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従業員に企業秘密を持ち出されたら?企業がとるべき対応や事前にできる対策

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監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員

従業員による企業秘密の持ち出し事件は数多くメディアに取り上げられ、後を絶ちません。
これらの背景としては、企業競争の激化や情報の電子化、人材流動の活性化などが要因として考えられます。

さらに、テレワークの普及によって漏洩リスクはますます高まっているといえるでしょう。
企業秘密を持ち出された場合、会社には大きな損害が発生するおそれがあります。
持ち出された場合の適切な対応や、未然に防止するための対策について解説していきます。

従業員に企業秘密を持ち出されたときのリスク

従業員に仕事を任せる以上、一定の企業秘密を開示することは避けられません。
では、企業秘密を従業員が持ち出した場合、会社はどのようなリスクを負うでしょうか。

例えばそれが顧客リストであれば、同業他社の手に渡ることで顧客を奪われるリスクに繋がります。
もし、その情報が個人情報に該当する類いのものであれば、個人情報保護法上の安全管理措置義務違反を問われかねません。

企業秘密が漏れてしまう管理体制なのだと認知されれば、株主や投資家へ不安を与えてしまうでしょう。
社会的信用の低下に繋がれば、経営への影響も大きくなります。

不正競争防止法が保護する「営業秘密」とは?

営業秘密とは、企業秘密の中でも特に事業活動に有用なものとして厳重に管理された、技術上または営業上の情報をいいます。
もし営業秘密が不正に持ち出された場合には、不正競争防止法により民事上、刑事上の措置をとることがあります。

従業員には雇用契約に付随する義務として、営業秘密を含む秘密保持義務があります。
これは就業規則等に特別な規定がなかったとしても、発生する義務です。

営業秘密の持ち出しは、出来心ですむ問題ではなく、不法行為に該当するので毅然として対応しましょう。

営業秘密に該当するための3つの要件

営業秘密は法的に保護される対象です。
保護の対象となるには、その秘密性が社内においても明確でなければなりません。
社外秘は徹底されていても、社内でオープンな状態であれば保護の対象にはならないのです。

企業秘密が営業秘密と認められるには以下の3要件が必要です。

  • 秘密管理性

    社外秘の表示や、情報にアクセスできる従業員の範囲を制限するなど、明確な管理体制があり、情報の取扱いにルールが定められている状態を指します。

  • 有用性

    客観的にみて、事業活動に有用な技術上または営業上の情報に該当することをいいます。

  • 非公知性

    一般的に知られていない情報で、容易に入手できないことをいいます。

どれか1つでも欠けていれば営業秘密としての保護は受けられなくなりますので注意しましょう。

特に、会社の管理状況次第では、秘密管理性が否定されてしまう場合があるので、秘密管理性を有しているかについて顧問弁護士等に相談するのが良いでしょう。

従業員に営業秘密を持ち出された場合の対応

営業秘密の持ち出しが発覚した場合は、どの情報が、どこまでの範囲に流出しているかを早急に特定し、回収を図ることが重要です。

被害範囲を確定し、漏洩事実と対策を公表するなど、迅速な対応が求められます。
また、従業員に対する民事上・刑事上の措置についても検討が必要です。

民事上の措置(差止請求・損害賠償請求)

民事上の措置として主なものに、差止請求と損害賠償請求があります。それぞれの要件や請求内容等は以下の通りです。

差止請求

差止請求は、営業上の利益を侵害され、または侵害されるおそれがある場合に、裁判所へ侵害の停止または予防を求めることが可能です。
侵害原因となった物の廃棄、設備除去の請求も可能ですので、営業秘密を活用した商品の廃棄を求めることもできます。

ただし、差止請求は、知ったときから3年の消滅時効と、行為開始時から10年の除斥期間があるので注意しましょう。

損害賠償請求

従業員の秘密保持義務違反による債務不履行・不法行為に対する損害賠償の請求が可能です。
不正競争による損害額の算定が困難な場合、従業員が侵害行為によって得た利益を損害額として推定することができます。

その他、信用回復措置の請求もあります。信用回復措置とは、謝罪広告や謝罪文の掲載等が該当します。

刑事上の措置(不正競争防止法の営業秘密侵害行為)

不正競争防止法には、民事上の責任規程だけではなく、刑事上の処罰規定も設けられています。

会社の営業秘密を持ち出され、会社に不利益が生じた場合には、営業秘密侵害行為として、10年以下の懲役もしくは2000万円以下の罰金、またはその両方の刑罰が科されることとされており、刑事罰として重いものとなっています。

