日本の中小企業には、一族経営などの形式も多く、経営権の安定的なコントロールは重要な施策といえます。
その1つとして活用されているのが、譲渡制限株式でしょう。譲渡制限株式では、株式の不用意な流出を抑制できるので、経営権が損なわれることを防止できます。
しかし、その制度を正しく理解していなければ、思わぬトラブルに巻き込まれたり、不測の事態に陥ってしまうかもしれません。
本稿では譲渡制限株式のメリット・デメリットや、譲渡の方法など網羅的に解説していきます。
譲渡制限株式とは
譲渡制限株式とは、株主が自由に譲渡することができない株式を指します。本来、株式の売買については、会社法127条に定められているように株式譲渡自由の原則があります。
しかし、株式には議決権を伴うため、発行する会社側の事情としては自由な取引が会社経営に支障を生じさせるリスクに繋がる懸念もあるでしょう。
そこで、自由に売買ができる株式の例外として、定款に定めをおくことで、株式に譲渡制限を付与する仕組みがあります(会社法107条)。
譲渡制限株式になると、譲渡するには会社が定めた方法による承認が必要となります。発行する株式すべてに譲渡制限を定めている会社を、特に非公開会社といいます。
株式の一部にのみ譲渡制限を設定している場合には、これに該当しません。
譲渡制限を設ける目的
普通株式ではなく、定款に定めて譲渡制限株式として発行するには様々な目的があります。
国内の中小企業の多くが譲渡制限株式を採用していますが、これは、会社にとって好ましくない人物が経営に参加することの防止を目的としています。
譲渡制限株式にしておけば、譲渡の際に、株主総会や取締役会の承認を得なければならず、安易に第三者が経営に関与できない仕組みを用意できます。
譲渡制限株式を活用する具体的な目的には以下のような点も挙げられます。
- 譲渡を制限することで、株主を信頼関係にある人物に限定する
- 投資ファンド等による株の買い占めや、会社の乗っ取りを防止する
- 会社の支配力を維持し、経営を安定させる
株式譲渡制限会社と公開会社
発行する株式のすべてが譲渡制限付きの株式である会社は、株式譲渡制限会社もしくは非公開会社といいます。
それに対し、全ての株式について譲渡制限のない株式を発行している会社、もしくは一部の株式にのみ譲渡制限を付与する会社(言い換えれば、一部を除いて譲渡制限がない株式が発行されている会社)を公開会社といいます。
非公開会社と公開会社では、株主の構成に対する考え方が異なります。通常、株式に譲渡制限を設けない会社では、直接経営にかかわらない株主が多数存在することを想定しておかなければなりません。
そのため、経営の実行部隊である取締役会を置くことが必要とされています。
一方、多くの中小企業でも株主と代表取締役が同一であるということは珍しくないように、株式譲渡制限会社では、株主と経営者が一体となっていることも多く、取締役会の設置は任意となります。
株式に譲渡制限を設ける方法
株式に譲渡制限を付与するには、譲渡の際に会社の指定する方法で承認を得ることを要件として定款に定めることが必要です。
承認を行う機関としては、取締役会が一般的ですが、株式譲渡制限会社では取締役会の設置は任意となります。取締役会がない場合には、株主総会又は代表取締役の承認を得ることになります。
もし、譲渡承認の方法を定款に定めていない場合には、発行株式に譲渡制限を設けることはできませんので、公開会社として取り扱われることになります。
なお、会社法の改定により有限会社の制度は廃止となりましたが、既存の有限会社の持分は、定款に規定がなくても譲渡制限株式の状態とみなされています。
ただし、有限会社を株式会社に組織変更する場合には、定款に譲渡制限の規定を定めなければ、公開会社として取り扱われることになりますので、注意しましょう。
譲渡制限株式のメリット・デメリット
メリット
譲渡制限株式を活用する主なメリットは以下の通りです。
- 望まない第三者を経営に参画させない
- 役員の任期延長が最大10年まで可能
- 取締役会や監査役の設置義務がない
- 相続時に事業承継がスムーズに行える
- 株主総会等の手続きが簡略化できる
主に中小企業にとってメリットが大きいといえるでしょう。それぞれのポイントについて詳しく解説していきます。
①望まない第三者を経営に参画させない
譲渡制限株式制度の利用による最大のメリットは、株主を信頼関係にある者に限定できる点といえます。
経営上、望ましくない第三者を参画させてしまった場合、経営に横やりが入ったり、支配権を奪われるなど、事業を円滑に進められなくなるおそれがあります。
また、株主によって、合併や会社分割による組織変更が行われるおそれもありますので、望ましくない第三者を株主から除外できる点は非常に大きな利点といえるでしょう。
