業務中の転倒災害とは?労災として認定される要件や請求内容について

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業務中の転倒災害とは?労災として認定される要件や請求内容について

今回は、労災のなかでも近年増加傾向にあり、発生件数が上位に挙がる【転倒災害】について解説していきます。

転倒災害は、転倒による労働災害を指します。
厚生労働省は労働災害=労災について、労働者が業務に起因して被った負傷、疾病又は死亡を指すと定義づけていて、業務中に発生した“業務災害”と、通勤中に発生した“通勤災害”の2種類が対象となります。

つまり、業務中や通勤中に転倒して負傷した場合は、労働災害に該当する可能性が高いのです。
そこで、転倒による怪我が労災認定される要件や保険給付を受け取るための手続きについて解説していきますので、本ページで理解を深めていきましょう。

労災の範囲については以下のページで解説しています。あわせてご覧ください。

労働災害における転倒とは?

業務中や通勤中の転倒による労働災害を“転倒災害”といいます。

労働災害の分類上では、転倒を人がほぼ同じ平面上で転んだり、つまずいたり、滑ったりして倒れることとしています。
ただし交通事故や感電によって倒れた場合は、転倒に含まれません。

《労働災害における転倒は年々増加傾向にある》

転倒はいつでも、どこでも、だれにでも起こり得るものです。
それだけでなく、労働者の高齢化も要因して、転倒災害は年々増加しています。

休業4日以上の転倒災害発生件数の比較※1
令和4年 35295件(全体の約26.7%) 前年同期比+1623人/4.8%増加
令和3年 33672件(全体の約22.5%) 前年同期比+2743人/8.9%増加
令和2年 30929件(全体の約23.6%) 前年同期比+943人/3.1%増加

※1・・厚生労働省「労働災害発生状況」より

転倒による労働災害の主な原因

転倒による労働災害の原因は、「滑り」、「つまずき」、「踏み外し」の、3パターンに分けることができます。
3つのパターンごとに、主な発生原因をみていきましょう。

主な原因
滑り
  • ・床が滑りやすい素材だった
  • ・雨で濡れた通路や、凍結した通路で滑った
  • ・床に水や油が飛散していて滑った
  • ・床の異物を踏んで滑った
  • など
つまずき
  • ・床の凹凸や段差につまずいた
  • ・床に放置された荷物につまずいた
  • ・足元の電気コードにひっかかってつまずいた
  • など
踏み外し
  • ・大きな荷物を抱えていて段差に気付かず、足を踏み外した
  • ・障害物を避けようとして、足を踏み外した
  • ・脚立などの不安定な場所で、足を踏み外した
  • など

転倒による怪我が労働災害に認定されるための要件

転倒による怪我が労働災害に認定されるためには、業務中の転倒(業務災害)または通勤中の転倒(通勤災害)に該当する必要があります。
「業務災害にあたるための要件」と、「通勤災害にあたるための要件」を、それぞれ詳しくみていきましょう。

業務中の転倒(業務災害)

業務中の転倒が、業務災害と認められるための要件を確認していきましょう。

《業務災害とは?》

業務災害とは、労働者の業務に起因する災害のことです。
業務災害と認められるためには、労働者災害補償保険法第7条1項1号の「労働者の業務上の負傷、疾病、傷病又は死亡」に該当している必要があります。

《業務災害における業務上とは?》

労災認定における業務上とは、“業務遂行性”と“業務起因性”の2つの条件を満たすものをいいます。

  • ・業務遂行性:労働者が労働契約に基づき、事業主の支配下・管理下にある状態のこと
  • ・業務起因性:業務と傷病等との間に一定の因果関係があること

《業務災害と認められるケースの一例》

  • ・休憩時間に、職場内の食堂へ移動しているときに、段差で転んだ
  • ・出張中、雨で濡れた通路で滑って転んだ
  • ・職場内のトイレが水浸しで、滑って転んだ
  • ・就業前に作業服に着替えているときに、障害物につまずいて転んだ など

通勤中の転倒(通勤災害)

通勤中の転倒が、通勤災害と認められるための要件を確認していきましょう。

《通勤災害とは?》

通勤災害とは、労働者の通勤に起因する災害のことです。
通勤災害と認められるためには、労働者災害補償保険法第7条1項3号の「労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡」に該当している必要があります。

《通勤災害における通勤とは?》

労災認定における通勤とは、次の要件を満たすものをいいます。

  • ・就業に関する移動で、次のいずれかに該当する移動行為であること
     ① 住居と就業場所との間の往復
     ② 就業場所と他の就業場所への移動
     ③ 住居と就業場所との間の往復に先行し、または後続する住居間の移動
  • ・合理的な経路および方法による移動であること
  • ・業務の性質を有する移動でないこと

《通勤災害と認められる例》

  • ・職場から自宅に帰る途中で、道路が凍結していて滑って転んだ
  • ・取引先に直行している途中で、障害物につまずいて倒れた など

通勤災害については以下のページでも解説しています。あわせてご覧ください。


転倒で労災保険給付を受け取る手続き

業務中や通勤中に転倒して怪我をした場合、労災保険給付を受けることができます。

労災保険給付では、怪我の治療にかかった費用や仕事を休んだ期間の給料相当額、後遺障害が残ってしまった場合の補償が対象となって、労働者の金銭的な救済となるので、該当する場合は忘れずに申請しましょう。

