
コラム
更新日: 2024年11月13日
合弁事業について – 合弁事業契約の条件交渉
監修弁護士 川村 励 弁護士法人ALG&Associates バンコクオフィス 所長現在、多くの日系企業がタイに投資・進出する際、現地法人を設立し、タイ現地企業との合弁事業(JV)を行うことを選択しています。
この場合、法人格のない合弁事業(unincorporated joint venture, UJV)、法人格がある合弁事業(incorporated joint venture, IJV)いずれかが採用されます。
合弁事業を行う場合、経営方針の違いや言葉の壁から、相手方とトラブルになることも考えられます。
こうしたトラブルを防ぐため、事前に現地のパートナーと話し合いを持ち、適切な契約関係を構築しておく必要があります。
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タイにおける合弁事業設立と関連する問題
合弁事業とは、複数の当事者が、特定の事業を遂行させる目的で、共同出資することに合意するビジネス上の取り決めを指します。この事業は、新規プロジェクトか、既存プロジェクトかを問いません。合弁事業の当事者たちは、その事業に関連する利益、損失、費用について責任を負います。
しかし、合弁事業は、当事者たちの他の事業利益とは切り離された、独自の組織となります。
タイには、外国からの投資を監督し制限を課す「外国人事業法」(Foreign Business Act B.E. 2542 (1999))があります。この法律は、タイ国民に対して確保されるべき事業活動をリスト化しています。
つまり、外国人がこのリストにある事業に従事することが制限されています。タイはあらゆる国からの投資を奨励し続けながら、特定の国からの投資に依存することを避けようとしています。
規制業種は、以下の3種類に分類されています。
- 第1種規制事業:特別の理由により外国人が従事することが禁止されている事業。
- 第2種規制事業:国家の安全保障に関連する事業、または芸術、文化、伝統、習慣および地域の手工業、または天然資源や環境に影響を与える事業。外国人がこれらの事業を行う場合、内閣の承認により、商務大臣の許可を得なければなりません。同時に、総株式数の40%以上はタイ国民または外国人事業法の規定により外国法人とみなされない法人が保有し、取締役の2/5以上はタイ国民でなければなりません。
- 第3種規制事業:外国人に対して競争力が不十分な業種であるとして、外国企業の参入が禁止されている業種。卸売業、小売業、サービス業が含まれます。外国人がこれらの事業を行う、外国人事業ライセンス(Foreign Business License, FBL)を商務省事業開発局(Department of Business Development, DBD)の事業開発局長から取得しなければなりません。なお、第3種の事業に関しては、条件によっては、外国企業が事業を行うことが可能なものもあります。
タイでのビジネスを円滑に進めるためには、合弁事業の契約手続きだけでなく、現地パートナーとの条件交渉や交渉も重要です。
なお、タイ現地企業同士の合弁事業や、タイ人が所有する企業とタイ現地企業との合弁事業もあります。この場合には、外国人事業ライセンスは不要です。
なぜ合弁事業契約を策定すべきなのか
合弁事業契約とは何でしょうか?これは、複数の当事者間で取り交わされる契約を指します。
合弁事業では、特定の目的を達成するため、両当事者が互いのリソースを出し合います。当事者は、出資額や株式数に比例した割合で配当を受け取ります。
合弁事業には、以下の2種類があります。
- 契約のみによる合弁事業(contractual venture)
- 契約に基づいた、別個の法人組織(または法人格のない組織)の設立による事業
契約のみによる合弁事業は、書面契約によってのみ成立します。これに対し、株式会社や有限責任会社(LLC)等、別個の合弁事業法人が設立される場合もあります。
合弁事業契約は、紛争が発生した場合に権利の保護を主張するためにも、必ず書面に残しておかなければなりません。
合弁事業契約で最も重要な点は、相手方が自社にとり適切なパートナーであるかどうかを評価することです。その関係性が本当に自社の市場ポジションを強化できるかどうかを見極めましょう。
適切な相手方を決めたら、具体的な条項を盛り込んだ合弁事業契約書を作成し、関係を前進させましょう。合弁事業契約書に盛り込むべき10の要素は以下の通りです。
- 会社の住所
- 合弁事業の種類
- 契約の目的
- メンバーの名前と住所
- 契約当事者の権利義務
- 株主総会等の投票権およびその他開催に関する要件
- 持分譲渡の要件
- 損益の配分
- エグジット(合弁事業の終了)の条件
- 競業避止契約と機密契約
これらの項目は合弁事業契約の第一歩であり、契約書の中に他の条項を含めなければならない場合もあります。商慣習に精通した弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士はビジネス関係を確認し、双方のニーズを満たす合弁事業契約書を作成します。これにより、将来頭を悩ませかねない、法的ミスを防ぐことができます。
