税務サポート
日本企業のタイ進出における税務サポートの必要性
日本企業がタイで事業を行う場合やタイ子会社が事業を行う場合、タイでの税務申告が必要となります。 もちろん、タイにおいても精緻な税務規定とその運用がなされており、加算税や延滞税は日本と比較しても高額ですので、タイへ進出した企業にとって、タイにおける税務問題は頭の痛い問題と言えます。
以下に、タイにおける税務に関してのポイントを見ていきましょう。
タイの税務・会計人材の確保における課題
タイ進出日系企業の会計を行うに十分な知識のある会計担当者を探すことは容易ではありません。タイの会計を担当する人材は、その多くはタイ大学会計学部卒業生が担っており、高卒者や他の学部卒業生が会計担当となる例はほとんどありません。 ところが、会計学部を含む大学卒業生自体は全体の人口のうち2016年の統計データによれば14%程度と非常に少ないです。しかも、タイに進出した日系企業の会計では、英文の資料や輸出入、海外取引など、タイ系企業にはない難しい問題に直面することが少なくありません。
他方、タイは、日本と異なり、税理士、行政書士、司法書士といった職務はなく、すべて弁護士が担っています。税務上の問題についても、これは法律の分野ということで、会計担当者の職務内容というよりは弁護士の職務内容となっているのが一般的です。従って、タイの公認会計士や会計担当者だからといって、税務に詳しいというわけではありませんし、税務調査で税務署職員への対応や交渉を行うことも非常に難しいといえます。もっとも、弁護士のほとんどは法学部を卒業して簡単な試験をパスしたに過ぎません。 しかも、税務を担当する弁護士のうち、企業会計などに詳しい弁護士は非常に少ないです。そのため、税務を担当できるノウハウを持っている法律事務所は、報酬額が非常に高額な外資系の一定の事務所以外、タイではほとんど見つけることは難しいのが実情です。
弁護士による税務サポートの必要性
タイ税務に関するご相談や税務調査対応は、企業会計とタイ税法の両方についてのノウハウを有する法律事務所に依頼することが重要です。日本人公認会計士が駐在する事務所であっても税務をたんとできる弁護士が常勤していない事務所や、弁護士は常駐していても会計事務所との提携や企業会計のノウハウがない事務所では、タイ税務に関して十分なサポートを行うことは非常に難しいといえます。
税務分野は、タイ進出企業にとっては、日常的に関係する分野であり、サポートが必要です。税務を管轄するタイ歳入局は、企業に対する税務調査に関して絶大な権限を有しており、税務調査は、2019年に導入された移転価格税制を含めて、厳しくなってくるものと予想されます。税務コンプライアンス違反は、税務調査の通じて発見された場合、多額の追徴課税が課されるリスクもあります。同時に、税金還付請求の長期化や還付金額の減少の大きな要因ともなります。そのため、日ごろから誤った税務処理をしないよう、税務サポートを受けていくことが非常に必要です。
タイの税務・会計業務の流れ
タイで事業を行う企業は、以下のような会計・税務業務を遵守する必要があります。 会計業務は、1年を通じて、タイ会社法関連規則、会計法関連規則、税法に基づいて、一定の期限までに行う必要があります。また、税務業務は、月次申告と年次申告業務があります
1.月次の税務業務
(1)源泉徴収税(Withholding tax)
源泉徴収義務の対象となる取引について支払った月の末日から7日以内に源泉税納付する義務があります。
源泉徴収義務の対象となる取引は、日本の税法と異なり、給与、ロイヤリティー、請負代金、配当金、利息など多岐にわたる取引があります。個人支払う場合だけでなく、企業に支払う場合も対象になります。また、タイ国外への支払いの際も源泉徴収税義務が課される場合が多いです。源泉徴収税の税率は、支払項目により異なりますので、毎回、会社が行う支払がどの項目に該当し税率何%が適用されるのか、専門家に確認することが必要です。
(2)付加価値税(VAT、Value Added Tax)
日本の消費税と同類の税金です。タイ国内の物品代金やサービス料に対して7%の税率で、売主やサービス提供事業者が支払者から徴収して、物品販売を行った月やサービス料を受け取った月の翌月15日までにVATを申告納付する義務があります(Phor.Phor.30)。
