
コラム
更新日: 2024年10月9日
コンプライアンス
監修弁護士 川村 励 弁護士法人ALG&Associates バンコクオフィス 所長タイに進出する際のコンプライアンス(法令順守)対策の重要性
タイで適法に事業を継続するためには、タイ内外を問わず、起業家は自分の事業に関係する法令を順守しなければなりません。適切な対策を取ることにより、法令に違反するリスクを軽減し、事業活動を円滑に行うことができるでしょう。
ノンコンプライアンス(法令不順守)から生じるリスク
第1に、規制上のノンコンプライアンスに関する罰には複数の形態があります。金銭的罰金にかかわらず、活動の制限、認可のための追加障害、更には刑務所への収監さえあります。
たとえ組織が実際の罰を受けない場合でも、政府機関による調査は組織に多くの作業時間と法的費用や委託費用の可能性というコストの負担を強います。罰を受ける企業のリストは長いのです。
第2に、企業イメージの悪化です。第3に、市場へのアクセス問題と商品の遅延です。
企業が直面する最も財務的に損害を被る出来事の1つは、ノンコンプライアンスに関する問題に起因して、商品が国境で阻止されたり、リコールを出すことを余儀なくされたり、商品を破壊することを強いられたりすることです。
最後に、規制当局により廃業に追い込まれるリスクです。政府は実際に活動を規制して廃業に追い込むでしょう。更に、企業は自社の事業がそのような劇的な行動から免れると考えるかもしれませんが、世論がすぐに変わる場合があります。
厳しい規制を受ける可能性のある他の企業には、インライン広告、データ収集アプリ、ブロックチェーン関連技術や、綿密な調査の対象となるケースが増えている食肉産業さえも含まれます。
弁護士による法的サポートとコンプライアンスサポート
タイで事業運営するためには、法とコンプライアンスに精通した現地の弁護士からサポートを受ける必要があります。タイの法令に関する情報の収集と調査、コンプライアンス監査、効果的なコンプライアンス体制の確立を含む様々な契約のリーガルチェックを問わず、サポートが必要です。
コンプライアンス対策を要求するタイの法令
タイで事業を継続する際、事業を法人化する前に注意を払うべき法令があります。
- 外国人事業法(Foreign Business Act)
- 個人データ保護法(Personal Data Protection Act)
- 取引競争法(Trade Competition Act)
- 知的財産法(Intellectual Property Law)
- 営業秘密法(Trade Secret Act)
- 労働保護法(Labor Protection Act)
- 税法(Tax Law)
外国人事業法
タイ法は、「外国人」として指定される企業が従事することのできる活動を規制します。完全に禁止される活動もありますが、指定政府機関の事前認可を受ければ従事できる活動もあります。
また、特別な認可をまったく必要としない活動もあります。
1999年の「外国人事業法(FBA)」によれば、「外国人」という用語は以下の者を意味します。
- タイ国籍を有しない自然人
- タイで登録されていない法人
- 以下の特徴を有するタイで登録された法人
- 上記(1)もしくは(2)の者が保有する法人の資本株式の半分以上を有する者、または、法人の総資本の半分以上の価額で投資する上記(1)もしくは(2)の者を有する法人
- マネージング・パートナー(業務執行社員)もしくはマネージャーとして上記(1)の者を有するリミテッド・パートナーシップ(有限責任事業組合)もしくは登録済みの通常のパートナーシップ
- 上記(1)、(2)もしくは(3)の者が保有する資本株式の半分以上を有するタイで登録された法人、または、総資本の半分以上の価額で投資する上記(1)、(2)もしくは(3)の者を有する法人
1999年の外国人事業法(FBA)は、外国人の参加が禁止または制限される活動を3つのリストで特定しています。
- リスト1に記載された活動は「特別な理由により外国人が運営することを許可されない事業」として指定されています。外国企業はリスト1の活動に従事することを完全に制限されます。
- リスト2に記載された活動は「国家の安全もしくは安全保障に関する事業、または、芸術・文化、伝統的もしくは民族的な手工芸、天然資源、環境に影響を与える事業」として指定されています。外国企業は内閣の事前承認を得てのみ、リスト2の活動に従事することができます。
- リスト3に記載された活動は「タイ国民が外国人とまだ競争する準備ができていない事業」として指定されています。リスト3の活動に従事するためには、外国企業は活動を開始する前に「外国人事業ライセンス」を申請して取得しなければなりません。
上記で述べた規則には、2つの共通の例外があります。
- タイ王国の政府-すなわち、タイ工業団地当局の投資委員会-の許可を得て、リスト2またはリスト3に分類される事業を外国人が運営する場合、当該外国人は、証明書を取得するために、商業登記局の長官に通知しなければなりません。
