ニューズレター


2018.Aug vol.80

期末手当の支給における支給日在籍要件の取扱い~ 東京地裁平成29年6月29日判決~


2018.8.vol.80掲載

Ⅰ 事案の概要

1 本件は、平成28年4月末日で定年退職した原告Xらが、被告Y社の賃金規程では4月に定年を迎え同月末日で定年退職する者のみ期末手当が支給されない仕組みとされており、これが合理性のない差別的取扱いに該当し、公序良俗に反し違法であると主張して、Y社に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、平成28年度の夏季手当相当額の賠償金及び遅延損害金の支払を求めた事案です。

2(1)Xらは、いずれも4月生まれで、Y社に雇用されていた元従業員でした。平成28年4月末日にY社を定年退職しました。

(2)ア Y社は、旅客鉄道事業、貨物鉄道事業等を主な事業の目的とする株式会社であり、昭和62年4月1日付けで定めた就業規則において、従業員の定年退職に関し、次のとおり定めていました。
①社員の定年は満60歳とする
②定年退職日は、社員が定年に達する日の属する月の末日とする。

イ また、Y社の旧就業規則の一部を構成する賃金規程(以下、「旧賃金規程」といいます。)では、期末手当の支給対象者となる基準日について、期末手当は、6月1日(夏季手当)及び12月1日(年末手当)にそれぞれ在職する社員及び基準日前1ヵ月以内に退職し又は死亡した社員に対して支給するものと定められていました。各手当の評価の対象期間となる「調査期間」については、Y社は平成元年4月1日付けで旧賃金規程を改定し、夏季手当については、前年10月1日から3月31日まで、年末手当については4月1日から9月30日までと定めていました。被告は、調査期間の改定に際し、Xらの所属する労働組合の上部団体との間で、平成元年6月1日付けで、「期末手当の調査期間等の取扱いに関する協定」を締結し、本件改定の内容を確認しま した。

ウ Y社とXらの所属する労働組合の上部団体は、平成28年4月1日付けで、平成28年度の夏季手当の支給に関し、労働協約を締結しました。

(3)Y社は、現行の賃金規程及び本件協約に基づいて、平成28年6月30日、雇用する従業員に対し夏季手当を支給しましたが、Xらは、平成28年度夏季手当の基準日要件(基準日である6月1日前1箇月以内に退職した者)に該当しないことから、上記手当の支給を受けられませんでした。

そこで、Xらは、Y社に対し、Y社が4月末日付けで定年退職したXらに対して、㋐4月末日付けで定年退職する労働者は、夏季期末手当の調査期間(前年10月1日から当年3月31日まで)の労働を行っているにもかかわらず、5月1日時点で在籍していないが故に、当該手当が支給されず、他の月生まれの労働者との比較で合理性のない差別的取扱いに該当すること及び㋑Xらの所属する動労千葉は、平成27年4月以降、Y社に対し、上記㋐の差別的取扱いの是正を何回も申し入れてきたことから、Y社には上記㋐の差別的取扱いを是正する義務が生じていたところ、Y社は、現行制度で妥当と考えているとの回答に終始し、上記㋐の取扱いの是正を怠ったことが、公序良俗に反し違法であるとして、平成28年6月30日に支給されるべき夏季手当の支給金額相当額の損害賠償請求訴訟を提起しました。

(4)本件の争点は、Y社が4月末日付けで定年退職したXらに対し、退職日の属する年度の夏季手当を支給しないことが、不合理な差別的取扱いとして公序良俗に反し違法であるといえるか否かです。

