譲渡制限株式の譲渡手続きの流れは?必要書類など弁護士が解説

監修
弁護士 家永 勲

弁護士法人ALG&Associates執行役員

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株式の譲渡は原則として自由とされています。しかし、譲渡制限株式については、通常の株式と異なり、会社の承認が必須となるため手続きが複雑になりがちです。

株主から譲渡承認請求が行われた場合の対応は会社法に定めがあり、対策が必要です。

譲渡承認に関する手続きは複雑であるだけでなく、期限が設けられているため、対応に遅れることがあれば会社にとって不利益を招く結果にもなりかねません。

本稿では、譲渡制限株式の基本概要から実際の手続きの流れや必要書類まで解説しています。

譲渡制限株式の譲渡手続きについて対策が万全でない場合には、ぜひご参考下さい。

譲渡制限株式とは

譲渡制限株式とは、株式会社が発行する株式のうち、その譲渡に会社の承認を必要とするものです。

定款にその旨を定め、譲渡を行うには株主総会や取締役会の承認を得る手続きを経ることになります。

譲渡制限株式は、主に中小企業などで採用されており、特定の株主による経営への影響力を維持したい場合に活用されることが多いでしょう。

譲渡制限が付いている株式は、自由に売買できないため、市場での流動性は低くなるデメリットがあります。

しかし、会社にとっては意図しない第三者への株式移転を防ぐことができ、経営の安定性を高めるというメリットがあります。

これに対し、公開会社(上場企業など)は、株式の自由な譲渡が原則であり、市場での売買を通じて株主が頻繁に入れ替わることを前提としています。

譲渡制限株式の譲渡手続きの流れ

譲渡制限株式の譲渡には、会社法で定められたいくつかの法的手続きを経ることが必要です。

株主からの譲渡承認請求に対し、会社が承認するか不承認とするかによって手続きが異なります。一般的な手続きの流れは以下の通りです。

  1. 譲渡承認請求
  2. 承認・不承認の決定
  3. 決定内容の通知
  4. 株式譲渡契約の締結
  5. 株主名簿の書き換え・証明書の交付

会社はこれらの一連の流れを正確に理解して対応することが求められます。各手続きについて詳しく解説していきます。

①譲渡承認請求

譲渡制限株式を譲渡する際には、譲渡人(株主)または譲受人が、会社に対して譲渡の承認を求める手続きが必要です。

会社は提出された請求内容を確認したうえで、譲渡を承認するか否かを判断します。

請求書には、譲渡対象となる株式の種類や数、譲渡人および譲受人の氏名(または名称)・住所などの基本情報に加え、会社が承認しない場合に会社または指定買取人による買取を求める旨がある場合は、その内容も記載する必要があります。

請求方法については、定款等に特別な定めがない限り、書面による通知が一般的です。

なお、会社の承認を得ずに譲渡が行われた場合、その譲渡は会社に対して効力を持ちません

つまり、譲受人は会社から正式に株主として認められない限り、配当の受領や議決権の行使といった株主としての権利を行使することはできません。

譲渡人と譲受人の間で契約が成立していたとしても、会社との関係では未承認の譲渡として扱われます。

そのため、譲渡制限株式の譲渡を行う際には、会社からの正式な承認を得ることが不可欠です。

②承認・不承認の決定

譲渡承認請求を受けた後、会社は譲渡の承認または不承認を決定します。

この決定は、通常、会社の定款に譲渡承認の手続きが定められており、取締役会株主総会において行われます。

自社の定款を確認し、その規定に従って決議を進めましょう。

承認・不承認の決定においては、トラブルを回避するため、決定プロセスの透明性を高めることが大切です。具体的には、議事録へ詳細を記録し決定内容を書面化しておけば、第三者からの問い合わせや紛争時の証拠などに活用できます。

