株式買取請求権における「公正な価格」とは?意義や算定方法など

監修
弁護士 家永 勲

弁護士法人ALG&Associates執行役員

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組織再編や事業譲渡などに反対する少数派の株主や、単位未満株式を保有する株主にとって、株式買取請求権は、投下資本回収における重要な権利といえます。

この権利を行使することで、株主は会社に対して保有する株式を買い取るよう請求できます(会社法469条、785条1項、797条1項、806条1項等)。

その際に問題となるのが、株式の買取価格です。組織再編等の手続きを進める上で、株式買取請求権への適切な対応は不可欠ですので、焦点となる公正な価格とは何か、どのような算定方法があるのかは知っておくべきでしょう。

本稿では、「公正な価格」の意義や、算定方法などの情報を網羅的に解説していきます。

株式買取請求権における「公正な価格」とは?

組織再編やスクイーズアウト(株式併合)など、株主の利益に影響を及ぼす行為が行われる際、反対株主は会社に対し株式買取請求権を行使できます。

反対する株主が少数であった場合には議案が決議されてしまい、反対株主の利益が損なわれてしまいます。

そのような少数の反対株主の権利を保護する制度として、会社法に株式買取請求権が定められています。原則として、会社は請求に応じて「公正な価格」で株式を買い取る義務を負います。

「公正な価格」については法律に定めがないため、客観的に妥当な価格を指します。そのため、価格について当事者間で協議がまとまらないケースも少なくありません。

そのため、裁判所に株式買取価格決定申立を行い、「公正な価格」を決定することもできます(会社法470条2項、786条2項、798条2項、807条2項等) 。

裁判所における価格決定では、専門家の意見や鑑定評価などを踏まえて、判断が下されることになります。

株式買取請求権の詳細については、下記ページをご参考下さい。

さらに詳しく株式買取請求権とは?行使できるケース・できないケースや手続きの流れ

「公正な価格」の意義

「公正な価格」は株式買取請求において非常に重要な概念ですが、その具体的な算定方法については法律で明確に定められていません

その解釈は個々の状況に委ねられているため、主張が食い違うケースもあります。「公正な価格」の判断として、一般的には、以下の2つの側面から解釈されることが多いでしょう。

  • 組織再編がなかったものと仮定した価格
  • 組織再編によるシナジー効果を反映した価格

それぞれについて以降で詳しく確認していきます。

組織再編がなかったものと仮定した価格

組織再編がなかったものと仮定した価格とは、組織再編行為による影響を排除し、会社の企業価値を組織編成等以前の株価を基準として評価する考え方です。

この価格は、旧商法で定められていたナカリセバ価格の概念を引き継ぐもので、組織再編等を承認する株主総会決議がなかったならば、基準日に当該株式が有していたであろう価格を意味します。

これは、反対株主が組織再編によって不利益を被ることを防ぎ、公平な価格で株式を買い取ってもらうための根拠となる重要な概念です。

つまり、組織再編が行われなかったと仮定し、その時点での会社の財務状況、収益性、将来性、市場環境などを総合的に考慮して「公正な価格」を算出します。

反対株主は議案に反対しているため、議案実施前の評価で価格を決定することは、客観的かつ妥当といえます。この算定においては、組織再編の影響を排除し、会社の元来の価値を見極めることが必要となります。

組織再編によるシナジー効果を反映した価格

組織再編によってシナジー効果、つまり相乗効果が生じて、会社の企業価値が増加した場合、その増加分を「公正な価格」に反映させるべきか否かは、重要な論点となり得ます。

一般的に、組織再編が公表される以前から存在していた要因に基づく価値は、反映させるべきと考えられます。

しかし、組織再編によって生じた新たなシナジー効果をどこまで「公正な価格」に反映させるかについては、明確な基準がありません。

裁判例においても、ナカリセバ価格とシナジーを反映した価格のいずれか高い方を採用すべきとする考え方を重視しつつも、様々な要素を考慮し、ケースバイケースで判断されています。

企業価値の向上に大きく寄与するシナジー効果であれば、一定程度反映される可能性はありますが、その算定方法や妥当性については、弁護士のサポートを受けて検討すべきでしょう。

