仕事中または通勤中に生じた腰痛は、労災(=労働災害)に認定される可能性があります。
しかし、腰痛を発症した原因が加齢や仕事以外にあるのか区別することが困難であるため、労災の認定を得ることが難しいという実情があります。
そのため、腰痛の労災認定要件をしっかりと理解したうえで、労災申請の手続きを行うことが大切です。
そこで、本記事では労災による腰痛について着目し、腰痛の労災認定要件や労災の申請手続きについて詳しく解説していきます。
目次
腰痛の労災認定要件
厚生労働省は、被災労働者に生じた腰痛が業務上によるものなのかを判断するために、業務上腰痛の認定基準を定めています。
この認定基準では、腰痛について次の2種類に区分し、下表のとおり“労災認定とするための要件”をそれぞれに定めています。
- 災害性の原因による腰痛
- 災害性の原因によらない腰痛
災害性の原因による腰痛 | ①腰の負傷またはその負傷の原因となった急激な力の作用が、仕事中の突発的な出来事によって生じたと明らかに認められること ➁腰に作用した力が腰痛を発症させ、または腰痛の既往症・基礎疾患を著しく悪化させたと医学的にみとめられること |
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災害性の原因によらない腰痛 | 突発的な出来事が原因ではなく、重量物を取り扱う仕事など腰に過度の負担のかかる仕事に従事する労働者に発症した腰痛で、作業の状態や作業期間などからみて、仕事が原因で発症したと認められるもの 主に次の①と➁に区分して判断されます。 ①筋肉等の疲労を原因とした腰痛 次のような業務に、約3ヶ月以上従事したことによる筋肉等の疲労を原因として発症した腰痛は、労災補償の対象となります。
➁骨の変化を原因とした腰痛 次のような重量物を取り扱う業務に、約10年以上にわたり継続して従事したことによる骨の変化を原因として発症した腰痛は、労災補償の対象となります。
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仕事中のぎっくり腰は労災にならない?
ぎっくり腰(急性腰痛症)とは、腰部に突然強い疼痛が起こり動けなくなるような症状を指します。
腰痛は日常生活で重いものを持ち上げようとしたときなど、何気ない動作でも生じるものです。 そのため、業務が原因でぎっくり腰が生じたとは認めがたいことから、仕事中にぎっくり腰が生じても、労災とは認められない可能性があります。
しかし、例えば仕事中に重量物を2人で運んでいた際に1人が誤って手を放してしまい、もう1人の腰部に強い負荷がかかりぎっくり腰が生じたなどの場合は、業務に原因があると認められ労災認定となる可能性があります。
椎間板ヘルニアは労災になる?
厚生労働省では、椎間板ヘルニアなどの既往症がある労働者が仕事によって椎間板ヘルニアが再発または重症化した場合、再発または重症化する前の状態に回復させるための治療に限り労災補償の対象とする旨定められています。
そのため、以前から椎間板ヘルニアを発症していた場合は、労災と認められても、労災補償を完治まで受けられるわけではありませんので注意しましょう。
なお、労災の申請手続きをしてもよいのか判断に迷われる方は、お近くの都道府県労働局や労働基準監督署に相談されることをおすすめします。
労災によるヘルニアについて更に詳しく知りたい方は、以下のページもぜひご覧ください。
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腰痛が労災認定された場合の給付内容
腰痛が労災として認定された場合、以下のような労災保険給付を受け取ることができます。
- 療養補償給付
業務災害または通勤災害による傷病の療養に必要な費用の給付 - 休業補償給付
業務災害または通勤災害による傷病のため、労働できず賃金を受け取れないことに対する給付 - 障害補償給付
業務災害または通勤災害による傷病が完治せずに後遺障害が残ってしまった場合に給付される年金や一時金
仕事中に腰痛になった場合の労災認定手続き
仕事中に腰痛を発症した場合に行う労災の申請手続きは、通常行うときの流れと同様です。 しかし、通常と異なる点が1つあり、労働基準監督署から腰痛等災害発生状況報告書などの提出を求められる場合があります。
腰痛等災害発生状況報告書とは?