特に不承認決議を行う場合の議事録は、審議の経過や参加者の意見、決議の結果などを正確に記載し、後日の紛争防止を見据えた内容にしましょう。

また、譲渡人および譲受人に対する決定内容の通知方式に定めはありませんが、誤解を生じないよう書面で伝えることをおすすめします。

③決定内容の通知

譲渡制限株式の譲渡承認請求に対する決定内容の通知は、会社が請求を受理してから原則として2週間以内に行う必要があります。

この期間内に会社が何らかの意思表示をしなければ、自動的に譲渡を承認したものとみなされます。

これは、会社が漫然と対応を遅らせることによって、株主の権利が害されないようにするために会社法で定められた仕組みです。

譲渡請求株主への通知方法は、証拠を残しておく観点から書面で行うことが望ましいでしょう。

承認の場合には、その旨を明確に伝え、譲渡手続きを進めるための情報を提供します。

不承認の場合、その理由を示し、会社または指定買取人による買取手続きについて記載しておきましょう。

通知義務を遵守し、迅速かつ適切に行うことがトラブル回避に繋がります。

④株式譲渡契約の締結

会社から譲渡の承認を通知した場合には、譲渡人と譲受人の間で正式に株式譲渡契約を締結することになります。

株券発行会社の場合には、株券の譲渡も併せて行われます。

契約は口頭でも可能ですが、後のトラブルを避けるために株式譲渡の契約書は作成すべきでしょう。

書面化することで、譲渡条件や各当事者の権利義務が明確になり、双方の合意内容を客観的に証明する証拠となります。

また、会社にとっても株主構成や異動の状況を正確に把握するために、契約書の写しを提出してもらうなど、情報共有を求めることが望ましいと考えられます。

⑤株主名簿の書き換え・証明書の交付

譲渡制限株式を取得した譲受人が、配当の受領や議決権の行使といった株主としての権利を行使するためには、会社の株主名簿にその氏名等が正式に記載されている必要があります。

通常、この名簿の書き換えを行うには、譲渡人と譲受人が連名で会社に対して書換請求を行うのが一般的です。

ただし、株券を発行している会社においては、譲受人が株券を所持している場合に限り、単独での請求も認められます。

会社は請求を受けた後、速やかに株主名簿を更新し、譲受人を新たな株主として登録します。

この名簿には、譲受人の氏名や住所、取得した株式の種類・数などが記載されます。

また、譲受人からの求めがあれば、会社は株主名簿記載事項証明書を発行し、譲受人が正当な株主であることを証明できるようにしなければなりません

譲渡制限株式を譲渡する際の必要書類

譲渡制限株式を譲渡するまでの手続きで、譲渡人と譲受人は一般的に以下の書類を準備する必要があります。

スムーズな手続きのため、事前に確認しておきましょう。

書類名 概要
株式譲渡契約書 譲渡する株式の数、譲渡価格、代金の支払い方法などを詳細に記載した契約書。譲渡人と譲受人双方が署名・捺印することで法的効力を持ちます。
株式譲渡承認請求書 譲渡承認を会社に依頼する際に提出する書類。譲渡人や譲受人の氏名・住所のほか、譲渡する株式の種類と数量などを明記し、定款に基づいた形式で提出します。
株式名義書換請求書 株主名簿の変更を会社に依頼するための書類。譲渡完了後、譲受人を新株主として登録するために必要です。