②役員の任期延長が最大10年まで可能
本来であれば、取締役の任期は2年、監査役の任期は4年とされています。しかし、非公開会社では、定款に定めることによって、役員の任期延長が可能となります。
延長は最大で10年となりますので、長期間に亘って経営者を固定でき、会社の方針を安定して維持できるというメリットがあります。
役員選出の頻度を下げられることは、登記申請の機会も減少することにつながりコスト削減ともいえるでしょう。
役員の任期を10年とするには、株主総会を開き、定款を変更する必要があります。
非公開会社であれば、当然に役員の任期を長くできるわけではありませんので、適切に手続きを行うようにしましょう。
③取締役会や監査役の設置義務がない
公開会社の場合、取締役会や監査役の設置が会社法で義務づけられています。
取締役会を設置する会社においては、3名以上の取締役と監査役1名以上が必要とされます。しかし、非公開会社の場合には、いずれの設置も任意となります。
つまり、取締役1名だけでも問題ないため、会社としては役員報酬の総額を抑えられるメリットがあります。
また、非公開会社では、定款に定めることによって、取締役や監査役の資格を株主のみとすることが可能です。
役員を最低限の人数とし、限られた人材の中で選定することにより、経営の意思決定を迅速に行うことができるでしょう。
④相続時に事業承継がスムーズに行える
株主が亡くなった際、その株式は相続人の財産となります。これは譲渡制限株式であっても同様です。
ただし、定款に相続人に対する売渡請求の規定を設けている株式譲渡制限会社の場合は、相続した株式を受け渡すよう請求することができます。
売渡請求を活用することによって、会社の議決権行使につながる株式が望ましくない又は会社の経営に無関心な第三者にわたることを防止できます。
事業承継の際、新たな経営者に議決権を集約できなければ、事業をスムーズに行うことが困難となり得ます。
株式譲渡制限会社は、相続による株式の分散を防ぎ、事業承継を円滑に進められるメリットがあります。
⑤株主総会等の手続が簡略化できる
株式会社では株主総会の開催が必要となります。株主総会は開催日の2週間迄までに、原則、書面により通知する、と会社法に定められています。
しかし、非公開会社については、開催の通知は開催日の1週間前でよいとされており、取締役会非設置の場合には、口頭での通知も認められています。
そのほか条件が揃っていればさらに通知期間を短縮することもできます。また、取締役会があれば、取締役会を年4回以上開催する必要があり、この開催に要する負担も軽視できません。
取締役会の設置が任意である非公開会社であれば、この負担を軽減できます。
デメリット
譲渡制限株式制度の利用におけるデメリットは以下の通りです。
- 決算公告が義務になる
- 新株発行による資金調達に制限がかかる
- 株主には株式買取請求権がある
- 売渡請求(スクイーズアウト)により会社を乗っ取られる恐れがある
以降で詳細を確認していきましょう。
①決算公告が義務になる
決算公告とは、会社の決算書類を官報や日刊新聞、電子公告などに掲載することを指し、法令で義務づけられた制度です。
非公開会社であっても、公開会社と同じく、決算期毎に株主総会で承認を得たあと、決算公告を行う義務があります。
ただし、非公開会社と公開会社では、貸借対照表の要旨に記載する内容が異なりますので注意しましょう。
会社法上の特例有限会社では、この決算公告義務がありません。
もし、特例有限会社が株式会社へ移行した場合には、決算公告義務が課されることになりますので、この場合にはデメリットになり得るでしょう。
②新株発行による資金調達に制限がかかる
株式会社における資金調達の手段として、新株発行によって投資家から資金を集めることは一般的な手法といえます。
しかし、非公開会社の場合、株式の譲渡には会社の承認が必要となります。そのため、株式を売買することが難しく、流動性が低いため、現金化が困難です。
将来における上場などにともない公開会社に変更することを目標としていない限り、非公開会社は投資家にとって投資の選択肢になりづらいといえるでしょう。
非公開会社では、新株発行による資金調達は活用しづらいため、金融機関の融資によって資金調達を行うことが一般的です。
大規模な資金調達が難しいケースもあり、事業拡大などへの影響もないとはいえません。
③株主には株式買取請求権がある
譲渡制限されている株式を譲渡するには、会社の承認が必要です。もし、承認が得られなかった場合、株主は会社に対して株式の買い取りを請求することができます。
これは、株主が投下した資金を回収する機会を与えるために会社法により定められた株主の権利です。
