
コラム
更新日: 2024年10月23日
タイの外資投資規制
監修弁護士 川村 励 弁護士法人ALG&Associates バンコクオフィス 所長ASEAN(東南アジア諸国連合)の一員であるタイは、魅力的な投資先としての地位を高めています。
戦略的に重要な地域であり、強靭なインフラと熟練した労働力を有するタイは、海外の投資家、特に日本の投資家にとって絶好の投資先となっており、タイへの関心は年々高まっています。
ビジネスチャンスの拡大により、企業が外国投資の動向を理解し、規制の枠組みの中でビジネスを行い、立案した事業を着実に実現させることが極めて重要になります。
この記事では、外国企業がタイでビジネスを行う際の規制、要件、優遇措置について貴重な情報を提供します。
この記事を読むことで、ビジネスを展開したい企業は現地の規制を厳守し、利益を最大化しつつ、違反行為を回避することができます。
目次 [表示]
タイでの外国投資に関する規制
「1999年外国人事業法」(Foreign Business Act B.E. 2542 (1999)、以下「外国人事業法」)は、外国企業がタイ経済の各産業へ参入する際の各種規制を規定する、重要な法律です。
この法律の目的は、タイの投資家の権利を守りつつ、十分な投資能力を持つ外国人投資家に投資機会を提供することの間で、利益の均衡を図ることです。
この投資機会は、外国企業がタイ国民に悪影響を与えるものであってはならず、むしろ、タイに有益かどうかが考慮されています。
外国人事業法は、外国人に対する規制事業を規定しています。これらの事業の区分けは、外国投資に関する厳格性レベルで分けられています。
外国人が従事することを明確に禁止する事業もあれば、関連する政府当局の許認可を要する事業もあります。外国人事業法は展開可能な事業を定めており、同法を理解することは非常に重要です。
タイでの事業展開の形式
タイで事業展開する場合、現地法人を設立することが一般的です。現地法人は、「外資系企業(Foreign capital enterprises)」と「国内資本企業(Domestic capital enterprises)」に分類されます。
この分類は、会社への出資比率の過半数が外資によるものか、タイ資本によるものかで決まります。
「外資系企業」とは、外資が当該会社の所有権の50%以上を有する会社を指し、「国内資本企業」は、タイ人が50%以上の所有権を有する会社を指します。
タイには外資規制があることに留意する必要があります。外国人による出資比率が50%を超えると、外資規制の対象となります。
追加の規制や制限が課されることで、外国人投資家の支配権や意思決定権に影響を与える可能性があります。したがって、外国人の出資比率を50%以下に抑え、これらの規制を避けることが望ましいでしょう。
規制業種の会社を設立する際、多くの場合、外資の出資比率を50%未満に抑えた上で、ジョイント・ベンチャー(JV)契約を結ぶことが必要となります。
タイ市場の参入で成功するには、信頼できる現地のパートナー企業の存在が不可欠となります。
過半数の所有権を有するタイのパートナー企業は、規制の枠組みの中での事業展開を支援し、現地の専門知識を提供することができ、それにより、進出企業は関係当局や利害関係者との強力な関係を築くことができます。
タイのビジネス環境、文化、市場力学を理解することで、事業拡大の成功に繋がります。
信頼できるパートナー企業を持つことは、現地の顧客やサプライヤー、その他のビジネス・パートナーとの信頼関係の構築にも役立ちます。それは、地域社会と協調し、親善を育み、会社の評判を高めることにコミットメントすることの現れでもあります。
要約すると、現地法人を設立してタイに進出するには、外資規制を慎重に考慮しつつ、信頼できるパートナー企業探しが必要です。
信頼できる現地法人と提携し、規制要件を遵守することで、外国企業はタイ市場でのビジネス環境を遵守しつつ、タイで成功を収める可能性を最大化することができます。
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外国人事業法における「外国人」の定義
外国人事業法は「外国人」を以下のとおり定義しています。
- タイ国籍を有しない自然人
- タイで登記されていない法人
- タイで登記された法人であって
- 上記1または2の者が当該法人の持ち分または資本の50%以上を保有または出資している法人、または、
- マネージングパートナーまたはマネージャーが上記1の有限パートナーシップ(Limited Partnership)もしくは普通登録パートナーシップ(Registered Ordinary Partnership)
- タイで登記された法人であって、持分の50%以上を上記1、2または3の者が保有する法人
上記の要件は、すべての外国人に適用されます。外国人である以上、自らの国が付与する権利だけでなく、進出国でビジネスを行う上での制限や規制についても考慮することが重要です。
