譲渡制限株式は、普通株式のように自由に売買することができず、譲渡には一定の制限が設けられています。
譲渡の際には会社の承認を得なければならず、不承認の場合は譲渡することができません。
このように、譲渡制限株式は譲渡に不自由があるため、会社が譲渡を承認しなかった場合には、会社に対して買取請求権を行使することが認められています。
本稿では、譲渡制限株式の買取請求手続きの流れや、価格評価について解説していきます。
目次
譲渡制限株式の買取請求とは?
譲渡制限株式とは、株式を譲渡する際に、会社の承認を得る手続きが必要とされる株式です。
株式が分散して、議決権が集約できなければ経営が鈍化するおそれがあります。
そこで、会社にとって好ましくない第三者の介入を排除するために、譲渡制限株式を導入する手法が中小企業で多く見られます。
譲渡制限株式の譲渡承認請求は、手続きをすれば常に認められるわけではありません。
株式の譲受人や株式数などを総合判断した結果、会社が不承認とすることもあります。
ただし、譲渡が承認されなかった場合は、譲渡承認請求者は会社等に対してその株式を買い取るよう請求することができます。
買取請求権は、譲渡制限株式の譲渡承認請求が不承認となった場合に、会社もしくは指定買取人に買取を請求できる権利です。
常に行使できるわけではなく、譲渡が不承認になることで発生する権利とされています。
譲渡制限株式における買取請求の流れ
譲渡制限株式の譲渡が不承認であった場合、買取請求権を行使すると以下のような流れで手続きが行われます。
- 譲渡承認請求の不承認通知
- 会社または指定買取人による買取通知
- 供託証明書の交付
- 売買価格の決定
各流れについて以降で1つずつ解説していきます。
①譲渡承認請求の不承認通知
株主からの譲渡承認請求を認めない場合、会社は譲渡承認請求から2週間以内に請求者に対して不承認通知を行う必要があります。
法律上は、この通知について文書で行うなど通知方法は定められていません。つまり、不承認通知は口頭で行うことも可能です。
しかし、口頭による通知は通知内容の理解に齟齬が生じたり、通知した日が不明瞭になるなど、トラブルに繋がるおそれがあります。
そのため、内容証明郵便など通知日の記録が残る形式で通知するようにしましょう。
もし、2週間以内に通知されなければ、会社は譲渡を承認したとみなされることになります。
②会社または指定買取人による買取通知
譲渡承認請求者が、譲渡不承認時の買取を希望している場合は、会社もしくは指定買取人には対象株式を買い取る義務が発生します。
また、指定買取人はあらかじめ定款に定めることもできますが、定めがなければ、取締役会もしくは株主総会の決議によって決定されます。
株式の買取や対象株式数の決定については株主総会の特別決議で行います。
特別決議は、定款の定める定数もしくは、議決権の過半数の出席と3分の2以上の多数によって決議されることを要します。
ただし、この買取に関する決議では、譲渡する株主は特別利害関係人となるため議決権を行使することはできません。
買取に関する決議が終われば、会社または指定買取人が、譲渡する株主に対して買い取る旨とその対象株式数を通知します。
この通知には期限が定められていますが、誰が買い取るのかによって異なります。
原則として、会社買取であれば譲渡不承認の通知をした日から40日以内、指定買取人の買取では譲渡不承認の通知をした日から10日以内と定められています。
なお、この期限はいずれも定款で短縮することができます。
③供託証明書の交付
譲渡制限株式の買取では、買取通知を送付する際に、供託を行い、供託証明書を交付する必要があります。
供託金額は、一株あたりの純資産額×譲渡対象株式数として会社法で定められています。
この場合の純資産額は客観性を担保するために、簿価に基づいて算出されます。
ただし、供託金額は売買価格を決定するものではありません。
供託を行うことで、買い取りの意思表示や売買代金を確保することが目的とされています。
供託証明書が交付されると、買取請求株主も1週間以内に対象となる株券を供託し、供託した旨を買取人に通知しなければなりません。
ただし、株券不発行会社の場合には、株券自体が存在しないので、この場合は、買取請求株主に株券を供託する義務はありません。
