譲渡制限株式の売買価格はどう決める?算出方法や注意点などを解説

監修
弁護士 家永 勲

弁護士法人ALG&Associates執行役員

担当弁護士の写真

譲渡制限株式は自由に売買できないため、株主から買取請求されるケースも少なくありません。

買取請求のように譲渡制限株式を譲渡する際に、問題になるのが株式の適正価格です。

譲渡制限株式の売買価格の決定は容易とはいえません。なぜなら譲渡制限株式は非上場株式であることが多く、市場価格を当てはめることができないからです。

市場価格がない以上、何らかの方法で適正価格を決定する必要がありますが、算出方法には妥当性も求められるため、専門的な知識が必要です。

本稿では、譲渡制限株式における価格の算出方法や注意点について解説していきます。

譲渡制限株式の売買価格の決め方は?

譲渡制限株式とは、譲渡する際に会社の承認を得ることが義務づけられた種類株式です。

譲渡制限株式は多くの中小企業で、株主構成の安定化を図るなどの目的で採用されています。

会社が望ましくないと考える株主が経営に参画することを防ぐため、譲渡制限株式を譲渡する際には会社の承認手続きが必須です。

原則として、譲渡制限株式は非上場株式であるため、市場価格が存在しません。

そのため、譲渡制限株式の価格決定方法としては、まず当事者間の協議による合意を目指すことになります。

協議がまとまらない場合には、裁判所に売買価格決定の申立てを行うことも可能です。

裁判所は、会社の資産状況や経営状態など、様々な要素を総合的に考慮して株式価格を決定します。ただし、申立てには期限が設けられているため注意が必要です。

また、当事者間の協議が成立せず、裁判所への申立ても無かった場合、会社法で定められた供託すべき額(1株当たり簿価純資産額に対象株式数を乗じた額)が売買価格となります。

それぞれの状況に応じて価格決定方法を選択する必要がありますが、その選択には専門的な知識が必要であるため、弁護士など専門家への相談も検討すべきでしょう。

株式譲渡を承認した場合

株式譲渡を会社が承認した場合には、売り手と買い手が協議の上、株式譲渡の対価を決定することになります。

この場合は、当事者間による契約に基づくため、価格の適正性などは、市場の傾向を踏まえた価格になることが一般的です。

市場の相場と大きくかけ離れた売買価格になれば、税務上の問題が生じる可能性もあります。

会社は当事者間の譲渡が成立したのち、買い手を株主として名簿に記載することになります。

株式譲渡を承認しない場合

株式譲渡を承認しない場合、株主が買取請求を行うケースが多々あります。

その場合、会社または指定買取人が譲渡制限株式を買い取ることになりますが、この場合も、会社法に価格に関する詳細な定めはありません。

そのため、当事者間による協議が原則となりますが、合意に至らない場合には、裁判所への価格決定の申立ても検討すべきでしょう。

ただし、買取価格決定申立は、通知の日から20日以内と制限があり、この期間を超過した場合には原則として申し立てることはできません。

なお、20日以内に当事者間の協議が調わず、かつ裁判所への申立ても行わない場合には、会社法に定められた供託すべき額が売買価格となります。

この供託すべき額とは、1株あたり簿価純資産×対象株式数と定められていますので、この金額も踏まえて協議を行う必要があります。

譲渡制限株式の売買価格を求める3つのアプローチ

譲渡制限株式の売買価格の決定には法律による定めがないため、様々な妥当性を考慮して価格決定することが求められます。適正価格の考え方としては主に以下の3つが挙げられます。