タイでは、外国人が従事する場合に一定の制限が設けられている業種があります。また、外国人に対する許認可を必要な業種もあります。これらの業種は以下の3種類に分類されます。
タイにおける外資規制の対象業種
外国人事業法は、事業展開の要件をまとめた「末尾リスト」を規定しています。ただし、製造業は政府の支援を受けているため、外国人事業法の規制の対象外です。
製造業は機械や技術への投資が活発で、雇用機会も多く、国への貢献度が高いものとみなされています。また、製造業は工場を設立することで、一般的なオフィスに比べ、タイで長期間のプレゼンスを展開します。
許認可取得が免除されていることで、現地メーカーとの競争につながる可能性がありますが、タイ政府は、メリットとデメリットを慎重に検討した結果、この政策によってタイが得たメリットの方が大きいと認識しています。
これにより、外国企業がタイでビジネス展開する上での選択肢が広がります。
第1表: 外国人による参入が認められない9業種
- 新聞発行・ラジオ・テレビ放送事業
- 稲作・農業・果樹園
- 畜産
- 林業・天然木材の加工
- タイ海域・経済水域内における漁業
- タイ薬草の抽出
- タイの骨董品の売買・競売
- 仏像および僧鉢の製造・鋳造
- 土地取引
外国人事業法は、外国人がこれらの業種を営むことを禁止する具体的な理由を示していません。
しかし、専門家の意見によると、これらの制限は、第5条に規定されている事業規制基準に基づいている可能性があります。
第5条は、国家の安全・治安、経済・社会の発展、公序良俗、芸術・文化・伝統・慣習に関する国家的価値、天然資源の保護、エネルギー、環境保全、消費者保護、事業の規模、雇用、技術移転、研究開発など、さまざまな側面における潜在的な利失の影響を考慮すべき旨を規定しています。
第2表: 安全保障、文化、環境等に影響を与える13業種
第2表の業種は、国家の安全保障に関連する事業や、芸術、文化、伝統、慣習、民俗、手工芸品、天然資源、環境に影響を及ぼす業種です。外国人が第2表に該当する業種を営むには、商務大臣の承認が必要です。
さらに、当該外資企業は、合計5人の取締役のうち、少なくとも2人がタイ人の取締役であること、タイ人またはタイ法人が当該企業の40%以上の所有権を有する等の条件を満たす必要があります。
第2表は以下13業種からなり、さらに3群に分類されます。
第1群:国家安全保障に係る業種
- 以下の製造、販売、修繕
- 銃器、銃弾、火薬、爆薬
- 銃器、銃弾、爆薬の構成部品
- 武器、軍用飛行機、軍用輸送機器
- 戦争物資全種の機器または構成部品
- 国内航空事業を含めた国内陸運、水運、空運
第2群:文化、伝統、地場工芸に影響を及ぼす業種
- タイ美術工芸である小美術品の商取引
- 木彫品製造
- 養蚕、タイシルク製糸、タイシルク織布、またはタイシルク模様染め
- タイ楽器制作
- 金細工品、銀細工品、ニエロ細工品、銅細工品、漆器の制作
- タイ美術文化である椀類、陶器制作
第3群: 天然資源または環境に影響を及ぼす業種
- さとうきびからの砂糖製造
- 地下塩汲み出しを含めた塩田事業
- 岩塩事業
- 爆破または砕石を含めた鉱業
- 家庭用品、什器制作のための木工業。
なお、商務大臣は上記出資比率を40%未満に設定することができますが、その場合、25%を下回らない範囲で内閣の承認を得る必要があります。
第3表: タイ国民の競争力が十分でない事業として制限される21業種
本表の業種は、タイ人が外国人と競争する準備ができていない業種です。
外国人はこれらの業種を行うことは可能ですが、事前に外国人事業委員会を通じて、商務省事業開発局(DBD)の長官の許可を得なければなりません。
- 精米及び米粉・穀物粉製造
- 水産物養殖
- 植林による林業
- 合板、ベニヤ板、チップボード、ハードボード製造
- 石灰製造
- 会計サービス
- 法律サービス
- 建築設計サービス
- 工学サービス
- 以下を除く建設業
- 外国人の最低資本が5億バーツ以上の、特別な工具、機械、技術、専門性を使用しなければならない公衆への基礎サービスとなる公共施設、通信施設の建設
- 省令の規定に基づくその他の種類の建設
- 以下を除く、仲介業または代理業
- 証券売買における仲介または代理業、あるいは農産物、金融商品・証券の先物取引に係るサービス業
- 同一グループ内の企業の製造、サービス提供に必要な財・サービスの売買、調達における仲介または代理業
- 外国人の最低資本が1億バーツ以上の、国際事業としての形態を有する、国内製造製品または輸入製品販売のための国内外での売買、調達、セールス、マーケティングにおける仲介または代理業
- 省令の規定に基づくその他の仲介または代理業
- 以下を除く、競売業
- タイの美術、工芸、遺物である古美術品、タイの歴史的価値のある物の入札売買ではない国際入札売買の形態を有する競売業
- 省令の規定に基づくその他の競売業
- 禁止する法律がまだない地場農業製品または産品に係る国内商取引
