相続税の基礎控除とは?1人当たりの金額や計算方法などを解説
この記事でわかること
相続税には、相続財産から差し引いてもらえる基礎控除があります。相続財産の価額が基礎控除額以下であれば、相続税を納める必要はありません。
可能であれば、なるべく財産を基礎控除の範囲内にしたいと考える方もいるでしょう。
そこで、この記事では、基礎控除額の計算方法や、相続税の課税対象になる相続財産等について解説します。
目次
相続税の基礎控除とは
相続税の基礎控除とは、相続税の金額を算出するときに、相続する相続財産の総額から差し引くことのできる金額のことです。
相続財産の総額から基礎控除を差し引くことによって、課税の対象となる財産の価額が抑えられるため、相続税の金額を引き下げることができます。また、相続財産の総額が基礎控除を下回る場合には、相続税はかかりません。
なお、相続税の基礎控除は2015年1月に改正されて、金額が引き下げられています。それに伴って、従来では課税対象にならなかった程度の相続財産であっても、課税の対象となるケースが増えています。
基礎控除額の計算方法 1人当たりいくら?
相続税の基礎控除額は、次の式によって算出します。
基礎控除額=3000万円+(600万円×法定相続人の数)
つまり、法定相続人が増えると、1人につき基礎控除額も600万円ずつ増えることになります。
例えば、相続財産の総額が1億円で、法定相続人が3人いるケースでは、基礎控除を差し引いた後の相続税の対象となる価額は次のとおりです。
相続税の対象となる価額=1億円−{3000万円+(600万円×3)}=5200万円
基礎控除を計算するための法定相続人の数え方
法定相続人とは、民法によって定められている、相続財産を相続する権利のある人のことです。法定相続人の数によって相続税の基礎控除額が変わるため、まずは法定相続人になる人が誰なのかを明らかにしなければなりません。
被相続人に配偶者がいた場合には、配偶者は必ず法定相続人になります。それ以外の親族については、相続順位によって法定相続人になるかが決まります。
相続順位とは、法定相続人になる優先順位のことであり、より順位の高い人がいる場合には、順位の低い人は法定相続人になりません。
なお、被相続人よりも先に子供が亡くなっている場合において、その子供に子供(被相続人の孫)がいた場合には、子供の代わりに孫が相続人になります。これを代襲相続といいます。
相続順位については、表にまとめたのでご確認ください。
相続順位 | 相続人 | 相続人が亡くなっている場合 |
---|---|---|
必ず相続人になる | 配偶者 | − |
第1順位 | 子(直系卑属) | 孫 |
第2順位 | 父母(直系尊属) | 祖父母 |
第3順位 | 兄弟姉妹(傍系血族) | 甥姪 |
相続税は、実際に相続財産を相続した人が納める義務を負います。
なお、法定相続人でなくても、遺言によって相続財産を贈与されることがあります。遺言による贈与のことを遺贈といいます。
遺贈を受けた人についても、相続税を納める義務を負うことがあります。
養子縁組をした場合
養子縁組をした子供は、相続では実子と同じように扱われます。
ただし、普通養子縁組では、相続税の基礎控除を計算するときに算入できる養子の人数について、次のような制限が設けられています。
- 実子がいる場合:1人まで
- 実子がいない場合:2人まで
なお、普通養子縁組であっても、配偶者の連れ子と養子縁組する場合には、この制限は適用されません。
また、特別養子縁組についても、制限の対象外とされています。
相続放棄した人がいる場合
相続放棄とは、相続人としての権利や義務を放棄して、相続財産を一切引き継がないことです。
法定相続人が相続放棄すると、最初から相続人ではなかったものとして扱われますが、相続税の基礎控除には影響しません。そのため、相続放棄した人がいても相続税の総額が増えることはありません。
このように決められているのは、相続人の意思によって税額が変動することは好ましくないと考えられているためです。
なお、法定相続人が相続放棄した場合には、相続放棄した人の子供が代襲相続することはできないので注意しましょう。
遺言書がある場合
遺言によって、複数の法定相続人のうち1人だけに全財産を相続させることになったとしても、相続税の基礎控除は法定相続人の数によって計算します。
また、法定相続人でない人に対して、遺言によって相続財産が贈られることがあります。これを遺贈といいます。
遺贈される人が何人であっても、相続税の基礎控除を計算するときには人数を加えません。
ただし、基礎控除を差し引いた結果として相続税が課税されることになった場合、税金を納める義務を負うのは相続財産を受け取った人です。
さらに、被相続人の配偶者や子供、両親等でない人が相続財産を遺贈されたケースでは、相続税の金額が2割加算されることになっています。
遺贈について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
相続欠格や相続廃除された人がいる場合
相続欠格とは、被相続人を故意に死亡させた人(未遂も含む)や、遺言書を偽造する等した人などが自動的に相続権を失うことです。
また、相続人廃除とは、被相続人を虐待したり、重大な侮辱をしたりした人について、被相続人の請求により相続権を失わせることです。
