株式買取請求権は、少数株主が保有する株式をその発行会社へ買い取るよう請求できる権利です。しかし、この権利はいつでも行使できるわけではなく、一定の条件を満たすことによって可能となります。
株式買取請求権は株主として知っておくべき権利ですが、その要件や手続きは複雑となっています。本稿では、株式買取請求権の要件や手続きについて分かりやすく解説していきますので、是非ご参考下さい。
目次
株式買取請求権とは
株式買取請求権は、株主が保有している株式を、一定の場合に株式発行会社に対して公正な価格で買い取るよう請求できる権利をいいます。
原則として、会社は株主から株式を購入することは禁止されており(会社法第155条各号等)、株主は会社に対して株式を買い取るよう要求することは基本的には認められていません。
平時でも買取請求が可能となれば、会社の資本が過度に流出する恐れがあるからです。しかし、非上場企業の株式は市場での取引が難しく、少数株主は買い手を探して売却することが難しいといった事情もあります。
そのため、株主の権利を守ることを趣旨として、株式買取請求権を行使することが会社法で認められています。ただし、株式買取請求権の行使には一定の条件を満たしていることが必要です。
株式を保有する株主としてはしっかりと理解しておくべき情報といえるでしょう。
株式買取請求権の種類
株式買取請求権は、請求権を行使する場面によって種類が分かれており、主に2つの種類があると言われています。株式買取請求権の行使主体としては、主に単元株未満の株式を保有する単元未満株株主や合併等の組織変更等に反対する株主といった少数株主が対象です。
前者の場合、少数株主は、その保有株式が少なく、市場で株式取引ができないケースが想定されます。
後者は、会社の組織編成の変更等があった場合、仮に少数株主が組織編成の変更等について反対の意見を持っていたとしても、手続きを止めるためには十分な議決権を保有していないため、納得できなければ、いっそ株式を売却して会社から離脱したいというケースもあるでしょう。
それぞれの権利の違いについて以降で確認していきます。
単元未満株式の買取請求
株式の売買には単元株制度があります(会社法第188条)。単元株制度とは、株式会社が定款で一定数の株式を一単元と設定し、単元を超える株式を保有する株主には完全な株主権を認めることとしますが、単元に満たない数の株式しか有しない株主に対しては限定された権利のみを認める制度をいいます。
国内の株式市場での取引単元は100株で統一されているため、株主が株式を他社に譲渡する場合、基本的には100株単位で取引することになります。つまり、最低売買単位である1単元未満の株式は、原則として、金融商品取引所での売買が難しくなります。
単元未満株式では会社から配当は得られても、株主総会に参加する経営参加権が認められず、株式売買による手数料も割高となるケースがあります。このような単元未満株式を保有する株主が自分で買い主を探すことは、困難を極めるといえるでしょう。
このような単元未満株式を保有する株主が売却する手段として、会社に対する株式買取請求権の行使が会社法で認められています。
反対株主による買取請求
株主の利益に影響を及ぼすような、合併、会社分割、事業譲渡等、一定の組織再編を行う場合、組織再編に反対する株主もいるでしょう。しかし、反対株主が少数派であれば、いずれにしても議案は可決されてしまうことになります。
そのため、反対する株主には、その地位の保護の観点から、自身が保有する株式を公正な価格で買い取るよう会社に請求する権利が設けられています(会社法第146条第1項第1号等)。
この権利は会社法に定められたものですが、請求前に、会社へ反対の意向を通知し、株主総会に出席してかつ反対投票を行っていることが要件とされています。
ただし、株主総会が開催されなかったり、議決権を行使できないなどの場合には、反対通知は不要とされています。
反対株主が買取請求権を行使するのは買取目的だけではありません。議案に反対する株主がいるのだという、牽制目的で行われることもあります。
株式買取請求権が行使できるケース
少数株主を保護する株式買取請求権ですが、行使できるケースは限定されています。買取請求が認められるのは主に以下の場合です。
- 組織再編(会社法第785条第1項、同法第797条第1項、第806条第1項)
- 事業譲渡や子会社の売却(会社法第469条第1項)
- スクイーズアウト(株式併合)(会社法第182条の4第1項)