定款への反映と法人登記
タイの法律では、タイで合弁事業を設立することが可能です。タイでの法人登記を専門とする当事務所では、タイで可能な2種類の合弁事業の形式を紹介しています。
- 合弁事業を立ち上げる場合、複数の事業者の契約合意により成立するパートナーシップ型の合弁事業、法人格を有する合弁事業(IJV)、または特定のプロジェクト達成のために設立された個別の合弁事業などがあります。法人格のない合弁事業(UJV)は、法律上では法人格を有しませんが、税務上では、歳入局(Revenue Department)により法人格を有する組織とみなされます。そのため、納税者番号(Taxpayer Identification Number)を申請する必要があります。したがって、合弁事業会社は納税者番号を申請しなければなりません。さらに、1会計年度に180万バーツを上回る収入が予測される事業体の場合、付加価値税(VAT)の納税義務が生じるため、歳入局にVATの登録を行わなければなりません。
- 合弁事業者は、法律上の会社として登記することも可能です。この場合、当該事業の当事者は、合意された割合で持分(株式)を所有する有限責任会社の形態をとります。
タイにおける合弁事業の登記手続き
合弁事業の登記は、持分に基づく合弁事業の場合は必要ですが、契約上の合弁の場合は、法的拘束力のない合弁事業として扱われます。合弁事業契約を他の企業と締結する外国企業は、認可を受けた上で、ほとんどの場合、タイに支店を開設する必要があります。
タイで合弁事業会社を設立する場合の登記手続きと登記費用は、通常の株式会社の設立と同じです。弊社の会社設立アドバイザーが、タイでの法人登記手続きに関する詳細情報を提供いたします。
タイにおける合弁事業のマネジメント
タイで合弁事業を立ち上げる場合、取締役の国籍や居住資格に関する要件は、基本的にはありません。ただし、外国人事業法の第2種規制事業に該当する事業では、取締役の5分の2以上がタイ国籍を有していなければなりません。
国籍に関する制限は、保険業法、航空法、船舶法、民商法典等、個別の法律の適用を受ける場合もあります。タイ-米国間の条約に基づきタイ国内で合弁事業を立ち上げる場合、その取締役の過半数は米国籍またはタイ国籍を有していなければなりません。
法人格を有しない合弁事業は「パートナーシップ」とみなされます。業務執行社員が外国籍を有する場合、当該パートナーシップは外国会社の合弁事業とみなされ、外国人事業法の外国人所有規制の対象となります。
合弁事業を立ち上げる場合に考慮すべき事項に、各当事者の知的財産権の問題があります。業務機密の扱い方、特に合弁事業の終了後の業務機密の扱い方については、立ち上げ時に締結する合弁契約書に記載しましょう。
なお、合弁事業の立ち上げにあたり、出資者に対して、ビジネスパートナーを選ぶ場合の適正評価を行うことを推奨しています。タイ商工会議所(Thai Chamber of Commerce)や投資委員会(Board of Investment)等では、相互検証を行う機会が提供されています。
タイで合弁事業を立ち上げる場合に協議すべき内容
タイの現地企業との合弁契約交渉を行う場合や合弁事業を立ち上げる場合、付属定款(AoA)やアフィダビット(Affidavit, 現在事項証明書)に記載すべき以下の点を考慮する必要があります。
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合弁事業の達成目標
合弁事業の主たる目標は、当事者双方に有益な結果をもたらすことです。これには、新市場への参入、知識やリソースの共有、経費削減などを伴う場合があります。 -
各当事者が担うべき役割
合弁事業では、各当事者が資金、技術、知識、市場洞察力などのリソースを提供します。合弁事業の達成目標に応じて、各当事者がどのよう役割を果たすべきかは変わります。 -
合弁事業の管理と運営
合弁事業の管理と運営を考えた場合、通常、新たな事業体の設立が必要となります。その事業体は、両当事者が共同で所有し管理をします。そのため、事業体の管理構造、意思決定プロセス、経営上の役割と責任を明確に定義する必要があります。 -
リスクとその回避策
合弁事業には、目標の衝突、文化の違い、法的紛争といった固有のリスクが伴います。その回避策としては、徹底的なデューデリジェンス・プロセス、明確で詳細な取り決めの制定、継続的なコミュニケーションと協力体制などが挙げられます。 -
損益配分
合弁事業における損益配分は、当事者間の合意により行われますが、通常、各当事者が合弁事業における出資割合に基づいて行われます。 -
事業期間と出口計画
合弁事業の存続期間は、当事者が掲げる達成目標によって決定されます。また、合弁事業をどのように解消し、必要であれば資産を分配するかを概説した出口計画についても、当初に合意しておく必要があります。
