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日本企業のタイ進出を成功させるために必要なサポート

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2021年ジェトロ統計によると、自動車産業を中心に、日系企業のタイへの直接投資は首位となっており、コロナ禍であっても、日系企業にとってタイは依然投資対象として魅力のある国となっています。 しかし、日本とタイは、法律や言語が異なり、現地法律事務所も信頼のおける事務所が少ないため、進出を検討されている企業は、進出のご相談をされた現地法律事務所から十分な説明を得られないまま、やみくもにタイに進出してしまい、その後、外資規制違反やBOI(投資奨励恩典)の申請チャンスを逃すなど、様々な問題に直面することが非常に多いです。 ALGでは、日本人弁護士により、日本側の進出にあたり法人登記以外の様々な観点からのコンサルティングを日本事務所とタイ事務所双方で行い、安心してタイ進出をしていただくことができます。

日本企業のタイ進出における課題

タイにおいて、駐在員事務所設立や現地法人設立を行う際、タイの法令について知識を有しない日系企業は、現地法律事務所や会計事務所に依頼して、設立申請を行うことになります。しかし、こうした多くの現地事務所は日本に拠点を有しておらず責任を持った対応が期待できません。加えて、単に法人登記申請業務を代行するにすぎず、外資規制やBOI(投資奨励恩典)申請の可能性の有無など、進出するクライアントの意図を踏まえた提案を行ってくれません。 また、現地会計法律事務所の多くは、登記内容について日本語訳や解説を行ってくれることはなく、クライアントが意図した通りに設立がされているとは限りません。現地会計法律事務所の関係者が代表者となって出資金など取り込まれるといったリスクもあります。その結果、進出後に、登記をやり直したり、計画通り事業が遂行できない事態となることがあります。 従って、タイ進出にあたっては、日タイ双方で、手続きの内容について十分な説明を受け、タイで行う事業内容に応じた適切な許認可や恩典のタイでの取得を検討しつつ、責任をもってコンサルティングを行える、タイで経験豊富な日本人弁護士に相談されることが肝要です。

弁護士がタイ進出を支援するメリット

タイ会社設立の登記申請書類自体は、2週間もあれば作成可能です。書類さえきちんと作成してさえすれば窓口でのトラブルはほとんどありません。 しかし、どのような会社を設立するのかについては、タイで計画されている事業内容に応じて、事前に検討しておく必要があります。事業内容によって、株主構成や資本金額、タイ資本の会社のパートナーが必要であればその選定、さらには合弁契約書の作成など、検討準備していく必要があります。 事前準備に関連して、タイ進出企業は、①タイの外資規制と②タイの投資奨励恩典を必ず検討する必要があります ①のタイ外資規制は、外国人事業法による外資規制と、国内運輸などの産業別外資規制がありますので、進出企業が計画しているタイでの事業について、外国人事業法に基づく許可が得られるか、産業別外資規制がある場合にその規制をクリア―できるか、を踏まえて、株主構成や必要であればタイでのパートナーを選定する必要があります。なお、外国人事業法に基づく許可申請は、申請準備から許可を得るまで、おおむね6か月の期間を要します。 また、計画している事業がBOI(投資奨励恩典)の対象事業である場合は、事業によっては税務恩典があるほか、上記の外国人事業法による外資規制の免除や、日本人駐在員の就労条件の緩和などの恩典が付与されますので、申請可能であればタイでの会社設立前に必ず検討するべきものです。タイ投資奨励恩典については後程ご説明します。このBOI(投資奨励恩典)の申請も、申請から許可を得るまでおおむね6か月の期間を要します。

タイ進出へのステップ・流れ

会社設立登記のステップは以下の通りです。

第1ステップ

会社の商号(会社名)予約~必要日数約3日

会社の商号予約の効力は1か月間ですので、商号予約をしたら、通常1か月以内に会社設立登記を行います。もっとも、効力が切れた場合、再度予約することが可能です。

第2ステップ

基本定款 (Memorandum of Association) の登記~必要日数約3日

2008年の民商法典改正により全発起人並びに全株主の合意により基本定款の登記は後述のステップ3の創立総会後の会社設立登記と同時に行うことができるようになっています。従って、現在は基本定款と会社設立登記は同時に行うことが一般的です。 基本定款の作成には、以下の内容を決定しておく必要があります。

