熱中症が労働災害として認められる条件とは?申請する際の流れなど

熱中症が労働災害として認められる条件とは?申請する際の流れなど

日本の年平均気温は年々上昇しており、地球温暖化が問題となっています。

それに関係してか熱中症による被害も拡大しており、職場、学校、自宅など場所を問わず熱中症による死傷者が増え続けています。

熱中症が身近なものとなってきている今、熱中症で労働災害、いわゆる労災が認められるのでしょうか。

厚生労働省が公表している「令和4年職場における熱中症による死傷災害の発生状況」によれば、827人もの人が職場で熱中症となり死傷している状況です。

そこで、本記事では、熱中症が労働災害として認められるのかという点に着目し、熱中症と労働災害の関係について詳しく解説していきます。

熱中症の症状と重症度

熱中症とは、気温や湿度が高い環境下に長時間身を置くことで、体温の調整がうまくできず熱が体内にこもってしまい、めまいや嘔吐などが生じてしまう症状を指します。

症状は下表のとおり重症度Ⅰ~Ⅲに分類されています。
これは、治療の必要性を具体的に理解するためです。

重症度 症状
重症度Ⅰ ・手足のしびれ
・めまい、たちくらみ
・筋肉のこむら返り
・ぼーっとする
・気分が悪い
現場で対応可能
重症度Ⅱ ・頭痛
・吐き気、嘔吐
・倦怠感、だるい
・意識がおかしい
速やかな医療機関への受診が必要
重症度Ⅲ ・けいれん
・意識がない
・呼びかけに応じない
・まっすぐ歩けない
・体が熱い
医療者による判断により入院、集中治療が必要

仕事中の熱中症は労働災害になる?

仕事中に熱中症となった場合、労働災害になる可能性があります。

労働災害(=労災)とは、業務や通勤を原因として労働者が負傷、疾病、死亡したりすることです。
ただし、疾病に関しては突発的ではなく、徐々に症状が生じたものは認められません。

熱中症の労働災害認定に必要な要件は、おおよそ以下のとおりです。

<一般的認定要件>

  • 業務上の突発的又はその発生状態を時間的、場所的に明確にし得る原因が存在すること
  • 当該原因の性質、強度、これが身体に作用した部位、災害発生後発病までの時間的間隔等から災害と疾病との間に因果関係が認められること
  • 業務に起因しない他の原因により発病(又は増悪)したものでないこと

<医学的診断要件>

  • 作業条件及び温湿度条件等の把握
  • 一般症状の視診(けいれん、意識障害等)及び体温の測定
  • 作業中に発生した頭蓋内出血、脳貧血、てんかん等による意識障害等との鑑別診断

労災が認められないケース

以下のようなケースの場合は、労災が認められません。

  • 持病が悪化した場合
  • 休業中に疾病した場合
  • 帰宅後の自宅が暑く、熱中症となった場合 など

業務中や通勤途中から体調が優れず、帰宅後に熱中症が悪化してしまった場合は労災が認められる可能性がありますが、熱中症となった原因が業務にない限りは認められにくいです。

しかし、会社で出席しなければならない行事ごと(飲み会など)で熱中症となった場合には、熱中症となった原因が業務にあるとして労災認定される可能性があります。

実際に熱中症で労災が認められた事例

災害発生状況

労働者が塗料工業において、屋内の充填(じゅうてん)場で塗料を石油缶に充填する作業を行っていたところ、頭痛や嘔吐などの症状があらわれ、病院にて熱中症と診断されました。
その後、約1時間の点滴を受けた結果症状が改善したため、そのまま帰宅となりました。

原因と対策

作業員は適度な水分補給を行っていたものの、塩分摂取はしていなかったことや作業機械が高温であったことなどから室内自体の温度が上昇し熱中症を引き起こしたと考えられました。

熱中症対策として、水分とミネラルを摂取できる飲料(スポーツドリンクなど)が推奨され、作業場付近にはスポットクーラーが設置されるなどの対策が実施されました。

上記は屋内で発生した熱中症で労災が認められた事例です。
熱中症は屋外でなりやすいイメージが多いですが、このように環境下次第では屋内であっても熱中症を引き起こしてしまいます。

熱中症で労災保険を申請する流れ

労災保険の申請をするためには、労災指定病院と会社を通して療養補償給付の申請手続きを行う必要があります。

熱中症発生から労災保険の給付までの大まかな流れは、以下のとおりです。

  • 業務災害発生
  • 労災保険指定病院を受診する(あらかじめ労災保険を使用する旨を病院へ伝える)
  • 会社に労災保険を使用する旨を伝え、申請書類をもらう
  • 受診した病院に申請書類を提出する
  • 病院から労働基準監督署に書類が送付される
  • 労働基準監督署による審査が行われる
  • 給付決定

給付が認められると、治療費が全額支給され休業した場合でも給料の約8割が支給されます。
ただし、労災指定病院ではない病院を受診した場合は、給付を受けるまで治療費を全額負担しなければなりません。

熱中症で受け取れる労災保険給付の種類

業務災害や通勤災害により熱中症となった労働者は、以下のような労災保険給付を受け取ることができます。

  • 療養補償給付
    業務災害または通勤災害による傷病の療養に必要な費用の給付
  • 休業補償給付
    業務災害または通勤災害による傷病のため、労働できず賃金を受け取れないことに対する給付
  • 障害補償給付
    業務災害または通勤災害による傷病が完治せずに後遺障害が残ってしまった場合に給付される年金や一時金
  • 遺族補償給付
    業務災害または通勤災害により死亡した場合に遺族が受け取れる年金や一時金 など

その他にも業務災害または通勤災害の状況などから労働者が受け取れる給付金があります。

熱中症の労災で会社に対して損害賠償はできる?

