会社の合併や事業譲渡、組織再編などは経営にとって重要な決定ですが、株主の権利に大きな影響を及ぼすことがあります。
そのため、株主が株式買取請求権を行使するケースも多く、会社は慎重な対応が求められます。
株式買取請求権とは、株主が会社に対して保有株式の公正な価格での買取を求める権利で、会社法により認められています。
株主保護のための重要な制度ですが、会社側には資金負担や価格交渉などのリスクも伴います。
本記事では、株式買取請求権の基本から、会社が請求を拒否できるケースまでをわかりやすく解説します。
目次
株式買取請求権とは
株式買取請求権とは、株主が特定の状況下において、自身が保有する株式を会社に公正な価格で買い取るよう請求できる権利です。
これは会社法によって保障された権利であり、株主の利益保護を目的としています。
株式買取請求権は、大きく以下の2種類に分けられます。
本稿では、主に反対株主の買取請求について解説します。
- 反対株主の買取請求:会社の合併、事業譲渡など、組織再編行為に反対する株主が、自己の株式を買い取るよう請求するもの
- 単元未満株の買取請求:会社が定める単元株数に満たない株式(単元未満株)を持つ株主が、会社に対してその株式の買取を請求するもの
これらの買取請求権は、反対株主に保有株式の公正な価格を受け取って会社から退出する機会を保障したり、単元未満株主に株式の譲渡によらない投下資本を回収する方法を与える役割を果たしています。
なお、譲渡制限株式を持つ株主は、譲渡制限株式の譲渡等承認請求と併せて、会社が譲渡を承認しないときは会社または会社の指定する買取人が当該株式を買い取ることを請求できます。
株式買取請求権が行使される主なケース
反対株主の株式買取請求権は、株主が会社の重要な意思決定に反対する場合に行使されることが一般的です。
株式買取請求権が認められるのは主に以下の場合です。
- 組織再編(会社法第785条第1項、同法第797条第1項、第806条第1項)
- 事業譲渡や子会社の売却(会社法第469条第1項)
- スクイーズアウト(株式併合)(会社法第182条の4第1項)
- 発行株式の全てに譲渡制限を付け加える定款変更を行う場合(会社法第116条第1項第1号)
会社は株式買取請求権の行使を拒否できる?
原則として、会社は株主からの株式買取請求権の行使を、正当な理由なく拒否することはできません。
株式買取請求権は、会社法によって認められた正当な権利であり、会社は誠実に対応する義務があるからです。
拒否が認められるのは、請求した株主が正式な株主資格を有していない場合や、手続きに法的な不備がある場合など、限定的なケースであると認識しておきましょう。
会社として株式買取請求権の行使を拒否したい場合には、まず株主の請求が法的に有効なものかどうかを慎重に判断する必要があります。
会社にとって、突然の株式買取請求権の行使は、買取資金の支出による財務状況の悪化リスクや、価格交渉の難航による訴訟リスクなどをはらんでいます。
株式買取請求権の行使を拒否する場合には、必ず弁護士に相談し、適切な対応を検討することが重要です。
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株式買取請求権の行使を拒否できるケース
株式買取請求権の行使を会社が拒否できるケースはごく限られていますが、以下のような場合には、会社側の拒否が法的に認められる可能性があります。
- 権利を行使できる株主でない
- 反対通知をしていない又は反対の議決権を行使していない
- 株式買取請求書の送付期限に遅れた
- 株式買取価格決定申立の期限が過ぎた
- 株券が提出されていない
これらは、権利の瑕疵や手続きの不備によるものです。
各ケースについて具体的に確認しておきましょう。
権利を行使できる株主でない
株式買取請求権を行使するためには、正当な株主であることが必要です。
しかし、場合によっては株主としての権利が認められず、買取請求権の行使を拒否することができます。
例えば、譲渡制限株式を会社の承認なしに譲渡された株主は、会社法上その譲渡が無効となるため、正式な株主として認められません。
この場合、株主としての権利は発生しないため、買取請求権の行使も認められません。
