譲渡制限株式とは、株式の譲渡に会社の承認を得る必要がある株式をいいます。
譲渡の自由度は制限されますが、決して禁止されているわけではありませんので、適切な手続きを踏むことが大切です。
ただし、この譲渡には利益相反が生じるケースもあります。では、利益相反にあたる譲渡はただちに禁止されるのでしょうか。
実は、利益相反にあたる譲渡制限株式の譲渡であっても、会社の承認が得られれば譲渡可能となります。
ただし、利益相反承認決議が必要になる点が、通常の譲渡承認とは異なるポイントです。
本稿では、利益相反にあたる譲渡制限株式の譲渡について解説していきます。
目次
譲渡制限株式における利益相反の承認決議
利益相反を生じるような譲渡制限株式の譲渡では、通常の譲渡承認ではなく、利益相反承認決議が必要となります。
利益相反承認決議を行う目的は、会社の不当な損害を防ぐことにあります。
ある株主がその地位を利用し、自己の利益を優先させる目的で株式の譲渡を行う場合、会社の利益が犠牲になるおそれがあります。
そこで、譲渡を承認するか否かを、平時よりも十分に精査する場を設けることで、会社の不当な損害を防止します。
では、どのようなケースが利益相反取引となるのでしょうか。株式の譲渡すべてが利益相反に該当するわけではありません。
利益相反取引について以降で詳しく解説していきます。
利益相反取引とは
一般的に、利益相反とは、ある行為によって一方は利益を得るのに対し、他方にとっては不利益になることをさします。
利益相反が問題になる理由としては、一方に不利益をもたらすという、公平性の欠如にあるといえます。
特に複数の立場や役割をもつ人物が、それぞれの立場を利用して行った結果、利益が衝突することが多いでしょう。
そこで、会社法は、会社と取締役等の利益が相反する取引に関して、手続的な規制を設けました。
会社法における利益相反取引とは、会社の役員である取締役等が、会社の利益を犠牲にして、自己または第三者の利益を優先させるような取引をいいます。
会社法では、以下のような行為を利益相反取引としています。
- 取締役が自己または第三者のために株式会社と取引をする場合
- 株式会社が取締役の債務を保証すること
- 取締役以外の者との間において株式会社とその取締役との利益が相反する取引をする場合
利益相反取引について具体例を確認しておきましょう。
利益相反取引の具体例
利益相反取引の例としては、取締役と会社間で行われる売買契約や、会社から取締役へ行われる債務免除など様々です。
ポイントは、取締役個人の利益が生じる一方、会社には不利益が生じる行為になっていないかどうかです。株式の移動を例に考えていきましょう。
A社の株式を所有するA社取締役のBさんが、その株式をBさんが代表取締役であるC社へ譲渡するケースではどうなるでしょうか。
Bさんには、株式が個人所有から自身の会社所有となることで、税務面での利益や、自身の会社での利益などが生じる可能性があります。
それに対し、A社が議決権を役員等に集約させたい意向があった場合には、議決権の分散となる不利益が生じたり、そのほか会社の資本や会計上の影響も懸念されます。
会社法では、取締役が利益相反取引を行う場合には、事前に会社に対して情報開示を行い、承認を受けなければならないとされています。
上記のケースでは、取締役BさんとC社間の取引が承認を受ける対象取引となります。
利益相反承認決議における譲渡人や譲受人の議決権
利益相反承認決議では、当事者である譲渡人や譲受人の議決権はどのように取り扱われるでしょうか。
当事者の議決権の行使については承認機関によってその取扱いが異なります。
取締役会設置会社では取締役会、取締役会非設置会社の場合は株主総会が承認機関となり、利益相反承認の決議が為されることになります。
それぞれの承認機関のケースにわけて整理していきましょう。
取締役会設置会社の場合
取締役会設置会社の場合、原則として利益相反取引の当事者である譲渡人や譲受人は議決権を行使できません。
譲渡人や譲受人は、議題となる取引に関して特別の利害関係を有しています。
つまり、自己の利益を優先した投票が行われてしまうなど、公平性が確保できないといった問題が生じてしまうためです。
また、議決権を行使できないだけでなく、定足数の計算にも含まれません。
また、この議案に関しては議長を務めることもできません。ただし、出席が認められる例外があります。
利益相反取引の情報開示として説明が必要と取締役会が判断した場合などが該当します。
原則として利益相反取引の当事者は議決権を行使できませんが、もし譲渡人や譲受人が議決に参加してしまった場合、一般的にはその決議は無効となります。
ただし、善意の第三者に対しては、決議無効を主張できない可能性があります。
