労災隠しは違法!会社が対応してくれない場合の対処法

労災隠しは違法!会社が対応してくれない場合の対処法

労災隠しは、どのような理由があったとしても犯罪行為です。 企業や雇用者が労災隠しを行った場合、罰則として50万円以下の罰金刑が科せられます。

そのため、企業や雇用者が労災隠しをしようとしている場合は、勤務先を管轄する労働基準監督署へ直ちに相談しましょう。

労災申請の手続きはご自身でもできるため、労働基準監督署に相談した後に会社ではなく自ら申請する方法をとることができます。
会社との話し合いが長引きそうな場合は、このように対処するとよいでしょう。

労災隠しとは

労災隠しとは、企業や雇用者がイメージダウンを懸念して労働者に起きた労災事故の発生を隠すために、労働者死傷病報告を労働基準監督署に提出しないまたは虚偽の内容を報告し労災事故の真実を隠すことをいいます。

以下のようなことを会社から言われた場合は、労災隠しを疑ってもよいでしょう。

  • 治療費を負担するので健康保険を使用して通院してほしい
  • 治療中や休業中の給料を支払うので労災保険の申請をしないでほしい(しなくても大丈夫) など

労働災害(=労災)とは?

労働者が業務により被った災害をいいます。 労働者を1人でも雇用する企業や雇用者は、労働者が安心して働けるように労災保険に加入する義務があります。
そのため、労災により労働者が負傷、疾病、死亡等した場合は労災保険による補償を受けることができます。

また、労災保険が適用されるケースは下表の2つに分類されています。

通勤災害 労働者の通勤により被った負傷、疾病、障害または死亡
業務災害 労働者の業務上の負傷、疾病、障害または死亡

なお、労災には認定基準が定められており、被った災害がすべて労災として認定されるわけではありません。

労災隠しの罰則

企業や雇用者が労災隠しを行った場合、労働安全衛生法違反として50万円以下の罰金を受けることになります。

労災事故により労働者が負傷し休業した場合または死亡した場合には、企業や雇用者は労働基準監督署に対して労働者死傷病報告を行う義務があります。
これは労働安全衛生法第120条5項にて定められており、虚偽の報告を行った場合も許されません。

労働者が労災隠しに加担しても、何らメリットはありません。
メリットがあるのは企業や雇用者側だけですので、労災隠しには決して加担しないようにしましょう。
何も考えずに加担してしまうと、ご自身に大きな不利益が生じるおそれがあります。

会社が労災隠しをする5つの理由

労災隠しを行うことは犯罪行為で、発覚した際のリスクが高いのにもかかわらず、どうして会社は労災隠しをするのでしょうか?

それは、会社が犯罪行為となり50万円以下の罰金刑を科せられること以上に、懸念している点があるからです。

では、会社が労災事故の報告をすることで抱く懸念点とは一体どのようなものなのでしょうか?
5つの理由に分けて次項で解説していきます。

労災保険を利用すると保険料が上がる

労災保険を使用すると、会社が支払う労災保険の保険料が上がる可能性があります。

労災保険制度には、労働災害の発生状況に応じて労災保険率を増減させる制度である「メリット制」が導入されています。
このメリット制は、労災事故の発生が少ないほど労災保険率が少なくなり、労災保険料の負担が軽くなる制度です。

労災保険料の増減幅は+40%から-40%の範囲まであり、同じ事業であっても機械設備や作業環境を整えるなどといった事業主の災害防止にかける努力の違いを労災保険率に反映させようという仕組みです。

そのため、労災事故が発生すれば会社が支払う労災保険料が上がり負担増となる可能性があることから、会社は労災隠しをしようとするのです。

手続きが面倒

会社が労災隠しをするのは、単純に手続きが面倒であるからという理由が挙げられます。

発生した労災事故により労働者が休業や死亡した場合、原因を明確にする必要があるため現場検証などを行います。
現場検証は相当な時間と労力を要しますので、それを避けたいと思う会社は少なくありません。