- タイが当事者であり、または、従う義務を負う条約-すなわち、米国とタイとの間の友好条約-で定めたリスクに分類される事業を外国人が運営する場合、当該外国人は、その見返りとして、タイ国民とタイ企業が外国人の国において事業を運営する権利を含む当該条約の規定を順守しなければなりません。
タイにおいて外国人事業法のリスト2またはリスト3に記載の事業に従事することを望む外国人は、事業運営を開始する前に、関係当局から「外国人事業ライセンス」を取得する必要があります。
当該ライセンスの申請は事業局に対して行い、内閣または、場合によっては、外国人事業委員会にが当該申請を評価します。
申請された事業運営の影響を検討するために様々な基準が使用されます。(例:国家の安全と安全保障に対するメリットとデメリット、経済と社会の発展、企業規模、現地雇用)。
事業ライセンス申請は、当局が当該事業を、著しくより多くのメリットをもたらし、タイの利益を保護し促進する事業として評価する場合に、認可される可能性がより高くなります。
申請手続きは時々、予測不能な結果を伴って非常に時間がかかる場合があります。外国人事業ライセンス申請は複雑で長いプロセスです。
一般的に、ほとんどの外国人投資家は、たとえ彼らが当該ライセンスを取得するかなりのチャンスを有している場合でも、このプロセスを通過することはめったにありません。
他方、たとえそのチャンスが僅かな場合でも、外国人投資家は投資委員会(BOI)に対して申請することを躊躇しません。
上記のことを行わない場合、違反が期限なく続く限り、毎日1~5万バーツの罰金が科されます。
個人データ保護法
タイ政府は、初のデータ保護法である「個人データ保護法(PDPA)」を可決し、2022年6月1日付で発効しました。
欧州連合(EU)の「一般データ保護規則(GDPR)」と同様、タイのPDPAは、データ主体の個人情報の適切なレベルの安全性を保証し、データ主体に対して幾つかの保護と権利を付与しています。
PDPAに基づく義務を負う者によるPDPAの不順守は、懲罰的損害賠償を伴う民事上の責任を負い、最大500万バーツ(約 135,040米ドル)の行政上の罰金、および、最大1年間の収監を含む刑事罰もしくは最大100万バーツ(約 27,000米ドル)の罰金もしくはその両方を科される可能性があります。
その事例は以下の通り定められています。
PDPAの第41条(1)または第42条を順守しないデータ管理者は、100万バーツ(約 27,000米ドル)を超えない行政上の罰金を科されて処罰されるものとする。
取引競争法
同法は、タイにおける取引競争の規制当局が独立していることを定めています。
同法は、中央行政、省行政、地方行政、予算手続きに関する法で定めた国営企業、農家の団体、その事業が農家の利益のために運営されると法が認める共同組合や協同組合、および、省令で定めた企業を除き、すべての種類の事業運営に適用されます。
取引競争法は商慣行を監視する重要な経済法です。公正競争が全体として生産と経済の発展をもたらすと信じられています。競争法の施行により何の問題も発生しないと言うことは不可能です。
罰の一部として、取引競争法B.E. 2542(1999)(「現行法」)は、次のように定めています。
「優越的地位の乱用」「カルテル」「不正な取引慣行」「海外に本拠を置く事業者との不当な合意」に違反した者は刑事罰を受けるものとする。
当該者は、3年間を超えない収監または600万バーツを超えない刑事上の罰金またはその両方を受けるものとする。繰り返して違反した場合、当該者は、2倍の刑罰を受けるものとする。
対照的に、新法は、違反の種類に応じて、罰を刑事罰と行政罰に分けています。
知的財産法
知的財産法は、「知的財産」として知られる発明、書き物、音楽、意匠、その他の著作物の創作者および所有者の権利を保護し行使する法律です。知的財産には、著作権、商標、営業秘密を含む幾つかの分野があります。
著作権法は、美術、出版、エンターテイメント、コンピューターソフトウェアの著作物の創作者の権利を保護します。
同法は、他者が許可なく所有者の著作物を複製、提示、表示した場合に、当該著作物の所有者を保護します。
商標法は、事業体の商品またはサービスを特定するために当該事業体が使用する言葉、言い回し、記号、意匠を保護します。
例えば、ダンキン・ドーナツのオレンジとピンクのソーセージのような文字のデザイン、アップルのリンゴのロゴ、アディダスの3本の縞です。
商標の所有者は、自分の商標や、消費者が出所を特定できない紛らわしいほど酷似する商標を他者が使用することを防ぐことができます。
連邦法と州法は商標に適用されますが、ランハム法(Lanham Act)は商標保護の主な源です。これらの法律は商標の侵害や希釈化に対して商標を保護します。
商標権は、商取引において商標を最初に使用することにより、または、米国特許商標局において商標を最初に登録することにより取得されます。
