譲渡制限株式とは、会社の許可がないと他人に譲ることができない株式のことです。
これは、会社にとって望ましくない人が株主になるのを防ぎ、経営を安定させるための仕組みです。
ただし、株主が亡くなった場合は、会社の許可がなくても相続人に株式が引き継がれます。
相続人が会社の方針に合わないこともあるため、会社としては慎重な対応が必要です。
この記事では、そうした場合に会社がとるべき対応について、わかりやすく解説します。
目次
譲渡制限株式の相続が生じたらどうなる?
譲渡制限株式は、株式の譲渡の際に、会社の承認を得ることが必要となる株式をいいます(会社法107条1項1号)。
会社が譲渡を承認しない場合には、譲渡することはできないため、会社が譲受人を選別できる仕組みとなっています。
この仕組みによって、会社の経営権をもつ株主を限られた人員で構成することが期待できます。
ただし、相続による相続人への株式の承継は、株式の譲渡には該当しないとされています。
そのため、譲渡制限株式であっても、会社の承認なく相続人へ株式が承継されることになります(会社法134条4号)。
しかし、相続人が会社にとって好ましい人物であるのかは分からず、相続人が会社の経営にとって不利益といえる人物になるかもしれません。
このような相続人が株主になることを防ぐには、相続人に承継された譲渡制限株式を会社が買い取ることが考えられます。
相続人から譲渡制限株式を買い取る3つの方法
相続によって相続人にわたった譲渡制限株式を会社が買い取る主な方法は3つ考えられます。
- 相続人との合意で株式を買い取る
- 売渡希望の株主から買い付けを行う
- 相続人に対して売渡請求を行う
各方法について以降で詳しく解説していきます。
相続人との合意で株式を買い取る
相続人と協議し、合意できれば相続人から譲渡制限株式を買い取ることができます。
会社が自ら買い取る場合には、株主総会の特別決議において特定の株主(相続人)から株式を買い取る旨などを決定しなければなりません(会社法160条1項)。
売渡希望の株主から買い付けを行う
自己株式の取得は様々な弊害を生じるおそれがあるため、会社法で規制が設けられています。
会社法で定められた手法としては、すべての株主に対して通知または広告を行い、売渡を希望する株主から買い付ける方法があります(会社法156条1項、157条1項)。
ただし、すべての株主を対象として行うため、特定の相続人が申し込むかはわかりません。
相続人が売渡を希望しなければ、会社としては目的を果たせないことになります。
また、どれだけの申し込みが発生するかもわからないため、会社は財源も考慮したうえで資金準備を行う必要があります。
相続人に対して売渡請求を行う
譲渡制限株式に相続が生じた場合、会社法では相続人への売渡請求制度が定められています(会社法174条)。
売渡請求とは、譲渡制限株式の相続人が会社の経営に関与することを防止するなどの場合に、その株式を会社又は会社の指定する買取人へ売り渡すよう請求できる制度です。
売渡請求を行うにあたっては、定款上にその旨を定めておく必要があります。
なお、合意買取や希望買取と違い、会社が売渡請求を行った場合、売渡を求める旨の会社の意思表示がその相手方である相続人等に到達した時点で成立するため、相続人はこれを拒否することはできないと考えられます。
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相続人へ譲渡制限株式を売渡請求する流れ
譲渡制限株式を相続した相続人へ売渡請求を行う場合、単に会社の意向を伝えるだけでは不十分です。
相続人への売渡請求は会社法に定められた制度であり、法律に則った手順を踏まなければ無効になるおそれがあります。
売渡請求の手続きは以下の流れで行うことになります。
- 売渡請求の前提要件を確認する
- 株主総会の特別決議で承認を得る
- 相続人へ売渡請求を通知する
- 売買価格を決定する
各手続きのポイントについて以降で解説していきます。
相続人に対する売渡請求の詳細について、下記ページで解説しています。
さらに詳しく譲渡制限株式の相続における対応は?売渡請求や注意点などを解説①売渡請求の前提要件を確認する