労災保険の給付内容

転倒災害で請求できる可能性のある労災保険の給付内容は、次のとおりです。

  • 療養補償給付(通勤災害では療養給付)

    治療に関する給付。
    怪我で療養する場合に必要な診察・手術・入院・薬剤といった費用が、怪我の完治あるいは治癒(症状固定)となるまで支給されます。
    「念のため病院で検査を受けただけ」など、通院が1日だけの場合も、基本的に支給が受けられます。
  • 休業補償給付(通勤災害では休業給付)

    休業に対する給付。
    怪我の療養で仕事を休み、賃金を受けられない場合に休業4日目から支給されます。
    休業4日目以降、出勤しながら通院している場合も、一定の要件を満たせば通院日のみの支給が受けられます。
  • 障害補償給付(通勤災害では障害給付)

    後遺障害が残った場合の給付。
    怪我の治癒(症状固定)後、残存した障害の程度に応じて障害補償年金または障害補償一時金(通勤災害では障害年金または障害一時金)が支給されます。

労働中に転倒した場合は会社に使用者責任を追及できる

労働中の転倒原因が会社にある場合、会社に責任を追及して、慰謝料等の損害賠償を請求することができます。

労災保険では、労働者が怪我をしたことで受けた身体的・精神的苦痛に対する慰謝料は補償してもらうことができません。
転倒災害の怪我は重症になることも多く、とくに高齢労働者の場合は、ちょっとしたつまずきで寝たきりになってしまうこともあります。

会社は従業員の健康と安全に配慮する義務=安全配慮義務を負っています。

転倒災害を防止するための措置を会社が怠ったために災害が生じた場合は、安全配慮義務違反が認められる可能性も高いので、十分な補償を受けるためにも、労災と並行して、会社に対して損害賠償請求をしましょう。

転倒災害後に会社へ損害賠償を請求した裁判例

転倒災害で会社の安全配慮義務違反を理由に、損害賠償請求が認められた裁判例をご紹介します。

【名古屋地方裁判所 令和3年2月26日判決】

<事案の概要>

被告の従業員であった原告が、配達に出るため、運送用トラックの荷卸し・積荷に用いる昇降機の付近を通行しようとして、上昇した昇降機に足を取られて転倒し負傷した事故において、被告に安全配慮義務違反があったと主張しました。

<裁判所の判断>

  • ・通行禁止について被告から口頭で注意があったとしても、これを守らせるための対応を取ったとも認められず、安全配慮義務が果たされたということはできない。
  • ・安全な通路が設置されていたとは認められない。
  • ・昇降機の稼働を知らせる措置を取っていなかった。

以上の点から、昇降機による事故を防ぐ義務を負う被告の安全配慮義務違反を認め、不法行為であると判断しました。

業務中の転倒災害について弁護士に依頼するメリット

転倒災害について弁護士に依頼すると、次に挙げるようなメリットが得られる可能性があります。

  • ・ご自身が受けられる給付の内容や必要書類について、アドバイスが受けられる
  • ・労災保険給付の手続きについて、サポートが受けられる
  • ・労災で認定された後遺障害等級が適正か判断してもらえる
  • ・労災で認定された後遺障害等級に納得できないとき、審査請求や裁判を任せられる
  • ・会社に損害賠償請求をするとき、示談交渉や裁判を任せられる
  • ・煩雑な手続きを弁護士に任せられるので、被災者の方は治療に専念できる など

転倒災害を防止するために労働者ができること

転倒災害を防止するためには、事業主による転倒防止策も大切ですが、労働者にもできることがあります。

労働者の加齢によって身体強度や運動機能が低下することで重篤化する可能性があることを踏まえて、転倒災害を防止するために労働者ができることを確認しておきましょう。

  • ・整理・整頓・清掃・清潔(4S)を心がける
  • ・作業に適した服装・靴を選ぶ
  • ・時間に余裕をもって行動する
  • ・滑りやすい場所では、歩幅を小さくして歩行する
  • ・足場が不安定な場所では、すぐに受け身が取れるように両手をあけておく
  • ・足元が見えにくい状態で作業しない
  • ・自分の身体的能力を過信せず、日頃から適度な運動を心がける
  • ・危険な場所などの情報を職場で共有する など

転倒による労働災害に遭われた方は弁護士にご相談ください

転倒しただけで大げさだと思われるかもしれませんが、労災保険給付の手続きがスムーズに進まない場合や、会社に災害の原因がある場合などは、転倒災害に対して適正な補償を受けるためにも、労働問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

転倒による怪我で後遺症が残ってしまった場合、後遺障害や介護に関する給付を受けるためにも後遺障害等級認定を受ける必要がありますし、転倒の原因が会社にある場合は、労災のほかに会社へ損害賠償請求をする必要があります。

業務中や通勤中に転倒して、労働災害の認定を受けるにあたって不安を抱えていらっしゃる場合は、一度弁護士法人ALGまでご相談ください。

弁護士

監修 弁護士 谷川 聖治 弁護士法人ALG&Associates

保有資格 : 弁護士 (東京弁護士会所属・登録番号:41560)

東京弁護士会所属。私たちは、弁護士106名、スタッフ220名(司法書士1名を含む)を擁し(※2023年1月4日時点)、東京、宇都宮、埼玉、千葉、横浜、名古屋、大阪、神戸、姫路、広島、福岡、バンコクの12拠点を構え、全国のお客様のリーガルニーズに迅速に応対することを可能としております。

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