相続欠格や相続人廃除によって相続権を失った人は、相続人になれないだけでなく、相続税の基礎控除を計算するときの法定相続人の数から除外されます。
そのため、相続欠格や相続人廃除の結果として、相続税の基礎控除額が下がり、相続税の金額が上がることになります。
ただし、相続欠格や相続人廃除によって相続権を失った人に子供がいる場合には、代襲相続が可能です。そして、代襲相続人は法定相続人の数に含めることになります。
相続税の課税対象となる財産
相続税の対象となる財産の価額は、相続財産のうち、プラスの財産の価額からマイナスの財産の価額を差し引いたものです。
主な相続財産を表にまとめたのでご覧ください。
プラスの財産 | マイナスの財産 |
---|---|
|
|
また、表に挙げた財産のような相続財産でなくても、相続税の課税対象となる財産があります。そのような財産については、次項より解説します。
なお、相続財産にどのようなものがあるかについては、念入りに調査する必要があります。相続財産の調査について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
みなし相続財産
被相続人が遺した相続財産ではないものの、みなし相続財産は相続税の課税対象になります。
みなし相続財産とは、被相続人が亡くなったことを理由として受け取ることができる金銭等です。主に、次のようなものが該当します。
- 生命保険金
- 死亡退職金
- 遺言による債務免除
なお、みなし相続財産には、一定の非課税枠が設けられているものがあります。
非課税枠として、次のようなものが挙げられます。
- 生命保険金の非課税枠:500万円×法定相続人の数
- 死亡退職金の非課税枠:500万円×法定相続人の数
ただし、法定相続人でない人が生命保険金を受け取った場合等には、その人は非課税枠を利用することができません。
みなし相続財産について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
死亡する3年以内に受けた贈与
被相続人が亡くなる前の3年以内に行われた生前贈与は、相続税の課税対象となります。
生前贈与とは、自分が生きているうちに財産を誰かに贈ることです。相続税の課税対象になるのは、次のような対象への生前贈与です。
- 相続した人
- 遺贈を受けた人
- 生命保険金や死亡退職金等を受け取った人
なお、亡くなる前の3年以内の贈与だったとしても、特定贈与財産は相続税の対象になりません。
特定贈与財産とは、法律上の婚姻関係が20年以上継続している夫婦間において贈与された、居住用不動産またはその取得資金のことです。
特定贈与財産については、贈与税が免除されるだけでなく、相続税の対象にもなりません。
ただし、贈与を受けた年の翌年3月15日までに入居して、その後も引き続き居住することが条件となっています。また、贈与税がかからないものの、贈与税の申告は必要です。
相続時精算課税制度を利用した贈与
相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母や祖父母から、18歳以上の子や孫に対して財産を贈与した場合に、制度の利用を申請しておくことによって、贈与財産の累計が2500万円になるまで贈与税がかからなくなる制度です。
この制度は、2024年1月1日から適用されて、年間110万円までは贈与税がかからないだけでなく、被相続人が亡くなる直前の贈与であったとしても、相続税の課税対象にもなりません。
ただし、2023年までに贈与された財産については、被相続人が亡くなる前の3年以内であれば相続税の対象となります。
また、2024年以降相続時精算課税制度を利用する場合であっても、年間110万円を超える部分については相続税の対象となります。
課税対象とならない財産
相続税がかからない財産として、以下のようなものが挙げられます。
- 神棚
- 仏壇、仏具、仏像
- 墓地、墓石
- 慈善事業等の公益事業に用いるお金
- 幼稚園等で用いられていた事業用財産
- 相続税の申告までに国や地方公共団体、ユニセフ、日本赤十字等に寄付した財産
ただし、純金製の仏具等、投資の対象となる財産については相続税がかかるものとされているので注意しましょう。
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基礎控除以外の税額控除
相続税の控除には、基礎控除によって課税対象となる相続財産の価額を抑えられるだけでなく、以下のような税額控除があります。
- 贈与税額控除
- 配偶者控除
- 未成年者控除
- 障害者控除
- 相次相続控除
- 外国税額控除
これらの税額控除によって、相続財産が基礎控除を上回っていても、税負担がなくなったり、税額が低くなったりする可能性があります。
ただし、基礎控除によって相続税が0円になる場合と違って、税額控除の結果として相続税が0円になる場合には、申告が必要となるケースがあります。
税額控除のうち、主なものについて次項より解説します。
(相続税 リンクページ) ※新規作成中なお、相続税額の計算方法等について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事を併せてご覧ください。
合わせて読みたい関連記事
配偶者控除