また、国外事業者がタイでVAT登録を行わずにVAT課税取引を行った場合は、輸入者や支払者が代わりにVATを申告納付する義務があります。この場合は、サービス料の支払月の翌月7日までにVATを申告納付しなければなりません(Phor.Phor.36)。
VATは、VAT発生時期がいつか、VAT課税取引は何か、また毎月のVAT申告時に控除または還付請求可能となる仕入税額の条件などについて、詳細で複雑な条件がありますので、専門家のサポートが不可欠と言えるでしょう。
(3)特定事業税(SBT、Specific Business Tax)
貸付金の利息を受け取る場合など金融や不動産事業に関する収入に対して課税される税目です。税率は事業によって異なります。納付期限は、原則として収入が発生した月の翌月15日までにSBTを申告納付する義務があります(Phor.Thor.40)。
2.年次の会計業務と税務業務
前期
後期
※ PEや駐在員事務所等の外国法人は、DBDへの財務諸表提出期限は本店の決算日から5か月以内。
(1)会計記帳と決算
会計記帳は年次というよりは日々記録しなければならない業務です。そして、会社設立日などから12か月以内の任意の日を決算日として定め、毎年一回決算を行わなければなりません。会計記帳や決算は、タイ会計法の定めに従い、タイ大学会計学部卒などにより事前に会社の記帳責任者として登録した者の責任により行われる必要があります。
タイで設立したすべての会社、タイで事業を遂行するすべての事業者などは、会計記帳により、法律で定められた会計帳簿を作成し事務所に一定期間保管しておく義務があります。
会計帳簿作成主体 | 作成開始日 |
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(a) タイの法律に基づき設立された全法人 | 設立登記日 |
(b) タイにおいて事業を営む外国の法律に基づいて設立された法人(PE、駐在員事務所等) | タイで事業を開始した日 |
(c) 歳入法典に規定される合弁事業体 | 同上 |
(2)タイの法定会計監査
① 財務諸表監査
タイで事業を行う全ての法人は、決算により作成した財務諸表について公認会計士による監査(※1)が要求されています。株式会社の場合、決算日から4か月以内に株主総会で監査済み財務諸表について承認を得なければなりません(※2)。
※1:会計監査はタイ公認会計士の独占業務。 ※2:株式会社以外の法人、PEや駐在員事務所を含むタイで事業を営む外国法人や合弁事業体も、財務諸表の作成及び公認会計士による監査が義務付けられている。但し、株主総会の承認は不要。
② 歳入法典で要求されている監査済み財務諸表
決算日から150日以内に法人所得税申告書(PND50)と共に提出します。 任意で、歳入法典で認められる中間申告のための仮決算と中間レビューを行う場合もあります。
(3)定時株主総会の開催(株式会社の場合のみ)
① 定時総会開催期限
決算日から4ヶ月以内に定時株主総会を開催して監査済み財務諸表の承認を得なければなりません。
② 開催通知
開催日7日前に、地方紙掲載と同時に証明郵便又は手渡しにより、株主に開催を知らせなければなりません。
③ 法定決議事項
定時株主総会について、法律では以下の事項を決議しなければなりません。
- 監査済み財務諸表の承認(民商法1197条)
- 営業報告(民商法1198条)
- 3分の1以上の取締役の交代(民商法1152条、1153条)
- 次期会計年度の監査役の選任と報酬の決定(民商法1209条、1210条)
(4)承認された監査済み財務諸表の商務省会計部局への提出
株式会社の場合、定時総会開催日から1ヶ月以内、又は、決算日から5ヶ月以内に、監査済み財務諸表を商務省会計部局へ提出する義務があります。未提出の法人や事業体に対しては、商務省より罰金が科されます。
※PEや駐在員事務所等の外国法人、株式会社以外の法人、又は合弁事業体は、DBDへの財務諸表提出期限は本店の決算日から5か月以内に提出する義務があります。
(5)法人税の税務申告
① 中間申告(PND51)
会計年度前期最終日から2ヶ月以内に、会計年度末の推定利益の2分の1に対して法人税を算定にして申告納付する義務があります。