上記に加え、譲渡人の印鑑証明書、譲受人の本人確認書類(運転免許証、住民票など)が確認されるケースもあります。

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譲渡制限株式の譲渡を承認しない場合の手続き

株主が株式譲渡承認請求をしたものの、会社が株主の譲渡承認請求を否決する場合には譲渡人から、株式の買取請求をする旨主張される可能性があります。

これは、一般市場で流通しにくい譲渡制限株式を保有する株主の投下資本の回収機会の保護のために会社法で定められた制度です。

株式買取請求が行われた場合には、会社または指定買取人が譲渡制限株式を買い取ることになります。

具体的な手続きは以下の通りです。

  1. 会社または指定買取人による買取通知
  2. 売買代金と株券の供託
  3. 売買価格の決定

各手続きの詳細について、以降で解説しています。

①会社または指定買取人による買取通知

譲渡制限株式の譲渡を承認しない場合、会社または指定買取人が買取る制度があります。

株主から株式買取請求が行われた場合、買取の手続きは株主総会の特別決議によって買取を決定します。

会社ではなく、指定買取人を設ける場合は、原則として株主総会または取締役会設置会社では取締役会でその指定を決議します。

譲渡承認を拒否する決定通知後、会社が株式を買い取る場合は、請求株主に対して40日以内に買取通知を発行しなければなりません。

一方、指定買取人が買取を行う場合は、10日以内に買取通知を発行する必要があります。

買取通知には、買い取る株式の種類や数量などを記載しなくてはなりません。

会社や指定買取人には、定められた期限内に買取通知を送付し、手続きを円滑に進めることが求められます。

遅延や不備が生じると無用なトラブルを招きかねないため、期限には十分に注意しましょう。

②売買代金と株券の供託

会社または指定された買取人が株式の買取を行うことが決定された場合には、売買代金の支払いと株券の供託という手続きが必要になります。

売買代金は、原則として当事者間の協議によって確定されますが、協議が整うまでの間は、暫定的な金額を供託することが求められます。

この暫定金額は、会社法に基づき、1株あたりの純資産額に譲渡対象株式の数を乗じて算出されます。

供託が完了すると、会社または指定買取人は、供託を行ったことを証明する書面を請求株主に交付します。

さらに、譲渡対象の株式が株券発行会社のものである場合には、株主は証明書の受領後、1週間以内に株券を供託所へ提出し、その旨を会社に通知しなければなりません。

このような供託手続きは、譲渡制限株式の売買を正式に完了させるための重要なステップです。

なお、株主が買取通知を受け取ってから1週間以内に株券を供託しない場合には、株券発行会社は売買契約を解除することが可能となります。

③売買価格の決定

譲渡制限株式の売買価格は、請求株主と会社または指定買取人との間の協議によって決定されます。

しかし、双方の意見が一致せず、協議がまとまらないケースもあります。

その場合には、裁判所に株式の売買価格決定申立を行い、公正な価格を裁判所に決定してもらう方法も視野にいれるとよいでしょう。

裁判所は、会社の財務状況などを総合的に判断したうえで、適正な価格を算定し、決定します。

ただし、株式価格の決定に至るまでのプロセスは複雑であることから、売買価格の交渉及び売買価格決定の申立てに関しては、弁護士に依頼することをおすすめします。

弁護士は法的な知識と経験を活かして、請求株主と会社または買取人との間での交渉をサポートし、必要に応じて裁判所への申立てを行います。

弁護士のアドバイスを受けることで、価格決定に関連する法的リスクを最小限に抑え、適正価格を実現するだけでなく、将来的な紛争を防ぐことも期待できます。

譲渡制限株式の譲渡手続きに関しては弁護士法人ALGにご相談ください

譲渡制限株式の譲渡手続きは、法的な知識や会社法に関する理解が不可欠です。

手続きに不備があると、後々トラブルに発展するおそれもあるため、譲渡承認請求を受けた会社は適切な対応が求められます。

しかし、対応には期限が設けられており、適切な判断は決して容易とはいえません。

譲渡制限株式の譲渡手続きについては早めに弁護士へ相談することをおすすめします。

弁護士法人ALGには、会社法に精通した弁護士が在籍しており、譲渡承認請求の対応から株主名簿の書き換えまで、一連の手続きをサポートいたします。

また、譲渡承認を拒否する場合の手続きや、買取価格の決定など、複雑な問題にも積極的に取り組んでおりますので、まずはご相談ください。

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保有資格
弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:41560)

東京弁護士会所属。私たちは、弁護士106名、スタッフ220名(司法書士1名を含む)を擁し(※2024年1月4日現在)、東京、札幌、宇都宮、埼玉、千葉、横浜、名古屋、神戸、姫路、大阪、広島、福岡、タイの13拠点を構え、全国のお客様のリーガルニーズに迅速に応対することを可能としております。 東京弁護士会所属。私たちは、弁護士106名、スタッフ220名(司法書士1名を含む)を擁し(※2024年1月4日現在)、東京、札幌、宇都宮、埼玉、千葉、横浜、名古屋、神戸、姫路、大阪、広島、福岡、タイの13拠点を構え、全国のお客様のリーガルニーズに迅速に応対することを可能としております。