
コラム
更新日: 2025年2月28日
タイの情報通信(IT)産業
監修弁護士 川村 励 弁護士法人ALG&Associates バンコクオフィス 所長タイでは、通信、放送、情報サービス、インターネット関連サービス、映像・音声・テキストデータ処理などを含む産業の高度化を促進するために、IT(情報技術)を基盤とした経済がますます活発化しています。
目次 [表示]
タイのIT産業
かつて、タイの通信事業者の大半は国営企業でした。
現在では民営化され、社名が変更されていますが、各事業者は、独立した国家機関である国家放送通信委員会(National Broadcasting and Telecommunications Commission, NBTC)の監督下に置かれることが義務付けられています。
今日、タイの通信業界のユーザー数は6,000万人を超え、東南アジアで2番目に規模の市場となっております。
タイの通信業界の市場価値は長年にわたり変動を続けてきました。
しかし、COVID-19のパンデミック期におけるソーシャル・ディスタンスによるネット利用需要が高まったことにより、同業界の市場価値は安定を保ってきました。
タイの通信インフラ
タイの通信市場は近年、力強い成長を遂げており、2025年まで成長が継続すると見込まれています。
その主な要因は、全国的に3G、4G、5Gサービスに対応する携帯電話の普及により、都市部での利用者の増加にあります。
通信市場は、有線および無線ブロードバンドに接続するモノのインターネット(IoT)の普及により、今後もさらに力強い成長が見込まれています。
2Gネットワークの一部はすでに終了しており、主要な2G/3Gプラットフォームはすべて2025年末までに終了する見込みです。
2029年には、モバイル接続の大半が5G対応になると予想されています。
政府は2017年に固定回線音声およびブロードバンド契約に関するデータを発表しました。
2025年までには、音声通信が1,000万回線以上となるのに対し、ブロードバンド通信が数億回線に達すると予想されており、モバイル通信が主要な接続形態となることが確実視されています。
日本企業によるタイ市場参入
最近、日本政府とタイ政府は、日タイ間の投資と協力関係を促進するための覚書に合意しました。
この覚書は、日タイ両国の競争力の京香と、中小企業間の強力な協力関係の促進、および、ハイテク産業によるタイへの投資拡大を目的としています。
多くの日本のハイテク企業が、タイ市場への投資を促進させる両政府の動向に追随しています。
タイのIT産業のフローチャート
外国資本または外国企業による通信事業の運営は、2001年制定の電気通信事業法(Telecommunication Business Act)により禁止されています。
この事業は、タイ企業またはタイ資本が51%以上所有する企業のみに許可されており、さらに、NBTCの事業免許を取得する必要があります。
タイのIT産業参入のメリットとデメリット
[メリット]
- 人件費が安い
- 他の産業と比べて初期投資額が低い
[デメリット]
- 外国企業や外資企業がタイで事業展開する場合、国内企業との競争に直面するため厳しい
IT企業がタイ市場に参入する際の課題
タイの法律による厳格な規制やエンジニアや理系人材の不足により、通信事業をタイ国内で展開する外国企業がタイで事業を展開するのは困難になっていました。
タイランド 4.0
タイランド4.0は、農業(タイランド1.0)、軽工業(タイランド2.0)、先進工業(タイランド3.0)に重点を置いた過去の経済発展モデルから生じた「中所得国の罠」、「不平等性の罠」、「不均衡の罠」からタイを解放することを目的とした経済モデルです。
これらの課題には、「中所得国の罠」、「不平等性の罠」、「不均衡の罠」が含まれます。
タイランド4.0の4つの目標
- 経済繁栄
イノベーション,テクノロジー,創造性によって,価値に基づく経済を実現することを目標としています。
具体的には、研究開発費をGDPの4%に引き上げ、向こう5年間の経済成長率をフル稼働状態の5~6%の潜在成長率まで引き上げ、国民一人当たりの国民所得を2014年の5,470米ドルから2032年までに15,000米ドルに引き上げることを目指しています。 - 社会福祉