また、遺産分割協議が完了していない相続人からの買取請求も、権利行使が認められない例の1つです。
相続人が被相続人が有していた株式を共有している状況では、一定の場合でなければ買取請求権を行使できません。
このほか、株主名簿に正しく記載されていない場合なども同様に権利行使を拒否できる可能性があります。
株式買取請求権が行使された場合には、まずその権利をもつ正式な株主であるのか確認するようにしましょう。
譲渡制限株式の承認が無い場合の効力については、以下のページで解説しています。
反対通知をしていない又は反対の議決権を行使していない
反対株主が株式買取請求権を行使するには、原則として2回の反対意思表示が必要です。
まず、株主総会前に会社へ反対通知を送り、次に総会で議案に反対する必要があります。
いずれかが欠けると請求権は認められず、会社はその行使を拒否することができます。
会社は請求を受けた際、反対通知の有無や総会での議決権行使状況を確認し、意思表示が適切かどうかをまず判断する必要があります。
株式買取請求書の送付期限に遅れた
株式買取請求権を行使するためには、株主は会社に対し、所定の事項を記載した株式買取請求書を送付します。
この請求書の送付期限は、会社法に定められており、その期間は短くなっているため、送付期限を超過する事例も少なくありません。
もし、株主がこの期限内に株式買取請求書を送付しなかった場合、原則として株式買取請求権は認められません。
会社は、株主からの請求があった際、請求書の到着日を確認し、期限内に送付されたものであるかどうかを必ず確認するようにしましょう。
期限を過ぎてからの請求であれば、会社は請求を拒否することができます。
株式買取価格決定申立の期限が過ぎた
株主が株式買取請求権を行使した場合、株式の価格については会社法に具体的な定めがないため、当事者間で買取価格を協議することになります。
しかし、両者の意見が一致せず、合意に至らないケースもあります。
そのような場合には、裁判所に対して株式買取価格の決定を申し立てることも可能です。
ただし、裁判所への申立ては会社法によって申立期限が定められています。
この期限内に申立てを行わなければ、裁判所に公正な価格の判定を仰ぐ権利を失うことになります。
もし、裁判所への申立ての期限を過ぎてしまい、かつ当事者間で協議が調わない場合でも、株式の買取を希望するというのであれば、会社の提示価格に従わない限り株式を買い取ってもらう方法がないため、結果として会社の提示価格による買取りとなるでしょう。
株式買取の拒否とはなりませんが、株主にとっては自らが望む価格での買取機会を失うことになります。
株式買取価格決定申立の詳細については、以下のページをご参考下さい。
さらに詳しく株式買取価格決定申立とは?手続きの流れや期限などをわかりやすく解説株券が提出されていない
株券発行会社の場合、株式買取請求権を行使するには、買取請求の意思を通知するだけでは不十分です。
会社法では、株主は買取請求と同時に、会社に対して株券を提出することが義務付けられています。
これは、株式買取請求を行った株主が、その株式を第三者に譲渡することを防ぐための重要な手続きです。
株券を提出することで、会社は対象となる株式が確実に株主の手元にあることを確認し、適正な買取手続きを進めることができます。
株券の提出がない場合は、会社は株式買取請求を拒否することができるとされています。
したがって、株券発行会社における株式買取請求においては、株券の提出を確認した上で対応しなければなりません。
株式買取請求権の拒否や価格交渉に関しては弁護士法人ALGにご相談ください。
株式買取請求権の拒否に関する判断は、法的な知識や経験が必要となる複雑な問題です。
会社側としては、株主からの請求が正当なものかどうかを判断し、適切な対応を取る必要があります。 弁護士法人ALGは、企業法務に精通した弁護士が多数在籍しており、株式買取請求の拒否や株式買取価格の協議に関するご相談、交渉、訴訟対応など、幅広い法的サポートを行っております。 株式買取請求について少しでもご不安があればお気軽にご相談下さい。会社側の立場に寄り添い、全力でサポートいたします。お問い合わせ
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