譲渡制限株式とは、会社法において次のように定められています。
「株式会社がその発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定めを設けている場合における当該株式」(会社法2条17号)。
株式の譲渡は原則自由ですが(会社法127条)、株式会社は、株式の譲渡による取得に関して株式会社の承認を要する旨を定款に定めることが可能です(会社法107条1項1号,108条1項4号)。
では、会社の承認なく譲渡制限株式を譲渡した場合、この株式はどうなってしまうのでしょうか。
本稿では、会社の承認を得ない譲渡制限株式の譲渡の効力やみなし承認に関して解説します。
目次
会社の承認を得ずに譲渡した譲渡制限株式の効力
判例によれば、会社の承認を得ずになされた譲渡制限株式の譲渡の効力は、以下のように考えられています。
「会社に対する関係では効力を生じないが、譲渡当事者間においては有効である」(最判昭和48年6月15日)
つまり、譲渡制限株式を目的とする株式譲渡契約は当事者間では有効であり、譲受人は譲渡人に対して当該契約上の履行責任を求めることができます。
しかし、譲渡が有効なのは契約当事者間においてのみであり、会社や会社以外の第三者に対してその効力を主張することはできません。
買主との関係における効力
会社の承認なくされた譲渡制限株式の譲渡契約の有効性は、株券発行会社であるか否かによって違いがあります。
株券不発行会社の場合
株券不発行会社における譲渡制限株式の譲渡は、売主と買主の間で株式譲渡契約が締結されれば有効となります。
株券発行会社の場合
株券発行会社における株式の譲渡は、その株式に係る株券を交付しない場合は、譲渡の当事者間においても効力を生じません(会社法128条1項)。
これは譲渡された株式が譲渡制限株式である場合も同様です。
ただし、株券発行会社であっても、株券の発行前になされた株式の譲渡は、譲渡当事者間では、その株式に係る株券の交付がないことを理由にその効力が否定されることはなく(最高裁第二小法廷令和6年4月19日判決)、合意のみで株式譲渡が有効となります。
この点についても、譲渡された株式が譲渡制限株式である場合も同様となります。
会社との関係における効力
判例によれば、会社の承認を得ていない譲渡制限株式の譲渡は、会社に対する関係では効力を生じません。
つまり、株式の譲受人は会社に対しては株主という地位を有しないことになります。
ただし、例外となるケースがあります。
会社との関係でも有効になる例外ケース
株式に譲渡制限を設ける目的は、会社にとって好ましくない者が会社経営に介入することを排除したいという株主のニーズを叶えるためにあります。
そうすると、一人会社(株主が一人しかいない会社)においては、一人株主が株式譲渡を良しとするのであれば、他の株主のニーズを叶える必要はないため、会社に対しても譲渡は有効となります。
また、一人会社以外の会社で譲渡人以外の株主全員が譲渡に同意している場合にも、株主のニーズを害していないため、同様に譲渡は有効となります。
そのほか、株券発行会社が株券に譲渡制限に関する記載を怠った場合は、善意の譲受人に対して譲渡制限の効力を発しないとされています。
第三者との関係における効力
株式の譲渡について会社法では以下のように定められています。
- その株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ(株主名簿の名義書換え)、株式会社その他の第三者に対抗することができない(会社法130条1項)
- 譲渡制限株式の譲受人は、会社の承認がなければ株主名簿の名義書換えができない(会社法134条)
したがって、会社の承認を得ずに譲渡制限株式を譲り受けた者は、株主名簿の名義書換えができない結果、会社に対しては勿論、第三者に対しても、譲渡の効力を主張することはできません。
結局、当事者間以外の関係においては、譲渡後も継続して譲渡人が株主として取り扱われることになります。
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会社が譲渡を承認したものとみなされるケース
譲渡制限株式の売主・買主が、株式の譲渡・取得に際し、会社に譲渡等承認請求をしても、株式会社・指定買取人が適時の対応をしなければ、請求者らの法的地位が浮動の状態に置かれ、投下資本回収の機会が事実上奪われることになります。
そこで、会社法は、このような事態を防止するために、一定の場合には、会社が譲渡等を承認したものとみなすこととしています。
以下はその代表的な例です。
- 譲渡等承認請求から2週間以内に、会社が譲渡等の承認をするか否かの決定の内容を通知しなかった(会社法145条1号)
- 譲渡承認請求者から、不承認時の買取請求がされていたにもかかわらず、会社が期限内に買取りに関する通知を行わなかった(会社法145条2号)