② 年度末の申告(PND50)
決算日から150日以内に、監査済み財務諸表とともに純利益に対して法人税を算定して申告納付する義務があります。
タイと日本の税務の相違
タイも、日本とほぼ同様の税目があります。企業に関する税目として、法人税、VAT(日本の消費税と同じ)、関税、印紙税、物品税(日本では現在廃止)、酒税、土地建物税(日本の固定資産税に相当)などは、日本でもなじみのある税目です。
もっとも、VATについてはタックスインボイス(税額票)方式が厳格に適用され毎月の申告が義務付けられているほか、利子の受取など特定取引に対してのみ課される特定事業税(SBT)、看板について課される看板税があります。逆に法人事業税はありません。
タイの税法と体系
歳入法典 | タイの国税のうち基本的な税金、すなわち、個人所得税、法人税、VAT(付加価値税、)、SBT(特定事業税)、印紙税について規定されています。また、課税方法、申告納付方法、税務調査、加算税や延滞税、その他罰則についての規定もあります。歳入法典のほかにも、関税法、土地建物税法、相続税法、看板税法、さらに、国際取引に関してはタイが締結している租税条約があります。 |
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勅令 | 歳入法典により内閣に委任された事項に関して、国会の審議承認を経ることなく、内閣の決定により制定されます。免税に関する決定が多いです。 |
省令 | 歳入法典により財務大臣に委任された事項に関して、財務大臣の決定により制定されます。 |
歳入局長規則歳入局規則 | 歳入法典、勅令、省令により歳入局長や歳入局に委任された事項に関して、歳入局長が決定し制定されます。 |
歳入局通達 | 通達は、法律ではなく、歳入局が発行している運用や解釈をまとめたものです。税務調査などで実務上の解釈に相違があった場合、通達に従った処理をしていると解決することが多いです。しかし、あくまで歳入局の解釈をまとめたものですので、法的拘束力はありません。異議があれば裁判で争うこともできます。 |
法律である歳入法典以下の、勅令、省令、歳入局長規則、歳入局規則、歳入局通達は、日本の場合と異なり、法律制定時に、体系的・網羅的に制定されていません。必要に応じて、個別に制定・改正されています。従って、これらの制定・改正については、日ごろから専門家にアクセスしてアップデートする必要があります。また、このため、税務の取り扱いについて、歳入局の方針や解釈について不明である部分も多く、納税者にとって、タイの税体系がわかりづらくなる要因ともなっています。
タイの税務
タイの税法も、主な税目は日本と同じです。しかしながら、課税に関しては、日本は申告納付方式なのに対して、タイは賦課課税方式です。そのため、税務調査の進め方や最終的な賦課決定(日本の更生処分に近いです)に関しては、歳入局側に大きな権限があります。また、加算税は原則100%、延滞税は月1.5%と日本と比較して多額です。税務調査は厳密に行われる傾向があり、追徴課税となると加算税と延滞税が加算される結果、多額の金額を歳入局に後日支払わなければならない事態となりかねません。従って、タイといっても、税務上の取り扱いは、税務調査も踏まえた対策をしておく必要があります。 さて、本項では、税目の中でも主なものとして、①法人税、②個人所得税、③VATについて簡単に解説していきます。
① 法人税
法人税は、所得税の一種で、正式には法人所得税(Corporate Income tax)と言われています。 日本と同じく、法人の各事業年度の最終純利益に対して課税されます。 税率は、現在のところ20%です。中小企業(資本金500万バーツ未満で収入が30万バーツ以下の企業)に対しては、純利益の金額に応じた軽減税率が適用されます(30万バーツ以下:免税、30万超100万バーツ以下:15%、100万バーツ超:20%)。 日本と比較した場合のタイ税法の特色の一つとして、法人の多岐にわたる所得に対して源泉徴収課税が課税される点があります。広告料、販売促進費、請負代金などのサービス料、国内運送費などについて、所得に応じてあらかじめ設定された税率で支払者により源泉徴徴収されます。例えば、請負代金については3%、国内運送代金については1%の源泉徴収税が課されています。そのため、純利益や繰越欠損金の多い会社の場合、法人税申告の際に、源泉徴収税の還付請求が必要となる場合も少なくありません。
