の分割方法等については、相続人間の話し合いでは解決できない場合もあります。そこで、家庭裁判所に遺産分割調停や遺産分割審判を申し立てることができます。
遺産分割調停と遺産分割審判は、それぞれ次のようなものです。
- 遺産分割調停:調停委員に仲介してもらいながら、相続人同士が話し合いで遺産分割方法等を決める手続き
- 遺産分割審判:裁判官に遺産分割方法等を決めてもらうための手続き
これらの手続きのうち、まずは遺産分割調停を申し立てて、調停では解決できない場合に審判に移行するのが一般的です。
これに対し、遺産分割の前提となる相続人や相続財産の範囲等について争いがある場合には裁判によって解決します。この点については、次項より解説します。
相続において裁判をするケースとは
相続について裁判をするのは、主に遺産分割の前提問題で揉めているケースです。遺産分割の前提問題とは、相続財産の金額や相続財産・相続人の範囲等、遺産分割の有効性に影響を与えるような問題のことです。
また、その他の場合にも裁判を行うことがあります。まとめると、裁判をするのは以下のような問題がある場合です。
【遺産分割の前提問題】
- 相続財産の範囲
- 相続人の範囲
- 遺言書の有効性
- 相続財産の使い込み
【その他の問題】
- 遺留分侵害
- 遺産分割協議の有効性
これらの前提問題について、審判によって決めてもらうことも可能です。ただし、前提問題に争いがある状態で遺産分割調停や遺産分割審判を申し立てると、裁判所から取り下げを求められる場合があります。
これは、調停や審判の結果に不満を持った人が裁判によって結果を覆そうとするおそれがあるため、時間や労力を無駄にしないためにも、はじめから裁判で解決をしたほうが望ましいからです。
相続財産の範囲の問題
相続財産の範囲の問題とは、遺産分割の対象となる財産について争いがある場合に、それを確定させなければ遺産分割が行えないということです。
ある財産が遺産分割の対象となるかを確定させたい場合には、遺産確認訴訟を申し立てます。
遺産確認訴訟によって相続財産に該当する範囲を確定すれば、話し合いや調停、審判によって相続財産の分配が可能となります。
遺産確認訴訟を提起するべきケースとして、次のようなものが挙げられます。
- 被相続人が所有していた不動産の名義が移転されているケース
- 被相続人が別人の名義で預貯金口座を所有していたケース
- 被相続人から生前に教えられていた相続財産が大幅に目減りしており、財産隠しが疑われるケース
相続財産について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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相続人の範囲の問題
相続人の範囲の問題とは、誰が法定相続人であるかを確定させなければ遺産分割が行えないということです。
もしも相続人が足りなければ、遺産分割協議は無効となります。一方で、もしも相続人でない人に相続財産を分配してしまうと、遺産分割協議のすべてが無効となることは少ないものの、相続人でない人に分配した部分は基本的に無効となります。
「自分は相続人だ」と主張する人に相続権がないことを確定させたい場合には、相続人の地位不存在確認訴訟を申し立てます。
相続人の地位不存在確認訴訟を提起するべきケースとして、次のようなものが挙げられます。
- 相続権を主張する人が相続欠格に該当することを確定させたいケース
- 被相続人の配偶者を名乗る人が、婚姻届を偽造した疑いがあるケース
- 被相続人の養子を名乗る人が、不正な養子縁組をした疑いがあるケース
法定相続人について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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遺言書の有効性の問題
遺言書が有効でなければ、相続人全員による遺産分割協議を行う等の対応をしなければなりません。遺言書が有効であることが確定すれば、それを前提とした相続手続きが可能となります。
遺言書が無効であることを確定したい場合には、遺言無効確認訴訟を申し立てます。
遺言無効確認訴訟を提起するべきケースとして、次のようなものが挙げられます。
- 遺言書の文字が本人のものではないと思われるケース
- 生前に聞いていた被相続人の意思とは解離した遺言書が作成されていたケース
- 被相続人が認知症等を発症していたケース
- 複数人が共同で遺言書を作成する等、無効となる事由があると考えられるケース
- 「愛人に全財産を遺贈する」等の公序良俗に反する遺言書が作成されていたケース
- 「子供を養ってもらうために全財産を弟に遺贈する」旨の遺言書が作成されていたが、弟には子供を養うつもりがない等、被相続人に錯誤があったケース
遺言書が無効となるケースについて知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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相続財産の使い込みの問題
相続財産が相続人等によって使い込まれていると、本来よりも減ってしまった相続財産を分配することになるため、相続人が損害を受けてしまいます。そのため、使い込まれた相続財産を返還してもらう必要があります。
使い込まれた相続財産を返還してもらうためには、不当利得返還請求訴訟を申し立てます。
不当利得返還請求訴訟を提起するべきケースとして、次のようなものが挙げられます。
- 被相続人の預貯金が引き出されているケース
