ニューズレター


2016.Jul Vol.55

「偽装請負」をめぐる黙示の雇用契約の成否や
役員賠償責任等が争われた事例〜東京高等裁判所平成27年11月11日判決〜


2016.7.vol.55掲載

Ⅰ 事案の概要

本件は、A社がB社に、B社がC社に対してそれぞれ業務委託を行い、C社と雇用関係にあるXがA社の工場において業務に従事していたところ、一連の業務委託関係(以下、「本件業務委託スキーム」といいます。)がいわゆる偽装請負にあたり、XとA社との間で黙示の雇用契約が成立しているとして、XがA社の従業員たる地位にあることの確認を求めて訴えを起こしたものです。

A社ないしC社はそれぞれ半導体関係の企業であり、特にA社とB社はともに同一の企業を親会社に持つ関連会社でした(B社は、後にA社に吸収合併され消滅)。Xは、C社から雇い入れられた直後から、これら業務委託関係に基づき、A社の工場内においてプリント基板製造業務に従事するようになりましたが、B社とC社との間の業務委託契約が合意解除されたのを機に、C社から整理解雇されました(その後、A社とB社との間の業務委託契約も合意解約されています)。

ところで、B社およびC社は、一連の業務委託関係が解消された後、労働局長より、本件業務委託スキームが偽装請負であるとの指摘がなされ行政指導を受けることとなりました。そこでXは、(1)C社との雇用契約は偽装請負関係を前提としたものであるから公序良俗に反し無効であり、(2)注文主であるA社とXとの間に黙示の労働契約が成立している、等と主張し、(3)これら偽装請負によって中間搾取され相当額の損害を被ったとしてA・C社に対し不法行為責任を、さらに(4)偽装請負にあたる状況を漫然と看過したとしてA社ないしC社の代表取締役に対し役員としての任務懈怠責任を問い、これらに対して損害賠償の請求を行いました。

Ⅱ  第1審判決の要旨

第1審は、本件業務委託スキームが偽装請負として違法性を有していたことを認めつつ、Xの請求は全て棄却しました。すなわち、(1)XがA社からの直接具体的な指揮命令を受けていたと認定できることから、A社ないしC社の関係が請負契約であるとは評価できないが、 XとC社との雇用関係を否定すべき特段の事情までは認められず、(2)Xの採用経緯、勤怠管理の状況や賃金支給関係等に照らし、XA間に事実上の使用従属関係も賃金支払関係も認めるに足りないとして、黙示の労働契約の成立を否定した上で、(3)・(4)損害賠償責任については、Xにそもそも損害が発生していないとして、その発生原因に関する検討を加えることなく請求を認めないという結論を導きました。

Ⅲ 本件判決の概要

X全部敗訴の第1審判決を不服として、Xが控訴したのが本件です。
控訴審である本判決は、第1審と異なり、(1)端的に本件業務委託スキームの違法性そのものを否定し、いわゆる「偽装請負」とされる場合にあたらないとして、XとC社との間の雇用関係を当然に有効であると判断。これに伴い、(3)・(4)AC社の不法行為責任ないし各役員らの任務懈怠責任はそもそも生じ得ないとし、さらに(2)XとA社との間で雇用契約関係が黙示的に成立していたとの主張も退け、Xの請求は全て理由がないと結論づけました。

Ⅳ 本事例からみる実務における留意事項

1.「偽装請負」とされるリスクと対策

本件では、行政庁および第1審と控訴審とで、本件業務委託スキームが「偽装請負」にあたるか否かの判断が分かれました。

偽装請負の該当性、および該当する場合の派遣労働者と派遣元との雇用関係の有無に関しては、最高裁の先例があり(最判平成21年12月18日民集63巻10号2754頁:パナソニックプラズマディスプレイ(パスコ)事件)、「請負人による労働者に対する指揮命令がなく、注文者がその場屋内において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合」には、請負人と注文者との間の関係は実質的には労働者派遣であり、これを請負と評価することができないと解されています。

第1審は、(1)XがA社作成のシフトに基づいてA社従業員と同じ工程に従事しており、これらが混然とした状況にあったこと、(2)XがA社の行う朝礼への参加を義務付けられており、作業工程における指示もA社からなされるなど、業務上の指示がA社からなされていたこと、(3)A社がXのスキル評価を行っており、そのスキルを相当程度把握していたこと、(4)Xらが業務に従事するにあたって必要な資材やクリーンスーツ等はA社が提供しており、A社がXらの生産過程や生産結果について相当程度管理していたこと、等を理由に、注文主であるA社による直接具体的な指揮命令がなされていたと判断しました。

これに対して控訴審は、(1)Xらの勤怠管理は専らC社が行っており、作業着やネームプレートはC社指定のものを使用していた他、エアシャワーゾーン等はA社従業員とXらとで使用するものが区別されていたこと、(2)A社による朝礼が実施されていた期間は限られていた上、C社独自の朝礼も別途行われていたこと、(3)A社によるXらのスキル把握はA社がISO規格を取得するために必要な手順であり、具体的な指揮命令の根拠とすることは困難であること、等を指摘し、第1審の評価を覆しています。
このように並べてみると、結論の差は認定した事実に関する評価の違いであり、その差は極めて相対的であるといえます。控訴審判決が重視したのはC社によるXの労務管理がなされていたか否かという点であり、作業現場において必要に応じて注文主から従業員に対する具体的な指示がなされたことがあったとしても、それのみをもって注文主による直接の指揮命令関係が認定されるわけではないとの判断枠組みに立っているものと考えられます。
業務委託契約に基づき従業員を注文主企業の現場で業務に従事させることは珍しいことではありませんが、偽装請負との評価を受けるリスクを下げるためにも、作業現場において業務に従事する従業員の管理を適切に行い得る体制をきちんと構築することは不可欠でしょう。

2.取締役に賠償責任が生じるリスク

また、本件では、本件業務委託スキームに関係する注文主・元請・下請それぞれの代表取締役が、会社法における役員の対第三者責任を問われて損害賠償請求を受けています。特に第1審では、本件業務委託スキームの違法性が認定されており、損害が発生したとの認定がなされていれば、役員に対する賠償請求が認容された可能性もあります。
本件業務委託スキームは訴訟提起がなされるよりもかなり前に構築されており、取締役の交代が生じていた場合には、事実関係や違法性に気付く機会が得られないことも想定に難くないところです。しかし、取締役には、善管注意義務の一内容としての適法性保持義務が課せられており、「気付かなかった」という抗弁が会社法429条の要件である重過失を必ずしも阻却し得るとは限らないのが現実です。
折から内部統制システム構築責任に関する議論が高まりを見せる中、取締役としては、予期しない損害賠償請求に対応するためにも、いわゆるD&O保険(役員の賠償責任保険)に加入しておくなど、十分な予防措置を講じておく必要があるといえるでしょう。

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