  1. マーケットアプローチ
  2. インカムアプローチ
  3. コストアプローチ

それぞれの検討方法について解説していきます。

マーケットアプローチ

マーケットアプローチとは、マーケット(市場取引)を参考にする価格算出方法をいいます。

対象となる会社と類似する上場企業の株価や、過去の類似取引事例を参考に算出します。

メリットとしては、実際の市場動向などを反映するため、客観的で現実的な価格設定となる点です。

しかし、デメリットとして、適切な類似取引データが不足するケースや、非公開会社特有の要素が反映されない点が挙げられます。

このため、必ずしも対象会社の実態を正確に反映できないリスクを踏まえた上で、マーケットアプローチを採用するかどうか検討する必要があるでしょう。

インカムアプローチ

インカムアプローチとは、今後、会社がどの程度の収益(インカム)を上げることができるかを基に株式価格を評価する方法です。

メリットとしては、将来予測されるキャッシュフローや利益を現在価値に割引いて算出するため、会社の成長性や収益性を株価に反映させることができる点です。

ただし、将来の収益予測には不確実性が伴い、予測が外れるリスクを負う点がインカムアプローチのデメリットといえます。

市場環境の変動や経済状況の変化により、予測が大幅に狂う可能性があるため、慎重な分析と判断が求められます。

コストアプローチ

コストアプローチとは、会社の現在の純資産額を基にして株式価格を算定する方法です。

具体的には、貸借対照表に記載されている資産と負債を正確に分析し、その差額である純資産額を株式価値として評価します。

メリットは、計算が比較的容易であること、そして客観的かつ具体的な財務データから導き出すため、評価の根拠が明確で信頼性が高い点です。

しかし、会社の将来性やブランド力など、財務諸表に表れない要素を反映できない点はデメリットです。

無形資産などの資産価値に比重が大きい会社については、コストアプローチによって適正な評価を行うことは難しくなるといえます。

お問い合わせ

非上場株、譲渡制限株、株式相続のお悩みはお気軽にご相談ください。

0120-123-456
  • 24時間予約受付
  • 年中無休
  • 通話無料
  • ※事案により無料法律相談に対応できない場合がございます。
  • ※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。

譲渡制限株式価格の算出方法

株式の評価には複数の方法がありますが、いずれか一つが常に優れているとは限りません。

いずれの方法であってもメリットとデメリットがあり、その会社のすべてを単一の方法で評価することには限界があります。

そのため、複数の算出方法を組み合わせて補完することもあります。

代表的な算出方法には以下のような方法が挙げられます。

  1. 簿価純資産法
  2. 時価純資産法
  3. 類似業種比準法
  4. 類似取引比較法
  5. 配当還元法
  6. 収益還元法
  7. DCF法

各算出方法について、メリット・デメリットを踏まえて解説していきます。

①簿価純資産法

簿価純資産法とは、譲渡制限株式の評価において、会社の貸借対照表に記載された資産・負債の帳簿価額(簿価)に基づいて純資産額を算出し、それを基に株式の価格を決定する方法です。

具体的には、総資産の簿価から総負債の簿価を差し引いた金額を、発行済株式総数で割ることで、1株あたりの評価額を算出します。

この方法のメリットは算出が非常に簡単で、帳簿データを用いるため評価者の主観が入りにくく、透明性が高い点が挙げられます。

しかし、帳簿データには時価との乖離である、含み益や含み損が生じている場合もあります。

この場合には、含み益や含み損が株式価格に反映されないため、実際の企業価値を正しく評価できず、株式が割安または割高になるおそれがあります。

②時価純資産法

時価純資産法とは、会社の貸借対照表に記載された資産・負債を取得時の価格(簿価)ではなく、現在の市場価格(時価)に再評価して算出される純資産額を基に株式の価格を決定する方法です。

この手法では、過去の貸借対照表を活用できるため膨大なデータを必要とせず、評価プロセスにおいて個人の主観が入りにくい点がメリットとして挙げられます。

そのため客観的で信頼性の高い算出方法といえます。

しかし、将来の収益性や期待値を評価に反映させることができないため、会社の成長性などを十分に加味できません。

また、ブランド力や知的財産などの無形資産の時価評価は難しいため、この点についても株式へ適切に反映できないといったデメリットがあります。

③類似業種比準法

類似業種比準法とは、対象会社と事業内容が類似する上場企業の株価指標を参考に、評価対象となる会社の株式価値を算定する方法です。評価する際には国税庁の公表基準に沿って算出するため、ロジックに客観性があり、算出が容易である点にメリットがあります。