  • 最低3名の発起人の選任
  • 資本金(登録資本金と払込資本金)の決定
  • 額面と発行株式数の決定
  • 本店所在地の決定(通常、この時点で、オフィスの賃貸契約または予約を締結する必要があります。)
  • 会社の事業目的の決定

第3ステップ

会社の創立総会及び設立登記~必要日数1~14日

創立総会を開催し、会社設立費用、最初の株主、代表取締役及び取締役、付属定款などの決定承認を行います。 前述の通り、発起人と株主全員の同意がある場合は、ステップ2とステップ3は同時に行います。

第4ステップ

会社の銀行口座の開設

通常、取締役会議事録の提出を求められます。 また、株主に親会社など法人が含まれる場合は、親会社の商業登記簿謄本とその翻訳、銀行によっては日本側での公証人による翻訳の認証やタイ領事館での翻訳認証の提出が求められます。さらに、親会社の株主についての情報も税務申告添付書類及びその翻訳を付して提出が求められることがあります。

第5ステップ

資本金の払い込みを証明する銀行の証明書の商務省への提出

資本金額によっては、設立登記後15日以内に行う義務があります。

第6ステップ

税務登録~財務省歳入局又は地方事務所

付加価値税又は特定事業税が課税される事業を行う場合は、営業開始前30日以内に付加価値税(収入の予定がなければしなくとも良い)、開始後30日以内に特定事業税(収入の予定がなければしなくとも良い)の登録を行わなければなりません。

その他の必要手続き

  • 労働許可証及びビザの申請取得
  • 工場建設の場合は、工場設立許可証(Factory Establishment License)及び工業操業免許証(Factory Operation License)の申請取得
  • その他の必要に応じて業務上必要となる各種申請(例;レストラン業の場合のレストランライセンス、輸出入を行う場合は通関ペーパレス申請等)

日本企業へ向けたタイ進出のサポート業務

タイに進出を検討されているクライアントは、タイの法令や実務について全く情報のない状態です。かといって、現地コンサル・現地のタイ人弁護士を含めて、タイの法令を体系的に理解している専門家は、非常に少ないのが現状です。タイへの進出にあたっては、単に会社を設立するだけでなく、タイでの業務内容に応じて事前準備や設立する会社の内容や形態を検討する必要があります。 会社設立前に検討しなければならないこととは、タイで行う事業内容に対するタイ国の法令規制の確認、事前の許認可の申請、タイパートナーの選定及び合弁契約書作成、そして、これらを踏まえた適切な会社の内容・形態です。 このような業務については、タイの法令や実務に熟知した弁護士によるサポートが不可欠となります。

会社設立の手続き関連

タイに進出する際は、タイに支店や現地法人など会社を設立することが必要不可欠ですが、どのような形態・内容で会社を設立するかについては、タイで予定している事業内容に応じて、以下の点などを検討しておく必要があります。 まず、会社設立をするにあたり、上記のような事項を検討し、外資(日本側)100%の会社を設立するか、タイ側バートナーとの合弁企業を設立するかを検討します。 また、外国人事業法の規制を受ける場合でも、商務省から許可を得ることができる場合は、その許可を得た後に、外資(日本)100%での会社設立または支店の設立をすることができます。 投資奨励恩典を受けることができる場合、通常は、BOI(投資奨励恩典)の申請を行い、その許可を得てから会社設立を行います。

進出形態の選択

タイでの会社設立も、日本と同様、主に以下の形態があります。 それぞれの形態に応じて、事前に準備するべき内容が異なるので、弁護士により事前のアドバイスを受けておく必要があるでしょう。

①現地法人

タイ国内の法律に従って設立する会社です。会社の種類は、パートナーシップ法人(合名会社)、有限パートナーシップ法人(合名会社)、株式会社がありますが、ほとんどの場合、株式会社の形態で会社が設立されています。 これら会社の資本の持ち分割合または株式割合については、遂行する事業内容が外資規制を受ける場合で、外国人事業許可を得ない場合は、タイ人パートナーに過半数を保有してもらう必要があります。