② 個人所得税
タイの個人所得税も、日本と同様に、所得の段階に応じて段階的に税率が上がっていく「超過累進税率」が適用されます。
課税所得の15万バーツ以下 | 本来5%ですが、現在は免税 |
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課税所得の15万バーツ超、30万バーツ以下部分 | 5% |
課税所得の30万バーツ超、50万バーツ以下部分 | 10% |
課税所得の50万バーツ超、75万バーツ以下部分 | 15% |
課税所得の75万バーツ超、100万バーツ以下部分 | 20% |
課税所得の100万バーツ超、200万バーツ以下部分 | 25% |
課税所得の200万バーツ超、500万バーツ以下部分 | 30% |
課税所得の500万バーツ超部分 | 35% |
また、毎月の給与支払い時に、源泉徴収税が課される点も日本と同じです、会社は、月次業務として毎月給与に対しる源泉徴収税を翌月7日までに申告納付する義務があります。
そのほか、基礎控除、本人控除、配偶者控除など各種所得控除制度もあります。
もっとも、日本の場合と異なる点として、すべての納税義務者は、毎年翌月3月までに確定申告を行う義務があります。日本のように年末調整で終わりではありません。タイの駐在員がタイ現地法人が支払っている給与のほかに日本の親会社からも給与の支給を受けている場合、確定申告時に日本の給与も合算申告して追加の所得税を申告納付することも少なくありません。
③ VAT(付加価値税)
VATは、Value Added Tax(付加価値税)の略で、日本の消費税に相当します。 税率は、現時点では物品代金やサービス料に対して7%が課されています。 タイのVATは、帳簿方式ではなく、導入当時からタックス・インボイス方式が採用されています。 タックス・インボイス方式の下では、すべてのVAT課税取引に関して売主・サービス提供者といったVAT課税事業者に対してタックス・インボイス、いわゆる税額票の発行が義務付けらており、このタックス・インボイスにより、納付するべきVATを算定させるものです。
また、タイVATの申告納付義務は、前月取引に関して発生したVATに関して、毎月翌月に申告納付しなければなりませんので、源泉徴収税と合わせて会社が月次で行う税務申告のひとつとなっています。
タックス・インボイスでは、その適法性の条件が厳格に法律などで定められています。法律の条件に違反するタックス・インボイスの発行した事業者は、加算税や刑事罰などが課されます。また、違法なタックス・インボイスをもとに算定されたVAT申告は、過少申告となる場合も少なくなく、結果として多額の加算税や延滞税といった追徴課税を受けるリスクがあります。
タイVAT制度は、その他にも複雑な問題があります。上記のタックス・インボイスの適法性の問題に加えて、税務に詳しい弁護士への日々のご相談は不可欠と言えるでしょう。
タイの会計業務
タイで事業を行うすべての法人対して、会計法により総勘定元帳(G/L)などの会計帳簿の作成と商務省への財務諸表の作成・提出が義務化されています。
また、日本異なる点として、会計帳簿への記帳の責任者として、タイの会計学部卒業生などに資格が付与される会計責任者を任命しなければなりません。こうした資格のある人材が会社にいない場合は、外部の会計事務所に会計記帳代行を依頼することが多いです。
さらに、タイで事業運営するすべての法人は、毎年決算日に作成する財務諸表に関して、タイ公認会計士により会計監査を受ける必要があります。その後作成される監査済み財務諸表は、一定期限愛に商務省への提出が義務付けられているほか、法人税の申告の際も添付しなければなりません。
日本の親会社が上場企業などの場合、タイ子会社に対する内部統制や法令コンプライアンスの遵守状況などの内部監査が、日本の親会社の会計監査の一環で要請されることがあります。このような場合、外部の弁護士と共同しながらタイ子会社に対する内部監査を実施する必要もあります。
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