上記の点以外に、合弁事業の相手先と合意すべき内容としては、以下のものが挙げられます。
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資本金
登記資本金、額面金額、株主比率に関する規制はありません。一般会社の設立と同じ条件です。 -
総会での決議事項
株主総会等に提案された議案を決議する場合には、民商法典および両当事者の定める付属定款に基づきます。 -
取締役会
取締役の選任および取締役会の運営に関しては、民商法典を基準として両当事者が定めます。しかし、両当事者は、同法と異なる取締役選任の方法および手続きについて合意することも可能です。 -
サイン権限を有する取締役
サイン権限を有する取締役を任命する場合は、その旨を契約書に記載し、会社を代表して行動する権限を有する取締役である旨をアフィダビットに記載しなければなりません。 -
監査役
タイには、日本のような内部監査人制度はなく、会計士の資格を持つ外部の者を監査人として選任する必要があります。契約書には、監査役の報酬も明記することが望ましいです。 -
増資
各当事者は、登記資本金の増資を行うことが可能であり、相手方は、新株を発行する際に先買権(right of first refusal)を行使する権利を有します。また、増資の結果、出資比率が変化することが考えられます。そのため、相手方が合弁事業の支配権を握らないようにするための取り決めを契約書に明記する必要もあります。 -
株式譲渡
株式譲渡は、民商法典1129条に基づいて行われるか、取締役会または株主の承認がある場合を除き株式の譲渡を制限を加える必要があります。契約書には、引受株式の優先交渉権や、合弁事業の相手方である株主の死亡による相続における譲渡に関する取り決めを明記する必要があります。 -
配当
合弁事業の利益から配当が発生する場合は、その利益を各当事者に均等に分配し、契約書に配当の方法を明記する必要があります。 -
競業避止
当事者は、合弁事業の期間中および契約締結日以降、既定の期間内に合弁事業と競合する可能性のある事業に従事することの禁止を定める必要があります。 -
紛争解決
時間と費用を節約するためにも、当事者間で紛争が発生した場合、タイで仲裁解決を図るようにしましょう。日本とタイとの間の裁判管轄権の関係上、裁判所による解決は避けたいところです。仲裁が不調に終わった場合にのみ、両当事者は裁判所に紛争終結の申し立てを行うことができるようにしましょう。また、合弁契約書はタイ法に準拠させるのが一般的です。 -
契約終了および解除
契約解除事由は、契約解除の通知方法、契約解除の方法等含めて契約書に定めましょう。相手当事者の過失による契約解除の場合、他方当事者は契約解除とは別に損害賠償を請求することも可能です。なお、契約解除の影響は、契約を行った会社に及ぼすことができます。
合弁事業の相手方との条件交渉を行う場合の重要点
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合弁事業の達成目標
合弁事業の主たる目的は、双方の当事者にとって有益な結果をもたらすことです。これらを達成するには、新市場への参入、知識とリソースの共同出資、コスト削減などを伴う場合があります。 -
双方の当事者の役割
合弁事業では、各当事者が資金、技術、知識、ノウハウ、市場洞察力などのリソースを提供します。合弁事業の達成目標によって、どのような役割が必要とされているかは変わります。 -
合弁事業の管理と運営
合弁事業を管理・運営する場合、通常、新たな事業体が設立され、両当事者が共同で所有し管理を行います。統治構造、意思決定プロセス、経営上の役割と責任を明確に定義する必要があります。 -
リスクと予防策
合弁事業では、目標の不一致、文化の違い、法的紛争といった内在的なリスクが発生することがあります。その予防策としては、徹底的な適正評価プロセス、明確で詳細な契約、継続的なコミュニケーションと協力体制などが挙げられます。 -
損益の配分
合弁事業における損益の配分は、当事者間の合意に基づき決定されますが、通常、各当事者がその合弁事業における出資割合に基づいて行われます。 -
事業期間と出口計画
合弁事業の存続期間は、当事者が達成目標に基づいて決定します。また、合弁事業をどのように解散させ、必要に応じて資産を分配するかを示した出口計画についても、事前に合意しておく必要があります。
日本とタイの企業間での合弁事業契約の締結で円滑な交渉を行う際のキーポイント
合弁事業契約の交渉をうまくまとめるためには、以下の方策を念頭に置きましょう。
- 相手方当事者と共に、オープンな対話と信頼に基づく関係を築く
- 合弁事業における目的と目標を明確にする
- 適正評価を行い、相手方当事者や市場について十分に研究を行う
- 柔軟な姿勢を持ち、歩み寄ることも考える
- 法律および財務の専門家の助言のもと、合弁事業の契約交渉と契約書作成を行う
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