- 発行株式の全てに譲渡制限を付け加える定款変更を行う場合(会社法第116条第1項第1号)
それぞれのケースについて解説していきます。
組織再編
合併や会社分割、株式移転、株式交換などのいわゆる組織再編は、会社組織の根幹に重大な変更を及ぼす行為といえます。組織再編によって消滅する会社の株主の中には、組織再編に反対する少数株主もいるでしょう。
しかし、反対株主が少数派であれば、組織再編に関する議案は株主総会で決議されてしまい、場合によっては自身が望まない組織になった会社の株主でいることを強いられる結果となります。
組織再編に反対する少数株主としては、会社の株式を手放したいと考えることもあるでしょう。この場合、少数株主は保有する株式を公正な価格で会社に買い取るよう請求することで、経営から退出する機会を確保できます。
ただし、持分会社が組織変更する場合には株式買取請求権を行使することはできません。なぜなら、持分会社は、すべての社員の同意が組織再編の要件となっているためです(会社法第793条第1項第1号等)。
組織再編に同意しながら、株式買取請求権も行使するというのは矛盾のある行動ですので、権利として認められません。また、簡易分割における分割会社の株主も、株式買取請求権の対象外となります。
これは、組織再編の規模を踏まえれば、株主への影響は軽微であるとされているからです。
組織再編が行われる場合には、必ず株式買取請求権が行使できるわけではありませんので注意しましょう。
事業譲渡や子会社の売却
会社が事業譲渡や重要な子会社を売却する場合、それに反対する株主は株式買取請求権を行使する権利をもつことになります(会社法第469条第1項等)。
事業譲渡等は組織再編と同じく、会社の根幹に大きな変更をもたらしますので、反対株主には株式買取請求によって、会社から退出する機会を保証しています。
株式買取請求権の対象となる事業譲渡の条件は以下の通りです。
- 事業全部の譲渡、譲受
- 重要な一部譲渡
- 重要な子会社の株式、持ち分全部、一部の譲渡
ただし、組織再編と同様に、簡易の事業譲受の場合には、譲受会社の株主への影響は軽微と考えられるため、株式買取請求権の対象から除外されています(会社法第469条第1項第2号、第468条第2項)。
スクイーズアウト(株式併合)
スクイーズアウト(株式併合)とは、複数の株式を統合することです。投資単位を整理するほか、少数派株主の追い出し目的で行われることもあります。
例えば、100株を1株とする株式併合を行うことで、100株未満の株主は、併合後、1株未満の端数株主となります。このような端数株主から株式を買い取ることで、併合後、株主全体の合意形成が容易となります。
株式併合は、株主の地位や利益に大きな影響を与えるため、反対株主には株式買取請求権が認められています(会社法第182条の4第1項)。
譲渡制限を付け加える定款変更
会社法上、定款を変更することで、発行するすべての株式について、譲渡に会社の承認を必要とする条件(譲渡制限)を付することが可能です(会社法第107条第1項第1号)。
この譲渡制限株式制度は、中小企業で多く活用される制度ですが、譲渡制限が付されると株式の譲渡が難しくなり、株主としては自由に株式譲渡ができなくなります。
また、譲渡が承認されたとしても、通常の株式譲渡と比較して、譲渡手続きに時間を要するので、譲渡制限の付与は株主にとっては大きな不利益となります。
そこで、譲渡制限株式制度の導入に反対する株主を保護するために、反対株主には株式買取請求権が認められています(会社法第116条第1項第1号)。
ただし、譲渡制限の定款の定めを設けることは、会社設立時の定款作成時に行うことが一般的です。
設立後に定款を変更する形での譲渡制限の付与は、あまり多くない事例といえます。
譲渡制限株式の買取請求との違い
反対株主の株式買取請求権は、事業譲渡等における少数株主の保護を目的とした権利です。会社の根幹に大きな変更があり、株主総会等で反対しても決議されてしまう場合に、経営から脱却するための措置として定められています。
これらとは別個の株式買取請求権として、譲渡制限株式の譲渡承認を会社に求めたものの、会社が承認しない場合、株主は会社(又は指定買取人)に対して株式を買い取るように求めることができる制度があります(会社法第140条)。
譲渡制限株式の買取請求は、株式譲渡を会社が不承認とした場合に限って、株主に会社へ買取を請求する権利が発生します。これは、会社が経営安定等のために株式譲渡を認めないことに対する、株主の売却権利の保護を図ったものといえます。
