労働基準法上の「労働者」に該当するかが争われた事件~東京地方裁判所平成30年11月21日判決~ニューズレター 2020.9.vol.105

Ⅰ 事案の概要

1 本件は、Y社との間でコンビニエンスストアの経営に関するフランチャイズ契約を締結するなどしていたXが、同契約に基づくXのY社に対する労務提供の実態からすると、Xは労働基準法第9条の「労働者」及び労働契約法第2条第1項の「労働者」に該当するにもかかわらず、Y社はXに対して、賃金の支払いを怠る、使用者としての安全配慮義務に反して傷害を負わせる、無効な解雇を行うといった不法行為を行ったなどと主張して、Y社に対し、未払賃金相当額及び慰謝料等の支払いを求めた事案です。本件は、やや複雑な内容となっておりますので、細かな事実関係は省き、また、争点についてはXが労働基準法上の労働者に該当するかという点に絞って検討いたします。

2 事実関係
(1)当事者
Xは、コンビニエンスストアの経営等を目的とするC企画有限会社(以下、「C企画」といいます。)の代表取締役を務めている者であり、Y社は、「セブン‐イレブン・ジャパン」と称するコンビニエンスストアのフランチャイズ・チェーンの運営等をしている株式会社です。

(2)A店についての経緯 平成5年5月15日、XはY社との間で、Y社がXに対してフランチャイズ・チェーンの加盟店であるセブンイレブンA店を経営することを許諾し、かつ、経営指導、技術援助等を行い、XがY社に対してチャージを支払うことなどを内容とする加盟店基本契約(以下、「本件基本契約①」といいます。)を締結し、同年10月13日、同契約に基づいてセブンイレブンA店を開店しました。

(3)B店についての経緯 Xの長女の配偶者であるZは、Y社との間で、平成8年2月29日、A店と同様の加盟店基本契約(以下、「本件基本契約②」といい、「本件基本契約①」と併せて「本件各基本契約」といいます。)を締結し、同年9月19日、本件基本契約②に基づいてB店を開店しました。

また、C企画は、Zと共同フランチャイジーとしてB店を経営することとなりました。

Y社は、平成16年、Z及びC企画が正当な理由なくB店の売上金等をY社に送金しないとして本件基本契約②に基づき、Y社がZ及びC企画(以下、「Zら」といいます。)に対し、Zらの代わりに同店について売上及び金銭出納管理をすることができる地位にあることを仮に定める仮処分命令を仙台地方裁判所に申し立て、仙台地裁は、Y社の申立てを認める仮処分決定をしました。その後、Y社は、B店の売上及び金銭出納管理を行うため、Y社の従業員に、台車を用いて金庫をB店内に運び入れさせました。

Y社は、Zらに対し、本件基本契約②に基づき、平成15年7月19日から平成17年4月25日までのB店の毎日の総売上金等の合計5332万6787円の支払いを求める訴えを提起しました。そして、Y社の請求は全部認容しています。平成17年8月31日、Y社は、上記の判決を債務名義として、B店内の商品等に対する動産執行を行いました。また、同日、Y社は、Zらに対し、本件基本契約②の違反があったことを理由として、本件基本契約②の解除をしました。

(4)Xの主張
Xは、①Y社による動産執行によりB店の閉店を余儀なくされたことがY社による解雇にあたる、②Y社の従業員が代車で金庫をB店内に運び入れる際に、台車をXの身体に衝突させ、Xが後遺障害を負ったことは、Y社の安全配慮義務違反にあたると主張しました。

Ⅱ 本判決の内容

1 結論
本判決では、Xは労働基準法第9条における「労働者」及び労働契約法第2条第1項における「労働者」には該当しないと判断されました。

2 理由
本判決では、労働者性の判断に関し、詳細な理由を述べておりますが、以下ではその一部を抜粋します。

①Xは、個人もしくは有限会社の代表取締役として、本件各基本契約を締結し、同契約に基づき、独立の事業者として本件各店舗を経営していた。このことはXが労働者であることとは本質的に相容れない。 ②本件各基本契約は、X及びZらの労働それ自体を目的とするものではない。
③X及びZらが本件各基本契約における禁止事項を行った場合等に、Y社が店舗経営相談員を通じて必要な指導を行うことは、同契約上当然であり、これをもって業務遂行上の指揮監督があったということはできない。 ④営業時間や営業場所が指定されていたのは、フランチャイズ契約の内容によるものにすぎない。
⑤本件各基本契約において、いかなる方法により貸借処理を行い、また、最低保証制度を設けるか否かは、原則として、いずれも事業主であるX及びY社において当該フランチャイズ契約の内容をどのように設定するかという問題にとどまる。
⑥Xの親族やXが雇用した従業員が本件各店舗の業務を行っており、労務提供の代替性が認められる。

Ⅲ 本件事案からみる実務における留意事項

1 労働者性の一般的な判断枠組み
労働基準法上の「労働者」に該当するか否かは、事業に「使用」され、「賃金」を支払われる者か否かによって判断されます(労基法9条)。

「使用」性については、Ⅰ仕事の依頼・業務従事の指示等に対する諾否の自由、Ⅱ業務遂行上の指揮監督の有無、Ⅲ拘束性の有無、Ⅳ代替性の有無によって、「賃金」性については、Ⅴ報酬の労務対償性によって判断されます。また、以上の各要素のみではなく、Ⅵ事業者性の有無、Ⅶ専属性の程度等についても考慮されています。

2 本判決の特徴
本判決では、「労働者とは,使用従属性の要件を満たす者,すなわち,使用者の指揮監督の下に労務を提供し,使用者から労務の提供の対価として報酬を支払われる者をいう」としたうえで、上記各要素を詳細に検討しておりますので、上記の一般的な判断枠組みによるものと考えられます。

そして、具体的な判断内容としては、本件各基本契約の条項を参照し、またフランチャイズのビジネスモデルの仕組み等に照らして上記ⅠないしⅦの各要素を詳細に検討しており、結論としては労働者性を否定しています。

しかし、フランチャイズ契約を締結している店舗経営者の労働者性が常に否定されるとは限りません。本件のXは、C企画の代表取締役であり、A店及びB店の経営をしていたことなどから事業者性が顕著であったため、この点が労働者性の判断に大きく影響しています。

しかしながら、フランチャイズ契約の内容及び実際の就労実態によっては、労働者性が認められる可能性は否定できないと考えられます。

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