遺言書の無効を申し立てる際の基礎知識を弁護士が解説
この記事でわかること
遺言書を作成しておけば、自身が亡くなったときに、生前の意思によって相続財産を分配することができます。そのため、遺言書は遺族が相続財産を奪い合うようなトラブルを防止するために有効です。
しかし、遺言書の内容が絶対に優先されるわけではなく、当事者全員の合意があれば、話し合いで異なる分配をすることができます。また、訴訟によって遺言書が無効となるケースもあります。
この記事では、遺言書が無効となるケースや遺言無効の申立て等について解説します。
目次
遺言書の法的効力
遺言書とは、民法で定められた要件を満たすことによって法的効力を有する書面であり、自分の死後に、相続財産を誰にどの程度の割合で遺したいか等の意思を記載したものです。
遺言書に記載した意思のうち、相続財産に関する希望等については基本的に尊重されます。しかし、有効な遺言書であっても、法的な効力を持たない記載事項も存在します。
法的効力のある遺言書の主な記載事項を表にまとめたのでご覧ください。
財産に関すること |
・相続分の指定 ・遺産分割方法の指定 ・遺贈 ・5年以内の遺産分割の禁止 ・一般財団法人設立のための寄付 |
---|---|
相続人に関すること |
・相続人廃除 ・相続人廃除の取り消し |
身分に関すること |
・認知 ・未成年後見人の指定 ・未成年後見監督人の指定 |
その他の事項 |
・遺言執行者の指定 ・祭祀承継者の指定 ・生命保険金の受取人の指定および変更 |
遺言書の効力について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
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遺言書無効の申し立てまでの流れ
当事者の話し合いによって、遺言書の内容とは異なる遺産分割協議を成立させられなかった場合には、家庭裁判所において遺言書無効確認調停を申し立てることができます。
調停では、調停委員が解決のための助言をしながら、合意に向けた話し合いを仲介してくれます。当事者が調停で合意することができれば、遺言書と異なる遺産相続が可能となります。
しかし、調停には強制力がないため、当事者が合意できなければ訴訟に移行します。
①他の相続人と話し合いをする
相続人全員が合意すれば、遺言書とは異なる方法や割合による遺産の分割協議をすることができます。
調停や訴訟によって遺言書を無効にできる可能性もありますが、時間と手間がかかってしまうため、なるべく当事者による話し合いで解決するのが望ましいでしょう。
当事者だけでは話し合いが進まない場合には、弁護士を同席させることや、代理人として出席させることによって解決できるケースもあります。
②遺言無効確認調停
調停とは、裁判所で、調停委員に仲介してもらいながら、当事者間で話し合いを進め、合意を目指す手続きです。
遺言の無効を争う場合にも、基本的に、訴訟の前にまずは調停を申し立てなければなりません(調停前置主義)。
しかし、遺言書の無効を争う場合、多くは被相続人の遺言能力や遺言書の偽造が問題となっているため、調停で解決させるのは難しく、調停を経ずに訴訟を提起することが多いです。
③遺言無効確認訴訟
遺言無効確認訴訟は、遺言執行者がいる場合には遺言執行者に対して、遺言執行者がいない場合には他の相続人および受遺者の全員に対して提起します。
なお、遺言無効確認訴訟は、家庭裁判所ではなく基本的には地方裁判所に提起します。
訴訟では、当事者による事実関係の主張と主張を裏付ける証拠の取り調べという形で審理が進みます。遺言書が被相続人の自筆であるかが疑わしい場合には筆跡鑑定を行うことが考えられます。
また、被相続人が認知症であった疑いがある場合には病院のカルテ、あるいは介護記録等を取り寄せる方法が考えられます。
訴訟の提起から判決までは、第一審だけでも1年~2年程度かかることが多く、控訴や上告があれば期間はさらに延びます。
遺言書の無効の申し立て方法
遺言書の無効を申し立てる方法は、遺言無効確認調停または遺言無効確認訴訟です。
基本的には、まず遺言無効確認調停を申し立てて、調停が不成立となったら遺言無効確認訴訟に移行します。
申立人は相続人の1人または遺言書で相続財産のうちの一定の割合を贈られることになっている人(包括受遺者)です。
遺言無効確認調停の管轄裁判所は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所または当事者が合意で定めた家庭裁判所です。
なお、調停を経ずに遺言無効確認訴訟を申し立てる場合の管轄裁判所は、基本的に被告の住所地または相続開始時における被相続人の住所地を管轄する地方裁判所となります。
遺言書の無効を申し立てる場合の費用
