
コラム
更新日: 2025年3月11日
事業撤退と破産手続き
監修弁護士 川村 励 弁護士法人ALG&Associates バンコクオフィス 所長法人の形態を問わず、タイで事業を開始した後に、資金繰りや新型コロナウイルス等の理由により、タイで事業を継続できなくなる可能性はあります。
ここでは、タイにおける事業撤退および破産手続きについて、タイの関連法規とともに、ポイントごとに説明します。
タイ法令における会社解散と破産
会社は、法律または裁判所の命令により解散することができます。 法律に規定のある以下の条件に該当した場合には、会社は解散となります。
- 定款に定められた解散事由があった時
- 期限付きで設立され、その期限が来た時
- ある事業のために設立され、その事業が終了した時
- 解散の特別決議があった時
- 会社が破産した時
一方で、裁判所は民商法典で規定された事由に該当すると認めた場合、解散命令を行います。
具体的には、会社設立総会の報告提出、または会社設立総会で違反があった場合、登記後1年経っても業務活動を開始しなかった、あるいは1年以上にわたって活動しなかった場合などです。
会社を解散するには、まず法律に基づき会社を解散する根拠となる特別決議を行い、その後、当該決議を登記することが必要となります。
タイにおける破産手続きは、1940年破産法に則って行われます。
この法律では、事業更生および破産手続きを、専門知識を有する裁判官の指揮の下で実施することを義務付けています。
タイの訴訟手続きは非常に複雑であり、破産、財務再編、または清算手続きを開始する前に満たすべき要件が数多くあります。
合弁企業の解散
タイに会社を設立する日本企業のほとんどは、タイの法律に基づく外国投資制限に基づいた、日本側49%、タイ側51%の合弁事業です。
合弁事業から撤退する場合は、タイの合弁相手と協議し、当該合弁相手が株式を買い取るか、または会社を解散するか等、適切な解決策を見つけることが第一に重要です。
株式の買収手続き、株式の評価方法、その他個別の措置を含む解散手続きの詳細は、設立時に合弁事業合意書に記載しておく必要があります。
タイ投資委員会(BOI)認可の会社の解散
1997年に設立されたタイ投資委員会(Board of investment, BOI)は、タイ国内および国外の投資家に対して、タイへの投資に役立つ情報やサービスを提供することを目的とした政府機関です。
タイ国内への投資とタイ国外への投資の両方において、価値ある投資を奨励・促進することを使命としています。
BOIの恩典を受けた企業は、以下の手順に従って、企業を解散することができます。
- 解散会社はBOIに奨励証を返却し、商務省事業開発局で企業の清算手続きを行う
- BOIが機械、原材料、所得税の減免状況を確認する
- 機械、原材料、所得税の課税義務がある場合、解散会社はその税金を納付する。
- 解散会社が税金の清算を完了した後、BOIは会社の解散を承認する
- BOIは会社の解散を宣言し、関連政府機関に通知して公衆に周知させる
タイにおける解散および清算手続き
特別決議
会社が解散する場合、その会社は株主総会を招集し、出席株主の議決権の4分の3以上の賛成による特別決議を得なければなりません。
清算人の選任と任務
解散会社は、解散登記を行うにあたり、清算人を選任します。
定款に別段の定めがない限り、会社の取締役がそのまま清算人に就任します。
清算人が複数いる場合は、清算人全員が共同して職務を行います。
ただし、株主総会または裁判所の命令により、異なる定めをすることも可能です。
解散登記がされている場合でも、会社は清算目的で存続します。
すなわち、解散会社は、会社の資産を集計し、資産を売却し、株主に対して全額払い込まれていない残りの金額について払込を請求し、債権者に対して債務を清算し、会社のためにこれまで支出していた取締役に対して引当金や費用の補償を行う等の業務を行います。
解散会社の資産が債務弁済に不十分な場合、清算人は裁判所に破産宣告の命令を要請しなければなりません。
残余財産は、資本金と利益として各株主に比例配分されます。
また、清算人は3か月に一度、登記所に清算状況を報告しなければなりません。
清算開始後1年以上が経過してもまだ清算中であれば、清算人は清算開始後1年の終わりに総会を招集し、総会に清算状況報告を提出し、進行状況の詳細を発表しなければなりません。
清算が完了すると、清算人は速やかに清算貸借対照表を作成し、会計士による監査を受けた後、株主総会を招集して清算の承認を得ます。
この決議により、清算人は14日以内に清算完了の登記を行い、会社は解散します。
解散の公告は、地元紙を通じて実施しなければならず、また、債権者には解散登記日から14日以内に解散の旨を書留郵便で通知しなければなりません。
また、会社の帳簿、会計記録等の書類は、14日以内に商務省事業開発局に提出しなければなりません。当該書類は10年間にわたり公衆の閲覧に供されます。
