仕事中の交通事故(労働災害)|労災保険の使用や損害賠償について

仕事中の交通事故(労働災害)|労災保険の使用や損害賠償について

仕事中や通勤中に発生した交通事故は、労働災害(=労災)になるのでしょうか?

労働災害とは、“労働者が仕事や通勤により負傷、疾病または死亡すること”をいいます。
そのため、仕事中や通勤中に発生した交通事故は労災として認められます。

ただし、厚生労働省は労災と認めてもよいか適切に判断するための認定要件を厳格に定めています。
この認定要件を満たさない限り、労災として認められません。

そこで本記事では、労災による交通事故に着目し、労災保険の適用条件や損害賠償請求について詳しく解説していきます。しっかりと理解を深めていきましょう。

仕事中の交通事故は労災保険が使える

仕事中や通勤途中に発生した交通事故により負傷した場合は、労災保険を使用することができます。

◇そもそも労災保険とは?

労災保険とは、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害または死亡に対して労働者やその遺族のために必要な保険給付を行う制度のことをいいます。

労災保険が適用される条件は、労災事故の原因や事由により異なり、その中でも大きく“業務災害”と“通勤災害”に分類されています。

では、どのような場合に労災保険が使えるのか具体例をみていきましょう。

業務災害として認められる交通事故

  • 自転車で新聞配達中に大型トラックと衝突し負傷した
  • 工事現場から会社に戻る途中に乗用車と衝突し負傷した など

通勤災害として認められる交通事故

  • 自転車で通勤中に乗用車と衝突し負傷した
  • 出張中、横断歩道を渡っている途中で乗用車と衝突し負傷した など

通勤災害は以下のページで詳しく解説しております。ぜひ併せてご覧ください。

労災保険が使えないケース

業務と直接関係ない交通事故の場合、労災保険は使用できません。

具体例

  • 就業後の買い物帰りに発生した交通事故
  • 休憩中に外出した際に発生した交通事故 など

また、通勤災害に関しては、通常の通勤ルートであるかどうかがポイントとなります。
いつも使用している通勤ルートを逸脱している場合は、労災として認められません。

しかし、業務と直接関係ないとされる休憩中の交通事故でも、例外的に労災として認められる場合があります。

例えば、労働者が昼休憩時に作業場内の道路に面した柵によりかかり休んでいたところ、運転操作を誤った乗用車が柵に衝突して労働者が負傷した場合は、“業務との関連性”が認められ、労災として認定されました。

交通事故で受け取れる労災保険の給付内容

仕事中や通勤中の交通事故が労災認定された場合、労災保険から下表の給付を受けることができます。

被災労働者本人はもちろんのこと、被災労働者が労災事故により亡くなった場合には、被災労働者の家族に対しても遺族補償給付が支給されます。

療養補償給付 業務災害または通勤災害による傷病の療養に必要な費用の給付
休業補償給付 業務災害または通勤災害による傷病のため、労働できず賃金を受け取れないことに対する給付
障害補償給付 業務災害または通勤災害による傷病が完治せずに後遺障害が残ってしまった場合に給付される年金や一時金
遺族補償給付 業務災害または通勤災害により労働者が死亡した場合に、一定範囲の遺族に対して給付される年金や一時金
葬祭料 労働者が亡くなり葬祭を行う場合に、葬祭を行う者に対して行われる給付
傷病補償年金 傷病等級第3級以上に当たる負傷や疾病が、療養開始後1年6ヶ月以上経過しても完治していない場合に給付される年金
介護補償給付 業務災害または通勤災害による傷病のため介護を必要とする場合に、その費用を補填するための給付

交通事故で労災保険を利用するメリット

被災労働者は、労災保険を利用することで様々なメリットが得られます。

しかし、交通事故の場合は労災保険と加害者側の任意保険の両方を利用することができるため、それぞれのメリットやデメリットを踏まえたうえで、どちらが自身にとってよいのかを慎重に検討することが重要です。

では、労災保険を利用した場合はどのようなメリットを得ることができるのでしょうか?
次項で詳しくみていきましょう。

労災保険の給付金が受け取れる

労災保険を使用することで、手厚い給付金だけでなく特別給付金をプラスで受け取ることができます。

基本的に、労災保険と任意保険の両方を併用する場合は二重取りできないため、給付内容が同じものは受け取ることができません。

しかし、福祉の観点から給付される特別給付金については、支給調整されずに受け取ることができます。

例えば休業した場合、任意保険だけの利用であれば休業損害として最大100%の補償のみですが、労災保険を併用することで120%(特別給付金を含む)の補償を受けることができます。

休業した場合

  • ①労災保険から
    休業補償給付として、休業4日目から休業1日につき給付基礎日額×60%相当額が支給されます。
  • ➁加害者側の任意保険会社へ
    休業損害として、労災保険から支給されていない残り40%を損害賠償請求します。
  • +③労災保険から
    休業特別給付金として、休業4日目から休業1日につき給付基礎日額の20%相当額が支給されます。

限度額や過失割合の影響を受けない

加害者側の任意保険を利用した場合、自賠責保険に限度額が設定されていることから、受け取れる補償が少なくなる可能性があります。

自賠責保険の限度額を超えた損害については、加害者側の任意保険会社に損害賠償請求しますが、交渉や過失割合次第では十分な支払いを行ってもらえません。

その点、労災保険は労災保険の制度で定められた金額が支給されるため、限度額や過失割合の影響を受けません。

ただし、加害者側の任意保険会社との示談の際に、「休業補償をこれ以上請求しません」というような内容がある場合は、労災保険の申請手続きをしても支払われないおそれがあるため、注意が必要です。