遺言無効確認調停を申し立てるときには、以下の費用がかかります。
- 収入印紙:1200円程度
- 郵便切手代:裁判所によって異なる
また、調停を弁護士に依頼する場合には、着手金や依頼料がかかります。
遺言書の無効申し立ての時効
遺言書の無効を申し立てる訴訟自体には、時効や期間の制限は設けられていません。ただし、以下のような理由により、早く訴訟提起することが望ましいでしょう。
- 時間が経過することによって証拠が失われるリスクがある
- 遺留分侵害額請求の期限が基本的に1年以内なので、訴訟提起が遅れると遺留分を請求できなくなる
なお、遺言無効確認請求訴訟を提起するだけでは、遺留分侵害額請求権の消滅時効は中断されません。そのため、訴訟提起のときに、遺留分侵害額請求を予備的に行う必要があります。
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調停や訴訟で遺言書が無効になるケース
調停や訴訟によって遺言書が無効となるケースとして、主に次のようなものが考えられます。
- 形式の不備があったケース
- 遺言能力がなかったケース
これらのケースについて、次項より解説します。
遺言書が無効となるケースについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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形式の不備
自筆証書遺言では、形式的なミスによって無効となる可能性が比較的高いです。
自筆証書遺言が無効となりやすいミスとして、以下のようなものが挙げられます。
- 財産目録以外の部分が自筆でなかった
- 署名がなかった
- 押印していなかった
- 日付を書いていなかった、または「吉日」等と書いてあり日付が特定できない
- 日付がゴム印等で記載されていた
- 2人以上による共同遺言になっている
- 重要な部分が修正液や修正テープ等によって書き直されていた
なお、公正証書遺言は形式的なミスが少ないものの、遺言書を作成したときに被相続人が意思能力を失っていた場合等には無効となります。
また、秘密証書遺言は自筆でなくても問題ありませんが、封印するときに遺言書に利用した印鑑と同じ印鑑を用いなければ、秘密証書遺言としては無効となります。
遺言能力がない
形式の不備以外の理由で遺言が無効となる理由として、以下のように遺言能力がなかったことが考えられます。
- 遺言者が15歳未満だった
- 遺言者が認知症等によって遺言能力を失っていた
遺言能力は、自筆証書遺言だけでなく公正証書遺言でも必要となるため、遺言能力を欠いていた場合には遺言書が無効となります。
公証人は、遺言書を作成しようとする人の遺言能力に疑いがあるときには、本人の判断能力の有無を確認するための質問等を行うことがあります。
しかし、遺言能力が失われている疑いがあったとしても、必ずしも公正証書遺言の作成を拒否するわけではありません。
そのため、遺言無効確認訴訟によって公正証書遺言が無効となるケースがあります。
遺言書が無効と認められた事例
遺言書の無効は、訴訟によって認められる場合があります。
訴訟によって遺言が無効となったケースとして、自筆証書遺言と公正証書遺言の事例をそれぞれ次項より解説します。
自筆証書遺言の無効が認められたケース
自筆証書遺言の無効が認められたケースとして、裁判例をご紹介します。
【東京地方裁判所 令和4年4月28日判決】
このケースは、被相続人Aが亡くなったときに兄Xと姉Yと母親Bがおり、「すべてを姉Yに託す」旨の遺言書が存在したところ、兄Xが遺言書は被相続人Aの自筆によるものではないこと等を主張した事例です。
なお、母親Bは被相続人Aの死後に亡くなり、その相続人は兄Xと姉Yでした。
裁判所は、遺言書の筆跡が被相続人Aと同一であるとする筆跡異同診断書の信用性は十分でないとしました。
また、被相続人Aが作成した遺言書を姉Yに直接交付せず、保管場所を正確に伝えなかったこと、特に親しくしていた姉Yの娘やその夫に相続財産を少しも遺さなかったのは不自然であること等から、遺言書を被相続人Aが自筆したと推認できず、他に自筆したと認められる証拠はない旨を判示しました。
そして、原告Xの請求を認めて遺言書は無効であるとしました。
公正証書遺言の無効が認められたケース
公正証書遺言の無効が認められたケースとして、裁判例をご紹介します。
【東京地方裁判所 令和3年12月22日判決】
このケースは、被相続人が亡くなって原告Xと被告Yが法定相続人となったところ、被相続人は自筆証書遺言でXとYにそれぞれ1/2ずつ財産を相続させる旨の遺言をしていたが、その後に公正証書遺言によって全財産を被告Yに相続させる旨の遺言をしていたため、原告Xが公正証書遺言について無効であることの確認を求めた事例です。