株式買取請求権が行使されると、会社には公正な価格で株式を買い取る義務が生じます。株価や株式数の多寡によっては、大きな負担になることもあります。
また、価格の算定について会社と株主の意見が対立した場合には、裁判所での手続に発展するおそれもあります。
④売渡請求(スクイーズアウト)により会社を乗っ取られる恐れがある
譲渡制限株式による最大のメリットは、好ましくない第三者を経営に介入させないことにあります。だからといって、経営者の地位が確実に保証されているわけではありません。
メリットの1つでもある相続時の売渡請求は、後継者を対象外としているわけではありません。つまり、他の株主が後継者に対して売渡請求(スクイーズアウト)を行う可能性もあります。
団結して多数派となった株主が少数株主の株式を強制的に買い取ることがあれば、議決権を奪われることになります。
そうなれば、後継者であっても、実権を獲得することができず、経営を乗っ取られる可能性があります。
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譲渡制限株式の譲渡の流れ
譲渡制限株式の譲渡には、株主もしくは取得者が承認手続きを行わなければなりません。
一般的な流れは以下のようになります。
- 譲渡を希望する株主(または譲受人と株主の両名)から会社に譲渡承認請求
- 取締役会または株主総会を開き、承認・不承認を決定
- 請求から2週間以内に決定内容を請求者へ通知
決定内容を承認するか・しないかによって、その後の手続きは異なります。
原則として、株式譲渡の承認は株主総会もしくは取締役会から得る必要がありますが、承認機関には例外があります。
定款に株主総会や取締役会以外の承認機関を定めることができますので、株式譲渡の承認を代表取締役に一任することもできます。
株主総会等を開催する手間を省けるため、手続きがスムーズとなります。
譲渡を承認する場合
譲渡を承認する場合には、譲渡成立となりますので、以下の手続きが必要です。
- 株式譲渡契約書の締結
- 株主名簿の書換請求
- 株主名簿記載事項証明書の交付
譲渡の承認は、譲渡承認請求に記載された譲受人に関してのみ行われるものです。つまり、不特定多数に対する株式譲渡を承認するものではありません。
承認後の株式譲渡契約書の譲受人が承認請求の譲受人と異なっていないかなど十分確認しましょう。
また、譲渡承認請求から2週間以内に承認機関の決定内容を通知しなかった場合には、譲渡を承認したとみなされることになります。
承認請求がなされたら、期限を意識して対処することが重要です。
譲渡を承認しない場合
譲渡を不承認とした場合、請求者から買取請求がなければ、株式が譲渡されることなく手続き終了となります。
株主から買取請求がされると、以下の手続きが必要となります。
- 請求者による買取請求
- 会社または指定買取人による買取の決定
- 特別決議(会社買取の場合)または指定買取人の指定(指定買取人の場合)
- 買取代金の供託
- 請求者へ株式買取の通知
- 株券の供託
- 株式売買価格の協議
- 売買代金の決済
株式買取の通知は、不承認決定通知の日から40日以内に行わなければなりません。
もし、期間を超過した場合には、不承認決定通知を行っていても、譲渡を承認したとみなされることになるので注意が必要です。
手続きには期限がありますので、その期限を明確にするためにも、通知は記録に残る形式で送付するべきでしょう。
株式買取価格決定申立について
譲渡を承認されなかった株主には株式買取請求権があり、この場合、公正な価格で買い取る必要があるとされています。
ただし、この公正な価格とは具体的な定めがなく、まずは、会社と請求者が協議によって価格を決定することになります。
しかし、協議がまとまらない場合には、裁判所へ株式売買価格決定の申立てをおこなうことができます。
これは、請求者だけでなく会社も申し立てることも可能です。ただし、申立て期間に制限があります。
株式買取の通知から20日以内でなければ申立てができないとされており、期限内に申立てせず、協議も平行線のままとなってしまうと、供託額が売買価格となります。
価格決定の申立てを少しでも考えている場合には、早急に専門家のアドバイスを受けて検討するようにしましょう。
譲渡制限株式の売買や交渉、手続きに関しては弁護士法人ALGにご相談ください
譲渡制限株式は中小企業で多く活用されている制度です。
メリットが多い反面、デメリットもあるので、活用方法には十分注意しなければなりません。また、その株式の売買や譲渡の交渉は手続きが複雑となっています。
不備なく進めるためには専門家の助言があるとよいでしょう。譲渡制限株式について不明点があれば、弁護士法人ALGにご相談ください。
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