コラム
更新日: 2024年11月20日
タイの知的財産権
監修弁護士 川村 励 弁護士法人ALG&Associates バンコクオフィス 所長現在、先進技術の急速な発展により、世界中のあらゆる国の経済は工業化社会と資本主義市場へと変貌しています。これらの国々の民間企業は、顧客にとって魅力的な独自の製品を生み出そうとしています。
製品の名称と標章は、営業上の信用だけでなく、長年にわたって構築された各民間企業の製品の評判と独自性も示しています。権利侵害と偽造はこれらを損ねます。それ故、権利侵害や偽造から、知的財産所有者を保護することが必要です。
タイの知的財産制度は、製品が流通し小売りされる前の製造段階で偽造を管理することにより、知的財産権を保護し、当該権利を行使することを目的としています。
タイの知的財産権制度の現状と課題
近年、タイの知的財産を取り巻く環境は継続的に改善しています。法的保護を得るためには、知的財産権(IPR)の所有者(知的財産権者)は、タイ市場に製品やサービスを導入する前に知的財産権を登録しなければなりません。
現在、知的財産権登録は、タイの知的財産制度を管理監督する知的財産局(DIP)により管理されています。
知的財産権者は、製造前に権利保護を得るために、商標、特許、意匠、半導体集積回路の回路配置、地理的表示に関して、タイで知的財産権を登録または出願することができます。
タイは「知的財産権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS)」が定めた「国際知的財産基準」を順守する世界貿易機関(WTO)および世界知的所有権機関(WIPO)の加盟国であり、「特許協力条約(PCT)」および「標章の国際登録に関するマドリッド協定」(通称:マドリッド制度)の締約国です。
特許と商標の出願者は、タイでの保護を求めるために、国際特許および商標の出願にこれらの国際的な制度を利用することができます。
タイでは著作権は登録要件なしに保護されます。但し、紛争が生じた場合に所有権の証拠として役立つDIPの著作権局での正式な記録が推奨されます。
タイは「植物の新品種の保護に関する国際条約(UPOV)」の加盟国ではありませんが、タイには「植物種保護法」があり、農業省内の植物種保護局が同法を管理しています。
同法は、植物育種家の権利に関してある程度の保護を定めていますが、UPOV基準に準拠していません。
タイは知的財産権(IPR)の行使での取り組みを維持していますが、偽造品と海賊品の数量が特にオンライン市場で懸念されています。
2021年1月、DIPは、オンラインでの知的財産権違反と闘うことを目指した「インターネットでの知的財産権の保護に関する覚書」を締結しました。
覚書には、3つのタイ政府機関、タイの大手電子商取引プラットフォーム、知的財産権の所有者や代理人が署名しました。
タイでは、中央知的財産・国際貿易裁判所(CIPITC)が、タイでの知的財産に関する紛争(権利の侵害・無効等)を裁定する専門裁判所です。
CIPITC裁判所の決定に対する上訴は、特殊事案上訴裁判所に対して行うことができます。同裁判所の決定については、最高裁判所の裁量に従って、最高裁判所に対して上訴することができます。
タイの知的財産法
DIPが管理する知的財産権に関する6つの法律があります。詳細は以下の通りです。
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特許法
同法は、新製品における新しいまたは先行技術では予想されない発明または設計を保護します。当該発明には、進歩性を含む発明または通常の技術を有する者には明らかでなかったであろう発明で、かつ、工業生産、手工業、商業、農業において利用できる発明が含まれます。 -
商標法
同法は、商標権者の商標の付いた物品を他者の商標の付いた物品と区別するために、当該商標権者の物品に関連して使用される標章(マーク)を保護します。 -
著作権法
同法は、9種類の著作物を保護します。すなわち、文学作品、演劇作品、芸術作品、音楽作品、視聴覚作品、映画作品、録音、放送、文学・科学・芸術分野におけるその他の作品です。当該作品が表現される方法や形態を問いません。 -
半導体集積回路の回路配置保護法
同法は、半導体集積回路の配置方法(方法や形態を問いません)が見えるように作成された図形や図面を保護します。 -
営業秘密保護法
同法は、入手できない商業利益関連の営業情報を保護します。 -
地理的表示法
同法は、地理的出所(生産地)に基づく符号や名称等を保護します。当該符号や名称等は、製品が地理的出所の特殊な数量や評判を有することを示す場合があります。
発明特許権
発明特許権とは、製品もしくは工程の新たな創作をもたらす発明、または、製品もしくは工程を改善する行為を保護するために発行される文書を意味します。
特許を出願するためには、発明は、以下の基準に合致した特徴を有しなければなりません。
- 発明は新たな創作であること(新規性)。
- 発明に進歩性があること。
- 発明は産業上利用可能であること。
- 自然の微生物、微生物の成分、植物、動物、植物または動物からの抽出成分。
- 科学的および数学的な原理および理論。
- コンピューター(コンピュータープログラム)の操作のためのデータシステム。
- 人間の疾患または動物の疾患の診断法または治療法。
- 公序良俗、衛生、福祉に反する発明。
特許の要件に加えて、特許権者は、DIPが定めた裏付け文書を指定期間内に提出しなければなりません。
