
コラム
更新日: 2024年9月18日
外国人事業法とタイ市場への参入
監修弁護士 川村 励 弁護士法人ALG&Associates バンコクオフィス 所長現在、タイはASEANの要衝として、外国人投資家にとり非常に魅力的な国となっています。
外国企業投資委員会事務局長(Secretary of the Foreign Business Investment Division Committee)の報告によると、2023年の最初の7か月間で、337社の外国人投資家がタイに投資し、総投資額は589億5,000万バーツに達しました。
日本の投資家がトップの投資額を誇り、84社が約198億9,300万バーツ(22%)を投資しました。次いでシンガポール人投資家が61社、129億2,500万バーツ(16%)、中国人投資家が28社、116億6,300万バーツ(7%)でした。
このデータを前年同期と比較すると、外国からの投資が54社増加し、前年比17%増と顕著な伸びを示しています。これは、タイが特に日本の投資家にとって魅力的な国であることを示しています。
とはいえ、タイへの投資には、遵守すべき規制や条件、制限を定めた外国人事業法(FBA)を十分に理解することが必要です。
本稿では、タイへの投資を決定する前に知っておくべき重要な情報を解説します。
外国人事業法とは?
外国人事業法(Foreign Business Act, FBA)は、外国人による事業活動を監督する主要な法律です。
例えば、外国人がタイ国民に対して過度な影響力を持つことを防ぐためのように、外国企業の権利や活動に正当な理由をもって一定の制限を課す国は他にも存在します。
しかし、タイは国家の繁栄とタイが開発を目指す特定の技術を活用するため、外国からの投資に対して過度に厳しくなりすぎないように均衡を図る必要もあります。
このような理由から、本法律はタイ国民の利益の保護と外国投資の促進との間で微妙な均衡を保つことができるように設計されています。
2000年に施行された同法は、タイでの会社設立を検討する外国人投資家に対し、一定の要件を課しています。
これらの要件には、最低登記資本金、事業に関する制限、株主の割合に関する規則、商務省事業開発局(Department of Business Development, DBD)から許可を得るための手続き(外国事業許可証の形式、または証明書と引き換えにDBDに通知する方法)があります。
外国人事業法が規定する「外国人」とは
外国人事業法第4条では、「外国人」を以下のように定義しています。
(1) タイ国籍を有していない自然人
(2) タイ国内で登記していない法人
当該法人が外国人の地位を有するか否かの判断は、当該法人が登記している司法管轄区や設立登記がなされている国の法律により決まるという意味です。タイの法人が日本の法律では外国会社に該当するのと同じ考えです。
(3) タイ国内で登記している法人であるが、以下の形態にあるもの
- (1)または(2)に基づく人が資本である株式を半数以上保有する法人、あるいは(1)または(2)に基づく人がその法人の全資本の半分以上を投資した法人
- (1)に基づく人が業務執行社員または支配人である登録された合資会社または合名会社
これは、法人に対する持株比率または出資比率に基づいて考慮がなされることを意味します。タイで登記され設立された法人であっても、上述のような性質を有する場合、タイ法人とみなされません。
その代わりに、外国人が株式を保有し、事業の大部分を支配している会社は、外国人株主と一体であるかのように扱われます。なお、その支配権を有する外国人は、自然人であるか、法人であるかは問いません。
(4) (1)(2)または(3)に基づく人が資本である株式を半数以上保有するタイ国内で登記された法人、あるいは(1)(2)または(3)に基づく人がその法人の全資本の半分以上を投資した法人。
外国人事業法における外資規制
外国資本の規制を規定する目的は、タイ国民の利益を保護することであり、外国人が特定の業界を不当に支配することや タイで実質的な投資せず利益を得ることを防ぐことです。
この文脈で考慮すべき2つの重要な用語は、「資本金(Capital)」と「最低資本金(Minimum capital)」です。