腰痛が業務上の原因によるものなのか判断するための資料となるものです。 被災労働者の情報はもちろん、災害発生状況や治療状況などについて詳しく記入しなければなりません。
なお、腰痛等災害発生状況報告書の様式は決まったものはなく、各都道府県の労働局や会社によって様々です。 そのため、「腰痛事案の調査報告書」や「腰痛調書」といった名称でネット上にアップされています。
会社が労災申請に協力してくれない時の対処法
労災の申請手続きは、被災労働者自ら行うことも可能です。
そのため、会社が労災申請の手続きについて対応してくれない場合は、ご自身で労災の申請手続きを行いましょう。
しかし、会社が労災を認めないような場合は、会社を管轄する労働基準監督署にその旨を伝える必要があります。
なぜなら、労災を隠すことは犯罪行為とされているからです。
どのような理由があったとしても、労災隠しは決して許されるものではありません。
会社や雇用者が労災隠しを行った場合、罰則として50万円以下の罰金刑が科せられます。
会社から、「健康保険を使って通院してほしい」や「給料等は支払うから労災にはしないでほしい」などと言われた場合は、労災隠しを疑いましょう。
なお、労災隠しについては以下のページにて更に詳しく解説しておりますので、併せてご覧ください。
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仕事中に発生した腰痛が労災認定された事例
仕事中に発生した腰痛について、どのような場合であれば労災と認められるのでしょうか? 業務上腰痛として労災認定された事例を1つご紹介いたします。
<事例>
発生状況
倉庫内から重量物(約10㎏)を運搬しようとした事務職員が、倉庫内に持ち上げるための十分なスペースがなかったことで不自然な姿勢をとってしまい、腰に強い痛みが生じ動けなくなったため病院に搬送されました。その後、病院にて腰部捻挫の診断を受けました。
認定理由
倉庫内は荷物に囲まれており身動きが非常に取りづらい状態であったことから、腰に無理のかかる姿勢で荷物を持ち上げたことにより腰部に強い力が加わり腰痛を発症したと認められるため、災害性の腰痛として労災認定されました。
この事例は、急激な強い力が腰部に加わることにより発症した=災害性の腰痛として労災の認定が認められました。
腰痛が労災認定されたら会社へ損害賠償請求できる?
労災保険給付は、被災労働者が労災により被った損害のすべてを補えるわけではありません。
そのため、労災保険給付で補えなかった部分の損害は、被災労働者にて負担しなければなりません。 しかし、会社側に安全配慮義務違反がある場合は、会社に対して損害賠償請求ができます。
会社や雇用者には、“労働者の健康と安全を守るために配慮する義務”があります。 この義務を安全配慮義務といいます。
会社が安全配慮義務に違反した場合、会社はその責任を負う必要があるため、被災労働者からの損害賠償請求を受けなければなりません。
しかし、会社に対して損害賠償請求を行うことは容易ではないため、法律の専門家である弁護士に相談されることをおすすめします。
仕事中の腰痛や労災申請について不安なことがあれば弁護士にご相談ください
仕事中の腰痛は、業務上腰痛の認定基準を満たすことで労災として認定される可能性があります。 しかし、認定基準は厳格に定められているため、すべてのケースで労災が認定されるわけではありません。
特に腰痛は、日常生活で行う何気ない動作でも発症します。 ご自身に起こった腰痛が仕事によるものなのかどうか、判断に困る方もいらっしゃるでしょう。
また、仕事による腰痛だとわかっても、労災の申請手続きや会社への損害賠償請求など、行ったことのない手続きばかりで不安に思われる方が多いはずです。
そのような場合は、ぜひ弁護士にご相談ください。 弁護士であれば、労災の申請手続きについてのアドバイスや会社への損害賠償請求について被災労働者の代理人として対応することができます。
少しでも不安を抱かれている方は、お気軽に弁護士へご相談ください。
監修 弁護士 谷川 聖治 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
保有資格 : 弁護士 (東京弁護士会所属・登録番号:41560)
東京弁護士会所属。私たちは、弁護士106名、スタッフ220名(司法書士1名を含む)を擁し(※2023年1月4日時点)、東京、宇都宮、埼玉、千葉、横浜、名古屋、大阪、神戸、姫路、広島、福岡、バンコクの12拠点を構え、全国のお客様のリーガルニーズに迅速に応対することを可能としております。
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