②支店

日本本社と同じ法人のまま、タイ国内に支部として設立します。 この場合、日本本社は日本の法律で設立された会社であり、タイの法令上、外資となりますので、支店設立のためには外国人事業許可を事前に申請取得する必要があります。

③駐在員事務所、地域統括事務所など

支店と同じく、日本本社の支部として設立します。駐在員事務所はタイでの情報収集、調達業務、または自社の商品説明などの業務を行うことができますが、販売活動などタイ国内で収益を得る業務は行うことができません。ただし、その代わり、現在では、外国人事業許可を事前に申請取得する義務はありません。 駐在員事務所の変形で、地域地統括事務所もありますが、こちらも駐在員事務所と同様、タイで収益を得る事業活動はできません。

ビザ・ワークパーミットの取得手続き

日本人駐在員など外国人が対で働くには、就労ビザ(ビジネスビザ)と就労許可(ワークパーミット)の両方を取得する必要があります。 就労ビザや就労許可なしで、タイで働くために滞在している場合、それが判明すると不法滞在として罰金が科されるほか、ひどい場合は強制帰国命令や一定期間のタイへの入国禁止命令が科されてしまいます。 従って、外国人の就労ビザ及び就労許可の手続きは、必要となる書類の事前の準備などを含め、普段から準備しておくことが必要です。 必要書類には、勤務する会社の年次・月次税務申告書類、社会保険料申告書類、会社登記関連書類、財務諸表など、様々な書類が必要となります。さらに、就労許可の条件として課される資本金額やタイ人の雇用人数もありますので、そうした条件を更新のたびにクリアーしているかの確認も重要です。

就労ビザや就労許可の期限直前に一つでも必要書類や条件が欠けていると、延長許可を得ることができず、いったん出国を余儀なくされる事態ともなります。 また、タイへの再入局にあたって、就労許可の期限が切れていたため、長期間の不法滞在とのちになって指摘されるケースもあります。 従って、駐在員の就労ビザや就労許可の管理については、普段から、これら手続きに熟知した顧問弁護士などに継続的なモニターを依頼することが肝要です。

BOI企業の設立

タイ進出をするにあたって、タイで行う事業がタイの投資奨励恩典の対象となるか否かを検討する必要があります。タイ投資奨励恩典は、その管轄機関である投資奨励員会の英語名であるBoard of Investmentの頭文字をとって、BOIとも呼ばれ、投資奨励恩典を付与されて事業遂行している企業はBOI企業とも呼ばれています。 BOIには、以下に後述するような、税務恩典と非税務恩典がありますが、いずれも外資企業や外国人雇用などに対する規制緩和恩典が付与されますので、タイで行う事業がBOIの対象となる場合は、積極的に活用するべきです。 ただ、BOIは申請にあたって、恩典の対象がなるべく広くなるよう様々な工夫が必要です。投資金額の決定や投資のタイミングなどについても厳格な条件があります。ところが、残念ながら、現地スタッフや現地コンサルティング事務所にBOI申請依頼をしても、こういったアドバイスはほとんどありません。その結果、せっかく投資してもBOI付与の条件の一つである投資金額に含まれず、やむを得ず追加投資を余儀なくされたり、BOI対象となる事業範囲が狭すぎてすぐに追加でBOI申請が必要となるといった事態も多くみられます。最悪の場合、BOI申請が却下される事態もあります。こういった事態にならないよう、BOI申請実務に熟慮した弁護士による事前の相談が不可欠といえます。

【BOI企業として認可されるメリット】 BOI企業として認可されると、以下のBOI恩典が付与されます。

  • 一定期間内の法人税免税(ただし業種によります)
  • 機械設備の輸入関税の免除
  • 原材料・部品の輸入関税の免除
  • 外国人事業法による事業許可の免除
  • 外国人就労ビザや就労許可の条件と手続きの緩和
  • 事業用土地の所有許可