裁判所は、被相続人の入院時の言動から、遺言書を作成したときには認知症によって認知機能の低下の程度は重度であったと指摘しました。
また、それに反する医師の意見は、被告側の意向によるものであるおそれが否定できないこと等から採用しませんでした。
さらに、原告Xと被告Yの取り扱いを変更した合理的理由はまったくうかがえないこと等から、公正証書遺言を作成した当時には被相続人の遺言能力は欠如していたと認めました。
そして、原告Xの請求を認めて公正証書遺言は無効であるとしました。
遺言の無効が認められた後の遺産分割
遺言の無効が認められると、相続財産は分配していない状態になります。
そのため、改めて相続財産を分配するために行うべきことについて、次項より解説します。
法定相続人全員で遺産分割協議を行う
遺言書が無効となった場合には、相続人全員による遺産分割協議によって、誰がどの相続財産を受け取るかについて決める必要があります。これは、最初から遺言書が作成されなかった場合と同様です。
ただし、遺言書が偽造であったことが発覚した場合には、遺言書を偽造した人は相続欠格に該当するため自動的に相続権を失います。そのため、遺言書を偽造した人は遺産分割協議に参加できなくなります。
遺産分割協議がまとまらなければ別途調停や審判で解決する
遺言書が無効になった結果、遺産分割協議を行ったところ、その協議が成立しなかった場合には、調停や訴訟等によって相続分を決めることになります。
遺言が無効にならなかった場合の対応策
遺言無効確認請求訴訟を行っても、遺言書を無効にできなかった場合には、遺留分侵害額請求を行う方法があります。
遺留分とは、兄弟姉妹を除く法定相続人に保障されている、相続財産の最低限の取り分です。兄弟姉妹に遺留分がないため、兄弟姉妹を代襲相続した甥姪にも遺留分はありません。
遺言書が無効にならなければ、基本的に遺言書の記載に従って相続財産が分配されます。
しかし、遺言書によって遺留分が侵害されている相続人には、侵害された遺留分に相当する金銭を取り戻す権利があります。
遺留分侵害額請求の期限は、次のいずれか早い方です。
- 相続が開始したこと、および遺留分が侵害された事実を知ってから1年
- 相続の開始から10年
遺言書の無効申し立てに関する質問
遺言書の遺言無効確認訴訟は、認められることが難しいでしょうか?
遺言書の無効確認訴訟は、一般的には立証の難易度が高く難しい訴訟です。
特に、公正証書遺言は形式的なミスが少ないので、無効であることを立証するためには次のような事実を立証する必要があるケースが多いです。
・被相続人が認知症等によって遺言能力を失っていた
・未成年者が証人になっていた
・遺産を受け取る人が証人になっていた
・公証人が遺言書の内容を遺言者に口授しておらず、質問に頷いただけだった
一方で、自筆証書遺言は形式的なミスが少なくないので、ミスがあれば無効になる可能性が高いです。
遺言書が偽造により無効となった場合、偽造した人の相続権利どうなりますか?
遺言書の偽造が認められた場合には、偽造した人は相続欠格となるため自動的に相続権を失います。
これは、相続人になる予定だった人が自ら偽造した場合だけでなく、被相続人を脅したり騙したりして遺言書を作成させた場合であっても同様です。
遺言者の生前に遺言書の無効を申し立てできますか?
遺言書の作成者が生きているときには、遺言書の無効確認訴訟を提起することはできません。なぜなら、遺言書は作成者が亡くなったときに初めて法的な効力を有するからです。
遺言書の作成者は、いつでも遺言書を撤回することができます。そのため、作成者が生きているうちは、遺言書が法的な効力を有することが確定しておらず、無効の確認を求めるのは不適法となります。
これは、遺言書を作成した人が認知症によって遺言能力を失っている場合等、事実上は遺言書が撤回される可能性のないケースであっても同様です。
遺言書の作成者が生きているときには、亡くなった後で無効確認訴訟ができるように証拠の収集等を行うと良いでしょう。
遺言書の無効申し立てについてのご不安は弁護士にご相談ください
自身にとって不利となるような遺言書が作成されていたとしても、調停や訴訟によって遺言書を無効とすることが可能です。しかし、明らかに無効となるようなミスがなければ、遺言書を無効とするのは難しいでしょう。
そこで、遺言書を無効にしたい場合には弁護士にご相談ください。
弁護士であれば、遺言書のミスを確認することや偽造の疑い等について確認すること、そして遺言書を作成した時の遺言能力の有無について確認するために必要な資料の収集等についてアドバイスをすることができます。
また、侵害された遺留分の請求等についても併せてご相談ください。
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