- 定款に定められた、会社が株式の譲渡を承認したとみなすケースに該当している
株式買取請求権の詳細については、以下のページで解説しています。
会社が譲渡を承認しない場合の手続き
会社が譲渡制限株式の譲渡を不承認とした場合、その後の手続きの流れは以下の通りです。
- 会社または指定買取人による買取りの決定
- 買取代金の供託
- 買取通知
- 売買価格の協議
- 売買代金の決済
以降で、各手続きについて解説していきます。
①会社または指定買取人による買取りの決定
まず、譲渡等承認請求の際に、会社が譲渡を承認しないときは、会社または会社の指定する買取人が当該株式を買い取ることを併せて請求することができます(買取先指定請求。会社法138条1号ハ・2号ハ)。
会社が譲渡を承認せず、譲渡等承認請求者が買取先指定請求をしていなかったときは、会社としては単に譲渡を承認しない旨の通知をすれば足り、これにより手続は終了します。
譲渡等承認請求者が買取先指定請求を行っていた場合には、会社は自ら株式を買い取るか、買取人を指定しなければなりません。
会社自らが株式を買い取るときは、株主総会の特別決議が必要となります。
これに対し、会社が買取人を指定するときは、取締役会の決議(取締役会設置会社)または株主総会の特別決議(非取締役会設置会社)で行います。
なお、指定買取人はあらかじめ定款において指定することも認められています。
②買取通知
買取が決定したら、会社または指定買取人は譲渡承認請求者に対して、株式を買い取る旨および対象株式の種類とその数を通知します。
ただ、この通知には期間の制限があり、以下の期限内に譲渡等承認請求者へ通知をしなければなりません。
この期間制限どおりの通知をしなかった場合、譲渡を承認したものとみなされてしまいます。
- 会社自らが株式を買い取る場合は不承認決定通知から40日以内
- 指定買取人が買い取る場合は不承認決定通知から10日以内
③買取代金の供託
譲渡制限株式の買取を行う会社または指定買取人は、譲渡承認請求者へ買取通知を行うに際し、1株当たり純資産額に買取株式数を乗じた額を供託し、供託を証する書面を譲渡承認請求者へ交付しなければなりません。
④売買価格の決定
株式の買取価格は、両当事者が協議して決定することになりますが、協議が整わない場合、当事者は裁判所に株式の買取価格決定の申立てを行うことができます。
ただし、この申立ては、会社から株主への買取決定通知の日から20日以内にしなければなりません。
もし、この期間に申し立てせず、協議もまとまらない場合には、1株当たり純資産額に買取株式数を乗じた額が売買価格になります。
⑤売買代金の決済
決定した売買価格によって決済し、株主名簿の名義書換えをすることで買取手続きは完了となります。買取りの通知に際して供託した金銭は、売買代金の支払に充当されます。
譲渡制限株式の譲渡に関しては弁護士法人ALGにご相談ください
会社からの承認のない譲渡制限株式の譲渡は、原則として譲渡契約の当事者間でしか有効となりません。
しかし、例外ケースに該当する場合や、みなし承認に該当する可能性もあります。
会社が譲渡を承認しない場合の手続きにおいては、行うべき行為が具体的に法定されており、厳しい期間制も設けられています。
みなし承認に該当しないような手続きの進め方や、みなし承認に該当しているかどうかの見極め等に関しては、専門家である弁護士のアドバイスの下で検討、判断をするのが最適といえます。
弁護士法人ALGでは、会社法や企業法務に特化した専門の事業部を設けており、日々、様々な事案に対応しています。
譲渡制限株式の売買に関しお困りごとがあれば、まずはお気軽にご相談ください。
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- 弁護士法人 ALG&Associates執行役員弁護士 家永 勲
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- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:41560)
東京弁護士会所属。私たちは、弁護士106名、スタッフ220名(司法書士1名を含む)を擁し(※2024年1月4日現在)、東京、札幌、宇都宮、埼玉、千葉、横浜、名古屋、神戸、姫路、大阪、広島、福岡、タイの13拠点を構え、全国のお客様のリーガルニーズに迅速に応対することを可能としております。 東京弁護士会所属。私たちは、弁護士106名、スタッフ220名(司法書士1名を含む)を擁し(※2024年1月4日現在)、東京、札幌、宇都宮、埼玉、千葉、横浜、名古屋、神戸、姫路、大阪、広島、福岡、タイの13拠点を構え、全国のお客様のリーガルニーズに迅速に応対することを可能としております。