配偶者控除とは、法律上の婚姻関係にある配偶者の相続財産を相続したときに、1億6000万円まで、あるいは法定相続分までであれば相続税がかからなくなる控除です。
例えば、相続財産の価額が2億円であり、法定相続人が配偶者と子供1人だった場合、基礎控除を差し引いた相続財産の価額は次のとおりです。
基礎控除を差し引いた相続財産の価額=2億円−(3000万円+600万円×2)=1億5800万円
よって、1億5800万円<1億6000万円なので、相続財産をすべて配偶者が相続すると、基礎控除と配偶者控除によって相続税はかかりません。
ただし、結果的に相続税が0円になるとしても、相続税の申告を行わなければ配偶者控除は適用されないので注意しましょう。
また、上記のようなケースで配偶者が全財産を相続すると、配偶者が亡くなったときに発生する相続における相続税が多額になるリスクがあるため配偶者の相続分については熟慮が必要です。
未成年者控除
未成年者控除とは、18歳になっていない未成年者の相続について、相続税の税額から差し引くことのできる控除です。
この控除によって、未成年者が18歳になるまでの1年につき10万円ずつ差し引くことができます。
例えば、相続財産の価額が5000万円であり、法定相続人が配偶者と3歳6ヶ月の子供1人だった場合、基礎控除を差し引いた相続財産の価額は次のとおりです。
基礎控除を差し引いた相続財産の価額=5000万円−(3000万円+600万円×2)=800万円
相続財産の価額が800万円だと、法定相続分で分配したときの子供の取り分は400万円になるため、相続税額は計算上では400万円×10%=40万円により40万円になります。
ここで、3歳6ヶ月の子供は、18歳になるまでに14年6ヶ月があり、未成年者控除の計算では1年未満を切り捨てるため、最大で140万円を控除できることになります。
そのため、40万円<140万円により、法定相続分で相続した子供が支払うべき相続税額は0円となります。
未成年者控除については、相続税額が0円になる場合の申告は不要です。
障害者控除
障害者控除とは、一定以上の重さの障害を抱えている人について、相続税の税額から差し引くことのできる控除です。
この控除によって、障害者が85歳になるまでの1年につき10万円ずつ差し引くことができます。
例えば、相続財産の価額が8000万円であり、法定相続人が配偶者と、身体障害者手帳で障害等級が1級とされている50歳の子供1人だった場合、基礎控除を差し引いた相続財産の価額は次のとおりです。
基礎控除を差し引いた相続財産の価額=8000万円-(3000万円+600万円×2)=3800万円
相続財産の価額が3800万円だと、法定相続分で分配したときの子供の取り分は1900万円になるため、相続税額は計算上では1900万円×15%-50万円=235万円により235万円になります。
ここで、50歳の子供は、85歳になるまでに35年があるため、最大で350万円を控除できることになります。
そのため、235万円<350万円により、法定相続分で相続した子供が支払うべき相続税額は0円となります。
障害者控除については、相続税額が0円になる場合の申告は不要です。
小規模宅地等の特例
小規模宅地の特例とは、被相続人が自宅として使っていた土地や、事業用に使っていた土地等について、一定の広さまで相続税評価額を差し引く制度です。
この制度は、税額控除ではなく相続財産の価額を引き下げる制度です。
例えば、相続財産の価額が7000万円(400㎡の宅地が5000万円、他の財産が2000万円)であり、法定相続人が配偶者と子供1人だった場合について検討します。
小規模宅地の特例を適用すると、330㎡以下の面積の宅地の評価額を80%差し引くことができるため、相続財産の価額は次のとおりです。
相続財産の価額=5000万円−{5000万円×(330÷400)×80%}+2000万円=3700万円
ここで、基礎控除額は3000万円+600万円×2=4200万円により4200万円です。
そのため、3700万円<4200万円により、相続税額は0円となります。
ただし、結果的に相続税が0円になるとしても、小規模宅地の特例の申告を行わなければ小規模宅地の特例は適用されないので注意しましょう。
相続税の税額控除について、以下の記事で6種類を紹介しているので、すべての控除について詳しく知りたい方は併せてご覧ください。
【まとめ】相続税の計算には、相続人や相続財産の確定が必要となります。お困りのことがありましたら弁護士にご相談ください
相続税は、相続財産が基礎控除額以下であれば課税されず、申告も不要となります。しかし、高額な相続財産の存在を見落としていると、追徴課税を受けてしまうおそれがあります。
また、基礎控除額を上回る相続財産がある場合には、特例や税額控除によって相続税額を抑えることができます。しかし、それぞれの特例や控除には適用条件があり、適用できたとしても、税額を正確に計算するためには大変な労力がかかってしまいます。
そこで、相続税について心配している方は、弁護士にご相談ください。弁護士であれば、相続財産の探し方等についてアドバイスができます。また、様々な控除について、適用可能かを検討することも可能です。
相続が発生する前であっても、将来的な相続税額の見込み等についてご相談いただけるので、ぜひご検討ください。
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