特許法は、商品、プロセス、意匠になり得る新たな発明を保護し、発明を保護する仕組みを提供します。特許法は、イノベーションを促進するために、他者との新規開発の共同利用を促進します。
特許所有者は、保護対象物の製造、利用、流通、輸入から他者を保護する権利を有します。本質的に、特許は、ライセンス、売却、担保、譲渡が可能な財産権です。
営業秘密とは、企業に競争優位を与えるために特別に設計された、企業で使用される商慣行、製法、設計、プロセスです。これらの営業秘密は企業の「部外者」には知られていないものです。
例えば、コカコーラの製法です。営業秘密は登録することなく保護されます。営業秘密の所有者は秘密性を維持するための適切な措置を取るべきです。
タイの知的財産権の侵害はタイにおいては刑事犯罪であり、知的財産権の所有者は裁判所に対して民事賠償金を請求することができます。
営業秘密法
競争市場において、事業主は経済的利益を得るために、生産コストの削減と売上高の増加に尽力しています。これを達成するために、特に、設計、技法、プロセスを改善するための研究開発に多額の投資が行われています。
それ故、営業秘密として知られるこれらの手法や形態は、権利要件を満たす場合、しっかりと保護されるべき貴重な無形資産です。
「営業秘密法B.E. 2545(2002)」では、営業秘密とは、また公知になっていない営業情報または、当該情報と通常関連がある者がまだアクセスできない営業情報で、かつ、当該情報の商業的価値がその秘密性から派生し、当該情報の管理者がその秘密性を維持するための適切な措置を取っている営業情報を意味します。
営業情報とは、その方法や形態に関係なく、発言、事実、その他の情報の意味を伝達するすべての媒体を意味します。営業情報には、製法、パターン、編集物、集合著作物、プログラム、手法、技法、プロセスも含まれます。
営業秘密をめぐる紛争は通常、営業秘密の所有者が当該営業秘密の侵害に関して、自社の従業員や元従業員、取引先に対して賠償請求を行った際に発生します。
営業秘密の価値にかかわらず、営業秘密をめぐる紛争はタイではめったに発生しません。
中央知的財産・国際取引裁判所(IP&IT裁判所)の統計によれば、2004年から2014年までの期間、僅か66件の営業秘密事案がIP&IT裁判所に対して提起されました。
そして、残念ながら、営業秘密をめぐる紛争に関する最高裁判所の決定の大多数は、営業秘密の所有者にとって楽観的な見解を示していません。
しかし、これらの残念な結果は、タイの営業秘密法の誤解の犠牲になった当該所有者自身に起因する場合があります。
労働保護法
タイにおける雇用主と従業員の関係には、主にタイの労働保護法が適用されます。
タイの労働法は、タイにおける雇用に関する権利を守る最善の方法として機能しています。労働法は、従業員に対する雇用主の権利義務および雇用主に対する従業員の権利義務を定めています。
タイにおいて「雇用主」という用語には、仕事のために賃金を支払って従業員を雇うことに同意する者(雇用主のために行動することを許可された者を含みます)が含まれます。
雇用主が企業のような法人の場合、「雇用主」には、企業のために行動することを授権された者、および、当該授権者のために行動する者が含まれます。
タイでは、雇用主と従業員の関係の存在は当事者間で締結した契約によって判断されます。但し、当事者は書面または口頭での雇用契約の締結が許可されます。
雇用契約の開始時、雇用主と従業員は、雇用期間と契約条件に合意すべきです。タイの労働保護法は雇用期間の安全を保証します。
それ故、雇用期間の満了、当事者間の合意による雇用の終了、合意した仕事の完了、いずれかの当事者による相手方に対する雇用終了の意向の通知等の場合にのみ、雇用を終了することができます。
雇用主の事業が従業員の同意なしに第三者に対して譲渡された場合にも、雇用を終了することができます。従業員による重大な違法行為等の正当な理由により雇用主が従業員を解雇する場合にも、雇用を終了することができます。
雇用期間が雇用契約に明記されていない場合、従業員または雇用主は雇用を終了することができます。
但し、次の賃金支払期日に発効するように、当該終了を望む当事者が相手方に対して、賃金支払期日前に(当日を含みます)書面で事前に通知を行うことを、その条件とします。
労働保護法は、タイにおける外国人の労働者、非労働者、非居住者に関する規定も定めています。
同法によれば、在留外国人はタイで働く前に雇用許可を取得する必要があります。但し、タイにおいて外国人労働者は労働組合に参加することを禁止されています。
タイで労働弁護士を必要とする外国人は、労働裁判所に出廷する前に助言を求めるべきです。
通常、タイの労働者は、1日最大8時間働く必要があります。従業員の事前同意がある場合を除き、残業は一般的に禁止されています。
タイの労働・社会福祉省は、同法の施行を監督し、タイ法の下ですべての権利が保護されることを保証します。
労働保護法に加えて、労働関係法も労働関係事項を定めています。