まずは自社の定款の内容を確認しましょう。
もし、相続人等に対する売渡請求に関する規定がない場合は、株主総会を開催し、定款変更に関する特別決議を行う必要があります。
また、売渡請求の対象となる相続人を特定しましょう。
複数の相続人が譲渡制限株式を相続している可能性もありますので、しっかりと相続人を把握することが大切です。
売渡請求を行う株式数を決定するために、帳簿上の分配可能額についても確認しておきましょう。
②株主総会の特別決議で承認を得る
譲渡制限株式の売渡請求を行うには、株主総会の特別決議において、以下の事項を決定する必要があります。
- 売渡請求をする株式の数
- 売渡請求をする株式を有する者(相続人)の氏名
売渡請求は、譲渡制限株式を相続したすべての相続人を対象とするだけでなく、特定の相続人に対してのみ行うこともできます。
また、遺産分割協議が調っていない場合には、その対象相続人が有する共有持分について売渡請求を行うことも可能です。
③相続人へ売渡請求を通知する
会社は株主総会の特別決議により定めた、請求対象となる株式数を明らかにして、相続人へ売渡を求めることとなります(会社法173条1項)。
売渡請求においては、会社の意思表示が相続人に到達した時点で売買契約が成立するとされています。
売渡請求は相続を知った時から1年以内とされていますので、期限に注意して手続きを進める必要があります。
なお、売渡の効果が生じる前までであれば、会社はいつでも売渡請求を撤回することができます(会社法173条3項)。
④売買価格を決定する
売渡請求における売買価格には、法律上の定めはありません。
売買価格は両者の協議によって決定することが原則とされています(会社法177条1項)。
協議が調わないなどの場合は、裁判所に売買価格の決定申立てを行うこともできます。
ただし、この申立ては売渡請求の日から20日以内に限られるため、早めに検討しておくことが必要となります(会社法177条2項)。
もし、売渡請求から20日以内に両者の価格協議が調わず、裁判所にも申し立てしない場合には、売渡請求は無効となってしまいます(会社法177条5項)。
双方で十分協議することも大切ですが、期限を踏まえて申立て準備も同時に行うべきでしょう。
譲渡制限株式を売渡請求する際の注意点
売渡請求は、会社が譲渡制限株式を相続人から買い取るための重要な制度ですが、行使には期限がある点に注意が必要です。
具体的には、会社が相続による承継があったことを知った日から1年以内に請求しなければ、売渡請求を行う権利を失うことになります(会社法176条1項ただし書)。
また、請求できる株式数も青天井というわけではありません。
なぜなら、自己株式の取得には財源規制が設けられているため、請求できるのは帳簿上の分配可能額を超えてはならないとされています。
分配可能額とは、会社の利益を確保したうえで、債権者や株主へ支払える帳簿上の余力財産を指し、この分配可能額を超えて売渡請求を行うことは、認められていません。
もし、強行した場合には売渡請求自体が無効になるリスクや、役員に欠損した財産の支払い責任などが生じる可能性があります。
売渡請求を行う際には、請求期限と請求可能額を十分に確認するようにしましょう。
譲渡制限株式の相続に関しては弁護士法人ALGにご相談ください。
譲渡制限株式との関係では、相続は株式移転のイレギュラーな出来事といえます。
譲渡制限株式を相続する相続人が複数である可能性も十分にあり、その把握にも多大な労力を伴います。
しかし、相続とはいえ、会社の経営に第三者が介入する事案であり、会社としては慎重に対応せざるを得ないでしょう。
また、相続人への売渡請求手続きも複雑になっているため、専門知識がなければ会社が不利になるケースもあります。
譲渡制限株式に相続が発生した場合は必ず弁護士へ相談しましょう。
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- 弁護士法人 ALG&Associates執行役員弁護士 家永 勲
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