ニューズレター


2022.Feb vol.87

枝が越境している場合の相隣関係


不動産業界:2022.2.vol.87掲載

当社が賃貸している物件(以下「本件物件」といいます。)において、隣地(以下「本件隣地」といいます。)に植えられた樹木(以下「本件樹木」といいます。)の枝が本件物件の敷地と本件隣地との境界線を越えて伸びており、本件物件に葉や実が多数落下してくるなど、迷惑がかかっている状況です。

そこで、当社が、本件隣地の所有者に本件樹木の枝を切除するように求めたところ、本件隣地の所有者は、これに応じてくれません。

このままでは、本件物件の入居者からクレームが生じかねません。

当社は、この状況を法的にどのように解消すればよいのでしょうか。


隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができます(民法233条1項)。

そして、本件樹木は、本件隣地に従として付合していると考えられますので、当該樹木を隣地の所有者でない者が独自の権原に基づいて植樹しているといった事情がない限り、本件樹木の所有権は、本件隣地の所有者に帰属するものと考えられます(民法242条本文)。

したがって、貴社は、本件樹木の所有者でもある本件隣地の所有者に対し、本件樹木の枝のうち、本件物件に越境してきている部分についてこれを切除するように求めることができます。

さらに詳しく

民法233条1項に基づく切除請求は、どのような場合にでも認められるのでしょうか。

この点、同項の趣旨が、相隣接する不動産の利用をそれぞれ充分に全うさせるために、その各所有権の内容を制限し、また各所有者に協力義務を課する等その権利関係相互に調節を加えることであることに鑑みると、越境した枝により隣地の所有者が何らの被害も被っていないか、あるいは被っていたとしてもそれが極めて僅少であるにもかかわらずその切除を請求したり、又はその切除によって、被害者が回復する利益が僅少なのに対比して樹木所有者が受ける損害が不当に大きすぎたりする場合には、権利濫用として民法233条1項の効力は生じないものと判断した裁判例があります(新潟地判昭和39年12月22日)。

したがって、民法233条1項に基づく切除請求が認められるためには、枝が越境していることにより、切除を請求している者に何らかの損害が生じていると言える必要があると考えられます。

次に、本件隣地の所有者が、民法233条1項に基づく切除請求をしてもこれに任意では応じない場合に、貴社が自身で本件樹木の枝を切除してしまってもよいのでしょうか。

この点、ある土地に植えられたヒマラヤ杉の枝が、隣地の旅館の敷地に大きく越境していたところ、旅館を経営している相隣者が、当該枝により旅館の経営にも悪影響があるとして、ヒマラヤ杉の所有者に対し、枝の切除を再三求めたが何ら対応がなされなかったため、自ら問題のヒマラヤ杉を伐採してしまったという事案において、ヒマラヤ杉の所有者から旅館を経営している相隣者に対する損害賠償請求が認められた裁判例があります(大阪高判平成元年9月14日)。

なお、この裁判例においては、枝のみならずヒマラヤ杉自体を伐採してしまっている点、越境している枝を再三切除するように求められていたにもかかわらずヒマラヤ杉の所有者が何ら対応しなかったことから、ヒマラヤ杉の所有者にも5割の過失割合が認められている点にも留意が必要です。

この裁判例を踏まえると、隣地の樹木の枝が自身の土地に越境してきている場合には、自分で当該枝を切除することは適切でなく、樹木の所有者に対し、民法233条1項の存在及び内容を説明しつつ枝の切除を求め、それでも対応いただけない場合には、裁判を提起することも検討したほうが安全であろうと思料致します。

なお、民法233条1項は、令和3年の民法改正に伴い、令和5年4月1日以降は、樹木の所有者に対し相当の期間内(2週間程度)に切除することを催告したが対応がされない場合など、一定の場合に隣地の所有者が自ら越境した枝を切ることができるようなルールに変更されました。

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