すべての市民が潜在能力を最大限に発揮することで、誰一人取り残されることなく前進する社会(包摂的社会)を目標としています。
具体的には、社会格差を2013年の0.465から2032年までに0.36にまで縮小すること、20年以内に社会福祉制度を転換すること、5年以内に少なくとも2万世帯を「スマート農家」に育成することを目指しています。 - 人間的価値の向上
タイ人(Thais)を「21世紀の有能な人間」および「先進国のThais4.0」に変えることを目標としています。
具体的には、タイの人間性開発指数(HDI)を10年以内に0.722から0.8に上昇させ、世界トップ50位以内に入ること、20年以内にタイの大学が少なくとも5校は世界の高等教育機関100位以内に入ることを目指しています。 - 環境保護
気候変動や低炭素社会に適応できる経済システムを備えた、住みやすい社会を目標としています。
具体的には、世界で最も住みやすい都市ランキングに最低10都市が入ること、テロのリスクを低減させること、人口比率を改善させることを目指しています。
IT産業への投資支援
タイ投資委員会(BOI)は、国内および海外の投資家から付加価値の高い投資を誘致するために、税制面および非税制面の恩恵を付与しています。
通信業界向けの税制優遇には以下のものがあります。
ソフトウェア開発
電子商取引を除く、デジタルサービス、企業向けソフトウェア、デジタルコンテンツ、高付加価値ソフトウェアの企業については、5年から8年の法人所得税(CIT)が免除されます。
電子商取引事業は税制面の恩恵の対象とはなりませんが、非税制面の恩恵の対象となる可能性があります。
この条件を満たすには、追加で雇用するタイ人IT技術者に対する給与費用に対する支出が年間150万バーツであるか、最低100万バーツの投資を行う必要があります。
デジタルインフラ
海底ケーブル、データセンター、クラウドサービスに関連する事業に対して、8年間の法人所得税が免除されます。
デジタルエコシステム
コワーキングスペースを除く、マーケット・プレイス、ファブリケーションラボ、デジタルパーク、イノベーション・インキュベーターに対して、5年から8年間、の法人所得税が免除されます。
コワーキングスペースも、スタートアップのエコシステムにおいて重要のため、BOIが推進する事業の一つです。
コワーキングスペースは、税制面の恩恵の対象ではないものの、非税制面の恩恵の対象となります。
ただし、面積が最低2,000平方メートル以上あり、空間管理システム、CRMシステム、サービス担当者を擁する必要があります。
非税制面の恩恵
非税制面の恩恵には、熟練労働者および専門技術者の入国の許可、土地所有の許可、外貨の海外送金の許可などがあります。
外国企業に対する情報通信産業に対する投資規制
外国人事業法では情報通信産業に対する規制はありませんが、電気通信事業法での規制があります。
電気通信および放送関連の法律
2008年ラジオ・テレビ放送法(Broadcasting and Television Business Act)では、メディア業界について以下の通り規定しています。
事業認可要件
公共サービス向け、および地域サービス向けの放送事業者は、政府機関および非営利団体に限定されています。
商用サービスの放送事業者は、NBTCの事業認可要件に従うことを条件に運営が可能です。
周波数スペクトルの使用
テレビ放送事業者およびラジオ放送事業者が周波数スペクトルを使用する場合、NBTCの発行する無線局免許が必要です。
無線局免許はNBTCが割り当てた周波数に限定されて発行されます。
放送局の運営
テレビ放送事業者およびラジオ放送事業者は、タイ国籍を保有する放送局長を任命し、その放送局長に番組編成や放送事業を監督・管理させ、NBTCの定める規定を遵守することが求められます。
排他独占の禁止
放送事業者は、NBTCの告示で規定された割合を超える周波数スペクトルを使用して同一のカテゴリーの事業を展開すること、および複数会社の持ち合いを行うことが禁止されます。
テレビ番組放送
テレビ放送事業者は、NBTCの告示で定められた「マスト・キャリー・ルール」および「マスト・ハブ・ルール」の規定に従う必要があります。
「マスト・キャリー・ルール」では、無料で視聴できるテレビ事業者は、公共放送サービスを提供するために発生する費用を負担する責任があります。