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「公正な価格」の算定方法

「公正な価格」については、市場取引価格を参照にすることが一般的です。上場企業であれば、日々、取引市場で取引が行われるため、基準となる時点の市場価格を参照することは比較的容易といえるでしょう。

しかし、非上場会社の場合は、市場価格がないため、その算出には様々な評価アプローチを検証する必要があります。それぞれの「公正な価格」の算出方法について、確認しておきましょう。

上場企業の場合

上場企業における株式買取請求権の「公正な価格」は、原則として、株主が株式買取請求権を行使した日の市場株価を基準として算定します。

しかし、市場株価は常に変動するため、その時点の株価が必ずしも企業の適正な価値を反映しているとは限りません。企業価値とは関係のない市場要素が働く可能性もあります。

そのため、企業価値が増加する要因がある場合には、株式買取請求日に近接した一定期間(例えば過去3ヶ月間の平均値など)の平均株価を参考にします。

一定期間の平均値をとることで、企業価値を反映した、より安定した価格算出といえるでしょう。一方、組織再編によって企業価値が毀損する可能性がある場合には、組織再編計画が公表される前の株価を基準に算定することが一般的です。

これは、計画の公表によって不当な企業価値の低下を排除するためです。

上場企業の場合であっても、「公正な価格」の算出には、市場株価だけでなく、会社の財務状況や社会情勢などを総合的に考慮したうえで、客観的に妥当な価格を決定することが大切です。

非上場会社の場合

市場価格をもたない非上場会社においては、株式買取請求権における「公正な価格」を決定するために、まず会社全体の価値を評価し、その上で1株あたりの株価を算出する必要があります。

この会社全体の価値を評価する方法としては、主に以下の3つのアプローチがあります。

  • コストアプローチ
  • マーケットアプローチ
  • インカムアプローチ

これらの評価アプローチに加えて、配当還元法や収益還元法など、様々な評価方法がありますが、どの評価方法が適切かは、会社の事業内容、財務状況、成長段階など、個々の事情によって異なります。

そのため、複数の評価方法を組み合わせたり、それぞれの評価結果を総合的に勘案したりするなどし、会社の事情に最も則した方法や手法を選択し、慎重に決定する必要があります。各評価アプローチについて以降で解説していきます。

①コストアプローチ

コストアプローチは、会社の貸借対照表(バランスシート)に計上されている資産や負債の価値を基準として、企業価値を評価する方法です。

代表的なものとして純資産法があり、これは企業の総資産から負債を差し引いた純資産額を企業価値とする考え方です。

純資産法は、さらに様々な方法に分類できます。例えば、簿価純資産法は、貸借対照表に記載されている金額をそのまま用いますが、時価純資産法は、資産や負債を時価に評価し直して純資産額を算出します。

また、帳簿上にはない会社のブランド力などによる超過収益力を加味する場合には、時価純資産法に営業権の価値を加算して算出する方法もあります。

コストアプローチは貸借対照表などのデータを使うため、比較的容易に企業価値を算定できる手法といえます。

しかし、将来の収益性や成長性は考慮されない点に考慮し、あくまで参考情報のひとつとして活用するとよいでしょう。

②マーケットアプローチ

マーケットアプローチは、類似する会社の市場価格や取引事例を参考に、評価対象会社の価値を算定する方法です。代表的な手法である類似会社比較法は、マルチプル法や類似会社比準法などと呼ばれることもあります。

類似会社比較法は、類似する上場企業の株価を参考に、評価倍率を算出し、その倍率を評価対象会社の財務指標に乗じることで、相対的な企業価値を算定します。

マーケットアプローチは、基となるデータの比較によって算出するため、比較的簡易な方法であり、市場の動向を反映した客観的な評価が可能となります。

しかし、類似企業の選定が困難なケースもあり、財務指標の比較には専門的な知識が求められます。独自性の強い会社や、市場環境が特殊なケースでは、適用が難しい場合もあるでしょう。