合弁・M&A関連

タイ進出にあたっては、外国人事業法の適用を逃れるためはもちろん、タイ市場へのアクセスや製造設備や従業員のスムーズな獲得のために、すでにタイに進出しているタイ資企業と合弁、または買収(M&A)するなども少なくありません。適切な合弁企業の設立やタイ法人の買収は、進出の際のコスト低減やその後の運営やタイ市場での売上増加に大きなアドバンテージを生むことになります。 以下、簡単に、タイにおける合弁会社やM&Aについて、押さえておきましょう。

合弁会社

タイ企業など現地企業と共同出資をして設立する会社を、合弁会社といいます。 タイの税法では、現地企業と共同出資をして会社を設立するわけではないが、共同出資してタイで事業を行う場合、合弁事業体と言って税務上の納税主体となる場合もありますが、合弁会社と合弁事業体は、合弁会社があくまでもタイに会社を設立するのに対して、合弁事業体はタイに会社を設立することなくタイ企業などとはパートナーシップ契約などを締結してタイで事業を遂行する点が異なります。 タイの実務では、合弁会社でも合弁事業体でも、ジョイントベンチャーと呼ぶことがありますので、注意が必要です。

合弁会社を設立するメリットの一つは、日本企業にとってはまず外資規制法の適用を回避できる点です。また、その他タイ市場へのアクセスやすでに稼働している工場設備の利用などにもアドバンテージがあります。 ただし、タイ現地企業に合弁会社の株式を保有してもらう必要がありますので、株式保有をしてもらうタイ現地会社は複数としたり、合弁会社の運営に関するルールを事前に取り込めておかなければなりません。従って、タイ現地企業と合弁会社を設立するにあたっては、合弁会社の運営などについての適切なルールを事前に定める合弁契約書の作成が必要です。

合弁契約書の作成にあたっては、タイでの合弁企業運営について定めるべき適切なルールやその後の撤退戦略などを踏まえて、タイ合弁会社の実務に熟知した弁護士による、中長期的な視野に立ったリーガルレビューを行ってもらいましょう。

M&A

M&Aとは、企業合併・企業買収のことです。 タイ進出の際のM&Aは、すでにタイで事業遂行しているタイ現地会社との合併や買収を行うことになります。 タイの法令では、現在のところ、企業合併や買収については、以下の3つの方法が整備されています。

  1. 新設合併
  2. 事業の全部または一部譲渡
  3. 株式買収

吸収合併は、将来の法改正により持ち込まれる予定ですが、現時点ではまだ認められていません。 いずれのケースによる場合でも、M&Aを行うにあたっては、タイ現地会社の財務上・法務上のリスクを適切に評価して、合併や事業・株式買収の価格を算定しなければなりません。 従って、M&Aに先立ち、タイ現地会社への財務・法務デューデリジェンス、その後のM&A遂行のための契約書の作成が不可欠です。

タイ進出企業を取り巻く法令・コンプライアンス問題

タイでも、日本よりは細かい規制はないものの、税務、労働、外資規制、民事(会社法)・刑事、不正競争防止・知的財産権防止、個人情報保護、建築・環境規制などの法規制が存在しており、これらへの違反はタイに進出した企業へ具体的な損害を及ぼしたり、事業遂行の停止をせざるを得ない場合があるほか、コンプライアンス違反として日本本社にも影響を与えます。また、違反にした法規制によっては、日本人駐在員へ刑事罰が科されるリスクもあります。

法務・コンプライアンス

タイで設立された会社は、タイの事業者を取り巻く、様々な法令を遵守しながら運営をしていなかなればなりません。 2019年には、タイにおいても、個人情報保護法が導入されることになり、日本本社と同様に個人情報保護に向けた制度作りがタイ子会社にも求められます。 さらに、日本本社の親会社とするタイ子会社の場合は、日本の独占禁止法や外国公務員贈賄罪に代表される不正競争防止法の域外適用がされる場合もあります。 また、日本から遠く離れ、言語・文化も異なる地では、不正防止のための様々な内部統制の整備と継続的なモニタリングができる体制を構築しておく必要があります。特に、コロナ禍以降、タイ進出の日系企業は日本本社からの日本人駐在員の人数を減少させており、進出後のタイ子会社に対する内部統制とモニタリング体制は、日本の弁護士事務所・弁護士法人と連携のとれたタイの弁護士事務所への委託するなどの需要が強まっています。

