
コラム
更新日: 2024年12月11日
タイでの資金調達
監修弁護士 川村 励 弁護士法人ALG&Associates バンコクオフィス 所長タイへ事業進出する場合、適切な事業形態を選択し、必要となる資金を確保することが重要となります。これはスタートアップの場合には特に重要です。
本記事では、事業拡大に必要な資金調達の方法を紹介していきます。
目次 [表示]
タイでの会社設立と最低資本金
タイで会社を設立する場合、事業を立ち上げ、それを実行するために必要となる資金を確保する方法を考えることが大変重要になります。必要となる金額は投資規模により異なります。
もし多額な資金を必要とする業種である場合、その会社の資本金もそれ相応のものとなります。反対に、少額の資金でよい業種の場合、少額の資本金で済みます。
会社が資金調達する方法の一つとして、株式会社(joint-stock company)があります。近年、伝統的な銀行融資よりも好まれています。
株式会社とは、投資家は投資額に応じた株式を取得し、その会社が利益を出した際には、株式に応じた配当を受け取ることができるものです。
タイで会社登記をする際に必要となる最低資本金は100万バーツですが、外国人労働者を雇用する場合、外国人事業法の規定により、外国人労働者ひとりにつき200万バーツの資本金が必要となり、かつ、外国人労働者ひとりにつき、タイ人労働者を4名雇用しなければなりません。
ALGではこのトピックに関する記事を用意しております。詳細をご覧になりたい方は、弊社ホームページをご覧ください。
タイでの会社設立時の資金調達方法
タイで事業展開するにあたり、資金を調達する方法は、自己資金の活用、融資、増資、株式上場、社債の発行、補助金の申請等が挙げられます。
それぞれメリットとデメリットがあり、事業展開を決定する前にどの資金調達方法が自らの事業にとり適切か見極めることは重要です。
自己資金の活用
必要な資金が自己資金で確保可能な場合、事業者は、自らの考えに基づき、独立性をもって事業を展開でき、かつ、第三者へ借入金を支払う必要もない点というメリットがあります。
事業遂行の独立性が高まると、事業運営に創造性がもたらされ、クライアントを引き付けることができ、事業をさらに成長させることができます。
しかしながら、十分な自己資金がない場合、必要な資金を確保するための代替手段を探す必要があります。
全ての収入が事業者の元に入れば、事業者がコストを管理し利益を上げるための全権限を有することができます。
反対に、融資を受ける、あるいは合弁事業を行う場合、収入または利益の一部を分配する必要があります。
融資を受けると、一定期間に完済する義務が生じます。事業が成功し、高付加価値の資産を獲得することができれば、会社は後継者を探すことや、事業領域を拡大することが可能になります。
しかしながら、自己資金の活用にはデメリットもあります。
まず、ジョイント・ベンチャーや融資を受ける場合と比較して、初期費用が高額となるため、事業計画や会社の信用について検討を重ね、業界について広く理解していることが求められます。
つまり、必要な知識、具体性を伴う独創的な戦略、解決策を用いて、円滑に事業遂行できるようにしなけばなりません。
また、運転資金が不足する、あるいは事業開始から3-5年間で市場の需要と自らの事業とが合致しないと、損失を抱えるリスクが生じます。
融資(Financing)
融資とは、借入(ローン)契約を通じて資金を得ることを指し、特に金融市場等から資金を得る手法が限られている場合、ビジネスを行う上で重要となります。
商業銀行などの金融機関から融資を受けることが一般的です。融資を受ける場合、金利負担が生じること、その金利は融資の種類または信用格付けにより異なることに注意してください。金利には一般的に以下の2種類が存在します。
固定金利ローンは、例えば4年間の返済期間の年間金利が7%に固定されるように、金利が一定水準で固定され、経済情勢等より金利が変動しない金融商品を指します。
変動金利ローンは、経済情勢等に応じて金利が変わるもので、通常は一定の間隔で金利が変動します。