しかし、類似業種比準法は主に相続時の株式評価に用いられる手法であり、現時点での会社の財産評価となります。

そのため、会社の事業実態や将来性を評価しきれず、株式価格が低くなるデメリットが考えられます。

また、類似会社の選定や評価基準の適用において主観が入る可能性もありますので、他の評価方法と併用するなどの判断も重要となります。

④類似取引比較法

類似取引比較法とは、過去に行われた類似の株式譲渡やM&Aなどの取引事例を参考に、評価対象の会社の株式価値を算定する方法です。

取引事例における評価額や株価倍率などを比較検討し、対象会社の状況に合わせて調整することで、評価額を導き出します。

実際の取引事例を基に算出するため、客観性が高い点がこの手法の大きなメリットです。

しかし、類似性の高い参考取引事例を見つけることが難しい可能性があるといったデメリットもあります。

特に、特殊な業種や独自のビジネスモデルをもつ会社では、取引データが不足し、正しい評価を行えない可能性は否めません。

参考事例はあっても、財務情報の入手が困難といったケースもあるので、情報収集が困難な場合には適用が難しい手法です。

⑤配当還元法

配当還元法とは、将来受け取ることが期待される配当金を現在価値に割り引いて株式の価格を算定する方法です。

この方法のメリットは、実際の配当金を基準にするため算出が容易であり、具体的な数値に基づいて評価できる点です。

ただし、配当金は会社の配当政策に大きく依存するため、配当性向が低い会社や無配会社には適用できないというデメリットがあります。

また、将来の配当金予測や割引率の設定に主観が入りやすく、客観性が低いという点もデメリットです。

この手法は配当以外の要素が考慮されないため、将来の成長性や収益性といった会社の総合的な価値の評価には不向きな評価方法といえます。

⑥収益還元法

収益還元法とは、将来期待される会社の収益を現在価値に割り引いて株式の価格を算定する方法です。

収益還元法の主なメリットは、会社の収益力を実際のデータから直接的に評価に反映できる点です。

また、配当還元法と異なり、配当性向に左右されないため、内部留保を重視する会社であっても採用しやすい手法です。

一方で、収益還元法にはデメリットも存在します。事業計画などの詳細な情報を十分に反映できていない場合、将来評価の正確性に欠けることがあり得ます。

そのため、成長性の高い企業や、事業環境の変化が激しい企業には不向きとなり得ます。

利益がある程度安定している会社向けの評価方法といえます。

⑦DCF法

DCF法とは、会社が将来生み出すと予想されるキャッシュフローを現在価値に割り引いて株式の価値を算出する方法です。

DCF法の最大のメリットは、企業の将来性を踏まえた評価が行える点です。

将来のキャッシュフロー予測に基づくため、単なる現在の財務状況だけでなく、将来のビジネス展望を考慮した株式評価を行うことが可能です。

一方、DCF法のデメリットとしては、将来のキャッシュフロー予測には高度な専門知識と詳細なデータが必要となる点が挙げられます。

経済状況や市場環境の変動を正確に予測することは困難であり、予測が外れた場合には評価が大きくぶれるリスクも考慮しなければなりません。

そのため、DCF法を用いる場合は、弁護士など専門家のアドバイスを受けながら、慎重に分析を進めることが重要です。

譲渡制限株式を低額譲渡・高額譲渡する際の注意点

株式の売買においては、市場における適正な時価で譲渡する時価譲渡が一般的です。

しかし、意図的または意図せず時価と異なる価格で譲渡(低額譲渡・高額譲渡)となった場合、思わぬ税負担が発生し、結果的に不利益を被る可能性があります。

低額譲渡とは、適正な時価よりも著しく低い価格で株式を譲渡することです。

また、高額譲渡は、適正な時価よりも著しく高い価格で株式を譲渡することを指します。

実際の売買価格と適正時価がどの程度乖離しているかによって課税関係は大きく異なるため、価格設定時には税務上の影響を十分に考慮する必要があります。

正確な情報を把握し、事前に専門家のサポートを受けることをおすすめします。

低額譲渡する場合

時価よりも著しく低い価格で譲渡した場合、譲渡所得税の申告において税務署から指摘を受ける可能性があります。

譲渡当事者の関係性によって発生する税金は異なりますが、いずれも適正な時価額と実際の取得価額の乖離幅に課税されることになります。

例えば、個人間の譲渡であっても売買価格が不適切であれば、売り手に所得税が生じるだけでなく、買い手にも贈与税が課税される可能性があります。

詳しい課税関係は表をご参考下さい。

譲渡先 売り手側 買い手側
個人から個人 所得税(実際売買価額-取得価額) 贈与税(適正時価-実際売買価額)
個人から法人 所得税(売買価格が適正な時価の1/2以上であるかにより税額が異なる) 法人税(適正時価-実際売買価額)
法人から個人 法人税(適正時価-取得価額) 所得税(適正時価-実際売買価額)
法人から法人 法人税(適正時価-取得価額) 法人税(適正時価-実際売買価額)

高額譲渡する場合

時価よりも著しく高い価格で譲渡した場合、譲渡所得税などの申告において税務署から指摘を受ける可能性があります。

高額譲渡では低額譲渡と異なり、買い手が個人の場合には時価による取引に比べて損をしているため、税金はかかりません。

しかし、買い手が会社である場合には、会社から株主への利益供与とみなされ、法人税が発生する可能性もあります。

また、株主側にも所得税が課税される場合があります。

高額譲渡の買い手であっても課税の可能性が生じることを踏まえて価格設定は慎重に行うべきでしょう。

詳しい課税関係は表をご参考下さい。

譲渡先 売り手側 買い手側
個人から個人 所得税(適正時価-取得価額)
贈与税(実際売買価額-適正時価)
なし
個人から法人 所得税
譲渡所得=(適正時価-取得価額)
一時または給与所得=(実際売買価額-適正時価)
法人税(実際売買価額-適正時価)
法人から個人 法人税
譲渡損益=(適正時価-取得価額)
受贈益=(実際売買価額―適正時価)
なし
法人から法人 法人税
譲渡損益=(適正時価-取得価額)
受贈益=(実際売買価額―適正時価)
法人税(実際売買価額-適正時価)