外国人事業法に基づく外資規制

タイでは、製造業と輸出業を除き、外国人・外国法人やそれらが直接間接に51%以上持ち分や株式を保有している会社に対しては、原則としてタイ国内で事業活動を行うことが、外国人事業法(Foreign Business Act, FBA) により禁止されています。 外国人事業法(FBA)により、禁止されている事業は、リスト1特別な理由から外国人の営業を禁止する事業、リスト2国家安全保障、文化、伝統、地場工芸、天然資源・環境に影響を及ぼす事業、リスト3外国人との競争準備が整っていない事業、の3つのカテゴリーに分かれています。このうち、リスト3に該当する事業に関しては、商務省より外国人事業許可(ビジネスライセンス)を取得して外国法人や外資会社でもタイで事業を行うことができるようになります。ただし、外国人事業許可(ビジネスライセンス)の許可が得られるには、必要性とタイでの競争の有無などが検討要素となります。

外国人事業許可(ビジネスライセンス)の申請から許可書取得までは、おおよそ6か月ほどの期間を要し、申請する側のクライアントも事業計画や事業内容の作成など様々な作業を行う必要があります。しかし、申請代行を依頼される専門家のほとんどは、許可が得られるかどうかの見通しを検討しないまま申請作業を行うことが多かったり、申請内容がリスト1や2に抵触してしまい、許可が得らえない結果となることも少なくありません。そのため、外国人事業法の申請手続きに熟知した弁護士により、事前の相談や許可取得可能性の見通しを十分検討させ、説明を受けたうえで、申請許可を行うことがすすめられます。

紛争解決・撤退関連

タイ進出企業が、やむを得ず紛争やタイから撤退しなければならない事態に直面した場合、タイにおいても紛争解決手続き、撤退手続きについて規定があります。 これら手続きは、一般の方には理解することが難しい分野であり、現地コンサルによる説明もほとんどないのが現状です。 以下、概要について、解説します。

紛争・仲裁手続き

タイの会社と紛争があった場合、日本と同様、裁判の提訴または対応をすることが一般的です。 タイの日系企業が自ら裁判を提訴する場面はそれほど多くありませんが、下請でつかっているタイの会社や近隣の工場から訴えらえることがあります。タイでは、当事者間で交渉を長期間を行う前に、少し交渉して話がまとまらなければ、裁判所に提訴したうえで、裁判手続きの中で協議するといったことがよく行われますので、裁判自体は日本ほどめずらしくありません。 また、普段、民事裁判の提訴することに消極的なタイの日系企業でも、売掛金の回収では、消滅時効完成の回避、貸し倒れ償却費を損金計上する目的で、民事裁判を提訴する必要もあります。 さらに、企業側が納得できない課税処分を受けた場合は税務裁判、労働者に不当解雇などで提訴された場合は労働裁判への対応の準備をしなければなりません。

また、タイにおいても、こうした裁判手続きによるほか、仲裁制度も用意されています。 こちらは、当事者間で仲裁制度を利用することに合意していることが前提となりますが、タイ以外の仲裁機関を利用して仲裁判断を受けた場合でも、原則としてタイでその仲裁判断に基づく強制執行を行うことが可能となっています。タイの仲裁機関で仲裁判断を受けた場合は、一定の国であれば同じく、その仲裁判断を他国で執行することができます。 仲裁による紛争解決は、紛争に関連する業界の専門家(仲裁委員)による判断を受けられるほか、仲裁判断は終局的判断ですので、裁判に比べて速やかに紛争が解決されることが期待されています。しかし、仲裁委員の報酬、これを担当する弁護士の報酬など、裁判に比べて費用は高額になることが多いです。