発明特許がDIPの局長により承認された場合には、タイ王国での特許出願日から20年間保護されます。
発明特許の出願手続き
タイにおいて、発明特許は2つの制度に基づき出願することができます。
- 国内出願(最初にタイで出願、または、他国での優先出願から12カ月以内に出願)
- 特許保護の申請を可能にする特許協力条約(PCT)制度に基づく出願:
- タイおよび他のPCT締約国における発明に関しては、タイ知的財産局(DIP)または世界知的所有権機関(WIPO)の国際局に対して「国際特許出願」により出願。
- 他のPCT締約国またはWIPOの国際局に対する国際特許出願に基づき既に出願された発明に関しては、タイにおいて特許保護を申請。
特許出願が国内制度または国際制度に基づき行われたかを問わず、出願書には、技術に熟達している者が当該発明を理解して実施することができるようにするための当該発明の詳細な内容を、先ず記載する必要があります。
当該内容には当該発明を実施するための最良の方法も含めなければなりません。当該内容は他の国々では必ずしも要求されるわけではありません。
発明特許権者の独占的権利を明確に特定するために、特許請求は明確かつ簡潔でなければなりません。
意匠特許権
意匠特許権とは、手工業製品を含む工業製品用の模様として使用できる特性を製品に付与する意匠に関する特許権です。法に基づき登録される意匠特許は、工業や手工業にとって新しい意匠でなければなりません。
但し、公序良俗に反する意匠や省令で定めた意匠は特許性があるとはみなされず、意匠特許の保護を得るために登録することはできません。
意匠特許はタイ王国での特許出願日から10年間保護されます。
意匠特許の出願手続き
小特許権
小特許権は、新規性があり、産業上利用可能であるものの、進歩性が無い発明を保護します。小特許は、タイ王国での特許出願日から6年間保護され、更に2期間更新することができます。
各期間は2年間有効です。尚、同一の発明での発明特許権の有効期間は20年です。
小特許の出願手続き
商標権
商標とは、公衆または利用者が当該商標の付いた物品やサービスを他の物品やサービスから区別できるようにする語句、符号、意匠、またはそれらの組み合わせです。商標はトレードマークおよびサービスマークを指します。
商標法B.E. 2534に基づき、タイ市場で物品やサービスの商標を登録するためには、禁止商標でも他者が既に登録した商標と同一もしくは類似する商標でもなく、識別力のある商標でなければなりません。
DIPで商標登録するために使用される手続きと必要文書には、以下の内容が必要です。
- 出願者の氏名(フルネーム)、住所、国、活動/職業
- 出願する標章(マーク)の電子的サンプル(推奨サイズ:5 x 5 cm)
- 保護すべき物品やサービスのリスト
- タイ語の翻訳付きの公証された委任状(外国の出願者の場合)
- タイ語の委任状およびタイの法人証明書もしくはIDカード(タイの出願者の場合のみ)
商標出願の審査しばしば最大6~9カ月もかかるため、商標出願書を提出する前に商標の利用可能性を調査する必要があります。
商標に関する知識を持つことにより、出願商標の登録可能性を評価することができ、他の商標と類似するリスクを回避することができます。
タイがWTO加盟国であり、パリ条約の締約国であるという事実により、他のWTO加盟国やパリ条約締約国で行われた商標出願に基づき、商標請求を行うことができます。
商標法B.E. 2534に基づき登録された商標は登録日から10年間有効であり、更に10年間更新することができます。
商標権登録の出願手続き
迅速審査制度に基づく審査
2023年1月3日、DIPは商標出願のための新たな迅速審査制度を導入しました。これにより、商標登録証明書の発行までの期間が、標準手続きによる6カ月から4カ月に短縮されます。
この迅速審査制度を利用するには、DIPが定めた以下の要件を満たさなければなりません。
著作権
著作権は、思想を物理的に表現した創作物の創作者に対して所有権を付与する知的財産権です。
一般的に、当該表現は、文学作品、視聴覚作品、ソフトウェア、彫刻、絵画、建築作品、応用美術作品を対象とします。
著作権は、著者、芸術家、その他の創作者に対して、著作者人格権と共に、自らの著作物を利用、公表、商業化する独占的権利を付与します。
著作権は、登録する必要のない唯一の知的財産権ですが、著者、芸術家、その他の創作者が作品を創作した時点で、著作権法B.E.2537に基づき自動的に保護されます。著作権の保護期間は著作物の種類により異なります。
タイにおける著作権の記録手続き
著作物の帰属
タイ法の下では、著作物の起用とは、「受託者」と呼ばれる者が、当該受託者に対して著作物の報酬を支払うことに同意する「委託者」と呼ばれる者のために当該著作物を完成することに同意する契約です。
受託者である著作者が創作した著作物の著作権は、著作者と委託者が別段に合意しない限り、委託者に対して付与されます。
他方、従業員が業務上創作した著作物の著作権は当該従業員に対して付与されますが、雇用主は業務上の目的で当該著作物を公衆に対して伝達する権利を有します。
知的財産権侵害法の法的救済
知的財産法は、特許侵害に対して刑事罰を科します。
経験豊富な法的支援者を雇う重要性
御社の知的財産を保護するために、タイの知的財産権に関する経験と知識を有する現地の弁護士を利用することが必要です。
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