- 全最低資本が1億バーツ未満の、あるいは一店舗あたり最低資本が2,000万バーツ未満の全種類商品の小売業
- 一店舗あたり最低資本が1億バーツ未満の全種類商品の卸売業
- 広告業
- ホテル運営サービスを除くホテル業
- 観光ガイド業
- 飲食物販売業
- 植物の種苗、品種改良事業
- 省令で規定されたサービス業を除くその他のサービス業。
外資規制の例外
外国人事業法の適用業種であるものの、特定の条件を満たすことで例外が認められる場合もあります。この基準を満たす事業を行いたい外国人は、許可を得ることなく事業を展開することが可能です。
第3表の事業において、最低資本金が一定の金額を上回る場合
-
建設業(第3表(10))
建設業は第3表に含まれており、事業を行うには許可が必要です。しかし、建設に関わる専門的なツール、機械、技術、知識を必要とする公共事業や交通網の建設に対しては免除規定があります。この免除を受けるには、外国人の最低資本が5億バーツ以上であることが必要です。 -
仲介業または代理業(第3表(11))
一般的に、仲介業を営むには認可を受ける必要があります。ただし、有価証券の売買、農産物または金融商品の先物取引に関するサービス、もしくは、サービスの生産または提供のための関連組織間の取引の仲介、国内製造品または輸入品の流通のための国内外市場の売買、調達、流通、買収の仲介または代理を行う事業で、主に国際貿易業務を伴う場合で、最低資本金が1億バーツ以上である場合、許認可の取得が免除されます。また、国内製造品あるいは輸入品の流通のための国内および海外市場の獲得であって、主として国際貿易業務に関与するもので、外国人からの最低資本金が1億バーツ以上である場合、または省令に定める種類の仲介業者または代理業者である場合も、許認可の取得は不要です。 -
競売業(第3表(12))
タイの美術、工芸、遺物である古美術品、タイの歴史的価値のある物の入札売買ではない国際入札売買の形態を有する競売業である場合、許認可の取得が不要の事業として認められます。 - 法律で禁止されていない伝統的な農産物や生産物に関連する国内取引(ただし、タイ国内での農産物の物理的な受け渡しを伴わない、タイ市場における農産物の先物取引を除く)
- 最低資本金1億バーツが必要な小売業、または一店舗あたりの資本金が2,000万バーツ以下の個人店舗
- 様々な商品の売買に従事する卸売業で、一店舗あたりの最低資本金が1億バーツ以下である場合
BOIの投資促進プロジェクトの認可を受けている事業
タイ投資委員会(BOI)は1997年に設立され、同委員会が指定する事業への投資に関心のある外国人およびと地元の企業家の双方に投資優遇措置を提供しています。
BOIの枠組の下で、100%外資の企業が事業を行うことが可能です。注意しなければならないのは、すべての企業がBOIの優遇措置を受けられるわけではなく、BOIの規定に合致する事業でなければなりません。
BOIの承認が得られれば、企業はさまざまな税制・非税制上の優遇措置を受けることができます。これには、一定期間の法人所得税の免除が含まれます。
先端技術、インフラ、研究開発に関わる事業には8年間の法人税免除が、タイの発展に寄与するハイテクに特化した事業には5年間の免除が適用されます。
さらに、タイの国内経済に付加価値を与える事業は、3年間の法人税免除の恩恵を受けることができます。
外国資本による投資における、その他の規制
タイ国内での土地所有の規制
土地法上、外国人が登記資本金の49%以上を保有する会社は外資系企業に分類され、タイ国内で土地を所有することは認められていません。
ただし、外国企業がタイ投資委員会(BOI)またはタイ工業団地公社(IEAT)から優遇策を受けている場合は、BOIまたはIEAT関連の事業活動を支援する目的で土地を所有できます。
この規定には条件があることに注意が必要です。BOIの優遇期間が終了した場合、その会社は関連優遇策の対象外となるため、土地を売却する必要があります。
BOIの詳細については、当社のウェブサイトで紹介しています。
外国人事業法に違反した場合の罰則
第6条(事業禁止外国人)、第7条(外国人特例)、第8条(末尾リストと規制事項)に違反して事業活動を行った外国人の個人は、裁判所が定めるところにより、3年以下の懲役もしくは10万バーツ以上100万バーツ以下の罰金、またはその両方が科されます。
また、情状によっては、裁判所は、事業の停止、株式保有またはパートナーシップの取り消しを命じることができます。
裁判所の命令に従わない場合、違反期間にわたって、1日あたり1万バーツから5万バーツの罰金が課されます。外国人投資家に代わってタイ人の自然人に株式を保有させる場合には注意が必要です。
さらに、外国人事業法36条は、外国人個人または外国企業の代理名義で株を保有する行為を禁止しています。
名義株主とそれを斡旋する会社には、3年以下の懲役もしくは10万バーツから100万バーツの罰金、またはその両方が科されます。
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