タイの裁判代理は、タイ人弁護士の専業となっています。 ここで、あえてタイ人弁護士と言っているのは、タイの弁護士資格はタイ国籍者のみに認められているためです。 もっとも、日本の司法試験と比べると、非常に簡単な研修と試験で弁護士資格が付与されますので、弁護士の能力や業務報酬には非常にばらつきがあります。 日系企業などが納得できるように、裁判の見通しを説明したり、手続きの流れを説明できるタイ人弁護士はそう多くありません。訴状や答弁書についての法的な根拠についてもあいまいな説明であることが多いです。 弁護士倫理に関しても、日本の弁護士ほど徹底されていないのが現状です。最悪の場合、いつの間にか、相手方の側に立っている場合さえあります。 依頼する側の日系企業に、リテラシーがないと、予想外の結果となる恐れがありますし、信頼のおける弁護士を選任することも非常に難しいといえます。 従って、タイでの紛争解決については、タイの裁判制度に熟知した日本人弁護士などが存在し、日本にも法律事務所があるなど信頼のある事務所に依頼するべきであるといえるでしょう。

撤退手続き

不幸にもタイでの事業がうまくいかず、タイからの撤退を検討される場合、設立したタイの会社を自ら解散・清算して撤退する場合がほとんどです。 あるいは、タイの会社を他社に買収してもらって撤退する場合もあるでしょう。

タイの会社の解散・清算手続きは、株主総会の特別決議により株主の賛成多数の承認を得なければなりません。しかし、タイの会社が合弁企業である場合は、事前に協議を行い、合弁相手が保有している株式を買い取る交渉を行うことが多いです。 また、解散するタイの会社に債務がある場合、日本の親会社に資金を送ってもらって任意に清算しなければ、自ら清算することができません。この場合は、特別清算という手続きに移行し、破産会社と同じ手続きで会社の清算を行う必要が出てきます。特別清算の場合、破産手続きが適用される結果、すべて終了するのには10年といった非常に長い期間を要します。従って、多くの日系企業は、特別清算にならないよう、債務を任意に清算し、自ら清算登記するようにしています。

さらに会社の解散・清算にあたっては、その他以下のような問題などを同時進行的に処理することが多いです。

  • 解散前の資金の日本への送金
  • 従業員の解雇手続き
  • 部または全部の事業譲渡
  • BOIの取り消し
  • 清算中の税務調査対応

上記のように、タイに進出した会社の撤退は、税務、労務、会社法、破産法などにまたがる様々な問題を統一的に処理していくことがスムーズなタイからの撤退のキーとなりますので、単に会社の解散・清算手続きのみでなく、様々な問題に熟知している弁護士のアドバイス・サポートが不可欠と言えるでしょう。

企業のタイ進出を成功させるためのポイント

以上、見てきたように、タイ進出にあたっては、様々な法令に関する情報収集・調査が必要となります。 しかしながら、情報源は、タイ語であり、主にタイ人弁護士の調査によるものですので、情報・調査結果を受け取る側にリテラシーがない限り、受け取った情報・調査結果への信頼性の確認ができません。 タイ企業と合弁を行う場合も、タイ人弁護士など専門家を通じた調査を事前に行う必要があり、この点でも、上記のような信頼性といった問題があります。

さらに、タイの法律事務所では、大事務所も含めて、分野ごとに専門分野が特定されていることがほとんどです。労働問題は詳しくも会社法についてはよく知らない、税務ついては全く知らない、という場合がほとんどで、大事務所では、数多くの弁護士を同席させてコンサルティングを受けることができるでしょうが非常にコストがかかりますし、通常の法律事務所の場合、クライアントが質問したことのみ回答が得られる結果となってしまいます。

また、最近では、タイで会社設立を依頼されたコンサルタントが、会社を設立せずに資金を横領したり、クライアントが意図した通りの会社を設立していないといった事件も発生しています。 従って、タイ進出の際には、日タイ両方で、税務、労務、会社法、外資気鋭、BOIなど横断的に多角的な観点から法的アドバイス・支援をすることができる弁護士にご依頼されて、進出準備を行うことをお勧めいたします。