③インカムアプローチ

インカムアプローチは、会社が将来生み出すと予想される収益に着目し、その収益を現在価値に割り引くことで企業価値を評価する方法です。

代表的な手法として、DCF法(Discounted Cash Flow法)が挙げられます。DCF法では、まず、将来の一定期間にわたって企業が生み出すと予測されるフリーキャッシュフローを算定します。

次に、そのフリーキャッシュフローに、リスクを反映させた割引率を用いて現在価値に割り引きます。最後に、事業に関係しない非事業用資産についても、同様に現在価値に割り引いて算出します。

これらの現在価値を合計したものが、会社の評価額となります。

インカムアプローチは、会社の将来性を反映した評価が可能ですが、将来の収益予測や割引率の設定には、高度な専門知識や判例の参考、そして客観的な判断が必要です。

予測期間が長くなるほど不確実性が増すため、慎重に検討しなければなりません。

株式の価格決定や交渉を弁護士に相談するメリット

株式の価格決定や交渉を弁護士に相談するメリットは多岐にわたります。まず、弁護士は法律の専門家として、関連法規や判例を熟知しており、法的根拠に基づいた適切なアドバイスを提供できます。

特に、株式買取請求における「公正な価格」の算定は複雑な要素が絡み合うため、客観的な視点からの専門家のアドバイスは非常に重要といえるでしょう。また、弁護士は交渉のプロでもあります。

会社と株主で価格についての主張が異なる場合、その交渉には、法的知識や交渉術を駆使することが重要となります。

価格交渉が難航する場合でも、弁護士が間に入ることで、冷静かつ建設的な話し合いを進めることが期待できるでしょう。

もし、交渉が決裂し、訴訟等になった場合でも、主張の起案はもちろん、証拠収集のアドバイスや代理人業務など、一貫したサポートを受けることができます

「公正な価格」に関する判例 (平成23年(許)第21号・平成24年2月29日・最高裁判所第二小法廷)

本事案は反対株主の買取請求における、裁判所の価格決定に関する「公正な価格」の判断が問われた事案です。

Y会社の株式移転完全子会社とする組織編成について反対した株主Xは買取請求権を行使しましたが、会社との協議が調わず、裁判所へ価格決定の申立を行いました。

Y会社は上場企業であったため、どの時点での株価を反映させるかが論点となりました。

原審では、株式移転の内容が公表された日より前の1ヶ月平均をもって「公正な価格」と判断しましたが、最高裁判所はこの判断を是認することはできないとしました。

最高裁判所は、組織再編によって企業価値の増加が生じない場合には、決議されることがなければ有していたであろう株式価値をはかるべきとしています。

また、株式移転後の企業価値について、株主の合理的な判断が妨げられるなど瑕疵がなければ、株式移転比率は公正として取り扱うべきとも判示しました。

最高裁判所は、原審が企業価値増加を前提としながら、株式移転比率を適切に反映しておらず、参照した市場価格の時点の決定にも不適切性があるとして、原判決を破棄としました。

株式買取請求権の「公正な価格」については弁護士法人ALGにご相談ください

株式買取請求権における「公正な価格」は、複雑な要素が絡み合うため、専門家のサポートが不可欠です。「公正な価格」の根拠や主張はもちろんですが、交渉が難航する場合には、裁判所への価格決定申立についても検討が必要です。

このタイミングについても弁護士のサポートがあれば安心でしょう。弁護士法人ALGは、企業法務に精通した弁護士が多数在籍しており、状況に合わせて最適なアドバイスを提供しております。

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弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:41560)

東京弁護士会所属。私たちは、弁護士106名、スタッフ220名(司法書士1名を含む)を擁し(※2024年1月4日現在)、東京、札幌、宇都宮、埼玉、千葉、横浜、名古屋、神戸、姫路、大阪、広島、福岡、タイの13拠点を構え、全国のお客様のリーガルニーズに迅速に応対することを可能としております。 東京弁護士会所属。私たちは、弁護士106名、スタッフ220名(司法書士1名を含む)を擁し(※2024年1月4日現在)、東京、札幌、宇都宮、埼玉、千葉、横浜、名古屋、神戸、姫路、大阪、広島、福岡、タイの13拠点を構え、全国のお客様のリーガルニーズに迅速に応対することを可能としております。