お問い合わせ

非上場株、譲渡制限株、株式相続のお悩みはお気軽にご相談ください。

0120-123-456
  • 24時間予約受付
  • 年中無休
  • 通話無料
  • ※事案により無料法律相談に対応できない場合がございます。
  • ※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。

譲渡制限株式の価格決定・交渉は弁護士に相談を!

譲渡制限株式は、市場価格が存在しないため、妥当な価格を見極めるのは非常に難しい作業です。

会社の規模、業種、将来性などを考慮した上で、複数の評価方法を検討する必要があり、専門知識が不可欠です。

また、株式譲渡には税金が伴い、低額譲渡や高額譲渡とみなされた場合、意図しない贈与税や法人税が発生するリスクもあります。

弁護士に依頼すれば、法的観点から適正な価格算出のサポートを受けられるだけなく、事案によっては税理士との連携も期待できます。

その場合には、税務上のリスクも考慮したアドバイスを受けられるでしょう。

また、価格算出だけでなく、万が一、価格決定について紛争化した場合であっても、訴訟や調停など法的手続きにもスムーズに対処できます。

ただし、買取請求における売買価格の決定には期限があり、場合によって取り得る手段が変わってきますので、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。

譲渡制限株式の売買価格に関する判例(令和4年(許)第8号・令和5年5月24日・最高裁判所)

本事案は、譲渡制限株式の会社による買取時の、株式価格決定申立事件に関するものです。

争点は、裁判所が株式価格を決定するにあたり、非上場株式であるという流動性の低さをDCF法に反映させるか否かという点でした。

原審においては、売買価格の鑑定が行われ、DCF法を用いるのが相当とされました。

そのうえで、非上場株式には市場性がないことから、非流動性ディスカウントとして30%減価することが相当と判断していました。

本事案においても、原審の判断が是認され、DCF法においても非上場株式であることを考慮した非流動性ディスカウントを行うべきと判示されました。

ただし、株式の評価額算定過程において、市場性がないことが十分に考慮されている場合には、更に非流動性ディスカウントを行うことは二重の減価であり、不適当と指摘しています。

本事案は、譲渡制限株式の価格決定において、今後の実務上重要な指針となり得ます。

譲渡制限株式の価格決定で争いが生じた場合、本事案の考え方なども踏まえて、主張・立証を行うことが重要です。

譲渡制限株式の価格交渉などは弁護士法人ALGにご相談ください

譲渡制限株式は、中小企業が望ましくない株主の介入を防ぐために活用される重要な株式です。

一方で、株主の投資回収の機会を奪うことはできず、譲渡を希望された場合、会社は承認または買取の判断を迫られます。

多くの企業が買取を選びますが、最も問題となりやすいのが価格の決定です。適正価格の算出には明確な基準がなく、専門的な知識が求められます。

弁護士法人ALGでは、価格算定や裁判所への申立支援を通じて、納得性の高い価格交渉をサポートしています。

株式の価格決定でお悩みがあれば、まずはお気軽にご相談下さい。

お問い合わせ

非上場株、譲渡制限株、株式相続のお悩みはお気軽にご相談ください。

0120-123-456
  • 24時間予約受付
  • 年中無休
  • 通話無料
  • ※事案により無料法律相談に対応できない場合がございます。
  • ※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。
担当弁護士の写真
監修 :
弁護士法人 ALG&Associates執行役員弁護士 家永 勲
保有資格
弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:41560)

東京弁護士会所属。私たちは、弁護士106名、スタッフ220名(司法書士1名を含む)を擁し(※2024年1月4日現在)、東京、札幌、宇都宮、埼玉、千葉、横浜、名古屋、神戸、姫路、大阪、広島、福岡、タイの13拠点を構え、全国のお客様のリーガルニーズに迅速に応対することを可能としております。 東京弁護士会所属。私たちは、弁護士106名、スタッフ220名(司法書士1名を含む)を擁し(※2024年1月4日現在)、東京、札幌、宇都宮、埼玉、千葉、横浜、名古屋、神戸、姫路、大阪、広島、福岡、タイの13拠点を構え、全国のお客様のリーガルニーズに迅速に応対することを可能としております。