さらに、法人に関わるものが、営業秘密侵害行為に関与している場合、法人にも5億円以下の罰金(海外使用等の場合は10億円以下の罰金)とされています。
従業員の営業秘密の持ち出しが発覚した場合は、不正競争防止法違反の可能性が無いか検討しましょう。

刑法上の措置(窃盗罪・業務上横領罪)

営業秘密の要件を欠くなどの理由で不正競争防止法違反で刑事告訴できない場合でも、会社の秘密情報を持ち出すことは、刑法上の「窃盗罪」もしくは「業務上横領」にあたるケースがあります。
どちらの犯罪に該当するかは、行為者の業務上の権限によって異なります。

情報管理者が営業秘密が記載された紙やUSBメモリ等を不正に持ち出した場合には、業務上横領罪が成立します。
他方、権限を持たない従業員の場合は、窃盗罪となります。

これらの犯罪の成立には、盗まれた対象が「財物」である必要があります。
秘密情報が記載された書類はもちろん「財物」ですが、情報をデータ媒体(USBメモリ等)に複製して持ち出した場合にもデータ媒体として財物性は認められています。

しかし、窃盗罪等の成立には、その媒体が会社所有であることが必要です。もし、データをコピーして持ち出したとしても、媒体が従業員所有の場合には、窃盗罪や業務上横領罪の犯罪は成立しません。

営業秘密を持ち出した従業員を辞めさせることはできるか?

営業秘密を持ち出した従業員は、社内規律違反として懲戒処分の対象となるでしょう。
懲戒処分とするには就業規則の懲戒事由に該当しなければいけませんので、まずは規則の確認が必要です。
事案によっては懲戒解雇もしくは普通解雇の対象となり得ます。

ただし、解雇権濫用防止のため、解雇には客観的にみて合理的な理由と、社会通念上も相当であることが必要です。
解雇とするには、結果の重大性や行為の悪質性、態様などを総合して慎重に判断しましょう。
これらのバランスが不均衡であれば、従業員から不当解雇として主張される可能性があります。

もし、会社側から損害賠償請求していれば、対抗策として主張してくることもあり得るでしょう。
当然に解雇とするのではなく、その判断の正当性を証明できる体制を整えておくことが大切です。
就業規則の整備や懲戒処分の判断については、法的判断を伴いますので弁護士へ相談することをおすすめします。

退職した従業員による営業秘密の持ち出しへの対処法

原則として、退職者に秘密保持義務や競業避止義務は当然には発生しません。
退職時に秘密保持誓約書を締結する、就業規則に競業避止義務を規定するなどで一定程度の義務を課すことは可能です。

ただし、これらの特約がなかったとしても、不正競争防止法違反や不法行為として損害賠償請求や刑事罰の対象とできる場合はあると考えられます。
報の持ち出しが発覚したら、まずは流出経緯(いつ、誰が、情報の範囲など)を調査し、事実関係を確認しましょう。

調査内容は法的措置に備えて、記録化しておきます。また、情報の使用停止や返還を求めるために、退職者に対して内容証明郵便で警告書を送りましょう。

従業員による営業秘密の持ち出しを防ぐための対策

従業員による営業秘密の持ち出し防止はどの会社にも共通の課題といえます。
では、どのような対策が必要でしょうか?主な予防策は、以下の通りです。

  • 就業規則への規定
  • 秘密情報の管理ルールの策定
  • 従業員との秘密保持契約の締結
  • 従業員に対する研修・教育の実施

就業規則への規定

就業規則への規定内容としては、①従業員の秘密保持義務、②秘密保持義務の対象となる具体的な情報、③秘密保持義務違反時の処分内容(懲戒事由)は定めておくべきでしょう。

営業秘密等の情報全般に関するルール(情報管理規程)を就業規則本体と別に定めることも可能です。
別規程にすることで、情報管理の重要性が分かりやすくなります。

情報管理規程の作成は法的義務ではありません。
しかし、情報がもつ経営への影響の高さを考えれば、作成する意義は十分あるでしょう。

情報管理規程を内規としてしまうと、法的拘束力がありませんので、周知と労働基準監督署への届出を行い、就業規則と同様の運用を行いましょう。

秘密情報の管理ルールの策定

営業秘密として認められるためには、秘密情報の管理ルールを策定し、周知することが重要です。
また、ルールに沿った運用ができているか定期的にチェックすることも大切です。管理ルールの具体例は以下の通りです。

