ニューズレター


2018.Sep vol.81

定年後再雇用社員に対する配転命令の適法性
~ 京都地裁平成30年2月28日判決 ~


2018.9.vol.81掲載

Ⅰ 事案の概要

1 Xは昭和53年から、海運航空貨物取扱業、通関業等を業とするY社に勤務し、平成25年2月26日に60歳の定年を迎えた後、嘱託社員として再雇用され、同年12月から経営管理本部本部長付参事兼A監査室長を務めていました。

なお、X・Y社間では、Y社はXのA監査室長の職責に対する対価として室長に在籍する間月額5万円を補てんし、退職時にこれを補てん退職金として支給するとの特約(以下「本件特約」といいます。)が締結されました。

2 その後、Y社は、まずXを経営管理本部本部長付参事兼A監査室長から経営管理本部本部長付参事に異動させる配転命令(A監査室長の解職)をし、次にXを関西営業本部B事業部参事に異動させる配転命令をしました(以下これらの配転命令を「本件配転命令」といいます。)。

なお、Y社の嘱託就業規則9条には、「1項 会社は、業務上必要がある場合、嘱託社員に配置転換、勤務場所の変更を命じることがある。」、「2項 前項の命令を受けた嘱託社員は、正当な理由なく、これを拒むことができない。」と規定されています。

3 Xは、無効な本件配転命令により損害を受けたとして、債務不履行又は不法行為に基づく426万5800円(補てん退職金185万円、慰謝料200万円、弁護士費用41万5800円)の損害賠償及び遅延損害金の支払いを請求して、訴訟を提起しました。

Ⅱ  判決のポイント

裁判所は、以下の判断のもと、本件配転命令は人事権の濫用として無効であり、Y社がそれを強行したことはⅩに対する不法行為を構成すると認めました。そして、本件配転命令により得られなくなった月額5万円の補てん退職金175万円、慰謝料20万円、弁護士費用相当額19万5000円を損害と認め、214万5000円の損害賠償及び遅延損害金の支払いを命じています。

1 XとY社との労働契約では職種限定の合意があるか

Y社の嘱託就業規則に配置転換を命じる規定があることから、X・Y社間で配置転換のない職種限定としての労働契約が締結されたと認め得るためには、就業規則の例外が定められたと認め得るに足りる契約書の記載や客観的な事情が必要であるとしています。

そして、XとY社との嘱託雇用契約書では、従事すべき業務の内容として経営管理本部・A監査室関連業務及びそれに付随する業務全般と規定されていますが、労働契約書において当面従事すべき業務を記載することは通常行われるため、当該規定をもって直ちに職種限定合意があるとは認められないとしました。

その上で、裁判所は、本件特約では退職金の補てんは室長に在籍する間と限定され、XがA監査室長を離れる場合を念頭に置いていること、Xは入社後、種々の業務に就いており監査業務のみに従事してきたわけではないことなどから、XをA監査室長以外の業務に就かせることが考えられないような客観的事情があったとも認められないとして、XとY社との労働契約において職種限定の合意があったとは認められず、本件配転命令が労働契約に違反するとは認められないと判断しました。

2 本件配転命令が人事権を濫用した違法なものか

裁判所は、就業規則に従業員を配置転換させることができる旨の規定がある場合、使用者は、職種や勤務場所の限定がない限り、業務上の必要に応じ、個別合意なしに労働者の業務内容や勤務場所を決定する権限を有するが、配転命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該配転命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合には、配転命令は権利の濫用になるとの判断枠組みを示しました。

そして、Y社は、業務上の必要性として、Xが他の従業員に対し、Y社の財政不安を煽る虚偽の内容のメールを就業時間中に送信したことからA監査室長として不適格と判断したことを主張しました。

これに対して、裁判所は、メール内容に根拠がないことは認めましたが、送信先は内部事情にも相応に通じている2名のみであり、メール内容の真偽は決算書を見れば容易に判明することであるから、このメールが直ちにY社の信用を害することになるとは考え難いこと、メール内容は根拠を欠くとはいえ社内状況を憂える内容でもあり、直ちに私用とは言い難いことなどから、このメールをもってXがA監査室長として不適格であると認定することはいささか早計に過ぎると判断しています。

そして、XをA監査室長から外すことによってXは補てん退職金を受けられなくなるため、本件配転命令は実質的に減給を伴い、Xに経済的な不利益を及ぼすものといえ、Xに経済的な不利益を及ぼしてまで行う業務上の必要性に欠けると判断しました。

Ⅲ 本事例から見る実務における留意事項

① 職種限定の合意

職種限定の合意について、判決でも示されていますが、単に契約書の記載のみで判断されるのではなく、その他の客観的な事情についても考慮して判断されることになります。

使用者側の事情としては、規模、事業内容、採用状況、配転実績などが、労働者側の事情としては、職種、業務内容、業務に従事する期間などが考えられます。例えば、職種によって採用試験が区別されている、職種別の賃金体系があるなどの事情があれば職種限定の合意を肯定する方向に働く事情と考えられます。一方、長期の雇用が予定されていることや多職種への配転実績があることは職種限定の合意を否定する方向で働くことが多いです。

本件では、労働契約書で業務内容を限定するかのように一見読める規定があるものの、その他の客観的な事情も考慮して、職種限定の合意が否定されています。このように、配転命令権の存否については、労働契約書での規定がすべてではなく、客観的な周辺事情にも気を配る必要があります。

② 人事権の濫用

本件では、Y社の不利益となりうるメールを送ったXを外すという業務上の必要性と、それによって生じるXの経済的な不利益とを比較衡量した上で、前者についてはY社の不利益になる可能性が小さく、後者のXの経済的な不利益の方が上回ると判断されたため、業務上の必要性が否定され、通常甘受すべき程度を著しく超えるXの不利益が認められたものと考えられます。

このように、人事権の濫用か否かの判断は、一つの事情だけに着目して決まるものではなく、複数の事情を比較衡量し判断されるということを意識しておく必要があります。

本件では、配転命令の必要性よりも配転命令による不利益の方が上回りましたが、当然必要性の方が上回る可能性もあります。配転命令を行う際、それは何らかの必要性に迫られてのことと思いますが、そもそも何の目的のためか、それによってどのような影響が発生するかを十分に吟味した上で配転命令を行うことが、不毛な争いを生じさせないために肝要であるといえます。

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