タイでは、地場銀行からの融資、親子ローン(parent-Child loan)、スタンドバイ・クレジット(SBLC)、クロスボーダーローン(海外現地法人向け直接融資)などさまざまな融資の手段を利用できます。
それぞれの融資にはメリットとデメリットがあります。それぞれの手法について紹介します。
地場銀行からの融資
銀行は、以下の「5C」の原則に沿って融資の審査を行います。
- 経営者(character)
これは、銀行が融資申請者つまり経営者の信頼性の審査を行うことを指します。過去の財政規律および信用度管理などが審査対象となり、具体的には、事業形態、取締役の経歴、タイ進出以前の事業期間等を指します。 - 支払能力(capacity)
支払能力とは、特定期間における融資の弁済能力や、現在の収入を含む、将来的に融資の弁済を行うに足る安定した収入の有無、現存負債、およびタイ進出前の他の融資の返済履歴を指します。 - 資本力(capital)
資本力とは、収入と定期的な負債を比較し、借り手の負債対収入の比率を評価することにより、借り手の融資返済能力を測定するものです。債務超過に陥っていないかどうかは最優先確認事項となります。 - 担保力(collateral)
担保力とは、担保に供する資産または保証人の有無を見るものです。担保または保証人を有していれば、債務者が融資の支払いを延滞した場合、債権者は、担保資産を差し押さえる、あるいは債務者ではなく保証人に支払い請求することで、金銭債権を取り戻すことができるという保証を得ることができます。 - 経済状態(condition)
経済状態とは、融資先の収入に影響を与え、将来的な債務弁済にも影響を与えかねない、景気動向、物価上昇、戦争状態など外部要因のことを指します。
しかしながら実務上、外国企業がタイに投資を行うことは、外国の財務指標やその他業務の詳細等を示さなければならいこともあり、極めて難しいものです。
加えて、タイの地場銀行は融資先となるタイ企業と本国(日本)企業との親子関係を十分に把握しておらず、また日本の親会社の業務状況や財務状態を把握できないのが現状です。
親子ローン(parent-Child loan)
親子ローンは、日本の親会社が、金利が低い日本の銀行から融資を受け、その資金をタイの子会社に転貸するものです。
実務上、日本の親会社が外国人事業法に定められた最低資本金上限の金額をタイ子会社に転貸し、タイ子会社が親会社に対して金利を上乗せして返済する場合が多いです。
メリット
- タイの地場銀行から融資を受けるよりも資金調達が容易である。日本の親会社は、タイの銀行よりも日本の銀行との取引に慣れており、かつ信頼関係が強いため、融資における信頼性の審査が厳格ではなく通りやすい。
- 事業開始時には、外国人事業法に規定されている最低資本金を用意すれば十分であり、追加の融資をタイで受ける必要がない。
- 日本の低金利環境下での資金調達が可能となる。
デメリット
- 日本の親会社は日本円で融資を受け、タイの子会社はタイバーツに変換された融資を受け取るため、子会社は為替レートのリスクを負う。バーツ安の場合、タイ子会社は為替レートにより損失を被り、バーツ高の場合には利益を得ることになる。
- タイ子会社は、親子ローンを返済する際に日本円へ変換するための手数料を負担する。金利の支払いを行う場合、歳入法70条の規定により、当該金利の15%が源泉徴収される。
スタンドバイ・クレジット(standby credit)
スタンドバイ・クレジットは、タイの子会社がタイの地場銀行との間で融資契約の条件に合意できない場合、高い信用力を有する日本の金融機関が、タイの地場銀行に対して保証書を差し入れ、日本の金融機関の信用力が反映された競争力ある金利で、タイの子会社がタイの地場銀行から資金調達する方式です。
手順
- 日本の親会社が日本の銀行に対して信用状の発行を依頼する。
- 日本の銀行がタイの地場銀行より信用状(現地法人への貸付にかかる保証書)を差し入れる
- タイの地場銀行がタイの子会社に融資を実行する。この場合、保証人を必要としない。