後遺障害等級認定を労災保険でも行うことができる

交通事故により後遺症が残ってしまう場合も少なくありません。

その場合は、残ってしまった後遺症が後遺障害に該当するかどうかを判断してもらうために後遺障害等級認定を受けます。

一般的には、自賠責保険の後遺障害等級認定を受けることが多いですが、労災の場合は労災保険の後遺障害等級認定も受けることができます。

労災保険の認定方法は自賠責保険とは異なり、労働基準監督署での面談なども行われます。

また、自賠責保険と労災保険の両方に申請する場合は支給調整が必要になるため、自賠責保険の後遺障害等級認定を受けた後に労災保険を申請した方がスムーズに手続きすることができます。

交通事故で労災保険を利用した場合のデメリット

交通事故で被災労働者が労災保険を利用した場合に考えられるデメリットはありません。

労災保険料の増額や行政処分が下される可能性がありますが、それらはすべて雇用側の問題です。
そのため、被災労働者側のデメリットは少ないでしょう。

労災保険の項目には慰謝料がありませんが、入通院慰謝料や後遺障害慰謝料、死亡慰謝料などは加害者側の自賠責保険や任意保険または加害者本人に請求することで、回収することができます。

交通事故で労災保険を使う際の手続き

仕事中や通勤中に発生した交通事故は、第三者行為災害と呼ばれています。

第三者行為災害とは、労災事故発生の原因が第三者(=政府、事業主および労災保険の受給権者以外の方)の行為によって生じた労働災害のことをいいます。

労災保険を使う際は、勤務先が管轄の労働基準監督署に労災給付の請求書を提出し、提出と同時もしくは提出後速やかに第三者行為災害届を提出する必要があります。

また、第三者行為災害届には添付しなければならない書類がいくつかあります。

<第三者行為災害届に添付する書類>

  • 交通事故証明書または交通事故発生届け
  • 念書(兼同意書)
  • 示談書の謄本(示談が行われた場合)
  • 自賠責保険等の損害賠償金等支払い証明書または保険金支払通知書(仮渡金または賠償金を受けている場合)
  • 死体検案書または死亡診断書・戸籍謄本(死亡した場合)など

業務における交通事故は会社へ損害賠償請求できる?

業務における交通事故は、従業員は会社に対して損害賠償請求できる場合があります。
具体的には、会社に 安全配慮義務違反が認められる場合に請求することができます。

安全配慮義務違反:労働者の健康と安全に対して、会社や雇用主が責任を果たさない行為や不作為のことをいいます。

そのため、送迎や運搬、配達で会社から運転を頼まれたなどの業務命令がある場合は、基本的に会社へ損害賠償請求することができます。

一方、会社から帰宅中であるが寄り道していた際に発生した交通事故などは、会社業務との関係性がないと考えられるため、会社に対して損害賠償請求できない可能性が高いです。

労災となる交通事故で第三者へ損害を与えてしまった場合の賠償責任

第三者へ損害を与えてしまった場合とは、「労働者が運転を誤り、配送先の倉庫に衝突して倉庫を破損したケース」などが当てはまります。
このようなケースの場合、“賠償責任は会社と労働者のどちらにあるのか”などが問題となります。

賠償責任を負うのは誰?

業務中の交通事故の場合、会社と労働者の双方が賠償責任を負います。
会社は労働者の働きにより利益を得ているため、そこから生じるリスクについても負担しなければならないからです。

賠償責任の割合は?

賠償責任の割合は、事故態様や労働者の業務内容なども考慮されるため、事案によって異なります。
しかし、労働者の軽過失(通常想定される不注意)によって引き起こされたものであれば、労働者の責任は基本的に5~30%程度とされています。

仕事中の交通事故は弁護士にご相談ください

仕事中に発生した交通事故は、労災として認められる可能性があります。
しかし、労災保険と併せて任意保険の利用もできるため、手続きがより煩雑になります。

任意保険を利用するとなれば、加害者側の任意保険会社に対して損害賠償請求を行うことにもなるため、「どのように損害賠償請求すればよいのか」また「どのような手順を踏めばよいのか」悩まれ治療に専念できない、という方もいらっしゃるでしょう。

そのような場合は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。

弁護士に相談・依頼することで、煩雑な労災手続きに対してのアドバイスや加害者側の任意保険会社との交渉を任せることができ、ストレスの軽減・緩和につながります。

仕事中の交通事故でお困りの方は、お気軽に弁護士へご相談ください。

弁護士

監修 弁護士 谷川 聖治 弁護士法人ALG&Associates 執行役員

保有資格 : 弁護士 (東京弁護士会所属・登録番号:41560)

東京弁護士会所属。私たちは、弁護士106名、スタッフ220名(司法書士1名を含む)を擁し(※2023年1月4日時点)、東京、宇都宮、埼玉、千葉、横浜、名古屋、大阪、神戸、姫路、広島、福岡、バンコクの12拠点を構え、全国のお客様のリーガルニーズに迅速に応対することを可能としております。

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