また、現場検証を行った後に再発防止マニュアルなども作成しなければならないため、労力と時間を要すことを懸念して労災隠しに至るケースがあります。

労災が起きたことで企業のイメージが悪くなる

労災事故が起きれば、世間からの企業イメージが悪くなるおそれがあります。
このおそれを懸念して、会社は労災隠しを行おうとします。

大企業の場合は労災事故についてニュースで報道される可能性もあり、イメージダウンに拍車をかけます。
中小企業の場合でも、労災事故により取引先から契約を切られるなどの不利益が生じる可能性があるでしょう。

労働基準監督署の監査が入る可能性がある

労災事故が起きた場合、労働基準監督署の監査が入る可能性があります。

特に、短期間で複数の労災事故が起きた場合などには労働基準監督署からの心証が悪くなり、「労働者が安心して働ける環境が整っていないのでは?」と思われ、監査が入る可能性が高まります。
最悪の場合、監査が入ることにより行政処分を受ける可能性もあるため、それを恐れて会社は労災隠しを行おうとします。

監査とは?

組織の運営や経営が適切に行われているか確認することをいいます。

労災保険の未加入の可能性

会社が“労災保険に未加入であることを隠すため”に、労災隠しを行おうとする可能性も否めません。

1人でも雇用する場合、会社は必ず労災保険に加入する必要があります。
それは、雇用者がアルバイトや契約社員、派遣社員であっても同様です。

労災保険の未加入は非常に悪質であり、それ自体が問題といえます。
そのため、保険料や給付金の追徴だけでなく、労働基準法違反により企業名の公表や罰金刑などが科せられる可能性があります。

会社が労災隠しした場合、労働者にデメリットがある

会社が労災隠しを行った場合、被災労働者には以下のようなデメリットが生じます。

  • 医療費がかかる
  • 休職中の生活費の補償が受けられない
  • 休職が長引くと解雇される可能性がある

では、次項より各デメリットについて詳しくみていきましょう。

医療費がかかる

治療費については、労災保険の申請を行うことにより療養補償給付を受けることができます。
そのため、被災労働者が治療費を負担することはありません。

しかし、会社に労災申請をしてもらえない場合は当然療養補償給付を受けることができないため、被災労働者は健康保険を使用して治療を行うことになります。

健康保険の使用は、医療費を1~3割負担しなければなりません。
つまり、被災労働者は本来であれば負担しなくてもよい医療費を1~3割負担することになります。

休職中の生活費の補償が受けられない

労災保険から支給される給付金は、治療費を補償する療養補償給付だけではありません。
その他にも、以下のような給付を受けることができます。

  • 休業補償給付
  • 障害補償給付
  • 傷病補償年金 など

休業補償給付については、労災事故による怪我で仕事ができなくなったときに受けられるため、被災労働者は安心して治療に専念することができます。
しかし、労災申請が行わなければこれらの補償を受けることはできません。

休職が長引くと解雇される可能性がある

労働基準法では、業務上の怪我・病気の療養のために休業する期間とその後30日間は解雇してはならない旨定められています(第19条)。

しかし、労災申請が行わなければ業務上の事故による休業と扱われないため、会社から不当に解雇されてしまう可能性があります。

このように、会社が労災隠しを行っても、被災労働者が得られるメリットは何一つありません。
会社の労災隠しには、決して加担しないでください。

労災隠しにあった場合の対処法

会社の労災隠しは許されるものではないことがわかりましたが、実際に会社から労災隠しにあった際どのように対処すればよいのでしょうか?

