ニューズレター


2019.Jun vol.90

休職期間満了後の解職の有効性
~東京地裁平成29年11月30日判決~


2019.6.vol.90掲載

Ⅰ 事案の概要

本件は、傷病により休職し、就業規則の定めに基づく休職期間の満了により雇用関係が終了し、退職したとされたXが、勤務先であるYに対し、雇用契約に基づき、労働契約上の地位の確認等を求めた事案です。

Yの就業規則では、業務外の傷病により療養休暇取得期間が満了し、なお休務を要するときは、休職を命ずることとされ、休職の事由が消滅すれば復職し、休職の事由が消滅しないまま休職期間が満了すると解職となる旨が定められています。

裁判では、Xが休職期間満了時に就労可能な状態にあり、YがXを復職させるべきであったか否かが主な争点となりました。

Ⅱ  判決のポイント

1 判決では、本件において休職の事由が消滅したというためには、①Xの休職前の業務が通常の程度に行える健康状態となっていること、又は当初軽易作業に就かせればほどなく従前の業務を通常の程度に行える健康状態になっていること(健康状態の回復)、②これが十全にできないときには、YにおいてXと同職種で、同程度の経歴の者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務を提供することができ、かつ、Xがその提供を申し出ていることが必要である(他部署への配置可能性)という枠組みを示しました。

2 ①の健康状態の回復につき、まず、Xが休職することとなった体調不良の主な要因は、Xが産業医に対して述べた消化器等の身体疾患ではなく、精神疾患及びそれを背景とする身体症状であると、精神疾患にはY社内における対人関係が一定の影響を与えたことが推認されるとしました。
そして、復職に向けたリワークプログラムへの出席状況等から、Xが復職した場合に、規則正しく定時に勤務できる状態にまで回復していたと認めることは困難であるとしました。
また、Xは、休職期間の満了時においても、休職の原因は精神的な問題ではなく、消化器等の身体疾患であるとの自己認識に固執し、休職の原因となった精神疾患についての病識が欠如した状態であるため、自己のストレス対処について十分な考察ができていない状態であるとしました。
そのため、Xが復職した場合、他の社員との仕事上の対人関係を負担に感じ、精神疾患の症状を再燃、あるいは悪化させて、就労に支障が出るおそれが大きいとしました。
以上より、Xは、休職期間満了時において、従前の職務を通常の程度に行える健康状態、又は当初軽易作業に就かせればほどなく従前の職務を通常の程度に行える健康状態になっていたとは認めることはできないと判断しました。

3 ②の他部署への配置可能性につき、まず、XがYに対し、Yが配置可能と認める部署での業務遂行を申し出ていたことを認めました。
次に、精神疾患についての病識がなく、ストレス対処の習得が見込まれない状況であったXにとって、新たに配属された部署で業務を覚えたり、一から人間関係を構築すること自体が大きな精神的負担となり、精神状態の悪化や精神疾患の再燃を招く可能性があるため、Xが配置される現実的可能性があると認められる他の部署は認められないとしました。
なお、Xは、個人で黙々とする作業を中心とする部署であれば就労可能であるとも主張しましたが、Yにおいて他社との関りが全く不要な部署は容易に想定しがたいところであり、本件全証拠によっても、Xが主張するような部署がYに存在すると認めることはできないとしました。

4 以上のとおり、本件では、①の健康状態の回復、②の他部署への配置可能性のいずれも認められず、休職期間の満了によって雇用契約が終了したと判断されました。

Ⅲ 本事例からみる実務における留意事項

1 労働者の復職の可否につき、主治医の判断と産業医等の判断が分かれることは珍しくありません。医師によって判断が分かれている事案においては、当該医師の判断や判断の根拠となる医療記録を検討するだけでなく、他の医師の判断や医療記録等を当該医師に確認してもらうことについても検討が必要となります。

2 片山組事件最高裁判決(最一小判平成10年4月9日)が「労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務についての労務の提供が十全にできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務を提供することができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った労務の提供がある」と解するのが相当だという判断の枠組みを示して以降、私傷病による休職からの復職について同枠組みが用いられる例は多くみられますが、本件事案もその一例です。
労働者が私傷病による休職期間の満了時に十分には回復していない場合に、企業が復職を認めるか否かを判断するにあたっては、休職前の業務に従事できる状態であるか否かだけでなく、他部署への配置可能性についても十分な検討が必要となります。

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