ニューズレター


2015.Jun Vol.42

休職処分及び休職期間満了による退職処分の有効性~静岡地裁平成26年7月9日判決~


2015.6.vol.42掲載

Ⅰ 事案の概要

社会福祉法人(Y1法人)が、適応障害に罹患し休職中の職員(X)を、就業規則に基づき、降格処分とするとともに、休職中の賃金を支払わず、その後、休職期間満了を理由に退職処分としたところ、Xが、Y1法人の常務理事(Y2)のパワハラが原因で適応障害を発症し休職したのだから、降格処分や退職処分は無効であるとして、雇用契約上の権利を有する地位にあること及び降格前の地位にあることの確認、休職期間中・退職処分後の未払賃金4,593,805円及び遅延損害金の支払いをY1法人に求めるとともに、Y1法人及びY2に対して、慰謝料及び遅延損害金を連帯して支払うよう求めた事案です。
主な具体的争点は、Y2のパワハラの有無、各処分の有効性、Y1法人の安全配慮義務違反の有無でした。

Ⅱ 静岡地裁平成26年7月9日判決

1 Y2のパワハラについて否定

Y2のパワハラの有無についてですが、裁判所は、Y2が、Xに対して、デイサービスの利用者拡大のために改善策を提案すること等の指示や叱責するなどしたことは認め、Xが相当の心理的負荷を受けたことが容易に想定されるとする一方で、Y2による指示や叱責等は、それが行き過ぎる場合があったとしても、主として、発足間もないデイサービスの経営を軌道に乗せる意図であり、私怨等に出たものとは認められず、Xのデイサービスのセンター長という立場を踏まえると、Y2がXに対して、頻繁に利用者拡大のための改善策を提案させるなどしても、常務理事というY2の職務に照らして不当とはいえず、その他、日常的に威圧的な言動を用いたり、適正な範囲を超える業務を強要したとまでいえないなどとして、Y2のパワハラを否定しました。

2 退職処分は無効

退職処分の有効性については、Xの適応障害が業務上の疾病にあたれば、その療養中の解雇は労働基準法19条1項に違反し無効であることを前提に、本件では、業務上の疾病にあたるとして退職処分を無効と判断しています。
具体的には、労働基準法19条1項の業務上の疾病もいわゆる労災と同様に業務に内在する危険が現実化した場合をいうと解したうえで、Xが、慢性的な人手不足の中、デイサービスの現場作業、センター長としての管理業務、利用者拡大の改善提案等を行い多忙を極め、Y2との軋轢、職場での孤立感も重なっていたことから、Xの業務は客観的にみて精神疾患を発病させるに足りる程度の十分な強度の精神的負担をかけるものであるとし、他方で、Xに精神疾患の既往歴もなく、業務以外の要因も認められないことから、Xの適応障害は業務上の疾病にあたるとしています。

3 降格処分は有効

降格処分の有効性については、Xが、一方的に診断書を提出し出社しなくなり、復職の見込みや時期について連絡すらしなかった為なされたものであることや実質的に賃金の減額がないことから人事権の裁量の範囲内として有効と判断しました。

4 Y1法人の安全配慮義務違反は認める

Y1法人の安全配慮義務違反については、何らXの健康に配慮する特別の措置を講じたことを窺わせる証拠はないとして、安全配慮義務違反を認めました。

5 結論

以上を踏まえ、本件では、Y2のパワハラに基づく慰謝料等については認めなかったものの、Y1法人に対する雇用契約上の権利を有する(降格後の)地位の確認、休職期間中・退職処分後の未払賃金(労災給付を控除)等の請求、安全配慮義務違反に基づく慰謝料50万円等の請求が認められています。

Ⅲ 実務における留意点

従業員がうつ病等の精神疾患を患った場合、その従業員を休ませることが多いと思います。労務の提供が十分にできないのであれば、休ませること自体は問題ないでしょう。もっとも、その精神疾患の原因が、業務上の疾病か否かには注意を払う必要があります。労働基準法19条1項の業務上の疾病であれば、その療養のため休業する期間及びその後30日間は解雇できません。

また、労働災害保障制度における業務上の疾病と労働基準法19条1項のそれとは同様に解釈されることから、いわゆる労災としても取り扱う必要があります。更には、パワハラや安全配慮義務違反が認められれば、逸失利益の不足分、慰謝料等、労災給付で填補されないものまで賠償しなければなりません。近時、精神疾患(特に鬱)と自殺との因果関係が認められる傾向にあることを踏まえれば、精神疾患が業務上の疾病と認められるかについて細心の注意を払うとともに、積極的に適切な措置を講じることが極めて重要です。

では、従業員の精神疾患が業務上の疾病か否かはどのように判断すべきでしょうか。重要な目安として、厚生労働省労働基準局長通達基発1226第1号があり、裁判所がこの基準を重視していることは明らかです。

もっとも、明らかなパワハラや加重労働は、調査すれば比較的容易に判明しますが、本件もそうですが、パワハラか否かが微妙で、しかも、残業時間も少なく(本件では、持ち帰り仕事の点は考慮されているものの、所定労働時間外・休日労働時間0分)、業務としても優秀な従業員であればこなせるようなものの場合、判断に迷い、どうしても業務上の疾病ではないと判断しがちです。

企業としては、従業員が精神疾患に罹患した場合、ひとまず、本当に精神疾患に罹患しているか否かを産業医などの診断書等で確認するとともに、業務上の疾病か否かに関して、上司等へのヒアリングなどを通じて労働環境を調査し、業務の負担軽減・休職等の措置を講じることになるでしょう。仮に、業務上の疾病か否かが微妙であれば、普通解雇しないことは当然として、休職期間を満了しても退職処分とせず、労災申請に協力しつつ労災認定の結果を待つというのが一つの方法でしょう。また、従業員の精神疾患が非常に多い現在、従業員が業務に関して第3者に損害を与えた場合のリスクと同様、企業としては、常に生じ得るリスクとして備えることが不可欠となっているように感じます。

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