また、対象となる株式が譲渡制限株式に限定され、かつ前提として譲渡承認請求が不承認であった場合に限られます。
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株式買取請求権が行使できないケース
会社の組織再編等に関する議案に反対する少数株主にとって、株式買取請求権は最後の砦かもしれません。しかし、株式買取請求権は自動的に発生する権利ではなく、株主側において必要な手続きを行い、法律に定められた要件を充足することが必要です。
以下のようなケースでは、株式買取請求権を行使できなくなりますので注意しましょう。
- 反対通知の送付と反対票の投票をしていない
- 株式買取請求通知書の送付期限が過ぎた
- 裁判所への株式買取価格決定申立期限が過ぎた
反対通知の送付と反対票の投票をしていない
株式買取請求権を行使するには、反対株主である必要があります。そのためには、議案に対し、反対の意思表示を原則として下記の2回行う必要があります(会社法第785条第2項第1号イ等)。
- 株主総会前に会社に対して反対通知を送付する
- 株主総会において反対票を投票する
ただし、議決権を行使できない株主は、反対通知の送付等をしなくても、反対株主となることができます(会社法第785条第2項第1号ロ等)。
また、通知の送付は書留など記録に残る形式で行いましょう。なお、株主総会招集通知の委任状に反対の意思を記載しても、会社に対する事前の反対通知とは認められないケースもあるため注意が必要です。
2段階の意思表示の必要性としては、株式買取請求権が安易に濫用されてしまうと会社資金の流出が多寡となり、会社の経営を傾かせてしまうリスクがあるためです。
株式買取請求通知書の送付期限が過ぎた
株式買取請求権の行使には、組織編成などの効力発生日の20日前の日から前日までに、その請求にかかる株式の内容を明らかにすることが求められます(会社法第785条第5項)。
実務上は、株主総会へ株式買取請求通知書を持参し、反対票を投じた後、その場で請求権を行使するといった流れが一般的でしょう。
効力発生日の前日までであれば、買取請求は可能ですが、その期限は決して長いとはいえません。もし、株式買取請求通知書の送付期限を超過してしまった場合には、株式買取請求権を失うことになります。
裁判所への株式買取価格決定申立期限が過ぎた
株式買取請求権が行使されると、まずは株主と会社で価格決定について協議することになります(会社法第786条第1項等)。
しかし、協議を行う義務は両者ともに負いませんので、必ずしも協議の場が開かれるわけではありません。また買い取り価格が折り合わないこともあります。
このような場合には、裁判所へ価格決定の申立てを行うことで公正な価格での買い取りを進めることができます(会社法第786条第2項)。
ただし、申立てには期限が設けられていますので、この期限を過ぎてしまうと会社が決めた価格で決定されてしまいます。
申立期限は、効力発生日から30日以内に協議がまとまらないときに、期間満了後の30日以内に申し立てることとされています。つまり、効力発生日から60日以内が申立可能期間になります。
株式買取請求権を行使する流れ
株式買取請求権は、要件や期限を充足することが必要な手続きです。そのため、以下の権利行使の流れを把握しておくことが大切です。
- 発行会社からの通知・公告
- 株主による「反対通知の送付」と「反対票の投票」
- 株式買取請求権の行使
- 株式買取価格の協議
- 合意できない場合は「株式買取価格決定申立」
以降で、各項目について解説していきます。
①発行会社からの通知・公告
会社は、組織再編など、ある種の株主に不利益を及ぼすおそれがある場合には、効力発生の20日前までに、会社から株主へ通知もしくは公告しなければならないとされています。
これは会社法に定められた会社の義務で、改めて通知・公告する必要はありません。
②株主による「反対通知の送付」と「反対票の投票」
株式買取請求権を行使するには反対株主であることが条件ですので、2度、反対の意思表示を行わなければなりません(会社法第785条第2項第1号イ等)。
まず、株主総会までに、会社に対して議案の反対通知を送付します。さらに、株主総会では反対票を投票することも必要です。
ただし、株主総会が開かれない場合や、そもそも議決権を有していない株主の場合には、これらの手続きを経ずとも反対株主となりますので、株式買取請求の権利を有することになります(会社法第785条第2項第第1号ロ等)。