同法は、雇用主と集団としての従業員(従業員組合、従業員委員会等)との間の団体交渉関係に適用されますので、雇用主と個々の従業員の関係に適用される「労働保護法B.E. 2541(1998)」(「LPA」)と混同しないでください。
税法
タイにおける主たる税法は「歳入法」で、個人と法人の所得税、付加価値税、特定事業税、印紙税を定めています。
関税については「関税法」が定めています。「物品税法」は物品税を定めています。「石油所得税法」は石油取得税を定めています。
(© Tilleke & Gibbins International Ltd.「税務管理構造2009年3月」より)
財務省歳入局は、個人所得税、法人所得税、石油所得税、付加価値税、特定事業税、印紙税の管理に責任を負います。関税の管理については、財務省関税局が責任を負います。
物品税の管理については、財務省物品税局が責任を負います。一般に、タイの税務管理は自己評価の考え方に従います。納税者は当局に対して所得税を申告し、納税する法的義務を負います。
申告された所得と納められた税金は正確であると見なされます。但し、納税申告書の不提出、虚偽のまたは不適正な納税申告書等の特定の状況においては、当局が評価を行う場合があります。
タイに進出する企業が取るべきコンプライアンス対策
タイに進出する際にコンプライアンスを確実にするために、以下の対策を取ることが必要です。
- コンプライアンスリスクの特定
- コンプライアンスマニュアルの策定と配布
- コンプライアンス研修の実施
- 効果的なコンプライアンス体制の確立
- コンプライアンス監査の実施
- 良い企業内文化の育成
コンプライアンスリスクの特定
コンプライアンスリスクを特定する目的は、組織が目標を達成するのに役立つまたは達成するのを妨げる可能性のあるリスクを発見し、認識し、記述することです。
コンプライアンスリスクを包括的に理解するために、組織は以下のことを行うことができます。
- 事業を運営するすべての対象国における該当法令の評価
- 組織全体にわたって把握したクレーム(請求、要求)とインシデント(事件)の統計の評価
- 事業を運営する対象国における業界の同業者およびその他の組織に対するクレームの評価
- 法務とコンプライアンスのアドバイザーおよびサービス提供者への相談
- 規制当局および政府当局からの情報とガイドラインの評価
- いなかる重大なリスクも確実に見逃さないようにするための、法人に対する特定されたコンプライアンスリスクのマッピング
コンプライアンスマニュアルの策定と配布
企業は、コンプライアンスリスクを軽減するために、および、コンプライアンス分野の使命を果たすために、コンプライアンスプログラム/体制を導入または確立しなければなりません。
当該プログラム/体制は「リスク評価」「コンプライアンス文化の確約」「コンプライアンスのための監督とリソース」「倫理規定」「方針と手続き」「継続的なコミュニケーションと研修」「内部統制」「監視と試験」「調整管理」「調査と報告」で構成されなければなりません。
コンプライアンス研修の実施
企業は従業員に対して、コンプライアンス規則および彼らのキャリアアップに影響を与えるコンプライアンス関連の要因をより良く理解するためのオンライン授業を提供すべきです。研修は、コンプライアンス文化を植え付け、従業員に説明責任を負わせ続けます。
コンプライアンス監査の実施
内部監査は、企業が自社の行動規範を順守しているか否かを判断します。外部監査は、政府機関が定めた社外規則を企業が順守しているか否かを判断します。
更に、外部監査とは異なり、内部監査は、コンプライアンスを証明するために独立した第三者の監査人を必ずしも必要としません。
監査プロセスは、社内監査人により、または、業界と自社に適用される規則に精通した通常の従業員により完了することができます。
ほとんどの場合、内部監査の結果は公表されません。当該結果は、組織が社内基準を順守していない場合に是正対象分野を特定し、是正措置を推奨するためにのみ機能します。
内部監査は社外規則の順守を調査するためにも行う場合がありますが、これは通常、近々行われるコンプライアンス監査に備えるものです。
組織の規則順守上の欠点を事前に特定することにより、組織は当該欠点の是正に取り組み、社外コンプライアンス監査の失敗に起因する罰を回避することができます。
良い企業内文化の育成
企業のリーダーは、自社の運営のすべてのレベルに適用される自社のミッション・ステートメント(社是、綱領)を策定することにより、組織文化を決定することができます。
当該リーダーは監督者やチームに対して、人々が互いに交流する方法に当該ミッション・ステートメントと文化を適用する研修を実施することができます。
企業は、自社が最も価値を置くことを決定し、当該価値あることを支える自社の文化を利用することができます。
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