反対株主の買取請求とは?権利が認められるケースや流れ、価格など

監修
弁護士 家永 勲

弁護士法人ALG&Associates執行役員

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企業が組織再編や事業譲渡などの重要な経営判断を行う際、株主の利益に影響を及ぼす場面があります。特に、経営方針に反対する少数株主は、株式を会社に買い取ってもらいたいと考えることもあるでしょう。

こうした場面で認められるのが、会社法に基づく反対株主の買取請求です。本記事では、その制度の概要や株式買取請求権の行使方法、注意点をわかりやすく解説します。

反対株主の買取請求とは

反対株主の買取請求とは、会社が組織再編など株主の権利や利益に影響を与える一定の行為を行う際に、それに反対する株主が自らの株式を会社に買い取るよう請求できる権利です。

これは会社法に定められた権利であり、会社はこの買取請求を拒否することはできません。反対株主はこの権利を利用することで、経営方針に納得できない場合でも、公正な価格で株式を売却し、投下資本を回収することができます。

会社は法的義務として、適正な手続きに基づき公平な価格で株式を買い取る必要がありますので、買取請求に関する知識を備えておくことが大切です。

株式買取請求権の詳細については、以下のページで詳しく解説しています。

さらに詳しく株式買取請求権とは?行使できるケース・できないケースや手続きの流れ

そもそも反対株主とは

反対株主とは、会社の特定の行為(組織再編など)が株主総会の決議を要する場合には、以下のいずれかに該当する者をいいます。

  1. 株主総会に先立って会社に対し、書面等で明確に会社の特定の行為に反対する意思を通知し、さらに、株主総会で実際に反対票を投じた株主
  2. 株主総会において議決権を行使できない株主(議決権を制限された株式を持っている株主等)

なお、株主総会の決議自体が不要な場合においては、すべての株主が反対株主として株式買取請求権を行使することができるとされています。

反対株主の買取請求権が認められるケース

反対株主による買取請求が認められるのは、会社法に定められた以下のような場合に限られます。

  1. 組織再編
  2. 事業譲渡
  3. スクイーズアウト
  4. 譲渡制限を付す定款の変更

各ケースについて以下で解説していきます。

組織再編

組織再編とは、企業の事業規模拡大や経営効率化などを目的として、複数の会社を統合したり、事業の一部を分離したりする組織変更の総称です。
具体的には、以下の組織変更が該当します。

  • 合併(複数の会社が一つになる)
  • 会社分割(事業に関して有する権利義務の全部または一部を別の会社に移転)
  • 株式交換(ある会社の全ての株式を他の会社に取得させる)
  • 株式移転(既存の会社を子会社とする新たな親会社を設立し、子会社とする会社の株式すべてを親会社とする会社に取得させる)など

これらの組織再編は、株主の利益に大きく影響する可能性があるため、会社法で反対株主を保護する買取請求権が認められています。

組織再編に反対する株主は、会社に対して自己の保有する株式を公正な価格で買い取るよう株式買取請求権を行使できます。

ただし、株式買取請求権を行使できるのは、原則として株主総会に先立って反対の意思を会社に通知し、かつ株主総会において反対票を投じた株主に限られます。

もしいずれかの要件を満たしていない場合には買取請求権を行使できませんので、要件の確認は必ず行いましょう。

事業譲渡・子会社の売却

事業譲渡とは、会社がその事業の全部またはその一部を他の会社に売り渡す行為です。事業譲渡等は、会社の規模や事業構成に大きな変化をもたらすため、株主の利益に影響を与える可能性があります。

そのため、事業譲渡等に反対する株主には、原則として株式買取請求権が認められます。

ただし、買取請求権を行使できるのは、組織再編と同様、株主総会に先立って会社に反対の意思を通知し、かつ株主総会で反対票を投じた株主に限られます。

例外的に、事業譲渡の中でも簡易の事業譲受けという形態においては、株式買取請求権を行使できません。これは、譲り受け側の会社の株主の利益に与える影響が小さいと判断されるためです。