「マスト・ハブ・ルール」では、無料で視聴できるテレビ事業者は、7つのテレビ番組を放送することが義務付けられており、無料テレビ局以外が放送することができません。
- 東南アジア競技大会
- ASEANパラゲームズ
- アジア競技大会
- アジアパラ競技大会
- オリンピック
- パラリンピック
- FIFAワールドカップ
放送局、番組制作者およびマスメディア専門家の職業倫理の向上と管理
放送局、番組制作者およびマスメディア専門家(mass media professional)は、職業上の倫理基準を設定する義務があり、その基準を元に放送業界を自主管理しなければなりません。
放送網の構築、利用、および接続
NBTCは放送網の構築の承認を行います。
また、放送網の所有者は、NBTCが定める基準と手続きに従い、放送事業者に放送網の利用を許可しなければなりません。
外資規制
外国人事業法は、タイ人以外の株主が過半数を占めるすべての事業を規制しています。外資企業がタイで事業展開するには、商務省からライセンスを取得する必要があります。
同法は、原則としてすべての業種に適用され、外国メディア企業も外資規制の対象です。業種別の規則と総則とが相反する場合、より厳格な規制が優先的に適用されます。
2008年ラジオ・テレビ放送法では、放送免許の種類に応じて、以下のとおり規制が定められています。
- 公共サービス用放送免許: この放送免許は、政府機関および指定の団体、慈善団体、財団、教育機関のみに提供され、民間事業者には提供されません。
- 地域サービス用放送免許(事業目的が、地域社会や地域のニーズを満たす公共サービスを提供することである場合):この放送免許は、政府機関および特定の協会、慈善団体、財団、教育機関のみに提供され、民間事業者には提供されません。
- 商用サービス用放送免許は、さらに全国(national)、地域(regional)および地方(local)の3種類の放送免許に分けられます。
商用サービス用放送免許事業者に対する外国資本の所有は25%までに制限されています。
この規定は外資規制の総則である外国人事業法よりも厳格であるため、商用サービス用放送免許事業者においては、タイ人以外の株主が保有できる株式は25%未満となります。
電気通信事業法
電気通信事業の定義
2001年電気通信事業法(TBA)は、タイで電気通信事業を運営する者は免許を取得しなければならないと規定しています。
「電気通信事業」とは、2010年周波数割当及びラジオ・テレビ・電気通信事業監督機構法令(新電波法)で、次のように定義されています。
「電気通信事業(キチャカーン・トーラコムナーコム)」とは、周波数システム、有線システム、光システム、電磁システムもしくはその他のシステム、またはいずれかのシステムもしくは複数のシステムによって記号、信号、文字、数字、映像、音声、コード、または意味を理解させることができるその他の物を送る、広める、または受けるサービス提供事業を意味するとともに、通信衛星サービス事業、またはNBTCが電気通信事業と規定したその他の事業も意味するが、ラジオ事業、テレビ事業及び無線通信事業はこれに含まれない。
電気通信事業者と電気通信ネットワーク
電気通信事業を第三者に提供する事業の場合、その事業者は「電気通信事業者」とみなされます。
「電気通信事業」は「無線通信事業」よりも広い意味を持ちますが、両者の定義は密接に関連しています。
規制当局は、当該事業が「電気通信事業」と「無線通信事業」のどちらであるかを判断するために、その事業の性質を調査します。前者とみなされた場合、NBTCの免許が必要となります。
NBTCの「電気通信ネットワークへのアクセスと相互接続に関する2013年通知」(以下「2013年通知」)は、他の免許取得者が公平、妥当かつ非差別的な条件でネットワークに相互接続することを許可できるよう確保する等、電気通信ネットワークを所有する免許取得者に義務を課しています。
電気通信ネットワークを有する事業者は、相互接続通信料の規定およびその算出方法を示す関連書類を添付した「相互接続約款(RIO)」をNBTCに提出し、その審査を受けなければなりません。
また、2013年通知では、ネットワークアクセスまたは相互接続の拒否があった場合の契約上の取り決めおよび紛争解決手続きに関するガイドラインも定めています。