③株式買取請求権の行使
株式買取請求権の行使は期限内に行わなければなりません。組織再編等の効力発生の20日前から効力発生の前日までが請求期間とされていますので、この期間内に、株式買取請求にかかる株式の種類や株式数を明確にする必要があります(会社法第785条第3項等)。
ただし、新設合併等の場合には、会社からの通知もしくは公告から20日以内が株式買取請求権の行使期間となります(会社法第806条第5項等)。
法律上、株式買取請求権の行使は口頭で行っても有効とされていますが、内容に齟齬が生じるなどのトラブルも懸念されるため、原則として書面で行うべきです。
なお、株式買取請求は、会社の承諾を得ない限り撤回できないとされていますので(会社法第785条第7項等)、十分に検討した上で実行しましょう。
④株式買取価格の協議
株式買取請求権を行使したあとは、まず、会社と株主で株式の買取価格について協議を行います。公正な価格で買い取るとされていますが、非上場株式の場合、公正な価格は明確とはいえません。
非上場株式の価格決定には上記の表のように、複数の算出方法があります。どの算出方法が適しているかは状況によりますので、協議の場で、公正な算出方法や価格を判断していくことになります。
協議の結果、買取価格が合意に至れば、効力発生日より60日以内に会社は代金を支払わなければならないとされています。
| 時価 | 市場価格を基準とする |
|---|---|
| DCF法 | 将来予測される会社のキャッシュフローを現在価値に割引く |
| 純資産価額 | 貸借対照表などの帳簿上の純資産を基準とする |
| 類似会社比準 | 事業内容が類似している上場企業の株式価格を基準に評価する |
| 配当還元 | 過去の配当実績を基に将来の配当を予測し、現在の株式価値を求める |
| 収益法 | 将来予測される会社の収益を基準に評価する |
⑤合意できない場合は「株式買取価格決定申立」
買取価格が合意に至らなかった場合には、裁判所へ価格決定の申立てを行うことになります。この申立ては組織再編等の効力発生日から60日以内に行わなければなりません(会社法第786条第2項等)。
期限超過後は原則として申立てができず、買取価格は会社が決めた価格になりますので、注意しましょう。
また、価格決定の申立てには、主張する価格に法的な根拠を踏まえておく等、専門知識が必要とされます。事案の流れを整理し、根拠立てて論理的な書面とするのは容易ではありません。
申立てを検討する場合には、弁護士へ依頼することをおすすめします。
交渉による任意売却について
法律で定められた株式買取請求権は、反対株主を保護する重要な制度ですが、株式の売却はこれらの方法に限られるわけではありません。
株主同士もしくは株主・会社間で株式の売買交渉を直接行うこともできます。法律によらない当事者間での任意売却は、手続きにかかる時間や労力、費用など様々なコストを削減できるメリットがあります。
ただし、一般論として、会社は株式売却に関する専門知識を有していることが多いため、交渉の場で、その知識量に差があれば、株主側に不利な条件となるおそれもあります。
これは任意売却における大きなデメリットといえるでしょう。また、任意売却の場合、双方共に交渉に応じる義務がありませんので、交渉がまとまらず決裂する可能性も大いにあります。
交渉による任意売却をお考えの場合には、不利益な取引とならないよう、また円滑な交渉とするためにも弁護士への依頼を検討しましょう。
株式買取請求権の行使や任意売却については弁護士法人ALGにご相談ください
株式買取請求権は、少数株主の大きな武器です。しかし、いつでも使えるわけではありません。適切に行使しなければ、そもそも効力を生じない、もしくは十分に発揮できないといった事態もあり得る制度です。
では、法律に頼らない任意売却であればどうかというと、一概に良いとはいえません。法律の保護がない分、会社に有利な内容になってしまうリスクがあるからです。株式買取請求権の行使や任意売却には専門的な知識が必須です。
検討される場合には、必ず弁護士へご相談ください。弁護士法人ALGでは、会社法をはじめ企業法務分野に幅広い経験を持つ弁護士が在籍しております。少しでも不安や疑問を感じた場合には、お気軽にお問い合わせください。
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