業務災害または通勤災害により熱中症を発症してしまった場合、労働者は会社に対して損害賠償請求することができます。

具体的には、安全配慮義務違反として損害賠償請求することができます。
安全配慮義務違反とはどういうことなのでしょうか?

次項にて解説していきましょう。

熱中症対策における安全配慮義務違反

安全配慮義務とは、企業や雇用者が労働者の心と体の健康と安全を守るために配慮すべき義務のことをいいます。

安全配慮義務を守るためには、企業や雇用者は労働者に働きやすい環境を整えなければなりません。

そのような状況で労働者が熱中症となってしまった場合は、企業側の安全配慮義務違反となるため、労働者の損害賠償請求に応える必要があります。

ただし、熱中症の安全配慮義務違反の判断基準は、具体的な状況や事案により内容が異なりますので、すべてが安全配慮義務違反となるわけではありません。

会社への損害賠償請求

会社には安全配慮義務があるため、違反が認められた場合には会社に対して損害賠償請求することができます。
会社は労働者の働きやすい環境を整えるだけでなく、労働者が熱中症などを発症した場合に速やかに救護しなければなりません。

そのため、会社側が労働者に対して適切な救護活動を行わなかった場合にも、同じく安全配慮義務違反となる可能性があります。

なお、会社へ損害賠償請求を行う場合には弁護士に依頼するとスムーズに手続きが進みますのでおすすめです。
損害賠償請求を行うかどうか迷われている場合でも、弁護士に相談してみると良いでしょう。

熱中症の労災に関するよくある質問

通勤中に熱中症になった場合は労災として認められますか?

通勤中の熱中症も通勤災害として労災の対象になる可能性があります。
しかし、通勤中であればどのような場合でも通勤災害が認められるわけではありません。

基本的には、以下のような要件を満たしている場合に通勤災害として認められます。

  • 住居と就業場所との往復であること
  • 就業場所から他の就業場所への移動であること
  • 単身赴任先と家族の住む住居間の移動であること

あくまで、就業のために合理的な経路と通勤手段を使用していることが大前提です。

そのため、個人的な用事で通勤の途中に寄り道するなどといった、通勤とまったく関係のない行為におよんだ際に熱中症を発症した場合は、通勤災害に該当しないと判断されてしまいます。

通勤災害については、以下のページにて詳しく解説しております。併せてご覧ください。


業務中に脱水症状を起こした場合は労働災害になりますか?

業務中に脱水症状を起こした場合も労働災害になる可能性があります。

労働基準法の施行規則では、暑熱な場所における業務による熱中症の場合は業務上疾病となる旨定められています(別表第1の2第2号8)。

脱水症状は体内から水分が失われている状態であり、めまいや吐き気、酷いときには手足の震えや呼吸困難になってしまう熱中症によって生じる症状の一つです。

そのため、脱水症状を引き起こした場合は業務上疾病となり労働災害として認められます。

しかし、労災の認定要件は一般的認定要件医学的診断要件を満たしていることです。 業務中に熱中症となり、脱水症状を起こしていても2つの要件を満たしていなければ労働災害として認めてもらえない可能性があります。

業務中の熱中症や労災認定については弁護士に相談ください

業務中または通勤中の熱中症や労災認定については、まず会社との話し合いから始まります。
手続きの仕方などは、基本的に会社に確認することで会社から案内してもらえるでしょう。

しかし、安全配慮義務違反のため会社に損害賠償請求を行うとなれば、会社との話し合いが難航するおそれがあります。

また、どのような費目を損害賠償請求できるのかわからないという方もいらっしゃるでしょう。
そのような場合には、ぜひ一度弁護士にご相談ください。

弁護士に相談することにより、難航していた話し合いを解決へと導いてもらえます。
不利益が生じないように、ご自身に適した解決策を提案することも可能です。

労災認定の手続きに少しでも不安を抱かれている方は、お気軽に弁護士にご相談ください。

弁護士

監修 弁護士 谷川 聖治 弁護士法人ALG&Associates 執行役員

保有資格 : 弁護士 (東京弁護士会所属・登録番号:41560)

東京弁護士会所属。私たちは、弁護士106名、スタッフ220名(司法書士1名を含む)を擁し(※2023年1月4日時点)、東京、宇都宮、埼玉、千葉、横浜、名古屋、大阪、神戸、姫路、広島、福岡、バンコクの12拠点を構え、全国のお客様のリーガルニーズに迅速に応対することを可能としております。

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