  • 機密書類ごとに(マル秘)などの表示をし、一般情報と異なることを明確にする
  • 機密情報にアクセスできる権限を社員レベルで設定し、閲覧制限を設ける
  • 保管施設への入退出を許可制にするなど制限をかけ、つど施錠を行う
  • 電子ファイルのアクセスにパスワードや生体認証を設定する
  • 情報の暗号化やメール転送の制限を設定する
  • 復元不可能な措置を講じてデータを確実に消去・廃棄できるシステムを構築する

適切な管理が行われていれば、情報の持ち出しが発覚した場合の法的対処もスムーズになります。
持ち出しが許されない情報であることが客観的に明確なルールにしましょう。

従業員との秘密保持契約の締結

すべての従業員と秘密保持契約を締結することも有効な手段です。
役員等に対して行うことも検討するとよいでしょう。

さらに、業務提携している個人事業主とも締結することで、外注依頼の安心感が高まります。
退職後の秘密保持も踏まえて、退職時の書類に秘密保持契約書を含める運用も検討しましょう。

従業者に対する研修・教育の実施

情報の取扱いに関するリテラシー強化には、定期的な研修などが不可欠です。
特に管理職と新人社員については研修回数を増やすなどしても良いでしょう。

企業秘密の重要性を認識できれば、日々の情報取扱いに対する意識を高めることに繋がります。

従業員による営業秘密の持ち出しに関する裁判例

営業秘密の持ち出し事件は、売上減少などの目に見える被害だけではありません。

会社が信用を失えば、将来的な利益にも大きな影響が発生します。
従業員の営業秘密持ち出しによる損害賠償請求の裁判例をご紹介します。

事件の概要

(平成25年(ワ)第19695号・平成27年3月30日・東京地方裁判所・第一審)

不動産業を営むY社で勤務していたXは、在籍中に不動産業を営む会社を設立し、その後Y社を退職しました。
その際、XがY社所有の契約書や、その他の業務書類等を不正に持ち出していることが発覚しました。

さらに、Y社と委託管理契約を締結していた顧客らに対して、虚偽の事実を告げ、Xの新設会社との間で委託管理契約を締結させるなど不正な営業活動を行っていたことも明らかになりました。

Y社の顧客を不正な手段で奪うXの行為は不法行為であるとして、Y社は顧客を奪われたことによる委託管理報酬や更新手続報酬相当の損害賠償の請求を訴えました。

裁判所の判断

裁判所はXのY社に対する行為を不法行為と認定し、損害賠償請求の一部を認めました。
Xは、Y社が所有していた物件に関する契約書やその他の書類を無断で持ち出し、Y社のパソコン内のデータを消去しています。

さらに、Xの業務用の小部屋の鍵も取り替え、Yの従業員が入れないようにしました。
Xによるこれら一連の行為は、Y社の正常な営業活動を妨害したと裁判所は認定しました。
Xが不法に入手した情報は営業上の重要情報に該当するとされています。

その上で、たとえ情報の機密性が高度でないとしても、Y社の営業活動を違法に、かつ、不公正な態様で妨害した行為を考慮すれば、自由競争の範囲を逸脱した行動であると判示しています。

ポイント・解説

XはY社で最も在籍年数が長く、別室の鍵の管理も任されていました。
契約書等の書類についても制限なく利用が可能な立場にありました。

このような立場を悪用した企業秘密の持ち出しと不正利用は、すべての企業で起こり得るリスクです。
本事案では、Xによるこれらの行為発覚後、すぐに弁護士へ相談し対応しています。

具体的には、持ち出し書類の存否確認の要求や、パソコンから持ち出した情報の消去と禁止、鍵の返還等を弁護士の文書で求めています。
これらは裁判で、Y社の対応の証拠として認定されています。

情報の持ち出しがあった場合には、すぐに弁護士へ相談して適切な対処をとることをおすすめします。

企業秘密の持ち出しへの対応・予防策でお悩みなら、法律の専門家である弁護士にご相談下さい

企業秘密の漏洩は、たった一度で会社に大きな損害を引き起こすリスクがあります。
企業秘密の管理ルールの策定や、情報リテラシーの研修等は今すぐ取り組むべき課題の1つです。
予防策を講じても、漏洩リスクはゼロではありません。

もし、従業員による企業秘密の持ち出しが起きた際には、迅速な法的対処が必要となります。
適切に対応するためにも専門家である弁護士へすぐにご相談ください。

弁護士法人ALGでは企業法務を熟知した弁護士が多数在籍していますので、会社のお悩みに応じた柔軟な対応が可能です。
漏洩の予防対策から発生時の対処まで幅広くサポートすることで、会社の大切な営業秘密を守ることができます。

この記事の監修

担当弁護士の写真

弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員

保有資格
弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

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