清算の目的のために必要な限りにおいて、会社は解散登記後も存続するとみなされることに留意すべきです。
清算人の義務は、会社の業務を清算し、債務を支払い、資産を分配することです。
商務省事業開発局で解散登記後、清算人は解散登記日から15日以内に歳入局で付加価値税(VAT)の登録抹消申請を行い、同日から60日以内に納税者IDを返納しなければなりません。
解散登記があっても、税務調査が完了し付加価値税登録の抹消通知書を受け取るまでは、VAT申告書(PP30)の提出と源泉徴収税および付加価値税の納付が依然として必要です。
タイにおける破産手続き
破産とは、法律で認められた手続きに従って、裁判所が債務者の資産を債権者間で分配する権限を与えることです。
債権者が破産手続きを開始するには、債務者が支払不能であることを証明しなければなりません。
支払不能とは、債務者が債務の支払いを継続的に行うことが不可能な財政状態を指します。
債権者
債権者は、債務者が会社である場合には200万バーツ以上、個人の場合には100万バーツ以上の債務を有していなければ、裁判所に破産申立を行うことはできません。
債権者には、有担保債権者と無担保債権者の2種類があります。
破産法では、有担保債権者を、債務者の財産に対して抵当権、質権、留置権などを優先的に行使し、資産処分による収益から債権の弁済を受ける権利を有する債権者と定義しています。
有担保債権者は先取特権を有しており、債務者の財産が分配される場合には、最初に弁済を受けることになります。
破産申立と包括的財産管理命令
裁判所は、債権者から破産申し立てを受理した後、審問期日を設定し、債務者に破産申立事由が存在するか否かを審理します。
裁判所が、破産法の条件に基づき債務者が支払不能であるという一定の事実を認めた場合、裁判所は債務者である会社に対して、包括的財産管理命令(absolute receivership)を出すことになります。
財産管理命令が出されると、民事訴訟の有無にかかわらず、債権者は破産法の手続きに従ってのみ弁済を受けることができます。
また、管財官は、財産管理命令を官報および1紙以上の日刊紙を通じて公表します。
債権者集会
裁判所が債務者である会社に対して包括的財産管理命令を下した場合、管財官は、今後の債務者の資産管理について協議するため、すべての債権者を対象とした債権者集会を招集します。
同集会では、債務者による和議申立てを受け入れるか、または破産宣告を行い破産を確定させるべきかについて決定されます。
公開債務者調査
1回目の債権者集会の終了後、裁判所は公開による債務者の調査を実施します(公開債務者調査)。
この調査では、債務者の事業及び財産、超過債務の事由、並びに破産法または破産に係る他の法律に基づく違法行為であるところの、または裁判所が要件なしに破産を廃止することのできない事由となる瑕疵であるところの行為をなした、もしくは不作為があったかどうかについての債務者の行状が対象となります。
債務者は宣誓を行い、この件に関する質問に正直に回答しなければなりません。
一部の事情を除き、公開債務者調査が行われるまでは、裁判所は和議申立の審理を行うことはできません。
和議
債務者である会社が一部債務支払いを求める方法、またはその他の方法で債務の件において合意を望む時、事業及び財産に係る説明をした日から7日以内に、または管財官が定めた期間内に、管財官に文面で和議を申し立てなければなりません。
和議申立においては、和議の内容、または事業もしくは財産の管理方法、及びもしあれば担保もしくは保証人の詳細を示す必要があります。
その後、管財官は債権者集会を招集し、和議を受け入れの是非について特別決議に諮ります。
債権者集会の特別決議による和議の受け入れは、裁判所が承認を命じるまで債権者を拘束しません。
破産法が破産者の財産配当について規定した順位に基づく前後の債務支払いについての内容が和議にない場合、および、その和議が債権者全般に利益とならない、または債権者間に有利不利が生じる、もしくは債務者が破産した後に破産廃止となる事由がない何らかの事実関係が明らかである場合、裁判所が和議を承認することを禁じることができます。
なお、破産前の和議手続きの詳細は、破産法の第1章第6節に規定されています。
破産宣告
裁判所は、債権者が裁判所に債務者の破産を宣告するよう求める決議を行った、または債権者集会で何らかの決議をなさなかった、または債権者集会に出席する債権者がいなかった、または和議が承認されなかった時、債務者の破産を宣告します。
管財官は債権者に配当するため破産者の財産を管理する権限を有します。
債務者の破産は裁判所が財産保全を命じた日から効力を有します。
清算人による破産申立
債務者である会社が、出資金または株式代金がすべて払い込まれた後、財産が負債に足りないのが明らかであれば、債務者の清算人も裁判所に破産を申し立てることができます。
この場合、裁判所が申し立てを受理した時、直ちにその会社の財産の保全を命じ、債権者集会が1人の債権者を任命し、原告である債権者と同じ権利及び義務を持たせることができます。