④売買価格の決定
会社または指定買取人への買取請求が承認となり、買取通知が行われれば、対象となる譲渡制限株式の売買価格を決定することになります。
買取請求制度では、株式の売買価格の算出方法までは定められていません。
つまり、原則として売買の当事者間で協議して価格を決定することになります。
しかし、協議が整わない場合には、他の方法によって売買価格を決定することとなります。
譲渡制限株式の売買価格の決定方法は以下の3つの方法があります。
- 当事者間での協議
- 裁判所に売買価格決定の申立
- 裁判所への申立を行わずに決定(当事者間での協議も整わない場合)
それぞれの決定方法について、以降で1つずつ確認しておきましょう。
当事者間の協議
売買価格は当事者である、会社または指定買取人、そして譲渡承認請求者が協議して決定することが原則的な方法となっています。
しかし、譲渡制限株式の妥当な価格は明確でないことが多いでしょう。
譲渡制限がある非公開会社の場合、公開会社のように株式に流動性がないため、市場価格を直接参考にすることが難しいといえます。
株式価格の主な算出方法には、時価による算定や純資産価額法、類似業種比準法、DCF法、取引事例法などがあります。
ただし、どの算出方法が正しいというわけではありません。
そのため、各当事者が算出根拠等を示して協議し、双方で納得できる価格を決める必要があります。
裁判所への申立て
どれほど協議を尽くしても売買価格が折り合わないこともあります。
また、協議自体が行われない、もしくは滞るなどのケースもあるでしょう。
そのような場合には、当事者間の協議ではなく、売買価格の決定を裁判所へ申し立てることも可能です。
ただし、株式買取価格決定申立には期限が設けられています。
会社等からの買取通知から20日以内が申立期限となっており、期限後の申立は原則として認められません。
株式買取価格決定申立では、譲渡承認請求時の会社の資産状態その他一切の事情を加味して価格が決定されます。
当事者双方もそれぞれの売買価格を主張しますが、最終的には裁判所が売買価格を決定することになります。
裁判所への申立を行わずに決定
当事者による協議が成立せず、当事者のいずれも20日以内の申立期限に裁判所へ価格決定申立を行わなかった場合には、供託金額が売買価格となります。
しかし、供託金額は会社法に定められた、いわば最低限の金額です。
そのため、譲渡する株主は実際の価値より低い供託金額で株式を譲渡することになるおそれがあり、その場合には損失を被ることになります。
譲渡制限株式は市場価格になじまない性質がありますが、株式価格の算出方法は複数あります。
客観的に妥当な売買価格を実現させるためには、当事者間の協議が難しいと感じたら、早期に裁判所へ価格決定申立を行うことをおすすめします。
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譲渡制限株式を会社が買い取る場合の財源規制
会社が自己株式を取得する場合、その総額には制限が設けられています。
自己株式を取得すると、会社の資本が流出し、会社の財産が減少するため、債権者らの保護が難しくなります。
そのため、自己株式の取得に充てられる資金は、取得日における分配可能額を上限として会社法に定められています。
これを財源規制といいますが、これは、会社が買い取る場合にのみ適用されますので、指定買取人には適用されません。
もし、株式買取価格決定申立などで、財源規制に抵触する価額となれば、買取が無効になるおそれがあります。
もし、買取が無効となれば、一転して会社は譲渡を承認したとみなされる可能性もあるでしょう。
分配可能額を超えるにもかかわらず買取を強行した場合は、会社に損失を与えることになります。
会社に損害が発生すれば、対価の交付を受けた株主や業務執行者は連帯して、その対価に相当する金銭を支払う義務を負うことになります。
株式価格の決定時には、会社の資金力も踏まえて協議を行うべきでしょう。
譲渡制限株式における売買価格の評価基準
譲渡制限株式は非上場株式であるため、一般の株式市場で売買されていません。
そのため、明確な市場価格がなく、株式価格の評価は困難といえます。