スクイーズアウト

スクイーズアウトとは、少数株主の有する株式の全部を、その少数株主の個別の承諾を得ることなく、強制的に買い上げる手法を指します。

少数株主を排除することで株主の合意形成を容易にし、経営に関する意思決定の迅速化を図るなどの目的で行われることが多いでしょう。

具体的には、全部取得条項付種類株式を用いた手法や株式併合、特別支配株主による株式等売渡請求などが挙げられます。

スクイーズアウトによって保有株式が一株未満となってしまった反対株主は、議決権や配当を受ける権利を失ってしまいます。

そのため、全部取得条項付種類株式を用いた手法や株式併合をなされた株主には、会社に対して株式買取請求権を行使することが認められています。

この請求を行うことができるのは、株式に全部取得条項を付すことや株式併合に反対する通知を事前に行い、かつこれらに関する特別決議に反対している株主に限られます。

少数株主へのスクイーズアウトについては、以下のページをご参考下さい。

譲渡制限を付す定款の変更

会社が定款を改正し、株式の譲渡に際して会社の承認を必要とする旨の規定を新たに設けることを、譲渡制限付き定款への変更といいます。

これは、望ましくない外部の関与を防ぎ、経営の安定性を確保するために導入されることがあります。ただし、株式の自由な譲渡は株主にとって重要な権利であるため、このような制限は財産権の制約ともなり得ます。

そのため、こうした定款変更に反対する株主には、会社に対して株式の買い取りを求める権利(株式買取請求権)が認められています。

この権利を行使するには、株主総会の前に会社へ反対の意思を通知し、総会当日に反対票を投じる必要があります。

譲渡制限株式の詳細については、以下のページをご参考下さい。

さらに詳しく譲渡制限株式とは?目的やメリット・デメリット、譲渡の流れなど

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反対株主による買取請求の流れ

買取請求の手続については、会社法の定めに則って行う必要があります。
対応に不備等があれば、企業にとって不利益が生じる可能性がありますので、正しく理解しておくことが大切です。

反対株主による買取請求の流れは以下の通りです。

  1. 会社からの株式買取請求権の通知・公告
  2. 反対株主による反対通知の送付
  3. 株主総会での反対票の投票
  4. 株式買取請求権の行使
  5. 株式買取価格の協議

各手続について、以降で解説していきます。

①会社からの株式買取請求権の通知・公告

組織再編などの重要な経営判断を行うことによって反対株主に株式買取請求権が発生する場合、会社は株主に対し、その権利について通知または公告を行う義務があります。

株主が株式買取請求権を行使するかどうかを判断できるよう、会社は必要な情報を提供しなければならないとされています。

この通知または公告は、原則として組織再編等の効力が発生する日の20日前までに行わなければならないという期限の設定がありますので注意しましょう。

効力発生日とは、合併であれば合併期日、会社分割であれば分割期日といった、組織再編の効果が実際に発生する日を指します。

もし、株主総会の招集通知に必要な情報が網羅されているのであれば、招集通知を株式買取請求に関する通知とみなすことも可能です。会社は、株主がこれらの情報を十分に理解できるよう、分かりやすい通知・公告を心がけましょう。

②反対株主による反対通知の送付

反対株主が株式買取請求権を適切に行使するには、株主総会の前日までに、会社へ反対の意思を通知する必要があります。通知方法としては、記録が残る内容証明郵便や書留などが一般的です。

もしこの通知を行わなかった場合、総会で反対票を投じたとしても、買取請求権を行使することはできません
反対通知は、請求権の行使において欠かせない要件であるため、送付の有無は必ず確認しましょう。

ただし、株主総会が開催されない場合や、議決権を持たない株主については、通知を送る必要はありません。

③株主総会での反対票の投票

株式買取請求権を行使するためには、事前の反対通知の送付に加えて、株主総会において実際に反対票を投じることが必要です。

つまり、事前に会社に反対の意思を伝えたとしても、株主総会で賛成票を投じた場合には、株式買取請求権を行使することはできません

ただし、株主総会自体が開かれない場合や、議決権を行使できない株主については、反対票の投票は不要となります。例えば、種類株式の内容によって議決権が制限されている株主などは、投票が不要なケースに該当します。