「資本金」は外国法人の地位の評価に関係し、「最低資本金」は外国人がタイで事業をするため必要となる基本的要件の一つを意味します。
外国人は資本金だけでなく、参入可能な職種や産業の制限も受けます。
外国人事業法は、外国人が参入できない業種の概要が規定されています。そのため、事業を展開する際には、業種の規制と資本の規制の両方を考慮することが重要です。
業種の規制
外国人事業法では、外国人の事業展開を制限する業種や職種を3種類に分類し、それぞれ異なる制限を設けています。
リスト1は、特定の理由で禁止されている事業です。これらは、第5条の「国家安全保障、国家経済社会開発、公序良俗、国の文化、習慣・伝統、自然・エネルギー・環境保護、消費者保護、事業規模、雇用、技術移転、研究開発の発展に及ぼす利失」を考慮して禁止されたものになります。
このリストには、新聞、畜産、薬草抽出、古美術品の販売、土地や森林財産の取引などの事業が当てはまります。
リスト2は、国の安全と安定に関する事項、および国の芸術、文化、伝統、地域の慣習、天然資源や環境への影響に関する制限です。このリストには、銃器、銃弾、火薬、爆薬の製造、販売と修繕や、これら物品の構成部品の製造、販売、修繕などが当てはまります。
また、タイ楽器の制作、タイの芸術や文化を反映した木彫品、鉢や土器の製造など、国の芸術や文化に影響を与える可能性のある事業も含まれます。
リスト2の事業については、外国人の経営も認められていますが、内閣の承認のもと、商務省長官の許可を得なければなりません。
また、資本金の40%以上をタイ人(自然人または法人)が出資すること、認可を受けようとする外国会社の取締役5名のうち2名以上がタイ人であることが必要です。
リスト3には、タイ人が外国人と競争する準備が整っていない事業が含まれます。
会計サービス、法律サービス、工学サービス、植林による林業、観光、広告、建築、食品・飲料の販売、米や植物からの精米・製粉、ホテル業(ホテル運営サービスを除く)などが該当します。
外国人はこれらに該当する事業を営むことができますが、事業を開始する前に、外国人事業委員会の承認を得て、事業開発局長から許可を得なければなりません。
業種規制の例外
例外的なケースは2種類に分類されます。1つ目は制限リストに含まれない事業で、2つ目は制限リストに含まれているものの特別な条件下で適用除外が認められている事業です。
制限リストに規定されていない、たとえば製造業は、タイにとり有益とみなされることから、政府の支援を受けることができます。タイに投資を資本し、技術や機械を導入することで、大きな雇用機会を生み出すからです。
製造工場の設立は、一般的な事務所の設立に比べれば時間がかかるかもしれませんが、全体的に見れば、タイにメリットをもたらすことから、有利な選択と言えるでしょう。
規制の対象外となるもうひとつの注目すべき事業は、海外への製品輸出業です。この事業はタイの歳入に直接貢献し、雇用を促進することから、外国人事業法が免除されます。
これは、外国企業による製造または加工と、現地生産またはタイ国内の他のサプライヤーからの調達にかかわらず、製品の輸出の両方を含みます。
第二の例外は、制限リストに含まれるものの、特定の条件を満たせば制限の除外となる事業です。
例えば、建設業はリスト3の(10)(a)に該当し、当該外国会社は、外国人事業委員会の承認を得て、事業開発局長から許可を得なければなりません。
ただし、最低資本金が5億バーツ以上で、特殊な設備、工具、技術を使用するインフラ建設に従事する場合は、個別に検討の上、免除が適用されます。
その他、特別な条件下で免除を受けられる事業として、最低資本金1億バーツ以上の仲介サービス業、最低資本金1億バーツ(1店舗あたり2,000万バーツ)以上の小売事業、各店舗の資本金1億バーツ未満の卸売事業があります。
また、事業支援を目的とする政府機関であるタイ投資委員会(The Board of Investment of Thailand, BOI)から投資奨励の認可を受けた場合も免除されます。BOIの奨励を受けた企業は、外国人事業ライセンス(Foreign Business License)を取得する必要はありません。
