ニューズレター


2015.Sep Vol.45

労働者災害補償保険法による療養補償給付を受ける労働者につき解雇禁止の例外規定(労働基準法19条1項ただし書)の適用を認めた裁判例~最高裁判所第二小法廷平成27年6月8日判決~


2015.9.vol.45掲載

Ⅰ 事案の概要

原告は、平成9年4月1日に、被告学校法人に採用され、事務職員として勤務していました。原告は、平成15年3月13日、頸肩腕症候群と診断され、以後欠勤をくり返すようになりました。被告学校法人は、平成16年6月3日、原告を私傷病休職とし、原告は、平成17年6月にいったん復職しましたが、平成18年1月17日以降、本件疾病が完治していなかったため再び長期欠勤し、平成19年3月31日付で退職しました。

平成19年11月6日、労基署長が、原告の頸肩腕症候群が、業務上の疾病であると認定し、原告に、平成15年3月20日(労基署長に発症日と認定された日)にさかのぼって労災保険の療養給付・休業補償給付が支給されました。被告学校法人は、平成20年6月25日に原告の退職を取消し、原告の欠勤・休職を被告学校法人の災害補償規程所定の労働災害による欠勤扱いとし、さらに、同災害補償規程に基づき、原告を休職扱いとしました。

平成23年1月17日、原告の休職期間が満了し、被告学校法人が原告に復職を可能とする客観的資料の提出を求めたところ、原告はこれを拒否してリハビリ就労を要求しました。

被告学校法人は、平成23年10月23日、原告に対し、打切補償1629万3996円(平均賃金の1200日分相当額。)を支払い、同月31日付で原告を解雇しました。そこで、原告は、労災で療養中に解雇されたのは不当だとして解雇無効を求めて訴訟を提起しました。

本件の争点は、本件解雇の適法性です。労基法19条1項は、使用者が、労働者が業務上の負傷・疾病にかかり、療養のために休業する期間等における解雇を原則として禁止し、例外的に、使用者による労基法上の療養補償(労基法75条)を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合に、使用者が打切り補償を支払えば(平均賃金の1200日分)、解雇が認められます。本件では、労基法に基づく療養補償ではなく、労災保険法に基づく療養補償の場合であっても、労基法上の19条1項の例外に該当するか否かが問題となりました。

Ⅱ 最高裁判所第二小法廷平成27年6月8日判決

(1)労災保険法に基づく保険給付と労基法上の災害補償の関係

最高裁は、労災保険法の目的を確認し、労災保険法と労基法の文言を対照させたうえで、「労災保険法の制定の目的並びに業務災害に対する補償に係る労働基準法及び労災保険法の規定の内容等に鑑みると、業務災害に関する労災保険制度は、労働基準法により使用者が負う災害補償義務の存在を前提として、その補償負担の緩和を図りつつ被災した労働者の迅速かつ公正な保護を確保するため、使用者による災害補償に代わる保険給付を行う制度であるということができ、このような労災保険法に基づく保険給付の実質は、使用者の労働基準法上の災害補償義務を政府が保険給付の形式で行うものであ」り、「労災保険法上の保険給付は、これらに対応する労基法上の災害補償に代わるものといえる」としました。

(2)打ち切り補償制度の趣旨

最高裁は、「打切補償の制度は、使用者において、相当額の補償を行うことにより、以後の災害補償を打ち切ることができるものとする」とともに、労基法19条1項の解雇制限の例外を設け、「当該労働者の療養が長期間に及ぶことにより生ずる負担を免れることができるものとする制度である」としました。 最高裁は、上記(1)によると、「労基法において使用者の義務とされている災害補償は、これに代わるものとしての労災保険法に基づく保険給付が行われている場合にはそれによって実質的に行われているものといえるので、使用者自らの負担により災害補償が行われている場合とこれに代わるものとしての同法に基づく保険給付が行われている場合とで」、労基法の解雇制限の例外を認めるか否かについて取扱いを異にすべきとはいえないと述べ、また、労働者が必要な療養補償給付がされることなども勘案し、「異なる取り扱いをすることにより、労働者の利益の保護を欠くことになるものともいい難い。」と述べました。

(3)本件解雇の適法性

以上を踏まえ、最高裁は、労災保険法の療養補償給付を受ける労働者は、解雇制限に関する労働基準法19条1項の適用に関し、労基法の療養補償給付を受ける労働者に含まれるものとみるのが相当し、労災保険法上の療養補償給付を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても疾病等が治らない場合には、労働基準法75条による療養補償を受ける労働者と同様に、使用者は、当該労働者につき打切補償の支払をすることにより、例外的に解雇が認められると判断しました。

Ⅲ 本事例から見る実務における留意事項

本判決は、業務上の負傷・疾病の療養のための休業に関する解雇禁止規定の例外(労基法19条1項ただし書)について判断した数少ない事例です。

本判決の下級審は、明文の規定がないこと等を理由に、労災保険法上の療養補償給付を受給している場合には、労基法19条ただし書の適用が認められないと判断しました。しかし、本判決は、条文の有無で判断するのではなく、労災法の目的や実態に着目し、労災保険法の療養補償給付を受ける労働者を、労基法の療養補償給付を受ける労働者に含まれるものとみて、労災保険法上の療養補償給付を受給している場合にも、同項の適用を認めました。

労働者の業務上の負傷・疾病の大部分は、労災による傷病補償によって肩代わりされています。そのため、下級審が出た段階では、労基法19条ただし書を根拠とする解雇は、極めて限定的な場合に限られましたが、本判決が出たことにより、同項を根拠とする解雇が、一定程度拡大したといえます。

もっとも、本判決は、労働契約法16条(客観的で合理的な理由があり、社会通念上相当と認められるかどうか。)の審理が不十分であるとして、高裁に差し戻しています。労基法19条1項ただし書を根拠とする解雇は、今後も慎重に行われるべきと言えるでしょう。

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