一般的には、インカム・アプローチやマーケット・アプローチ、アセットアプローチを用いて価格評価を行います。
しかし、これらの算出や根拠の立証は簡単ではありません。
譲渡制限株式の価格評価については専門性が必要となるため、弁護士へ相談した方がよいでしょう。
インカム・アプローチ(収益方式)
インカム・アプローチとは、会社の将来的な収益力に基づいて企業価値を評価する手法です。
企業の事業内容や成長性などを評価に反映させるため個別性の高い評価といわれています。
しかし、将来どれだけの利益を生み出すかという予測評価は不確実性が高いという側面もあります。
インカム・アプローチの主な種類としては、以下の3つが挙げられます。
- DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)
- 配当還元方式
- 利益還元方式
それぞれ、会社のキャッシュフローや配当金、会計上の純利益などを指標として、将来期待される企業価値を株価に反映させます。
マーケット・アプローチ(比準方式)
マーケット・アプローチは、実際に市場で取引されている類似の企業株価やM&A事例を参考にして、対象となる企業価値を評価します。
マーケット・アプローチでは、類似企業の市場取引データを参照するため、客観的で時価に近いデータを評価に用いることができます。
ただし、比較企業の選定が難しいことや、業種によっては市場が活発でないなどのデメリットもあります。
マーケット・アプローチの代表的な算出方法には以下の3つが挙げられます。
- 市場株価平均法
- 類似会社比較法
- 類似取引比較法
アセット・アプローチ(純資産方式)
アセットアプローチは、企業の保有する資産から負債を差し引き、その純資産額を企業価値として評価する手法です。
企業の成長力などの将来性ではなく、現在の資産に基づく客観的な評価ですので、比較的堅実な評価基準といえます。
アセットアプローチの主な種類には、以下の2つが挙げられます。
- 簿価純資産法
- 時価純資産法(修正簿価純資産法)
いずれの計算方法も貸借対照表の数字を元に算出します。
しかし、企業のブランド力や特許など無形の資産について評価することが難しいため、どれだけ純資産を正しく評価できるかがポイントとなるでしょう。
譲渡制限株式の買取請求における注意点
譲渡制限株式の買取請求は株主の権利であり、会社が買取請求に応じなければ譲渡を承認したことになるので、株式が望ましくない第三者へ譲渡されるリスクを負うことになります。
また、買取請求から2週間以内に不承認通知を行わなければ、譲渡成立とみなされるなど、手続きの期限を怠ると、不承認の決定が覆ってしまいます。
そのほか、買取についての決議を行うため、株主総会でその事実を議題にしなければなりません。
他の株主にも買取請求の事実が知れ渡り、さらなる買取請求を生じるきっかけになる可能性もあります。
買取請求に迅速に対応するために、買取先を指定買取人とすることも1つの手段です。
指定買取人が対応することで、会社は買取手続きに時間を割くことなく、事業経営に専念することができます。
あらかじめ定款に指定買取人を定めておけば、さらに手続きがスムーズとなるでしょう。
しかし、買取請求が多ければ、指定買取人に株式が集中することになり、経営の硬直化に繋がる懸念もあります。
譲渡制限株式の買取請求には注意点や事前対策など専門知識を要する場面が多いため、弁護士へ相談しながら対応策を検討することをおすすめします。
譲渡制限株式の買取請求に関しては弁護士法人ALGにご相談ください
譲渡制限株式の譲渡が叶わなかった場合、買取請求は株主が株式を売却する最後の砦です。
しかし、その手続きには様々な期限があります。期限超過の場合には、譲渡が承認されたとみなされるケースもありますので、一転して譲渡が可能になる事案もあります。
また、買取請求がスムーズに行われたとしても、非上場株式の売買には、株式の適正価格について争いが生じるおそれもあります。
譲渡制限株式の買取請求について少しでも疑問があれば弁護士へご相談ください。
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