メリット
- タイの地場銀行による融資と同様に、バーツで融資が実行されるため、為替レートによるリスクが軽減できる。同時に、タイの地場銀行は保証リスクを負うことなく法的責任を増大させることができる。
- 日本の親会社の利益が良好の場合、タイ子会社に対する融資金額の拡大が可能となり(より多くの借入を行うことができ)金融サービスや金利の優遇など銀行からの融資以外のサポートを得ることが可能となる。
- 国内親会社のキャッシュフローを改善できる
- タイの地場銀行とタイ子会社間の契約に名前がある個人が金銭および非金銭の保証や担保を供する必要がなく、あるいはその義務が軽減される
- バーツで借り入れることで、現地の事業活動で得た資金を返済に充てることができる。
デメリット
- 融資の際の金利(金融コスト)がタイの経済、政情、インフレ、政策要因等の外部環境に左右され、親子ローンよりも高い金利で融資が実行される場合もある。
- 日本の親会社は、日本の銀行に対して保証が必要になるため、日本側で保証料が発生する。
クロスボーダー・ローン (cross-border loan、海外現地法人向け直接融資)
クロスボーダー・ローンは、日本の銀行がタイ子会社に直接融資を実行し、日本の親会社がその融資を保証する仕組みです。
タイの子会社が債務(融資)の支払が不能となった場合、日本の地場銀行はタイ子会社の代わりに日本の親会社に対して返済を求めることが可能となります。
メリット
- 日本の銀行が融資を実行し、日本の親会社が保証人となるため、信用リスクの評価がタイの地場銀行からの融資よりも容易となる。
- 日本の銀行とタイの小会社間の融資はバーツで実行されるため、日本の親会社は為替リスクを避けることができる。
デメリット
- 送金に関する契約書、外国語の文書、許可証等、タイ銀行(Bank of Thailand)や商務省事業開発局(Department of Business Development)等の政府関連機関へ報告する際の文書が必要となるため、複雑な手続きを要する。
- 子会社がある国家のリスクや経済状況等により、金利が高めに設定される場合がある。
増資
増資とは、企業が新株を発行することや、既存株主や機関投資家および個人投資家等への第三者割当を指します。新株と既存の株式は同等に扱われます。
タイにおける増資の手続きは以下のとおりです。
- 企業が株主総会の通知を実施日の14日前までに、郵便等で招集通知を発送するか、地元紙または定款に定める方法で通知する。
- 株主総会で増資の決議および資本金の変更に関する定款変更の特別決議を行う。この決議は出席株主の議決権の3/4以上の賛成を必要とし、増資分の株式の額面(価格)は既存株式の額面と同一とする。
- 企業は以下の書類の準備を行う。
(1)取締役の署名入りの登記申請書(BOJ.1)
(2)宣誓供述書
(3)会社情報登録変更一覧(BOJ.4)
(4)株主一覧のコピー(BOJ.5)
(5)資本金の払い込みの証明のコピー
(6)取締役の身分証明書またはパスポートのコピー - 登記申請書および添付書類を特別決議から14日以内に商務省に登記する。
メリット
- 企業は運転資金を手に入れ、将来的にはさらなる利益を得ることが可能となり、より多くの配当を行うことができる。
- 運転資金が増加することで業務を拡大でき、融資に対する支払い義務が軽減されることで、キャッシュフローが改善する。
- さらなる資金源を確保する必要がなく、金利負担が減る。
- 事業の発展や企業の成長の可能性がもたらされることで、株主や投資家に好印象を与えることができる。
デメリット
- 既存の取締役の権限が制限される、つまり会社の権限が株主に分散されることで「乗っ取り」のリスクが生じる。信頼をおける株主を選ぶことか肝要となる。
- 外国人事業法18条の規定により、外国人事業法上の認可を取得した場合、借入を資本金の7倍以内にしなければならず、増資後の金額に注意を払う必要がある。
株式公開と社債の発行
これは、企業は株式市場への新規株式公開(IPO)や社債の発行を通じて資金を得る手法であり、タイ証券取引所(SET)の規則を遵守する必要があります。