なお、「電気通信ネットワーク」とは、「有線システム、電波システム、光システム、またはその他の電磁システム、あるいはそれらが複合したシステムによって端末間の通信のために直接に、または回線交換機その他の手段で接続された通信機の集合体」を指します。
通信事業免許
電気通信事業法では3種類の通信事業免許が規定されており、その種類に応じて、事業者のステータスを反映した異なる要件、規則、義務が定められています。
また、各免許はさらに「電気通信サービス」と「インターネットサービス」の免許に分けられます。
ただし、基準と要件は両者とも同じであるため、下記の詳細も両サービスに適用されます。
第一種事業免許
第一種事業免許は、自己の電気通信ネットワークを持たず、その通信事業が自由にサービスを提供できる形態を持つ事業の通信事業者に対する免許です。
第一種事業免許取得者は第二種または第三種事業免許取得者のネットワークを再販するため、第一種事業免許取得者は自己の電気通信ネットワーク機器を所有していません。
さらに、第一種事業免許取得者は、電気通信ネットワークを管理または運営することはできません。
電気通信事業法は、第一種事業免許取得者に対する外資規制を規定していませんが、外国人または外国人株主が過半数を占める企業は、外国営業に関する一般的な法律の対象となり、商務省から外国人営業許可証を取得しなければなりません。
したがって、第一種事業免許取得者は、NBTCに免許申請を行ってから、商務省に外国人事業許可証を申請することが一般的です。
商務省は、通信事業を行う外国企業に外国人事業許可証を発行する場合、電気通信事業に必要となる第一種事業免許を証拠として要求するためです。
第二種事業免許
第二種事業免許は、自己の通信ネットワークを持たず、あるいは自己の通信ネットワークを持ち、特定のグループにのみサービスを提供する目的を有する事業の通信事業者(または、サービスを提供する事業者にネットワークを貸し出す事業者)、または自由競争、公共の利益、消費者に影響を及ぼさない事業者へ付与されます。
第二種事業免許は通常、広範囲にわたる事業を展開する大規模組織に対してのみサービスを提供する事業者に付与されます。
免許申請者は、申請前にNBTCが定めるすべての基準を満たさなければなりません。
例えば、コールバック/コールリオリジネーションサービスは、第二種事業免許事業で必要な通信ネットワークになります。
さらに、電気通信事業法は、第二種事業免許の取得には、タイ国籍所有者、またはタイ国籍所有者が発行済株式総数の50%以上を保有する企業でなければならないと規定しています。
第三種事業免許
第三種事業免許は、自己のネットワークを持ち、多数の一般人にサービスを提供する目的を有する事業、または自由競争または公共の利益に影響を及ぼす、あるいは特別な消費者保護が必要となる事由のある事業の通信事業者へ付与されます。
第三種免許に該当する電気通信サービスには、固定電話サービス、統合デジタル通信サービス(ISDN)、携帯電話ネットワーク、移動データサービスなどがあります。
電気通信事業法は、第三種事業免許を取得する場合は、タイ国籍保有者またはタイ国籍保有者が発行済株式総数の50%以上を保有する企業でなければならないと規定しています。
第三種事業免許を取得した事業者のみが、国際高速電力線通信(IPLC)または国際インターネットゲートウェイ(IGG)サービスを提供する電気通信ネットワークを運営することができます。
第三種事業免許を取得した事業者は、必要に応じて、IPLCまたはIIGの追加免許も取得しなければなりません。
なお、第一種事業免許取得者は、IPLCまたはIIGサービスを独自に運営することはできませんが、IPLCまたはIIG免許取得者からこれらのサービスを購入し、自社の名義で顧客に再販売することができます。
それぞれの事業免許には、免許取得から事業活動に至るまで、異なる規制が適用されます。
規制がこのように異なるのは、免許取得者がそれぞれ異なる種類のネットワークや設備を所有しているためです。
また、事業者に対する規制当局の監督レベルには、業界内の競争も影響します。
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