Ⅱ  判決のポイント

1 期末手当の支給におけるY社の取扱い公序良俗違反該当性

(1) 期末手当の法的位置づけについて
本判決は、期末手当の取扱いの位置づけについて、「期末手当は、賞与としての性質を有するものであるところ、賞与が査定対象期間における労働に対する報償的な性質を有するにとどまらず、将来の労働への意欲向上や将来の貢献への期待という要素を併せ持つものであること、企業においては多数の従業員に対する賞与の支給事務を迅速かつ画一的に行う必要があることなどを踏まえると、企業が賞与の支給について、支給日に近接した基準日を設け、当該基準日に企業に在籍している(基準日前1箇月以内に退職又は死亡した場合を含む。)こと(以下「在籍要件」という。)を要求することは、当該企業の経営上の裁量に属する事項として合理性が認められると解するのが相当である」と判断しました。

(2)本件におけるY社の取扱いの当否について
本判決は、Y社が、期末手当の調査期間及び年末手当の基準日に係る賃金規程の規定を変更した際、Xらの所属する労働組合の上部団体に対し、必要な説明をした上、同団体との間で平成元年6月1日付け労働協約を締結していたこと、さらに、平成28年度夏季手当についても、同労働組合との間で、「支給方法及び具体的取扱いについては、賃金規程等の定めによる」こと等を内容とする労働協約を締結し、現行賃金規程及び上記各労働協約に従って支給していたことから、Y社の取扱いが公序良俗に反し違法とされる余地はないと判断しました。

(3)他の月生まれの労働者との差別的取扱いについて
本判決は、「例えば3月生まれの従業員が退職する場合であっても、当該従業員は夏季手当の調査期間(前年10月1日から当年3月31日まで)の全部において業務に従事しているにもかかわらず、当該調査期間に対応する退職後の夏季手当を受給できないことは同様であり、その余の月の退職者においても同様に、期末手当のうち調査期間中に就労していたとしても受給できない部分が生じるのであるから、Y社の取扱いは、4月生まれの者にだけ不利益を課すものとはいえない。」として、Xらの主張を退けました。

2 差別的取扱いの是正義務について

裁判所は、Y社の平成28年夏季手当に関する取扱いに合理性が認められる以上、当該取扱いを是正すべき義務も生じないことから、差別的取扱いの是正を行わないという不作為が公序良俗に反するという主張は成り立たないとして、Xらの主張を退けました。

Ⅲ 本事例から見る実務における留意事項

本判決は、過去の最高裁判例を引用して、Y社の期末手当が賞与の性質を有すると位置付けた上で、企業の経営上の裁量に属する事項にあたることから、期末手当の支給における取扱いの合理性判断を広く認めたものととらえることができます。

もっとも、本判決の事情によれば、就業規則上、定年退職の時期が定められているため、Xらは退職の時期を選ぶことができない状況に置かれています。別の裁判例では、整理解雇の場合と定年退職の場合とで分けて考え、整理解雇については「労働者自身に帰責事由はないにもかかわらず使用者側の事情により解雇されるものである以上」「このような場合にまで一律に支給日在籍要件の適用を及ぼすことには合理的な理由を見出しがたい」として、支給日在籍要件について、整理解雇の限りにおいて公序良俗違反による無効を認めたことがありました(東京地判平成24年4月10日労判1055号8頁)。

確かに、この裁判例でも定年退職者に対する支給日在籍要件の適用は有効であると判断されていますが、従業員が予期し得ない状況で、社内の就業規則が変更され支給日在籍要件が設けられた又は変更されたという事態が生じた場合、定年退職の場合であってもその就業規則の有効性が問われることがあるかもしれません。なお、本判決では、Y社と労働組合との協約のプロセスがあることを確認しており、急な賃金規程の変更がなされたわけではなく、Xらが予見できない状況に置かれていたわけではなかったことが判断の根底にあるものと思われます。

期末手当における支給日在籍要件を設けている企業において、当該要件の基準日を変更する場合には、本判決のように、一部の定年退職者が支給を受けられないという憂き目にあうことが予想されます。Y社のように労働組合を介してになるのかは企業によると思われますが、就業規則の変更プロセスを守ること、従業員全員に対して変更内容を周知させ、従業員からの照会を受け付ける等の姿勢、仕組みを整えることが重要であるといえます。

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