- 被相続人が所有していた不動産の名義が移転しているケース
- 被相続人が所有していた株式等の有価証券が売却されているケース
- 被相続人が加入していた保険が解約されているケース
遺留分侵害の問題
遺留分の侵害とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障されている相続財産の最低限の取り分である「遺留分」が受け取れないことをいいます。
遺言書によって特定の相続人に偏った分配が行われた場合や多額の生前贈与が行われたような場合等には他の相続人の遺留分が侵害されるおそれがあります。
遺留分が侵害された場合は、特定の相続人等に対して遺留分を請求する意思を伝えます。請求した相手が支払いに応じない場合には遺留分侵害額の請求調停を申し立てて、それでも解決できなければ遺留分侵害額請求訴訟を申し立てます。
なお、遺言無効確認訴訟を申し立てたときに、併せて予備的に遺留分侵害額請求訴訟を申し立てる場合があります。これにより、もしも遺言書が有効であったと認定されても、遺留分については取り戻すことができます。
遺産分割協議の有効性の問題
遺産分割協議の無効確認とは、遺産分割協議に無効となる事由があることを確認する手続きです。遺産分割協議の無効を確定させることによって、はじめから協議をやり直すことになります。
遺産分割協議に無効となる事由が存在するにもかかわらず、他の相続人が話し合いにまったく応じないようなときには、まず、遺産分割協議無効確認調停を申し立てます。
それでも話し合いに応じてもらえないときには、遺産分割協議無効確認訴訟を申し立てる方法によって遺産分割が無効であったことを確定させることになります。
訴訟を提起するべきケースとして、次のようなものが挙げられます。
- 相続人全員によって協議していなかったケース
- 参加した相続人に、認知症等によって意思能力を失った人がいたケース
- 自身も相続人である親が、相続人である子を代理していたケース
相続にかかわる裁判を申し立てる手続き
相続にかかわる調停や審判、裁判等の手続きは、基本的に相続人の1人の住所地を管轄する家庭裁判所か、当事者が合意によって定めた家庭裁判所に申し立てます。
弁護士に依頼する場合、費用として1万円程度の相談料と70万円程度の着手金、3万円程度の諸経費、10%程度の成功報酬がかかることが多いです。ただし、相続に関する他の事項について併せて依頼すると金額が下がるケースもあります。
相続分が決まるまでの期間は、争いのある事項によるものの、最初の協議から数年かかるおそれがあります。
審判や裁判では、裁判官が資料等に基づいて結論を出します。「思い入れのある実家や、先祖代々の土地を残したい」等の当事者の意向が尊重されるとは限りません。そして、審判や裁判が確定すると、その結論には従わなければならず、当事者で相続分等を変更することは基本的に認められないことに注意しましょう。
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裁判の結果に納得できない場合は不服申立て
遺産分割審判の結果にどうしても納得できない場合には、次の手続きとして高等裁判所に即時抗告を行うことができます。即時抗告は、審判書を受け取ってから2週間以内に行わなければなりません。
即時抗告を申し立てるときには、即時抗告申立書を、宛先を高等裁判所にして原審を行った家庭裁判所に提出します。
この即時抗告申立書には「即時抗告を申し立てる」旨を記載すれば問題ありませんが、なるべく早く、詳細な申立ての理由を記載した理由書を提出しなければ棄却されてしまうので注意しましょう。
相続にかかわる裁判をする注意点
相続について裁判や審判を行うことは、裁判官によって結論が出されるため、強制的に争いを解決できるメリットがある一方、今後の親族関係が悪化するリスクが高いことに注意しなければなりません。
また、以下のような点にも注意が必要です。
- 審判では法定相続分に近い相続分になる場合が多い
- 解決までに時間がかかる
- 話し合いで解決するよりも費用がかかる
- 争いが終わるまでは、基本的に相続財産を利用できない
- 期日は平日の日中に開催される上に、欠席すると不利になるおそれがある
- 不動産などの売却を命じられる等、当事者の希望に合わない解決が図られるおそれがある
これらのことから、弁護士に依頼すると以下のようなメリットがあると考えられます。
- 遺産分割協議等において、費用がかさむ前に合意を図ることができる
- 裁判所での手続きにおいて代理人になってもらえる
相続における争いで裁判を検討されている場合は、一度弁護士へご相談ください
相続争いによって裁判や審判等を行うことは、親族等の集まりである相続人間の関係を悪化させるだけでなく、時間や費用を費やすことになるので、なるべく防ぎたい事態です。
しかし、自身の相続分を主張して譲らない相続人がいると相続人間の争いが激しくなり、解決が難しくなります。
そこで、相続争いが激しくなりそうな場合には、なるべく早く弁護士にご相談ください。弁護士であれば、激しく争うことにメリットが乏しいことを客観的に説明できるので、争いの収拾につながる可能性があります。
なお、相続争いを防ぐためには、被相続人が生前に遺言書を作成しておくことが有効です。近年では、相続財産が少なくても相続人が争うケースが増えてきているので、心配事をなくすためにもぜひご相談ください。
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保有資格 弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:41560)