また、特別利害関係人の議決を除いても結果が変わらないような、過半数の賛成を得ている場合には、そのまま有効として取り扱われることもあります。
取締役会議事録の重要性
利益相反承認決議では、議事録が重要な役割をもちます。まず、第一に議事録には証拠としての役割があります。
議事録を残すことで、決定へのプロセスを明確にし、承認を得た事実を公的な記録とすることができます。つまり、議事録があることで、第三者に対して取引の有効性を証明することができます。
また、特別利害関係人が議決に参加していないことなど、詳細を確認することもできます。
第二に登記手続きの申請書類の添付資料となります。利益相反取引が不動産等であり、登記手続きを要する場合、その登記原因を証明する資料として議事録を添付します。
そのほか、監査時の対象書類となることもあります。
このように議事録は内部資料に留まらず、行政など外部に提出する可能性もあるため、有効資料となるよう適切な形式で作成するようにしましょう。
取締役会非設置会社の場合
取締役会を置かない会社の場合には、利益相反承認決議において、利益相反取引の当事者である譲渡人や譲受人は議決権を行使できるとされています。
この場合の承認決議は、株主総会の普通決議で行われます。
株主総会においては取締役としての立場ではなく、一株主として参加するため、自己の利益優先で議決権を行使することは問題が無いとされています。
つまり、株主総会における決議であれば、当事者である取締役が議長になることも可能です。
ただし、決議が不当と認められた場合には、決議の取消事由になる可能性があります。
決議の取消事由の主なものとしては、重大な事実の隠蔽や虚偽・議事録の虚偽表示・著しく不当な決議などがあります。
株主は、これらの取消事由に基づいて、決議日から3ヶ月以内に訴えを提起し、決議の取消を請求することができます。
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譲渡制限株式の譲渡で利益相反承認決議が不要なケース
利益相反承認決議の目的は、会社の不当な損害を防ぎ、会社の利益を守るためのものです。
そのため、一人株主で、実質的な利益相反が生じないケースや、株主全員が譲渡に同意している場合には、利益相反承認決議は不要とされています。
実際に最高裁の判例においても、総株主の同意がある場合においては、株主総会決議や取締役会決議の承認は不要とされました(最高裁昭和49年9月26日)。
利益相反承認決議が不要であれば、手続きを簡素化できますので取引がスムーズとなり、双方にとって有益といえます。
しかし、利益相反承認決議の要否は、個々の要素を踏まえて個別判断となります。
実際には必要であるにもかかわらず、誤って利益相反承認決議を不要としてしまうと、後からトラブルになるおそれもあります。
判断に迷う場合は弁護士へ相談しましょう。
不利益が出る取引でも承認される場合がある
利益相反取引を行おうとする場合には、原則として利益相反承認決議が必要とされています。ただし、会社法は利益相反取引を禁止しているわけではありません。
会社に不利益が生じ得る取引であっても、正式な手続きを経て承認されれば問題ありません。
承認される事例としては、短期的には不利益があっても、長期的に見れば利益に繋がると判断される場合や、取引条件が通常と比べて著しく不利ではない場合などが挙げられます。
ただし、不当な損害に繋がらないよう、情報開示の徹底や第三者の意見を踏まえるなど、慎重な判断が求められるでしょう。
利益相反取引の目的や内容詳細、取引条件などを総合判断することによって、不利益が生じる取引であっても承認となる可能性があります。
譲渡制限株式における利益相反承認決議については弁護士法人ALGにご相談ください
利益相反取引となるのは、自己の利益を追求し、悪意をもって行われる場合に限りません。
意図していなくても、利益享受に不平等が発生することで成り立つため、良かれと思った行為が該当してしまうこともあります。
利益相反にあたるのか、また、特別利害関係人に該当してしまうのか、この判断は非常に難しく、一見して判定できるものではありません。
譲渡制限株式の譲渡は、会社の譲渡承認手続きを経ることになりますが、利益相反取引に該当するのか否かの検討は見落としがちです。
利益相反取引や利益相反承認決議に不安があれば弁護士への相談がおすすめです。
弁護士法人ALGでは、企業法務に特化した経験豊富な弁護士が多数在籍しております。
日々、様々な企業の法律問題に取り組み、予防法務からトラブル対応まで幅広い法的サポートを行っております。
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