外国人事業法に基づいたタイ市場参入における営業の種類についての考察
先に説明したように、外国人事業法は外国会社に一定の制限を課しています。タイへの投資を決定する前に、どの営業の種類が自社の要件に合致するかを評価することが極めて重要です。その決定の手助けとして、考えうる営業の種類について紹介します。
ジョイント・ベンチャー
ジョイント・ベンチャーとは、利潤目的の商業活動に投資することに合意した2つ以上の企業が関与するビジネス協定を指します。これらの投資は、金銭、土地、建物、技術、製造資源、または人員を提供する形を取る場合もあります。
ジョイント・ベンチャーは、明確に定義された目的の下でビジネスが遂行され、プロジェクトの条件にしたがって株主に対する株式、義務、権利、責任、利益の分配がなければなりません。
重要なことは、当事者のうち少なくとも一つが法人格を有し、ジョイント・ベンチャーとして正式に登記されていることです。
タイでは、外国法人とタイ法人の合弁事業が一般的です。
外国人がジョイント・ベンチャーの株式の過半数を保有する場合、そのジョイント・ベンチャーは外国人事業法を遵守する必要があります。この場合、小規模な事業体であっても、法的分類が異なることになります。
日本の個人または企業は、歳入法第39条で認められているように、100%の資本金で投資し、ジョイント・ベンチャーを設立することができます。
純粋日本企業(製造業)
製造業は、タイに有益であると判断されるため、制限リストから除外されています。その結果、日本人株主の割合が100%の会社がタイで製造業を展開することは可能です。
ただし、製造業の定義は厳格なガイドラインに従わなければならないことを理解しておく必要があります。この場合の「製造」とは「工業施設内で原材料を加工すること」を指します。
さらに、この工程は特定の外国人株主が所有する施設内で行われ、その外国人株主独自の製造設計と製造方法にしたがって行われなければなりません。
この例外の下で製造業として認定されるためには、OEM、受注生産、顧客によって設計された製品の受託製造は、「製造業」に該当しないことを理解しておくことが重要です。
これらの区別は、この文脈における「製造」とは「外国人株主が所有する工業施設で原材料の加工が実際に行われること」を意味し、OEMや受託製造のように、顧客から提供された既存の設計や仕様に基づいて商品を製造することを中心とするプロセスとは対照的であることを意味するため、極めて重要です。
純粋日本企業(卸売および小売業)
基本的に、卸売業と小売業は外国人が営むことができない事業のリスト3(14)と(15)に該当しますが、外国人事業委員会の承認を得て事業開発局長から許可を得ることにより、外国会社は営業することができます。ただし資本要件と制限があります。
小売業の場合、最低資本金の合計が1億バーツ未満、または各店舗の最低資本金が2,000万バーツ 未満であれば、リスト3(14)に該当します。
つまり、最低資本金の合計が1億バーツを超える場合、または各店舗の最低資本金が2,000万バーツを超える場合は、事業開発局長の許可を得ることなく事業をすることができます。
卸売業の場合、最低資本金の合計が1億バーツ未満、または各店舗の最低資本金が2,000万バーツ未満の場合は、営業前に許可を取得する必要がある業種に該当します。
つまり、最低資本金の合計が1億バーツ以上、または各店舗の最低資本金が2,000万バーツ以上であれば、許可を必要とせずに事業をすることができます。
純粋日本企業(外国人事業許可を取得する場合)
日本人が日本人株主の比率が100%出資の会社をタイで設立する場合、一定の手続きが必要です。まず、設立しようとする営業の種類と、それが制限リストに該当するかどうかを判断する必要があります。該当する場合は、外国事業許可申請書を作成し、提出する必要があります。
この手続きを完了させるためには、宣誓供述書を作成する必要があります。
宣誓供述書には、会社名、登記資本金、払込資本金、株主のリストとその国籍、事業目的、会社の住所、代表権のある取締役の氏名、パスポートのコピー、会社の所在地の略図、許可を求める事業活動に関する包括的な説明、3年分の財務諸表、委任状、および特定の営業の種類に必要な追加書類などが記載、添付されていなければなりません。