④株式買取請求権の行使

反対の意思表示を行った上で、正式に株式買取請求権を行使するには、会社に対し書面等で買取請求の意思表示を行う必要があります。
この際、買取請求する株式の種類や数を明確に記載することが大切です。

株券が発行されている場合は、株式の現物を会社へ提出することも必要となります。口頭による請求も法律上は有効ですが、後々のトラブルを避けるため、内容証明郵便など記録に残る書面で行うことが多いでしょう。

株式買取請求権の行使期限は、吸収合併、吸収分割、株式交換及び株式交付の場合は、効力発生日の20日前から効力発生日の前日までと定められています。

また、新設合併、新設分割及び株式移転の場合は、会社法806条3項4項による通知・公告の日から20日以内と定められています。期限を過ぎると権利が消滅してしまうため、期限後は買取請求を行うことはできません。

なお、買取請求権を行使した後に、請求を撤回するには会社の承諾を得なければなりません。

⑤株式買取価格の協議

反対株主の買取請求の流れ

株式買取請求権を行使した後の価格決定については、法律上で明確な基準が定められていないため、会社と反対株主の間で協議を行う必要があります。

協議の結果、価格に合意が成立した場合、会社は組織再編などの効力発生日から60日以内に、合意した金額を反対株主へ支払わなければなりません

もし協議が不調に終わった場合には、協議期間の終了日から30日以内に、裁判所へ株式買取価格の決定を申し立てることが可能です。

裁判所は、双方の主張や専門家による評価などを踏まえて価格を判断しますが、この申立てには高度な専門知識が求められるため、弁護士などの専門家に相談することが望ましいでしょう。

なお、協議期間終了後30日以内に申立てを行わなかった場合、反対株主は買取請求を撤回することもできます。こうした手続では、期限の管理が非常に重要となるため、各段階で記録を残しておくことが推奨されます。

株式買取価格決定申立の詳細は、以下のページで解説しています。

さらに詳しく株式買取価格決定申立とは?手続きの流れや期限などをわかりやすく解説

反対株主の株式買取請求における公正な価格

反対株主の株式買取請求における公正な価格とは、企業価値を適切に反映した客観的に妥当な株式価格をいいます。

つまり、組織再編によって企業価値が上昇するのであれば、そのシナジー効果も含んだ価格である必要があり、もし、企業価値に変動が生じないのであれば、組織再編等がなかったと仮定した価格になります。

一般的に、公正な価格の算定方法としては、DCF法や純資産法などが採用される傾向があります。

DCF法は、企業の将来の収益力に着目した評価方法で、将来期待されるキャッシュフローをリスクなどを考慮した割引率で現在価値に換算します。

一方、純資産法は、企業のバランスシート上の資産から負債を差し引いた純資産額を基に株式価値を評価する方法です。

しかし、これらの評価方法は専門的な知識や財務分析のスキル等を要するため、専門家のサポートが重要となります。公正な価格の算定や買取価格の交渉には、会社法に精通した弁護士に依頼することをおすすめします。

反対株主の買取請求に関しては弁護士法人ALGにご相談ください

反対株主の買取請求は、企業法務において専門的な知識や経験が求められる分野といえるでしょう。

適切な手続きの進め方や買取価格の交渉、裁判所への対応など、企業が単独で対応するには困難な場面も多く存在します。

反対株主の買取請求にご不安がある場合には、早期に弁護士へ相談することをおすすめします。

弁護士法人ALGでは、会社法に専門性をもつ弁護士が多数在籍しており、反対株主の買取請求に関するあらゆる問題について積極的に取り組んでいます。

手続き上のアドバイスや代理人としての交渉、裁判所への申立てなど、貴社の状況に応じた法的サポートを提案いたします。
反対株主の買取請求についてお困りごとがあれば、是非ご相談ください。

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