仮保全処分
裁判所が財産保全処分を命じた時、原告である債権者または管財官は、新たな訴訟を起こさなくとも、その会社に対して破産申立により一方的に訴えることができます。
この場合、原告である債権者または管財官が当該会社の財産の仮保全処分を求め、裁判所がその訴因を満たす証拠があると判断した場合、裁判所は当該会社の財産の仮保全処分を命じる権限を有します。
事業更生
債権者または債務者は、第3/1章の規定に基づき、事業更生を申し立てることができます。
このとき、債務者に対する破産宣告申請があるかどうかを問いません。
裁判所は、破産法第90/3条に基づきな事業更生の申立がなされた場合、その内容について審査を行います。
債務者の事業更生が相当との事由があり、事業更生の方途があれば、裁判所は事業更生を命じます。
事業更生の一環として、申立人は事業更生計画を作成し、事業更生計画に従って債務者の事業および財産を管理する、計画策定人を任命します。
ただし、その人物がその役割に適切な人物ではないと判断された場合には、裁判所が任命します。
計画策定人は、管財官と債権者による決議によって選出されます。
債権者集会への計画策定人の推薦においては、推薦を受けた者の同意書も必要となります。
計画策定人の選任命令を知った日から7日以内に、債務者の経営者または管財官は計画策定人に対し、書式に従い自己が保証する債務者の事業及び財産に係る説明を提出します。
債務の原因が事業再生命令前に生じた場合、その債権者は、破産法第3章第1部および第4章第1部に規定された手続きを通じて、事業更生による債務返済を申請することができます。
ただし、債権者は弁済の申立を行うことなく、債務の強制執行権を行使することができます。
債務者の事業及び財産に係る説明の詳細は、第90/35条に規定されています。
事業再生計画の必要事項は、第90/42条に規定があり、債権者集会の議決を経る必要があります。
事業再生計画が裁判所の承認を得た場合、債務弁済を請求する債権者は、その計画に拘束されます。
破産の廃止
債務者は、破産法第71条に基づく破産廃止命令が下された場合、または同法第81/1条に基づく破産命令期間が満了した場合に、その破産から免責となります。
破産者は、裁判所に破産廃止命令を申請することができます。
破産廃止は、破産者が債務の支払いを求めた債権者に50%以上配当により支払われ、かつ悪意の破産者ではない場合に認められます。
破産廃止命令は、政府または自治市の租税に係る債務、および、破産者の悪意の詐取により生じた債務、または破産者が関係し知っていた悪意の詐取により債権者が支払いを求めなかった債務を除き、債務支払いを求められた債務から債務者を免責します。
ただし、裁判所の破産廃止命令は破産者のパートナー、または共同責任者、保証人、もしくは保証人の態様にある者を免責しません。
債務者が自身の資産の換価および分配に協力しない場合、または管財官または裁判所が要求する審問に出席しない場合、裁判所は破産廃止を取り消すことができます。
タイでの事業撤退/清算手続き実施時に考慮すべき事項
いかなる理由で会社が解散した場合でも、関連諸法に従って解散手続きが行われること、また、解散後に全資産を管理する者は破産管財官であり、この破産管財官には民事裁判所または破産裁判所に破産または民事手続きの申請を行う権限があることを確認してください。
合弁事業においては、解散に関する将来的な問題を回避するためには、タイの現地パートナーとの協議が重要かつ適切な方法です。合弁契約において、会社解散の方法や手続きに関する条件を設定することが肝要です。
税務監査への対応
解散年度の法人税の還付請求が歳入局に提出された後に、税務監査が行われます。
このプロセスには、会社の規模や資産状況により、1年から2年程度の期間を要します。
従業員の解雇
会社を解散する場合、労働者保護法に従い、従業員の解雇と退職金の支払いという労働問題について考慮する必要があります。
会社が解散するということは、その会社が事業を停止し、従業員が仕事を失うことを意味します。
会社は、従業員に支払う必要のある金額を減らすためにも、同法第17/1条に基づき、少なくとも1給与期間以上前に、解雇通知を行う(書面による同意を取る)必要があります。
さらに、同法の規定に従い、会社は各従業員が会社で勤務した日数に応じた経済補償金を支払い、残存有給休暇を買い取る必要があります。
これらの計算は、解雇日を含む、従業員の勤続年数と最終賃金額に基づいて行わなければなりません。
タイでの事業撤退/清算手続きはALG & Associatesで
破産手続きや会社解散は、特に外国人にとっては、その複雑さゆえに厄介な問題と成り得ます。
そのため、破産手続きに関わる個人は、ALG & Associatesのような専門法律事務所の支援を得て、必要な条件や手続きがすべて適切に遂行されるようにすることが極めて重要です。
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