株式市場に上場するためには、普通株のみで最低300万バーツの最低資本金を支払う必要があります。
また、財務諸表、安定的な業務フロー、十分な運転資金、利益、市場に対する信頼性および有能な経営陣がなければなりません。さらに、内部統制の仕組みを整備し、SET公認の会計基準(CPD)を守ることも求められます。
しかしながら、このプロセスは厳格な要件ゆえ、タイで事業拡大を目指す日本企業ではあまり活用されていません。代替手段としてmai(Market for Alternative Investment)市場があります。
これは、成長性が見込まれる中小企業に資金調達の機会を与えている市場です。
これらを通じて、企業は資金市場にアクセスを確保することができ、透明性があり、効果的なガバナンスのもとで社会的責任を担い、ビジネスネットワークを拡大しつつ、競争に備えることできます。
補助金
日本政府とタイ政府は、タイでの事業拡大を目指す企業を支援するための補助金を提供しています。
企業は事業計画を提出し、審査に合格すると、補助金を受け取ることができます。
資金調達に係る規制
タイには資金調達に関する多くの規制があるため、投資を行う前に理解する必要があります。主な規制は以下のとおりです。
- 投資推奨法(Investment Promotion Act B.E. 2520): 投資推奨法は、投資家がタイにおける投資と事業展開を実施するにあたっての権利と優遇措置を定めたものです。政府機関であるタイ投資委員会が投資家に向けて、政策の提示、規制や指針の公示、優遇策の提供等により事業発展を促進する役割を果たしています。
- 民商法典(Civil and Commercial Code): 民商法典は、契約における権利と義務について規定されています。また、タイへ進出する企業は、取締役、経営および増資に関する民商法典の規定を遵守することが求められます。
- 公開株式会社法(Public Limited Companies Act (No.4) B.E.2565)および証券取引法(Securities and Exchange Act B.E. 2535): これらの法律は、株式会社が株式公開を行う際の根拠法となります。証券取引法では株式公開に関して規定され、証券取引委員会(Securities and Exchange Commission:SEC)がタイにおける資金調達に関する法令遵守の監視を行っています。
- 外国人事業法(Foreign Business Act B.E. 2542): 外国人事業法はタイに進出した外国企業を規制するもので、同法で禁止されている業種あるいは特別な許可が必要な業種を除き、外国企業が事業展開することが可能としています。同法はまた、タイへの投資資金の流れについても規制しています。
外国人事業法による規制
タイでの事業拡大を行う前に外国人事業法を理解することは重要です。
外国企業は200万バーツ最低資本金が必要となり、外国人事業法の適用を受けないようにするには、外資とタイ資本の割合を49:51にする必要があります。
そのため、増資する際には、資本の割合に注意を払う必要があります。
タイ進出企業が増資時に注意すべき点
タイ市場に参入するにあたり、広範な市場調査を行うことは欠かせません。
さまざまな資金調達について細かい点まで理解することが重要であり、信頼できる専門家から助言を求めることも必要となります。
業種、規模、主要株主の構成および考えうるリスク等を含めた総合的な事業計画を最新の注意を払いながら構築することが良いでしょう。
こうした戦略的な手法により、動きの激しいタイ市場参入への準備がしっかりと行うことができます。
資金調達を行う場合には、タイのビジネス慣行に熟知した経験豊かな法律事務所へご相談を
ALGは、登記からその後の円滑な運営に至るまで、外国人投資家がタイで資金調達を行う際の支援を行っています。
タイでの事業拡大をご検討の際には、ALGにお問い合わせ下さい。
お問い合わせ
執筆弁護士

