ニューズレター


2016.Aug Vol.56

職務変更に伴う社内給与規則のグレード格下げと賃金減額の有効性〜東京地裁平成27年10月30日判決〜


2016.8.vol.56掲載

Ⅰ 事案の概要

本件は、職務等級制を採用する被告会社(Y社)において、担当業務を管理職から一般職に変更され、職務等級が降級し、給与等が減少した従業員(X)が担当業務変更にかかる平成25年7月1日付人事発令(本件人事発令)の有効性を争い降級前の等級の地位を有することの確認と、降級前後の賃金差額等の支払いをY社に求めました。

Ⅱ  判決のポイント

1.

上記裁判例は、人事権濫用の判断基準を示したリーディングケース(東亜ペイント事件、最高裁昭和61年7月14日判決)に沿って、①業務上の必要性の有無、②不当な動機・目的の有無、③本件人事発令によるXの不利益の程度から、本件人事発令の有効性を判断しています。

2. 業務上の必要性

Xは、2年程度の期限を想定した新薬開発チーム(Gチーム)のチームリーダーとして、管理職の地位に就いていた者です。上記裁判例は、Gチームの解散により、同チームのチームリーダーの役職自体がなくなったこと、臨床開発部の人員が不足していたことから、Xを臨床開発部の医薬スタッフとしたことの必要性を肯定しました。Y社がXの等級維持のために新たに管理職のポストを新設するかどうかはY社の裁量的な経営判断と評価されています。

3. 不当な目的・動機

XはH部長から、Gチームの解散時には、医療情報部のチームリーダー(Xが以前就いていたポスト)に戻ることを念頭にした説明を反故にして、それまで一般職であったJを医療情報部のチームリーダーに就任させていることが不当である旨を主張していました。 これに対し上記裁判例は、「Gチームの解散時期すら当初は未確定・・・H部長の説明にしても、その間に事情変更が生じかねないことも織り込んだ上で、将来にわたる人事異動・配置の見通しを述べた程度のもの・・・Xに対する何らかの義務を負うような合意が成立したとみることはできない」、「XとJのいずれが適任であるかについては人事上の裁量判断・・・原告がかつて同じポストに就いていたことや・・・H部長の説明があったことだけでは人事上の裁量権の範囲の逸脱を基礎づけるに足りない」と判示しています。

4. Xに生じる不利益の程度

本件人事発令の前後におけるXの減収は、賞与が254万9550円→153万1526円、月額基本給だけの比較では、63万2750円→49万3800円(減額率22.0%)と大幅な減額を生じていますが、降格後一年間は基本給調整額として、月額1万3550円が支給され、地域手当5万9098円が毎月支給されています。 さらに、降格後は超過勤務手当(降格後2年間の平均では、月額11万6534円)が支給されています。上記裁判例は、「超過勤務手当は時間外労働に対する対価であり、基本給を填補する性質にない」旨の原告の主張に対し、上記裁判例は、「直接比較の対象にすることに妥当性はない」、「超過勤務手当の支払額は労働実態に呼応して変動し得る不確定なものであるとの事情も無視できない」としながらも、「人事権の濫用に当たるか否かの判断要素となるのは、原告に生じた不利益の程度・内容であるから、…労働の対価として支払われる賃金収入全般として超過勤務手当を加味したものを比較した方が、原告に生じた不利益を実質に即して評価できる」と判示しています。

5. 結論

上記裁判例はこれらを前提に、「原告には年間52万円から68万円(4.5%~5.9%の減収が生じており、これを少額ということはできないが、管理職からはずれ、その職務内容・職責に変動が生じていることも勘案すれば、通常甘受すべき不利益を超えているとみることはできない」、「本件人事発令及びこれに伴うXのグレード変更を人事権の濫用として無効とみることもできない」と判示し、Xの請求を棄却しました(X控訴後和解成立)。

Ⅲ 本事例からみる実務における留意事項

「人事は会社(使用者)の裁量事項である一方、濫用することは許されない」というのが裁判実務の基本的な考え方です。特に賃金等の減額を伴う場合、生じる不利益の程度を考慮して、濫用の有無はシビアに判断される傾向にあります(仙台地決平成14年11月14日労判842号56頁、東京地裁八王子支部平成15年10月30日労判866号20頁参照)。

「就業規則等に明示的根拠もなく、労働者の個別の同意もないまま行うことは(人事権の濫用として)許されない」(東京高裁平成23年12月27日判決参照)と判示する裁判例があるように、減給を伴う等級の変更等は、就業規則や労働協約等に根拠があることが大前提です。

職務と等級の対応関係は明確に定めておく必要があります。対応関係が不明確なまま、減給を伴う職務内容の変更を行うと、就業規則に根拠のない一方的な減給処分と評価されるリスクを抱えることになります。その他、制度の内容や運用状況、従業員に周知されている降級基準とその該当性も問題となりうる点です。 職務等級制は成果主義的発想によるものですので、これを導入する場合、職務や給与等の地位の流動性を一定程度前提とした制度設計が行われ、その一方で、裁判実務の動向に照らすと、流動性をあまりに重視した運用は躊躇われるところでしょう。

職務等級制導入の趣旨を最大化しながらリスクを最小限に抑えるには、就業規則等の制度設計の見直しや基準の従業員に対する周知、運用面におけるリスク管理等、専門家の目を取り入れることが必要不可欠です。

上記裁判例のY社には、「時限的に設置されたGチームの解散」という事情もありましたが、「特段の帰責事由がない労働者においても管理職の地位からはずれるという自体は起こり得る」とも指摘されています。会社の業務に深く関わり、数的にも限界のある管理職ポストからの降格、という事態は一定程度想定されうるところでしょう。

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