過労死の労災認定基準とは?遺族ができる労災申請や損害賠償請求について

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厚生労働省が公表している令和4年度「過労死等の労災補償状況」では、過労死等の労災補償請求件数3486件に対して労災認定された件数は“904件”となっています。 過労死の労災認定には様々な基準があり、簡単に認定されるわけではありません。

また、厚生労働省は過労死をゼロにし健康で充実して働き続けることのできる社会を目指すために、「しごとより、いのち」というキャッチコピーのもと過労死防止対策を掲げています。 しかし、過労死等の労災補償請求件数は増加傾向にあり、過労死問題は日本社会にまだ根深く残っている状況です。

本記事では、大きな社会問題である「過労死」に着目し、過労死の労災認定基準や遺族ができることについて詳しく解説していきます。

過労死の定義とは?

過労死とは、一般に、長時間労働や過重労働により脳や心臓疾患または精神疾患となってしまい、そのことが原因で亡くなってしまうことをいいます。

過労死のない社会を目指すための法律である過労死等防止対策推進法では、具体的には以下のように定義されています(第2条)。

  • ・務上の過重な負荷による脳血管・心臓疾患が原因となる死亡
  • ・業務上の強い心理的負荷による精神障害が原因となる自殺による死亡
  • ・脳血管疾患、心臓疾患、精神障害

また、死亡とならなかった場合についても、過労死等防止対策推進法の対象に含まれています。

過労死ラインとは?長時間労働との関係

過労死ラインとは、健康障害となるリスクが高まるとされる時間外労働の時間、いわゆる「残業時間」を指す言葉です。 仕事と過労死の因果関係を厳密にすることは難しいことから、厚生労働省は残業時間を一つの目安として「脳・心臓疾患の認定基準(=過労死ライン)」を設けています。

なお、厚生労働省が定める過労死ラインの目安は、以下のとおりです。

  • ・1ヶ月100時間以上の時間外労働
  • ・2~6ヶ月の平均時間外労働が80時間以上

また、過労死ラインは2021年9月に約20年ぶりに認定基準が改正され、最新の医学的知見を踏まえた内容になりました。 昔の日本とは異なり、働き方の多様化や職場環境の変化などが生じていることから、認定基準の改正にいたりました。

長時間労働による身体への影響

過労死の原因となる長時間労働は、身体に甚大な影響を及ぼします。 具体的には、以下のような影響を身体に及ぼします。

  • 疲労の蓄積
    長時間労働をすると、睡眠時間や余暇の時間が削られるため疲労が蓄積します。
    肉体的・精神的な疲労の蓄積は身体に大きなダメージを与えます。
  • 脳・心臓疾患のリスクを高める
    肉体的・精神的な疲労の蓄積は、脳や心臓疾患になるリスクを高めます。
    長時間労働により十分な睡眠がとれず、疲労回復が困難となることが主な原因です。
  • 幸福度が低下する
    幸福度は、労働時間が増えるほど低下するといわれています。
    余暇を楽しむ時間がないことにより、幸福を感じる機会が失われ、幸福度の低下へと繋がります。

過労死の労災認定基準

厚生労働省は、過労死の労災認定基準として「脳心臓疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」を公表しています(平成13年12月12日付基発1063号)。 この認定基準によれば、過労死の労災認定基準は以下2つの要件を満たすこととされています。

  • ①脳心臓疾患及び虚血性心疾患等を発症したこと
  • ➁業務による過重負荷があったこと

厚生労働省は、脳・心臓疾患の原因となる血管病変等は生活の営みを長い年月送ることにより徐々に進行し増悪した結果、発症するものとしています。 しかし、そこに業務による過重負荷が加わることでその進行を加速させることから、脳・心臓疾患と業務との関連性は極めて高いものであると考えています。

脳・心臓疾患

過労死の労災認定基準の要件の1つは、“脳心臓疾患及び虚血性心疾患等を発症したこと”です。 その対象となる脳・心臓疾患は、次のとおりです。

  • ■脳血管疾患

  • ・脳内出血(脳出血)
  • ・くも膜下出血
  • ・脳梗塞
  • ・高血圧性脳症
  • ■虚血性心疾患等

  • ・心筋梗塞
  • ・狭心症
  • ・心停止(心臓性突然死を含む)
  • ・解離性大動脈瘤

これらは、死亡診断書などから対象疾病となるかわかります。 なお、死亡診断書の死因が「脳卒中」や「急性心不全」などと記載されていても、原因となった疾病が対象疾病以外のものであると明らかでない限り、対象疾病として扱われます。

業務による過重負荷

過労死の労災認定基準のもう1つの要件は、“業務による過重負荷があったこと”です。 また、被災労働者が対象疾病を発症する前に、以下のいずれかが認められる必要があります。

  • ①異常な出来事
  • ②短期間の過重業務
  • ③長期間の過重業務

では、これらは具体的にどのようなことに該当するのか、次項にてそれぞれ詳しく解説していきます。

①異常な出来事

異常な出来事とは、具体的に以下のような事態を指します。 これらの異常な出来事が、発症直前から前日までに被災労働者に生じていたかどうかが過労死の労災認定基準の1つとなります。

  • (ア)精神的負荷

    極度の緊張、興奮、恐怖、驚がくなどの強度の精神的負荷を引き起こす突発的または予測困難な異常な事態
  • (イ)身体的負荷

    緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的または予測困難な異常な事態
  • (ウ)作業環境の変化

    急激で著しい作業環境の変化
  • 具体例.)

