ニューズレター


2015.Aug Vol.44

部下への注意指導としてなされた上司の発言が不法行為に該当すると判断した裁判例~東京地裁平成26年7月31日判決~


2015.8.vol.44掲載

Ⅰ 事案の概要

1. 被告会社Y1は、清涼飲料、食料品、酒類等の製造及び販売の事業を営む会社であり、原告X、被告Y2は、ともにY1社の従業員であり、Y2は、Xの上司にあたる立場の者でした。

2. Xは、平成18年4月1日、Y2が長を務める部署に配属され、平成19年6月1日に至るまでの間、同部署で勤務していました。この間、Y2は、Xに対して、業務上の指導をするに際し、少なくとも「新入社員以下だ。もう任せられない。」「何で分からない。おまえは馬鹿。」との発言をしていました。

3. Xは、同年19年4月11日、心療内科において鬱病との診断を受けたため、翌12日、Y2に対し、鬱病の診断結果の記載ある診断書(以下「本件診断書」と言います。)を提出して3か月の休職を願い出たものの、Y2は、「3か月の休養については有給休暇で消化してくれ。」「隣の部署に異動させる予定だったが、3か月の休みを取るならば異動の話は白紙に戻さざるを得ず、自分(Y2)の下で仕事を続けるようになる。」と述べ、本件診断書を棚上げしました。その後、Xは、同年6月1日付で他部署に配属となったものの、同年7月以降、有給休暇を取得するなどした上、休職しました。

4. Xは、上記Y2の行為が不法行為に該当すると主張して、平成24年6月、損害賠償を求める訴えを提起しました(なお、被告会社Y1に対しては使用者責任を追及しています)。

Ⅱ 東京地裁平成26年7月31日判決

1 ①Y2の「新入社員以下だ。もう任せられない。」「何で分からない。お前は馬鹿。」との発言について

裁判所は、「「新入社員以下だ。もう任せられない。」というような発言は、原告に対して屈辱を与え心理的負担を過度に加える行為であり、「何で分からない。おまえは馬鹿」というような言動は、原告に対する注意又は指導のための言動として許容される限度を超え、相当性を欠くものであったと評価せざるを得ないというべきであるから、原告に対する不法行為を構成する」と判断しました。

2 ②Y2が本件診断書を棚上げしたことについて

Y2が「3か月の休養については有給休暇で消化してくれ。」「隣の部署に異動させる予定だったが、3か月の休みを取るならば異動の話は白紙に戻さざるを得ず、自分(Y2)の下で仕事を続けるようになる。」と述べた上、本件診断書を棚上げした行為について、裁判所は、「被告Y2の言動は、本件診断書を見ることにより、被告Y2の部下である原告が鬱病に罹患したことを認識したにもかかわらず、原告の休職の申出を阻害する結果を生じさせるものであって、原告の上司の立場にある者として、部下である原告の心身に対する配慮を欠く言動として不法行為を構成する」と判断しました。

3 慰謝料額

裁判所は、Y1、Y2に対して、結論として慰謝料270万円を含む、297万円の損害賠償を命じました(ただし、Xには、Y2の下で働く以前の平成18年3月時点で発症していた鬱病の既往症があったため、これを理由に4割の減額が認められています)。

Ⅲ 本判決にみる実務における留意事項

1. 本件の判決は、「被告Y2が原告に対する嫌がらせ等の意図を有していたものと認めることはできない」、すなわち、業務上の指導目的でなされた発言であると認めつつも、「新入社員以下だ。もう任せられない。」「何で分からない。おまえは馬鹿」という表現自体が注意又は指導の限度を超え違法である旨判断しています。部下に対して厳しく指導又は注意しなければならない場面においては、つい指導に熱が入ってしまうこともありますが、いくら指導目的であっても侮辱的な意味合いのある表現を使わないよう今一度ご注意頂く必要があるかと思います。

2. その他、本件の判決においては、Y2が原告Xの提出した医師作成の診断書を見なかった(見ようとしなかった)点をもって不法行為を認めている点が重要かと思われます。上司は、部下の心身に対する配慮義務がありますので、たとえ上司からみて詐病が疑われるケースであっても、専門家である医師が作成した診断書や処方箋があるようであれば、それらを踏まえた上での対応をとる必要があるといえるでしょう。

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