ニューズレター


2015.Dec Vol.48

男性の育休取得と不利益取扱い~大阪高裁平成26年7月18日~


2015.12.vol.48掲載

Ⅰ 事案の概要

1. Yは、A病院を運営する医療法人です。
Yは、被用者の賃金について、就業規則と、就業規則に添付する賃金規定及び育児介護休業規定によって、概ね次のように定めていました。「①賃金は基本給及び手当とし、基本給は本人給・職務給・職能給とする。②本人給は年齢に応じ、職務給は職種に応じ、職能給は経験年数・能力に基づく等級・号棒に応じて支給する。③『育児休業中は本人給のみ昇給する(原文ママ。以下、「本件不昇給規定」といいます。)』。」
また、Yは、被用者の人事評価について、概ね次のように賃金制度と密接に結びついた制度を構築していました。「①従業員の勤務成績は、優秀なほうから順にS・A・B・C・Dの5段階で評価する。②前年度の勤務成績評価がB以上の者は、当年度の4月度給与から職能給を昇給させる。③勤務成績がB以上である年数が特定年数に至った者は、昇格試験を受験し合格することで職能給等の基準となる等級の昇格資格が与えられる。等級S4から等級S5に昇格するために必要な年数は4年である。」

2. Xは、A病院に勤務する男性看護師でした。
Xは平成22年9月4日から同年12月3日まで育児休業を取得しました。
平成23年4月、Xの本人給は昇給したものの、職能給の昇給はありませんでした。また、Xは、平成20年4月から平成23年3月まで、人事評価は等級S4、勤務成績は継続的にB以上であったと評価されましたが、育児休業を取得した平成22年度は人事評価の対象外となるため、平成23年3月を終了しても等級S4で勤務した期間が4年間に満たないとして、平成24年度に等級S4から等級S5に昇格するための昇格試験を受験することができませんでした。
そのため、平成24年4月、Xの本人給は昇給した一方、職能給は等級S4の中で昇給したにとどまり、等級S5の職能給を得ることはできませんでした。
Xは平成25年1月31日に退職しましたが、Yは等級S4の人事評価に基づきXの退職金を計算して支払いました。

3. Xは、育児休業を取得したことによって、職能給の昇給がなされず、また等級S5に昇格する試験の受験機会を得られなかったことがいずれも違法であるとして、慰謝料・昇給後の職能給との差額・退職金の差額・等級S5に基づく退職金との差額等を求めて本訴を提起しました。

Ⅱ 本判決の内容

1.本件不昇給規定の適法性

(1)本判決は、Yの従来の運用から、本件不昇給規定を「前年度に3か月以上の育児休業をした従業員には当年度の職能給を昇給させない」旨の規定と解釈しました。

(2)まず、本判決は育児休業を理由とする不利益取扱いについて、「育児介護休業法が労働者に保障した同法上の育児休業取得の権利を抑制し、ひいては同法が労働者に前記権利を保障した趣旨を実質的に失わせる場合は、公序に反し、不法行為法上も違法になる」とし、Yの主張(育児休業期間が1年のうち3か月以上の長期にわたると、現場での就労経験を積むことによる能力向上が期待できない)にてらし本件不昇給規定の合理性を検討しました。

そして、同じ不就労であっても、遅刻・早退・年次有給休暇等の他の休暇によって不就労期間が3か月以上に及んだ場合にはYが従業員の職能給を昇給させることを指摘し、育児休業が他の事由による不就労と比べて不利益に取り扱われており本件不昇給規定を不公平・不合理としました。

また、Yは、人事評価システムと一体となった職能給制度を構築・運用しているところ、現に平成22年度、YはXにつき、3か月の育児休業による不就労期間があるにもかかわらず勤務成績をBBと評価しており、Xを能力評価の対象としつつ職能給を昇給させないこととする本件不昇給規定はこの点から見ても不合理とされています。

したがって、本件不昇給規定は、育児介護休業法10条に違反するとともに、同法が労働者に権利を保障した趣旨を実質的に失わせるから公序に反して無効であり、本件不昇給規定を理由としてXの平成23年度職能給を昇給させなかったYの行為が不法行為法上違法となるとして、昇給していた場合との差額について請求を認容しました。

2.等級昇格試験の受験機会不付与の適法性

本判決は、YがXの平成22年度勤務成績をBBと評価し、現に人事評価の対象としていることを指摘し、Xは平成20年4月から平成23年3月までの4年間、勤務成績B以上を取得していることになるから、昇格試験の受験機会を与えなかったことは違法であるとして慰謝料の請求を認めました。

もっとも、受験科目に小論文や面接が含まれていたこと等から、Xが受験していれば合格できたとの因果関係までは認めず、Xが等級S5に昇格したことを前提とする差額等の請求については棄却しています。

Ⅲ 本裁判例から見る実務における留意事項

1.本件では、Xの育児休業から生じた不昇給・昇格試験の受験機会不付与等が問題となりました。解雇や減給のように積極的にXの権利を低下させる措置のみならず、定期に昇給させないことも、法の禁止する不利益取扱いに該当するという判断ですから、「不利益」の範囲は相当広く解釈され得ることがうかがわれます。

2.また、本件では、Yは直接的にXが育児休業をしたことを理由として不利益取扱いをしたのではなく、Xが育児休業中に就労していないため、能力が向上しないことを理由として不利益取扱いに至ったのですから、単なる能力主義のようにもみえます。現に、原審は、育児休業による不就労期間が3か月間にすぎないという点こそ指摘したものの、不昇給による差額もわずかであるし、看護師の職務の専門性に照らせば、能力の向上を目的とする本件不昇給規定の合理性は認められ、公序良俗には反しないと判断しています。

しかし、不就労が能力の向上に貢献しないというのであれば、理由によらず、一定期間以上の不就労は全て不昇給と規定され取り扱われることが合理的です。ところがYでは、他の事由による不就労があっても定期昇給は可能であって、結局制度全体を見渡すと、育児休業の場合だけ一定期間の不就労が不昇給につながることとなっていました。

3.今回は男性の育児休業という、先進的な制度が問題となりました。特に新しい制度を採用する時にいえることですが、なるべく定期的に制度全体を見渡して、特定の制度を利用したときだけ不利益を生じるような不均衡になっていないか、不利益の程度はどの程度かということに注意を払うことが必要でしょう。

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