まずは、自分で対処するしかありません。

労災申請の手続きは会社でなくとも自分で行うことができます。
具体的な対処法を解説していきますので、「労災隠しかもしれない・・・」と会社に対して少しでも不信感を抱かれている方はぜひ参考になさってください。

労災による怪我は労災保険指定病院で行う

労災事故による怪我の治療は、できる限り労災保険指定病院で行うようにしましょう。
労災保険指定病院であれば治療費を負担せずに済みますので、生活費を圧迫することもありません。

近くに労災保険指定病院がない場合は、労災保険指定病院以外の医療機関を受診しても構いません。
その場合は一旦窓口で一部負担金を支払う必要がありますが、あとから請求することで返金されます。

また、労災保険指定病院であれば、労災給付の手続きがより簡単に行えます。
具体的には、必要な書類を労働基準監督署のHPにてダウンロードし、必要箇所を記入のうえ治療を受けた労災保険指定病院に提出するだけで事足ります。

しかし、労災保険指定病院以外の医療機関を受診した場合は、医療機関から証明書や領収書をもらい、労働基準監督署へ提出しなければなりません。

労働基準監督署に相談する

会社が労災申請を行わない場合は、労働基準監督署に相談しましょう。
労働基準監督署は、労災隠しを非常に厳しく取り締まっています。

労災隠しを行った会社に対して逮捕または書類送検のうえ罰金刑を科すなど、労災隠しの根絶に取り組んでいるため、遠慮せずに労働基準監督署へ連絡してください。

労災申請は自分で行うことも可能です。
通常は申請用紙に会社の押印が必要となりますが、事前に会社が労災申請を行ってくれない旨の事情を労働基準監督署に書面で提出する方法により、会社の押印がなくても受理してもらえます。

健康保険を使って受診した場合は労災保険へ切り替える

労災事故に遭ったのにもかかわらず、健康保険を使用して病院を受診している場合は、まず労災保険へ切り替えましょう。

たとえはじめは健康保険を使用していても、途中から労災保険に切り替えることができます。
手始めに労災保険へ切り替えることができるか病院に確認し、切り替え手続きを行ってください。
なお、切り替えられない病院もありますので注意してください。

  • <切り替え可能な場合>

    労災保険への切り替えが可能な場合は、これまでに支払った自己負担分の治療費が返金されます。
    なお、切り替え手続きには労災保険の所定の様式で作成した書類を病院に提出する必要があります。
  • <切り替え不可の場合>

    労災保険への切り替えが不可の場合は、加入先の健康保険組合等へ労災である旨申し出てください。
    健康保険組合等から医療費の返還通知書が届いたら返還額を支払い、労災保険所定の様式で作成した書類と返還額の領収書を添えて労働基準監督署へ請求しましょう。

労災隠しの時効について

刑事事件としての労災隠しの時効は3年です(刑事訴訟法第250条2項)。
会社が労災隠しを行っていたと発覚しても、時効が過ぎれば罪に問われることはありません。

そのため、時効が過ぎそうな場合は早めに対処する必要があります。
時効間際という理由で会社が話し合いに応じないケースも十分考えられますので、そのようなときは弁護士に相談しましょう。

労災隠しの可能性がある場合はすぐに弁護士にご相談ください

労災隠しは、残念ながら被災労働者が労働基準監督署に内部告発しない限り公になることが少ないのが実情です。
しかし、労災隠しは犯罪行為であり決して許されるものではありません。

労災事故が発生したにもかかわらず、会社から「健康保険を使って通院してほしい」や「給料は支払うので労災保険は使わないでほしい」などと言われた場合は、労災隠しを疑ってよいでしょう。

また、会社が安全配慮義務違反を行った場合などには、会社に対して損害賠償請求が可能です。
会社は労働者のために、労働者が安心して働ける環境を整える義務があります。

ご自身に不利益が生じないためにも、会社の労災隠しに不安を抱かれている方や会社との話し合いが上手くいかずお困りの方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。

弁護士

監修 弁護士 谷川 聖治 弁護士法人ALG&Associates 執行役員

保有資格 : 弁護士 (東京弁護士会所属・登録番号:41560)

東京弁護士会所属。私たちは、弁護士106名、スタッフ220名(司法書士1名を含む)を擁し(※2023年1月4日時点)、東京、宇都宮、埼玉、千葉、横浜、名古屋、大阪、神戸、姫路、広島、福岡、バンコクの12拠点を構え、全国のお客様のリーガルニーズに迅速に応対することを可能としております。

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