  • (ア)業務に関連した重大な人身事故や重大事故に直接関与し、著しい精神的負荷を受けた場合
  • (イ)事故の発生に伴って救助活動や事故処理に携わり、著しい身体的負荷を受けた場合
  • (ウ)屋外作業中、極めて暑熱な作業環境下で水分補給が著しく阻害される状態や特に温度差のある場所への頻回な出入りなどがあった場合

②短期間の過重業務

短期間の過重業務とは、発症の約1週間前に特に過重な業務に就労したことを指し、この有無が過労死における労災認定基準の1つとなります。

◇特に過重な業務とは? 日常業務に比較して特に過重な身体的・精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務のことです。

被災労働者の業務に過重があったか否かの判断は、労働時間だけでなくその他の負荷要因も考慮して総合的に評価されます。

なお、具体的な負荷要因は、以下のとおりです。

  • <負荷要因>

  • ・労働時間
  • ・不規則な勤務
  • ・拘束時間の長い勤務
  • ・出張の多い勤務
  • ・交代制勤務、深夜勤務
  • ・作業環境(温度環境、騒音、時差)
  • ・精神的緊張を伴う業務

③長時間の過重業務

長時間の過重業務とは、発症の6ヶ月前から著しい疲労の蓄積をもたらすような特に過重な業務に就労したことを指し、この有無が過労死の労災認定基準の1つとなります。

特に過重な業務の定義は、短時間の過重業務の定義と変わりません。 また、長時間の過重業務においても、業務に過重があったか否か判断する際は負荷要因も考慮されます。 そのため、労災と認定される労働時間の目安は過労死ラインとなりますが、残業時間が過労死ラインに達していなくても負荷要因が考慮され、労災が認定される可能性があります。

  • <過労死ライン(過労死を認定する残業時間)>

  • ・1ヶ月100時間以上
  • ・不規則な勤務

過労死に対して遺族ができること

労災の申請手続き

ご家族が過労死された際は、まず労働基準監督署に労災の申請手続きを行いましょう。 労災と認められた場合、ご遺族の方に対して労災保険から各種補償が支払われます。

なお、労災の申請手続きは被災労働者の勤務先にて行うことが一般的です。 そのため、まずは被災労働者の勤務先へ問い合わせし労災の申請手続きについてご相談ください。 万が一、勤務先から拒否されてしまった場合は、遺族の方にて労災の申請手続きをすることも可能です。 また、申請手続きに不安がある場合は、労働基準監督署の窓口に相談してみましょう。

過労死に対する会社への損害賠償請求

労災の認定が下りると、労災から被災労働者のご遺族に対して遺族(補償)給付や葬祭料などが支払われます。 しかし、労災保険は被災労働者やそのご家族に対して最低限の補償を行う保険であるため、被災労働者の過労死により生じた損害をすべて補償することはできません。

被災労働者の過労死に対して会社へ損害賠償請求することも可能ですが、損害賠償請求するためには遺族側が会社側の落ち度やその因果関係を立証しなければなりません。 会社側の過失を立証するためには、有効な証拠と説明が必要となり、法的知識がなければ困難です。 そのため、会社への損害賠償請求は弁護士に依頼されることをおすすめします。

ご家族を過労死で亡くされたご遺族の方は弁護士にご相談ください

大切なご家族を過労死で亡くされたご遺族の悲しみと絶望は計り知れません。 そのような中、労災申請の手続きや会社への損害賠償請求を行うことは、ご遺族にとって非常に大きな負担となってしまいます。

また、会社への損害賠償請求は法的知識が必要となるため、個人で簡単に行うことができません。 イメージダウンなどを気にした会社が抵抗してくるなど、容易にはいかないというのが実情です。 しかし、弁護士であれば法的知識やこれまでの経験を活かして解決に導くことができます。 労災申請の手続きについてのアドバイスだけでなく、会社との交渉や有効な証拠の収集なども任せることができ、ご遺族の負担軽減につながります。

悲しみと絶望を乗り越え、将来の不安を少しでも減らすためにも、弁護士にご相談ください。

弁護士

監修 弁護士 谷川 聖治 弁護士法人ALG&Associates

保有資格 : 弁護士 (東京弁護士会所属・登録番号:41560)

東京弁護士会所属。私たちは、弁護士106名、スタッフ220名(司法書士1名を含む)を擁し(※2023年1月4日時点)、東京、宇都宮、埼玉、千葉、横浜、名古屋、大阪、神戸、姫路、広島、福岡、バンコクの12拠点を構え、全国のお客様のリーガルニーズに迅速に応対することを可能としております。

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