審査と証明書の発行には、約60営業日を要する場合があります。申請手続きをスムーズに進めるためには、必要書類がすべて正確かつ完全であることが重要です。
この包括的なアプローチを通じて、日本企業がタイで100%日本人所有の会社を設立するための規制要件を満たすことができます。
純粋日本企業(BOIの許可を取得する場合)
タイ投資委員会(Office of the Board of Investment, BOI)は、首相府の下で運営される政府機関で、タイ国内への投資とタイ国外への投資の両方において、価値ある投資を奨励・促進することを使命としています。
これはASEAN地域内での競争力を強化し、外国人投資家がタイに資本を投資するよう誘致することを目指したものです。
BOIは、タイでの輸出や生産に関連する事業運営に関心のある投資家に優遇措置や恩恵を提供することで、タイ経済を活性化し、実質的な発展を促進する上で極めて重要な役割を果たしています。
BOIによる投資推奨の対象は、営業の種類を問いませんが、BOIが指定する業種に属する企業でなければなりません。
BOIによる投資推奨を受けた企業は、それぞれの営業の種類に合わせたさまざまな優遇措置を受けることができます。
これらの優遇措置には、輸入機械税の免除、法人税の特例、専門家の就労要件の緩和などが含まれます。
しかし、BOIによる投資推奨を受ける外国企業がこれらの優遇措置を受けるには、知識や技術をタイに移転することを約束しなければなりません。
この優遇措置は無期限ではなく、奨励証書に記載された期間のみに適用されます。
BOIが定める要件を満たさない場合、証明が取り消されます。また、BOIによる投資推奨を受けた企業は、外国人事業許可の取得義務が免除されます。
タイ企業とのM&Aでの注意点
タイでの事業展開を検討する際には、さまざまなプロセスや営業の種類があることを認識することが不可欠です。その選択肢のひとつがタイ企業とのM&Aです。これも外国企業による営業活動の1カテゴリに該当します。
タイ企業とのM&Aに着手する前に、買収先企業が自社の事業目標に合致しているか、また好ましくない不測の事態を隠していないかを確認することが極めて重要です。
M&Aに踏み切る前に徹底的なデューデリジェンスを行うことは、日本の投資家にとり賢明なアプローチです。これにより、その会社の歴史、事業、合併後に発生する可能性のある問題を評価することができます。
さらに、買収先企業がM&A以前に行っていた業務や、日本企業への事業譲渡により、外国企業として再び規制対象に分類される可能性があることにも注意が必要です。
したがって、タイのM&Aに関する法規制を常に把握しておくことが何よりも重要です。
M&Aのプロセスや留意点などの詳細については、弊事務所のウェブサイトをご覧ください。
外国人事業法に違反した場合の罰則
タイでビジネスを展開するにあたり、法律を遵守した上で業務を遂行することが望まれます。それにより、企業間取引で安心感を得られるだけでなく、円滑な事業運営が可能になります。
しかし、外国人事業法に違反した場合、法的処罰を受けます。
外国人事業法第37条では、同法に違反して事業を営む外国人には、3年以下の懲役、10万バーツ以上100万バーツ以下の罰金、または懲役と罰金の併科などの罰則が科されると規定しています。
このような結果を回避し、合法的で安全なビジネス環境を維持するためには、タイにおける外国企業に関する法的枠組みや規制を遵守することが不可欠です。
タイでの事業開始手続きを円滑に進めるには、タイ法に詳しい弁護士による支援が不可欠
タイでの事業展開を考える外国人や日本人が、タイの法令を遵守し事業活動をすることは何よりも重要です。たとえ一度でも違法行為を行えば、将来のビジネスに多大な影響を及ぼしかねません。
しかし、適切なスタートを切ることで、安心感が得られるだけでなく、円滑な事業運営への道も開けます。
ALGは、タイおよび外国企業の設立に豊富な経験を持ち、高い評価を得ている法律事務所です。
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